いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
交流会合宿三日目の朝。この日の朝は、同じグループの男子は皆早起きで、揃って朝の大浴場へと足を運んでいた。
広々とした露天風呂には、三年生や他グループの生徒もほとんどおらず、私たちのグループでほぼ貸し切り状態だった。
橋本や平田が中心となって一年生たちに話しかけ、湯船の中は男子特有の和気藹々とした空気に包まれている。私は少し離れた場所から、その和やかな光景を眺めて静かに楽しんでいた。
「それにしても、俺はその場にいなかったが……昨日のパッチワークで負けたらしいな。藍染がクラスとしてじゃなくて、個人で負けたのは初めてなんじゃないか?」
橋本が湯船の縁に腕を乗せ、面白そうに話を振ってくる。
「確かに。藍染氏ほどの完璧な人間でも、負けることもあるのですね」
金田も、少し不思議そうな顔をして同意した。
「――私を絶対の理と錯覚するのは構わないが……この私とて、すべてを手中に収めているわけではない。色彩を描く才では彼らに、運命の悪戯では私の月に、盤上では白き女王と勝敗を分かつこともある。虚無の刃には知で、黄金の獅子には力で、それぞれに分のある領域がある。……完全なる存在など、この世界のどこにもありはしないのさ」
(訳:みんな俺を過大評価しすぎだよ。チョークアートは金田や神室の方が上手だったし、運が絡むゲームはひよりに結構負けるし、チェスだって坂柳と引き分けることもある。それに、純粋な学力や知識量では清隆に、純粋な力では高円寺に分があるだろうからね。完璧な人間なんて存在しないよ)
「「…………?」」
私の長尺のオサレポエムに、橋本と金田の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「……完璧な人間なんて存在しない、ということを言いたいのですか?」
すると、黙って話を聞いていた一年生の石上が、私のポエムの意図を簡潔に要約して尋ねてきた。
(お! だいぶ端折られてるけど、だいたいそんな感じだよ!)
私は内心で石上の理解力に感心しつつ、外面は崩さず、オサレに目を閉じて首を縦に振ってみせた。
「早起きしての朝風呂は最高だな。昨日も早起きすれば良かったぜ」
橋本がザバァッと顔を洗い、一年生の佐藤や田中に声をかける。彼らも気持ちよさそうに息を吐きながら、「ですね!」「最高っす!」と力強く首を縦に振って肯定していた。
「あはは。明日ここを出るのは十時だから、明日もみんなで朝風呂に行こうか」
平田の爽やかな提案に、一年生たちは「はいっ!」と元気に返事をした。
こうして和やかに朝風呂を終えた私たちは、各自身支度を整え、朝食を取るために大広間の食堂へと向かった。
いつものようにひよりと並んで席に着き、和食の並んだお盆を引き寄せる。
「今日も朝風呂に行かれたのですか?」
ひよりが、少しだけ濡れた私の髪を見て小首を傾げる。
「――ああ。皆で朝の静寂と大地の熱を分かち合ってきたよ」
「ふふっ。惣右介くんが楽しそうで何よりです」
二人で和やかに朝食を進めていると、朝比奈先輩が立ち上がり、グループのメンバー全員に向けて元気よく声を張り上げた。
「今日が体験会の最終日だよ! 昨日はアーチェリーで雅のグループに負けちゃったけど、まだ一位の可能性は残ってるし、みんな頑張ろうね!」
「「「はいっ!」」」
朝比奈先輩の明るい号令に、全員が気合の入った返事をした。
そして午前九時。午前の部のゲームが開始された。
三日目ともなると、全員がゲームの勝手や他学年との交流にもすっかり慣れており、グループとしての連帯感も強まっていた。
結果として、午前の部の三試合は、私も含め出場したメンバーが危なげなく実力を発揮し、グループとしても個人としても全勝を収めることができた。
昼食の時間。再び食堂に集まった私たちのテーブルで、橋本が嬉しそうに報告を上げた。
「南雲先輩のグループが、鬼龍院先輩のグループに勝ってくれたおかげで、こっちにも一位の目が出てきたな」
「種目がアーチェリーだったのも大きいわね。彼らにとっては二回目の種目だから、かなりのアドバンテージだったはずよ」
堀北が冷静に分析する。
(……それに加えて、鬼龍院先輩のグループの主力の坂柳は運動には参加できないし、一之瀬も運動が得意ってほどじゃないからな。これが頭脳や芸術センスが問われるような種目なら、どうなってたか分からないな)
私は内心で勝敗の要因を分析しつつ、フッとオサレな笑みを浮かべた。
「――気まぐれな風も、我々に味方したようだね。残る星々を全て摘み取り、頂の景色を眺めに行こうか」
「『運も回ってきましたね。残りを全勝して勝ちに行きましょう』と仰っていますっ」
私のオサレな宣言を、ひよりがニコニコと翻訳する。
「あの……私たちと南雲先輩のグループが、ここから全勝すると同率になりますよね?」
一年生の中島が、少し不安そうに尋ねてきた。
「確かルールだと、三位以上が同率だと追加のゲームをして、順位を確定させるって説明だったね!」
朝比奈先輩が明るく答え、私たちは最終決戦へ向けてさらに士気を高めた。
午後の部が始まり、最初の二試合も私たちは順調に勝利を収めた。
そして迎えた、午後の部の三試合目。
私たちの端末に通知された対戦相手は――これまで無敗を誇り、先ほど南雲グループに初黒星を喫したばかりの『鬼龍院グループ』だった。
指定された種目は『彫刻体験』。
(せっかくなら最後の七試合目で当たった方が盛り上がっただろうけど、こればっかりは仕方ないか)
私は内心で少しだけ残念に思いつつも、対決に向けて気を引き締める。
「よし! メンバーを決めるよ! まずは藍染くんは確定ね! それから、美術部の二人もお願いしてもいいかな?」
朝比奈先輩の指名に、神室が少しだけ顔をしかめた。
「いいですけど、私も金田も絵を描くだけで、彫刻なんてやったことありませんよ?」
「それに、石彫はかなり手先の器用さや技術力が問われます。あまり過度な期待はしないでいただけると」
金田もメガネを押し上げながら、予防線を張る。
「あはは! 負けちゃってもそれは仕方ないよ! 楽しくやろうね! じゃああと二人は、手先の器用な椎名ちゃんと、石上くんにお願いできるかな?」
「はいっ!」
「分かりました」
ひよりと石上が頷き、これで朝比奈グループの出場メンバー五人が決定した。
指定された体験教室へ向かうと、そこにはすでに鬼龍院グループの面々が集まっていた。
三年生が率いる精鋭グループ同士の大一番ということもあり、体験教室の周囲には、今回のゲームに参加しない両グループのメンバーたちもギャラリーとして集まり、熱気を見せている。
「やぁ、オサレボーイ。私は五人目で参加するよ。君もそうしたまえ」
教室に入るなり、金髪を掻き上げた高円寺が自信満々な笑みを浮かべて話しかけてきた。
「――私の歩む軌跡に指図は不要だが……それを決めるのは朝比奈の役目だよ」
「フハハ! その点は問題ないさ。ひまわりガールも、私と君の対決を見たいだろうからねぇ」
(ひまわりガール!? 朝比奈先輩をそんな名前で呼ぶなよ!!)
私は高円寺のネーミングセンスに内心で強烈なツッコミを入れつつも、外面は涼しい顔を保つ。
「――言葉は届けてみよう」
「パッチワークで井の頭ガールに敗れたようだねぇ」
高円寺が、ニヤリと面白そうに指摘してくる。
「――彼女の紡ぐ世界は実に深遠だった。彼女もまた、この箱庭に潜む特記戦力の一人、というわけさ」
「フハハ! 君がそこまで言うとはねぇ。あとで私も挑ませてもらおうかね」
高円寺が豪快に笑い声を上げる。
少し離れた場所では、ひよりが一之瀬と何やら楽しそうに会話に花を咲かせており、これからグループ対抗戦が始まるとは思えないほど、和やかな空気が流れていた。
「藍染会長! 本日もご健勝で何よりです!」
すると、一年Aクラスの藤泉要が私を見つけるなり、忠臣の如き姿勢で直立不動の挨拶をしてきた。彼は私への挨拶を済ませると、すぐに同じクラスの石上の元へと歩み寄って談笑を始めた。
「……パッチワークがあなたの弱点、ということですか?」
今度は、ステッキを手にした坂柳が、面白そうに目を細めてからかってくる。
「――弱点と呼ぶのは些か早計だね。私も手先の器用さには、それなりの自負がある。……ただ、彼女の針が私の想定を一歩上回った。それだけのことさ」
「ふふふ、井の頭さんですか。これまでノーマークでしたが、彼女のような猛者が潜んでいたとは」
「にゃはは! 井の頭さん凄いんだね!」
「とてもお上手でしたねっ!」
一之瀬やひよりも、井の頭の裁縫スキルを手放しで称賛する。
(なんだか井の頭さんの評価が尋常じゃないくらい高まってる気がするけど……うん! 本当に凄かったしいいことだね!)
私は内心で彼女の評価の高まりを喜びつつ、試合の準備へと取り掛かった。
時間になり、代表者五名による対決が開始される。
朝比奈グループからは、私、金田、ひより、神室、石上。
対する鬼龍院グループからは、高円寺、一之瀬、時任、松下、藤泉というメンバーが選出されていた。
彫刻体験のルールは、審査員である先生が指定したジャンルに沿って作品を彫り、その出来栄えを先生が審査するというものだ。
ただし、一人ずつ順番に彫っていては時間がかかりすぎるため、制限時間を設け、五組がそれぞれ個別に与えられたテーマに沿って、全員同時に制作を始める形式となっている。
それぞれが黙々と石と向き合い、やがて制限時間が終了した。
いよいよ、一組ずつ完成した作品を披露し、審査が始まる。
一回戦。
同じ二年Cクラス同士の対決となる、金田と時任の審査だ。
「同じクラスといえど、ここは勝たせてもらいますよ」
金田がメガネを押し上げ、静かに闘志を燃やす。
「不可能だ。貴様では、私に片膝すらつかせることはできぬ」
時任が貴族のような尊大な口調で言い返す。
テーマは『オリジナルキャラクター』。
金田が彫り上げたのは、龍園をイメージしたのか、異様に目つきが悪く極悪な顔をした龍っぽいキャラクターだった。
対する時任が披露したのは――『わかめ大使』の彫刻だった。
(金田ァァァ!? それ、龍園に見られたら絶対怒られるぞ!? ……時任に関しては何作ってんだ!? なんでわかめ大使の造形を知ってんの!?)
私は内心で二人の作品に激しいツッコミを入れた。
審査員の先生も二つの異様な作品を前に迷っていたが、最終的には造形の完成度の高さから、時任の勝利を告げた。
「申し訳ありません」
金田がバツが悪そうに戻ってくると、ギャラリーとして見ていた伊吹が「あははははっ!」と腹を抱えて爆笑しながら、金田の作った極悪龍園の彫刻の写真をスマホで激写していた。
二回戦。
ひよりと松下の対決。
テーマは『冬』。
松下は、手堅く完成度の高い雪だるまの彫刻を披露した。
対するひよりは、その手先の器用さを存分に活かし、丸みを帯びた可愛らしいペンギンの彫刻を完成させていた。
審査の結果は、ひよりの勝利。
「――君の指先から生まれたその命は、冬の寒ささえも温かく溶かしてしまうようだね」
(訳:ペンギンすっごく可愛いね! おめでとう!)
私がオサレに賞賛すると、ひよりも「えへへっ」と嬉しそうにはにかんだ。
三回戦。
神室と一之瀬の対決。
テーマは『食べ物』。
二人が披露した作品は、なんと両者とも『おにぎり』で丸被りしていた。
(まあ、食べ物がテーマで短時間で彫りやすいってなると、おにぎりが無難な選択だね)
私は内心で納得しつつ見守る。
同じモチーフでの勝負となったが、出来栄えの差で神室が見事に勝利を収めた。
四回戦。
石上と藤泉の、一年生同士の対決。
ここで石上が勝てば、グループとしての勝利が確定する。
テーマは『日本文化』。
石上が披露したのは、力強い顔つきの『達磨』の彫刻。
対する要が彫り上げたのは、美しい反りを持つ『日本刀』だった。
(要ェェェ!? 凄いなそれ!? めちゃくちゃクオリティ高いじゃんか!)
私は忠臣の意外な才能に内心で盛大に称賛を送った。
審査の結果は、要の勝利。
これで星は二勝二敗の五分となった。
そして、勝敗を決する最後の五回戦。
私と高円寺の対決へと、全ての視線が注がれる。
与えられたテーマは『美しいもの』。
私と高円寺は、同時に彫刻の上にかけていた布をサッと外して披露した。
私が彫り上げたのは、両手を組んで静かに祈りを捧げる『ひより』の姿。
対する高円寺が披露したのは――高円寺自身が『サイドチェスト』のポーズで己の肉体美を誇示している姿の彫刻だった。
(……高円寺のやつ、流石のクオリティだな。だが、お前がひよりより美しいわけないだろ! この勝負はもらったぜ!)
私は自らの作品の勝利を確信し、内心で勝利のガッツポーズを決める。
「フハハ! なるほど、君らしい作品だねぇ。だが、私の美しさには及ばないよ」
高円寺が、己の筋肉彫刻を見下ろしながら自信満々に笑う。
「――己の瞳の曇りを嘆くがいい。万物を魅了するこの真の美しさを前にして、自らの滑稽な造形美を誇るとは……いっそ見事なほどの喜劇だな」
(訳:はあ? ひよりの方が美しいですけど?? 何言ってんだお前??)
私が内心で盛大に反論する一方、ひよりは自分を模して彫られた作品を前に、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
その様子を見た神室が、宥めるように「よしよし」とひよりの背中を撫でている。
ギャラリーとして見ていた堀北は天を仰いで深いため息をつき、伊吹は腹を抱えて爆笑している。
審査員の先生は、二つの彫刻を見比べて深く唸った。
「……なるほど。二人とも未経験とは思えない、素晴らしいクオリティですね。甲乙つけ難い、非常に難しい判定ですが……」
先生はゴクリと息を呑み、そして宣言した。
「勝者は…………高円寺くんです!」
「なん……だと……?」
私の口から、思わず絶望のポエムが零れ落ちる。
「フハハ! やはり私の美しさが上回ったようだねぇ!」
「……藍染くんの彫刻も素晴らしい出来栄えですが、高円寺くんの、この素晴らしい筋肉!生命力あふれる躍動感! 彫刻とはかくあるべきという力強さを感じました!」
先生が、なぜか高円寺のマッスル彫刻を大絶賛している。
(ぐぬぬ……! ひよりぃぃぃ! ごめんよぉぉぉ! 俺の腕が未熟なせいで、あの変態の作品に負けてしまった……)
私は内心で膝から崩れ落ちながら、トボトボとグループの元へと戻った。
「……惣右介くん。私を選んでくださったことは嬉しいですけど、少し恥ずかしいです……」
ひよりが顔を真っ赤にしたまま、上目遣いで小声で伝えてくる。
「――この世界で最も美しい形を脳裏に描いた時……そこに浮かんだのは、君の姿だけだったのさ」
(訳:うっ、ごめんね……。美しいといえばひよりが真っ先に浮かんだからさ)
「もうっ! 恥ずかしいですっ!」
ひよりはぷくっと頬を膨らませて抗議しつつも、その口元は嬉しそうに緩んでいた。
「――すまないね。私の刻んだ美の理が、彼の眼には届かなかったようだ」
「『皆さん、負けてしまって申し訳ありません』とのことです」
私が皆にオサレに謝罪し、ひよりが丁寧な口調で皆へ翻訳を伝える。
「ううん! 藍染くんにはずっと助けられてるからね! 仕方ないよ!」
朝比奈先輩が明るく笑って許してくれ、一年生たちも「気にしないでください!」「藍染先輩の作品の方が素敵でしたよ!」とフォローしてくれた。
「そうだね。まだ最後の一試合も残ってる。鬼龍院先輩のグループも、南雲先輩のグループも負ける可能性もあるからね。最後の一試合に向けて気持ちを切り替えよう!」
平田が爽やかに手を叩き、沈みかけた空気を一気に前向きなものへと変えてくれた。
◇ ◇ ◇
その後、交流会合宿の最後となる一試合も、私たちは危なげなく勝利を収めることができた。
しかし、南雲グループと鬼龍院グループも同様に最終戦を勝利で飾っており、この時点で全日程が終了した。
最終的な成績は以下の通りだ。
朝比奈グループ:十七勝二敗。
南雲グループ:十八勝一敗。
鬼龍院グループ:十八勝一敗。
この結果をもって、私たちのグループの『三位』が確定した。
「雅と楓花ちゃんに勝てなかったか〜。……うぅ、焼肉奢りかぁ……」
朝比奈先輩が、結果の通知された端末を見つめながら、ガックリと肩を落として項垂れる。
(うーん、クラスポイントは動かないとはいえ、悔しいな……。とりあえず学校の寮に戻ったら裁縫の練習をしようかな。彫刻なんて、なかなか練習できないし……)
私は内心で密かに井の頭と高円寺にリベンジを誓う。
その後、鬼龍院グループと南雲グループによる同率一位を決めるための延長戦が行われ、結果として南雲グループが勝利を収めた。
これで、一位南雲グループ、二位鬼龍院グループ、三位朝比奈グループという最終順位が確定した。
◇ ◇ ◇
そして迎えた、合宿所での最後の夕食。
大広間の食堂に集まった私たちは、グループ全員で大きなテーブルを囲み、賑やかに食事を楽しんでいた。
「悔しいけど、みんなが楽しめたみたいで、先輩としては大満足だよ!」
朝比奈先輩が、いつもの明るい笑顔を取り戻してジュースのグラスを掲げる。
「一年生や他クラスの生徒とも交流が出来て、本当にいい合宿になりましたね」
平田が爽やかに微笑みながら頷く。
「それに、藍染が負ける珍しい姿も見れたしな」
橋本が、ニヤニヤと揶揄うように私の肩を突いてくる。
「――盤上の敗北は、次なる完全への礎に過ぎない。……次に挑む時、私はさらに遥かな高みへと至っていることだろう」
「『次は絶対に負けませんよ』と仰っていますっ」
私のオサレな負け惜しみを、ひよりがニコニコと綺麗な口調で翻訳した。
和やかな空気が流れる中、堀北がふと疑問を口にした。
「朝比奈先輩。グループ分けの段階で思ってましたが、南雲先輩たちと何を賭けていたんですか?」
「あはは。負けたグループの責任者が、勝った二人のグループ全員と、自分のグループの全員に焼肉を奢ることになってるんだよ〜」
朝比奈先輩が、苦笑いしながらあっけらかんと明かす。
「それは、かなりの人数では……?」
七瀬が、少し心配そうに目を丸くした。
「あはは! でも気にしないで! 私たちが勝手にやってることだからさ! 全グループ同時だとお店に入れないだろうから、グループごとに行くことになると思うし。……みんなも、学校に帰ったら私の奢りで焼肉だよ!」
朝比奈先輩の太っ腹な宣言に、一年生たちから「やったー!」「朝比奈先輩ごちそうさまです!」と歓声が上がり、テーブルは一気に盛り上がりを見せた。
(奢りの焼肉は嬉しいけど、本当に申し訳ないな。……彫刻の審査はまだ納得してないからな!)
私は内心で審査員への不満をくすぶらせつつも、隣で嬉しそうに微笑むひよりの顔を見て、小さく息を吐き出した。
私たちは互いの健闘を讃え合いながら、名残惜しくも賑やかな雰囲気の中で、交流会最後の夕食を心行くまで楽しむのだった。