いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
学年末特別試験の代表者が決まってからも、試験内容の全容が明らかにならない中、私たち二年Aクラスは本番に向けて準備を進めていた。
現時点で判明しているのは、各クラスから代表者を選出して戦うこと、そして参加者にはそれぞれ何らかの役割が与えられるということくらいだ。肝心の試験内容や細かなルールについてはほとんど明かされておらず、具体的な対策を立てるのは難しい。
それでも、一之瀬と神崎を中心に、考えられる展開をいくつも想定し、それぞれの状況に応じた対応を検討していた。クラスメイトたちも、普段の穏やかな雰囲気を保ちながら、放課後には勉強会を開き、試験について意見を交わすなど、できる限りの準備を重ねていた。
この試験でAクラスが敗北し、Bクラスが勝利すれば、当日に発表される追加ルール次第ではクラスの入れ替わりも起こり得る。決して気を抜ける状況ではないが、クラスメイトたちは過度に気負うことなく、落ち着いて本番に備えていた。
そんな中、私はというと、生徒会の業務を普段通りにこなしながら、バレンタインに友チョコをくれた女子たちへのオサレな恩返しを完璧に済ませていた。もちろん、学年末特別試験に向けた勉強や準備も怠ってはいない。その合間には、ホワイトデーのお返しを兼ねてひよりとのデートを楽しむなど、忙しい日々の中でも、穏やかな時間を大切にしていた。
そして――いよいよ、学年末特別試験の当日がやってきた。
学校側からの通達により、代表者三名は八時に特別棟へ、残りの参加者は九時に各自の教室へ集合することになっている。
私は総理との対談を控えているため、試験には一切参加せず、理事長と共に応接室へと赴く予定だ。
だが、その前に私には果たすべき大切な役目があった。
(……そろそろ時間だな)
朝早くに起床した私は、身支度を整えると、キッチンで手際よく調理を進めていた。
午前七時を回った頃、私の部屋のチャイムが静かに鳴らされた。
「おはよう、藍染くん」
「惣右介くんっ。おはようございますっ」
「朝早くからすまないな」
ドアを開けると、そこには制服姿の一之瀬、ひより、そして神崎の三人が立っていた。
「――待ちわびていたよ。さあ、中へ入りたまえ」
(訳:おはよう! さあ、入って!)
私がオサレに招き入れると、三人は靴を脱いでリビングへと足を踏み入れた。
テーブルの上には、彼らのために丹精込めて作った温かい朝食が並べられている。
消化に良く、栄養も十分に取れる和定食だ。
「わあ……! 朝早いのに、こんなに手のかかる料理を作ってくれてありがとう、藍染くん!」
一之瀬が目を輝かせ、感謝の言葉を口にする。
「とっても美味しそうですっ。ありがとうございますっ」
「ああ。戦の前の腹拵えとして、これ以上のものはない」
ひよりと神崎も、それぞれ感謝の言葉を口にした。
「――試験に臨む君たちのために、私ができることは限られている。せめて今は、腹を満たし、万全の状態で送り出すとしよう。遠慮なく食べてくれたまえ」
「『試験には参加できませんが、少しでもみんなの力になりたいと思っています。遠慮せず、たくさん食べてくださいね』とのことですっ」
私がオサレに告げると、ひよりがニコニコと、いつものように分かりやすい言葉へと翻訳してくれた。
私たちは四人でテーブルを囲み、和やかな雰囲気の中で朝食を共にした。
「ふふっ。惣右介くんの分まで、私も精一杯頑張りますっ!」
ひよりが味噌汁を口に運びながら、決意に満ちた笑顔を見せる。
「我々はこの二年間、確かな歩みを重ねてきた。それを証明するには、申し分のない舞台だろう。藍染、我々の紡ぐ勝利の軌跡を、特等席で期待しているがいい」
神崎も箸を置き、真っ直ぐに私を見据えて力強く宣言した。
「――ああ、信じているよ。……相手が強敵だからといって、気負う必要はない。君たちが積み重ねてきた努力を、私は疑っていないのだからね」
「『みんなのことを信じています。相手は強敵ですが、気負いすぎず、いつも通り頑張ってくださいね』とのことですっ」
私のオサレな激励とひよりの翻訳に、一之瀬と神崎は顔を見合わせ、ふっと頼もしげな笑みを浮かべた。
朝食を終えると、私は代表者である三人を寮のロビーまで見送った。
彼らの背中が冬の朝の冷たい空気の中へと遠ざかっていくのを見つめながら、私は静かに思考を巡らせる。
(……対戦相手となるDクラスの大将は、間違いなく清隆が務めるだろう。中堅は堀北さんかな。先鋒が誰になるかは候補が多くて読めないが……)
試験内容が不透明な以上、どれほど考えを巡らせたところで、全容は始まってみなければ分からない。
(単純な学力や思考力だけを競う試験になれば、清隆を相手にするのは厳しいかもしれない。……だが、みんながこの二年間でどれだけ成長したのかを示すには、これ以上ない相手だ)
私は、一之瀬たちの勝利を信じている。
それでも、勝負である以上、敗北の可能性がないわけではない。
(……俺たちには、まだ一年という時間が残されている。万が一ここで敗北したとしても、必要以上に落ち込むことはない。挽回の機会はいくらでも作れるさ)
そう考えを整理した私は、ロビーから自室へと戻り、総理との対談に向けた最終準備を整えた。
身だしなみに一切の乱れがないことを鏡で確認し、静かに息を吐く。
(……今日の対談は、今後の人生を大きく左右することになる。みんなを理不尽な悪意から守り抜くためにも、必ず鬼島総理をこちらの味方につけなければな)
私はもう一度身だしなみを整えると、部屋を後にした。
総理との対談を成功させる。その決意を胸に、私は確かな足取りで学校へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
特別棟、指定された待機室。
私たちAクラスの代表者三人は、部屋の入り口で教師に携帯電話を預け、手荷物検査を受けた後、一番乗りで室内へと入り、パイプ椅子に腰を下ろして開始の時間を待っていた。
「藍染くんの作ってくれた朝食、本当に美味しかったね。なんだか力が湧いてくるみたい!」
「はいっ。惣右介くんの応援も受け取りましたし、準備は万端ですっ」
私が緊張をほぐすように明るく声をかけると、ひよりちゃんもニコニコと花が咲いたような笑顔で頷いてくれた。
神崎くんも静かに目を閉じ、集中力を高めているようだ。
やがて、廊下から複数の足音が近づいてきた。
「ごきげんよう。……なるほど、Aクラスは予想通りの三名ですね」
ステッキを突きながら現れたのは、Bクラスの坂柳さん。そしてその後ろには、葛城くんと橋本くんが控えていた。
「おはよう、坂柳さん! 試験のルールが分からないし、どこのクラスもだいたい予想に近いメンバーになるんじゃないかな?」
「ふふふ。それもそうですね」
坂柳さんが優雅に微笑む。今回は直接対決するわけではないけれど、彼女の微笑みの奥には、確かな勝利への気迫が静かに燃えているように感じられた。
少しして、今度は乱暴な足音と共に、Cクラスの三人が部屋へと入ってきた。
龍園くん、時任くん、そして西野さんだ。
「ククク。予想通りのメンツだな」
龍園くんは部屋に入るなり、Bクラスの面々をジロリと睨みつけた。
「交渉を蹴ったこと、後悔させてやる。真っ向からぶっ潰してやるよ、坂柳」
「あまり強い言葉を使わないことですね。弱く見えますよ?」
龍園くんの露骨な挑発に対し、坂柳さんはどこか聞き覚えのある言い回しでサラリと煽り返した。
「……チッ。藍染みてぇなこと言ってんじゃねぇよ」
「ふふ。彼ならこう言うだろうと思いまして。少し真似をさせてもらいました」
舌打ちをする龍園くんを見て、坂柳さんは心底楽しそうにクスクスと笑った。
そんな二人のリーダーのやり取りの傍らで、葛城くんと橋本くんが密かに言葉を交わしている。
「龍園と時任は予想通りだが……西野は意外な選出ではあるな」
「確かにな。戦力不足なんじゃねぇか?」
「だが、龍園が西野を選んだことにも必ず理由があるはずだ。決して油断はするなよ、橋本」
「へいへい。しっかりやりますよ」
葛城くんの重々しい忠告に、橋本くんが飄々と肩をすくめる。
一方、Cクラスの陣営では、どこか張り詰めたような表情を見せている西野さんへ、時任くんが静かに声をかけていた。
「恐怖とは無から生まれるものでは無い。心の中の、僅かな不安を侵食されて生まれるものだ」
「……はぁ? 別に恐怖なんて感じてないし」
時任くんの静かで威厳に満ちた言葉に、西野さんが心底意味が分からないといった顔をしかめて言い返す。
ふと、時任くんが視線を巡らせ、私たちのグループを見て静かに口を開いた。
「……藍染惣右介の姿が見えないな」
「惣右介くんは、大事な用事があって今回の試験は不参加なんです」
時任くんの言葉に、ひよりちゃんがスッと一歩前に出て、毅然とした態度で答えた。
「へー。特別試験より大事な用事ってなんなの?」
西野さんが、気怠げな口調で深掘りしてくる。
「内緒ですっ」
ひよりちゃんはニコッと完璧な笑顔を作り、それ以上の追及をピシャリと撥ね退けた。
そんなやり取りをしていると、最後に部屋へ入ってきたのはDクラスの三人――綾小路くん、堀北さん、そして池くんだ。
これで、各クラスの代表者計十二名が全員揃ったことになる。
「今日はよろしくね!」
「ええ。よろしくお願いするわ」
私が声をかけると、堀北さんが静かに、けれど闘志を秘めた目で頷き返してくれた。
部屋には各クラスの代表者たちが揃い、ピリッとした緊張感が漂う……はずだったのだが。
「フッ……我が暗黒の魔眼をもって、Dクラスの真なる力を貴様らに見せつけてやろう……!」
池くんが、なぜか片手で顔の半分を覆い隠し、芝居がかった手振りで神崎くんへと語りかけた。
「……受けて立とう。俺の内に眠る『鵲』が、貴様らの紡ぐ理を断ち切るだろう」
神崎くんが、微動だにせず大真面目な顔で池くんの宣戦布告に応じる。
「俺の力で全てを貫く」
「……貴様が敗北するのは驕りの為ではない。ただ純粋に格の差だ」
そこに葛城くんの重苦しい宣告と、時任くんの格式ばったセリフが重なり、部屋の一角で、男子四人による信じられないほど濃度が高い言葉の応酬が始まってしまった。
「……なんというか、ものすごく濃いな」
綾小路くんが、感情の読めない顔のまま、ボソッと言葉を漏らす。
「ふふっ。みなさん仲良しですねっ」
ひよりちゃんは、どこまでもピュアな瞳でニコニコと彼らを見守っている。
「にゃ、にゃはは……」
私はどうツッコミを入れていいか分からず、ただ引きつった笑顔で苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「はぁ……」
「……チッ」
坂柳さんが心底呆れたようにため息をつき、龍園くんは不機嫌そうに舌打ちをする。
そして堀北さんに至っては、言葉を失ったように深く天を仰ぎ、これ以上ないほど重いため息をついていた。
そんな一部の男子たちによる異様な空間に、それぞれが呆れや苦笑いを浮かべていたその時。
待機室のドアが開き、学年主任でありBクラスの担任を務める真嶋先生を先頭に、星之宮先生をはじめとする各クラスの担任教師たちが揃って入室してきた。
「全員揃っているな。早速だが、特別試験を開始するための準備を行いたいと思う。それに伴い、これまで開示されていなかった特別試験の詳しいルール説明をしていく」
真嶋先生の低く重厚な声が響き渡ると、部屋に漂っていた妙な空気は一瞬にして霧散し、全員の顔にピリッとした緊張感が走った。
「まず、各クラスの最終的な代表者三名を発表する」
真嶋先生が手元のタブレットを操作すると、部屋の前方に設置されていた大型モニターの電源が入り、各クラスの代表者の名前が表示された。
【二年Aクラス】
先鋒:椎名ひより
中堅:神崎隆二
大将:一之瀬帆波
【二年Bクラス】
先鋒:橋本正義
中堅:葛城康平
大将:坂柳有栖
【二年Cクラス】
先鋒:西野武子
中堅:時任裕也
大将:龍園翔
【二年Dクラス】
先鋒:池寛治
中堅:堀北鈴音
大将:綾小路清隆
(……やっぱり、Dクラスの大将は綾小路くんなんだね。中堅が堀北さんで、先鋒が池くん)
私はモニターに映し出された対戦相手の布陣を静かに確認する。
「ここが、君たち代表者の舞台となる」
真嶋先生が部屋全体を見渡すように視線を巡らせる。
改めて見回してみると、この教室には大型モニターが複数台設置されており、中央には向かい合うように机と椅子が二つずつ、そしてそれぞれの机の上にタブレットが置かれていた。
「この教室でAクラスとDクラスが。そして、同じセットが用意されている別の教室で、BクラスとCクラスが対決することになっている」
「なるほど。この設備を見る限り、やはり肉体を駆使するような試験ではなさそうですね」
坂柳さんが、机の上のタブレットを見つめながら静かに呟いた。
「開始時刻となったら、まずは各クラスの先鋒が席に着き、試験開始となる。中堅と大将を務める代表者たちは、別の部屋で待機してもらう」
真嶋先生の言葉に、私たちは静かに頷いた。
最初から全員がこの場に留まるわけではなく、自分の出番が来るまでは別室で待機する形式のようだ。
「では、肝心の試験内容についてだ」
真嶋先生が再び手元のタブレットを操作する。
ピッと電子音が鳴り、モニターの画面が切り替わって、いよいよ厚いベールに覆われていた試験の詳細なルールが表示された。
【学年末特別試験 詳細ルール:対戦概要】
《事前準備》
・各クラスの代表者は、参加者の生徒の中から『七人一組のグループ』を五グループ作成する。
※同一グループを連続して起用することは不可。
※参加者が三十五名未満のクラスに限り、必要に応じて同一人物が二つのグループに参加することを認める。
《試験の基本フロー》
①【グループ選択】
・各クラスの代表者は、タブレットで議論に参加させるグループを一つ選択する。
②【議論の観察】
・両クラスから選出された参加者計十四名による議論を、代表者はモニター越しに観察する。
※1ラウンドにつき5分間。
※参加者の生徒には『一般生』『優等生』『教師』『卒業生』『下級生』『上級生』『背信者』のいずれかの配役が事前に与えられている。
③【指名と推測】
・ラウンド終了後、代表者は参加者一名を指名し、その配役を言い当てる権利が与えられる。
※指名は1ラウンドにつき一名まで(パスも可能)。
※制限時間一分以内にタブレットで選択する。
④【指名結果の反映】
・選択した参加者の配役に基づき、代表者同士の『ライフ』が変動する。
・『教師』『卒業生』が指名された場合、この時点でその配役の持つ特殊効力が発動する。
・代表者のうち一人以上がパスを選択していた場合、『優等生』が参加者一名を任意で退室させる。
※優等生が役職者を退室させても、代表者のライフは変動しない。
・代表者や優等生によって指名された生徒は、その時点で議論から外れ、退室する。
※代表者の指名が正解した場合は配役が開示されるが、優等生の指名では配役は開示されない。
⑤【議論の終了と決着】
・『一般生』か『優等生』のどちらか一方の全生徒が退室した時点で、その場の議論は終了となる。
・議論の途中であっても、代表者のライフが0になった時点で議論終了。
・大将のライフが0になった時点で学年末特別試験は終了。
・両クラスの大将が同時にライフ0となった場合、互いにライフ1の状態で再戦を行う。
・議論終了時、および代表者交代時には一定時間のインターバルが挟まれる。
(……かなり複雑なルールだね)
モニターに次々と映し出されるルールを追いながら、私はうーん、と小さく唸って眉をひそめた。
参加者たちに配役が与えられ、その議論を代表者である私たちがモニター越しに観察し、相手の配役を当てていく……まるで人狼ゲームのような頭脳戦だ。
議論自体の展開はもちろん、代表者側がいかに相手の嘘や配役を見抜き、的確に指名を行えるかが勝敗を大きく分けることになる。
(神崎くんと、ひよりちゃんは……)
ふと視線を横に向けると、神崎くんは腕を組み、鋭い眼差しでモニターの文字を一字一句見落とすまいと凝視していた。その佇まいからは、ルールを完全に把握し、頭の中でシミュレーションを重ねている様子が窺える。
そしてひよりちゃんもまた、静かな瞳で画面を見つめ、小さく顎を引いて頷いていた。二人とも混乱する様子は一切なく、しっかりとこの複雑な仕組みを理解できているようだ。
二人の頼もしい姿に、私もすっと胸を撫でおろし、集中力を高め直す。
「基本的な試験の流れは、今提示した①〜⑤の手順で行われ、決着がつくまで繰り返される。……では、説明を続けるぞ」
真嶋先生が手元のタブレットを操作すると、モニターの画面が切り替わって、参加者たちに与えられる配役の詳細が表示され始めた。
【学年末特別試験 詳細ルール:配役詳細】
《配役の種類と人数》
・議論に参加する十四名には、以下の配役が割り振られる。
・議論が終わった時にまだ議論の場へ残っていた生徒は、一人につきプライベートポイント5,000を受け取る。
・『一般生』『優等生』『背信者』を除く配役については、『役職有』としてまとめて指名することもできる。ただし、その場合は的中とは扱われず、本当の配役が何かは明かされない。
・出番を待っている代表者もモニター越しに議論を見守ることができるが、参加者へ声をかけるなど、あらゆる干渉は禁じられている。
・同じラウンドで両方の代表者がそれぞれ指名を的中させていた場合は、先にライフの相殺処理が行われる。
『一般生』 6人〜8人
・特別な力を持たない生徒。
・この生徒を誤って指名してしまった場合(『役職有』での指名も含む)、指名した代表者のライフが1減る。
『優等生』 2人
・見破って指名することができれば、相手代表者のライフを3削ることができる。
・誤って指名した場合(『役職有』での指名も含む)、自分のライフが2減る。
・二人の優等生は、互いが誰であるかを知っており、その存在を共有している。
・代表者のどちらか、もしくは両方がパスを選んでいた場合、そのラウンドの終了時に、参加者の中から一人を選んで退室させることができる。
※優等生が二人とも残っている時は、どちらが指名するかはランダムに決まる。また、優等生が優等生を指名することはできない
『教師』 1人
・『役職有』として当てることができれば、相手のライフを1削る。『教師』と名指しで当てた場合は、相手のライフを2削る。
・指名が外れた場合は、自分のライフが2減る。
・効力:ラウンドが終わるごとに一度だけ、参加者一人を優等生の指名から守ることができる。
『卒業生』 1人
・『役職有』として当てることができれば、相手のライフを1削る。『卒業生』と名指しで当てた場合は、相手のライフを2削る。
・指名が外れた場合は、自分のライフが2減る。
・効力:ラウンドが終わるごとに、参加者一人を選んで、その生徒の配役を確かめることができる。
※ただし『背信者』だけは確かめることができず、『一般生』として表示されてしまう
『下級生』 1人
・『役職有』として当てることができれば、自分のライフが1回復する。『下級生』と名指しで当てた場合は、自分のライフが2回復する。
・指名が外れた場合は、自分のライフが1減る。
『上級生』 1人
・『役職有』として当てることができれば、相手のライフを1削る。『上級生』と名指しで当てることができれば、相手のライフを1削り、加えて参加者二名分の配役がランダムで明かされる。
・指名が外れた場合は、自分のライフが1減る。
『背信者』 0人〜2人
・各クラスに一度だけ認められる権利で、相手クラスの参加者の中から一人を、背信者として送り込むことができる。
・背信者は、ラウンドが進むごとに、優等生を除いた参加者の中から一人の配役を、自分を選んだクラスの代表者へ伝え続ける。
・優等生に指名されても退室することはなく、ブロックとして扱われる。『役職有』としてまとめて指名することもできず、『卒業生』の効力でも見破ることはできない。
・通常の指名で議論から外すことはできない。背信者への対処は、後述の『対話』によってのみ行われる。
・背信者ではない生徒を、誤って背信者として指名してしまった場合、ライフを2失い、相手側の背信者の権利が復活する。
・議論が終わるまで退室することなく残り続けた場合、プライベートポイント500万か、クラスポイント50のうち、好きな方を受け取ることができる。
《参加者が受け取る報酬》
・優等生:自分たちの側が勝利を収めた場合、50万プライベートポイントを受け取る。
・教師・卒業生:議論が終わるまで退室しなかった場合、5万プライベートポイントを受け取る。
・上級生・下級生:優等生の指名によって退室した場合、5万プライベートポイントを受け取る。
・背信者:前述の通り(500万プライベートポイント、もしくはクラスポイント50)。
《タブレットでの指名について》
・指名はタブレットの画面で行う。参加者十四名の名前と、パスの項目が並んで表示される。
・指名する時は、対象の生徒の名前をタッチし、『役職有』か、名指しできる配役名を選ぶ。なお、『一般生』という項目は用意されていない。
・パスを選んだ場合は、誤って操作してしまうことを防ぐため、二度の確認が行われる。
(……優等生を見抜ければ相手のライフを大きく削れるけど、外した時の代償も大きいんだね)
モニターに表示される配役の説明を追いながら、私は内心でそっと呟いた。
下級生はライフを回復できる唯一の配役で、教師や卒業生、上級生は情報を得たり、相手の動きを阻んだりできる。
(それに、やっぱり一番厄介なのは背信者だね……)
私は気持ちを引き締め直し、モニターへ視線を戻した。
「――配役の説明は以上だ。だが、この試験にはもう一つ、特殊なルールが存在する」
真嶋先生の声に、部屋の空気が一段と引き締まる。
「『背信者』を巡る、代表者だけに許された権利について説明する」
モニターの表示が切り替わり、『対話』と題された新たなルールが映し出された。
【学年末特別試験 詳細ルール:特殊ルール『対話』】
・ラウンドが終わるたび、代表者が望んだ場合に限り、別室で自クラスの参加者を一人だけ呼び出し、一対一で話をすることができる。
※この場では、特別試験の経過や、ルールの内容について話し合うことは禁じられている
①呼び出された参加者は、自分が背信者であるかどうかを、まず答える。
②代表者は、その生徒を背信者と断定するか、無実と見なすかを決める。
③組み合わせによって、結果は次の通りとなる。
《その参加者が背信者だった場合》
・自ら背信者だと明かし、代表者が断定した:情報の流出は止まる。その代わり、背信者が得るはずだった報酬は取り消される。
・自ら背信者だと明かし、代表者が見逃した:代表者のライフが5減る。
・背信者ではないと否定し、代表者が断定した:その背信者は退学となる。
・背信者ではないと否定し、代表者が見逃した:代表者のライフが5減る。
《その参加者が背信者ではなかった場合》
・背信者だと偽って告白し、代表者が断定した:代表者のライフが1減る。
・背信者だと偽って告白し、代表者が見逃した:ペナルティはない。
・背信者ではないと否定し、代表者が断定した:代表者のライフが1減る。
・背信者ではないと否定し、代表者が見逃した:ペナルティはない。
(……対話、か)
表示されたルールを目で追いながら、私は小さく息を呑んだ。
仲間を一人呼び出して、背信者かどうかを問い、その答えを信じるか、裁くかを自分で決めなければならない。見逃せばライフを5失うし、断定すれば、その仲間を退学に追い込んでしまう可能性すらある。
(……重いな。すごく、重いルールだよ)
それでも、背信者が紛れ込んでいる以上、目を逸らし続けるわけにはいかない。代表者である私たちが背負わなければならない重さなのだと思う。
「先生。一つ、確認させてください」
その時、静まり返っていた部屋に、凛とした声が響いた。Dクラスの堀北さんだった。
「参加者は、自分の役職を議論の中で明かすこともできるのでしょうか。もし可能なら、互いに役職を明かし合えば、代表者が推理する必要もなくなってしまうのではありませんか?」
堀北さんの問いは、まっすぐに真嶋先生へと向けられていた。
(……うん、やっぱりそこが気になるよね)
参加者が自分の役職を自由に明かせるのなら、議論を通じて情報を共有するだけで、代表者が役職を見抜く必要はなくなってしまう。ルールを聞いた誰もが、一度は疑問に思うところだろう。
真嶋先生は小さく頷き、淡々と答えた。
「もっともな質問だ。だが、代表者と参加者とでは、異なるルール説明を受けることになる」
堀北さんは「……分かりました」とだけ答え、それ以上は追及しなかった。
(……やっぱり、そういうことだよね)
代表者と参加者では、最初から知らされる情報が違う。参加者たちは自分たちに与えられたルールに従って議論を進める一方で、私たち代表者は、彼らの言動から役職を見抜かなければならない。
だからこそ、同じ試験に参加していても、見えているものは同じじゃないんだ。
私はそっと拳を握り、モニターに表示されたルールを改めて見つめ直した。
「ルールの確認は、各自のタブレットからいつでも行える。試験の最中であっても、疑問があればその場で尋ねて構わない。答えられる範囲にはなるが、試験官が対応する」
真嶋先生が部屋全体を見渡し、静かに、しかしはっきりと告げた。
「以上で、学年末特別試験のルール説明を終了する」
その言葉に、私はほっと小さく息を吐いた。
正直、かなり複雑なルールだった。配役を推理して、代表者同士のライフを削り合う――やっぱり、人狼ゲームに近い感じだね。
それでも、私の胸の中にあった心配は、少しだけ軽くなっていた。
(学年末特別試験だって聞いて、どんなに厳しい内容なのかと警戒していたけど……このルールなら、どのクラスも退学者が出ないように出来るはずだよね)
対話の使い方を間違えなければ、誰も退学することなく、最後まで戦い抜くことができる。それが分かっただけでも、私にとっては大きな安心だった。
「代表者は全員、待機室へ移動してもらう。ついて来なさい」
真嶋先生に促され、私たち代表者は席を立ち、ぞろぞろとその後に続いた。
「帆波ちゃん、大丈夫ですか?」
隣を歩くひよりちゃんが、私の顔を覗き込むように、心配そうな声をかけてくれた。
「うん、大丈夫だよ。……なんだか、ほっとしちゃって」
「ほっと、ですか?」
「うん。退学者が出るような試験じゃなくて、よかったなって思って」
私が小さく微笑みながら答えると、ひよりちゃんも花が咲いたような笑顔で頷いてくれた。
「はいっ。みんなで、最後まで戦える試験ですねっ」
「……だが、油断はできないな」
反対側を歩く神崎くんが、ぽつりと呟いた。
「参加者は全員、勝利条件を知らないまま議論に臨むことになる。俺たち代表者が背負う責任は、思っていた以上に重い」
「うん……そうだね」
神崎くんの言葉に、私は小さく頷いた。
(知らないまま戦うみんなの分まで、私たちがしっかり見なきゃいけないんだ)
待機室に着くと、真嶋先生が私たちを中へ促した。広めの部屋で、壁際には大きなモニターが設置されている。
「待機中の生徒は、このモニターを見て試験の状況をリアルタイムで確認できる。ただし、確認できるのは代表者のライフの変動と勝敗のみとなっている。先ほども説明したが、試験中の様子を見ることはできない」
「それから、試験が終わるまではこのフロアからの移動は禁止とする。待機中に限り手洗いに関しては自由となっているが、交代による移動の際に時間をオーバーするなどした場合は、別途ペナルティが与えられることになるので注意するように」
真嶋先生は部屋全体を見渡し、最後にこう告げた。
「それではこれから、代表者三名の話し合いで五つのグループを作成してもらう。制限時間は一時間だ」
その指示で、部屋のあちこちで各クラスの代表者たちが三人ずつ集まり始めた。
私たちも部屋の隅で、三人で向かい合う。
「さて……まずは、どう組むか、だね」
参加者を七人ずつ、五つのグループに分ける。誰を、どのグループに入れるか。その組み合わせ次第で、この試験の戦い方は大きく変わってくる。
(大丈夫。神崎くんとひよりちゃんと、三人で決めるんだから)
大将である私の出番は、まだ先だ。けれど、与えられた一時間の話し合いこそが、最初の戦いなのだと思う。
私は二人の顔を見つめ、静かに頷いた。
(さあ、始めよう。――学年末特別試験を)
更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。
次回からは学年末特別試験の本編に入ります。
原作を何度か読み返してはいますが、ルールが複雑なので、私の理解不足による矛盾や解釈違いが生じることもあると思います。その際は、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。