いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
八月一日。
私たち高度育成高等学校の一年生は、学校が手配した巨大な超豪華客船の船上にいた。
紺碧の海と、雲一つない青空。海風に吹かれながら見上げる客船は、まるで海に浮かぶ巨大なホテルのようだった。
待ちに待った『夏休みのバカンス』が幕を開けたのだ。
「うおおおおお!! すっげぇぇぇ!! マジで全部無料なのかよ!!」
「プールもあるし、映画館もある! ケーキも食べ放題だって!」
「最高じゃん! 天国だよこれ!」
船内のメインダイニング。
巨大なシャンデリアが輝き、一流シェフが腕を振るう豪華なビュッフェが並ぶその空間で、Bクラスの面々は歓喜の声を上げていた。
柴田はローストビーフを山のように皿に盛り、白波や網倉は色とりどりのスイーツに目を輝かせている。
私、藍染惣右介もまた、内心では彼らと同じように(いや、それ以上に)テンションが限界突破していた。
(すっっげえええええ!! なにこの船!? テレビでしか見たことないような豪華客船じゃん!! ご飯もめちゃくちゃ美味いし、プールもスパも完備! さすが国が運営する学校、金のかけ方が桁違いだ!!)
私は優雅に足を組み、ワイングラスに注がれた葡萄ジュースを傾けながら、内心でサンバを踊っていた。
「惣右介くん。こちらのキッシュ、とても美味しいですよ。いかがですか?」
「藍染くんも、もっとお肉食べなよ! はい、これ取り分けたから!」
私の両隣には、清楚なサマードレスに身を包んだ椎名ひよりと、明るい黄色のワンピースが似合う一之瀬帆波が座り、かいがいしく私の世話を焼いてくれている。
クラスの二大美少女、いや、学年トップクラスの美少女二人に両脇を固められ、私は完全に王様気分だった。
「――フッ。君たちの差し出す供物ならば、どのような味であろうと退屈はしないさ。……ありがたく頂こう」
(訳:ありがとう! 二人とも可愛い服似合ってるね! キッシュもお肉も美味しくいただくよ!)
「あはは、藍染くんはバカンスでも相変わらずだね」
「ふふっ、惣右介くん、お口に合って良かったです」
和気あいあいとした昼食の時間は、まさに楽園そのものだった。
しかし。
私がこの平和なバカンスが『最後まで続くはずがない』と確信していた通り、時計の針が昼過ぎを回った頃、船内に静かな電子音が鳴り響いた。
『――生徒の皆さんに連絡します。これより、本船は目的地である無人島を一周します。非常に美しい景色ですので、生徒の皆さんはぜひデッキに出て、有意義な景色をご堪能ください』
スピーカーから流れてきたのは、教員による事務的な艦内放送だった。
「なん……だと……?」
神崎が訝しげに眉をひそめる。
「とりあえず、デッキに出てみようよ! きっとすっごく綺麗な島なんだよ!」
一之瀬の提案で、私たちはぞろぞろとデッキへと向かった。
潮風が吹き抜ける展望デッキ。
そこからは、エメラルドグリーンの海に浮かぶ、手付かずの大自然に覆われた巨大な『無人島』の姿がはっきりと見えた。
鬱蒼と茂る原生林。切り立った崖。白い砂浜。
「わぁ……! すごい大自然! 探検とかできそうだね!」
一之瀬が目を輝かせている隣で、私は手すりに寄りかかり、目を細めて島を観察していた。
(……無人島、か。なるほど、学校側がわざわざ『一周するから景色を堪能しろ』なんてアナウンスをする理由。……それは、この島こそが次なる『盤面』だからだ)
私の脳内に宿る『藍染スペック』が、超人的な視力と空間把握能力をフル回転させる。
船がゆっくりと島を一周する間に、私は島の地形、森の深さ、水源がありそうな谷筋、そして雨風を凌げそうな洞窟の位置を、完全に脳内の3Dマップへと叩き込んでいた。
「――ひより、一之瀬。……あの島の景色、君たちの目にはどう映るかな?」
「えっ? うーん……緑がいっぱいで、綺麗だけど……」
「そうですね。手付かずの自然、といった印象を受けます」
「――だろうね。……だが、美しき薔薇には棘があるように、あの手付かずの緑の奥には、我々を嘲笑う悪意が潜んでいる。……せいぜい、今のうちにこの安全な箱舟からの景色を目に焼き付けておくことだ。間もなく、このぬるま湯は干上がるのだから」
(訳:この無人島が、前に予想してた試験の会場になると思うよ。今のうちに地形とかをよく見ておいた方がいいよ!)
「っ……!」
「惣右介くんは『この島が、以前お話しした試験の舞台になるはずです。地形をよく観察しておきましょう』と仰っています」
ひよりの完璧な翻訳を聞き、一之瀬の顔からバカンスの浮かれた空気が消え去った。
彼女は真剣な眼差しで、島を食い入るように観察し始めた。
そして。
船が島を完全に一周し終えた、その直後。
『――生徒の皆さんに通達します。これより、クラスごとに指定されたゲートに並び、順番に島へと降りてください。なお、下船にあたり、携帯端末を含む一切の私物の持ち込みを禁止します。服のポケットは全て空にしてください』
「「「…………え?」」」
デッキにいた他クラスの生徒たちが、一斉に困惑の声を上げた。
「は? 島に降りる? しかも私物禁止ってどういうことだ!?」
「スマホも没収されるの!? 意味わかんない!」
「バカンスじゃないの!? ちょっと、どうなってんのよ!」
CクラスやDクラスの生徒たちがパニックに陥り、怒号と悲鳴が飛び交う中、私たちBクラスのメンバーだけは、静まり返っていた。
「……藍染の予想通り、楽園はここまで、というわけか」
神崎が、静かに唇を噛む。
「みんな、落ち着いて。私物禁止ってことは、着の身着のままで島に降りるってことだよね。ポケットの中身、全部置いていこう」
一之瀬の冷静な指示により、Bクラスの生徒たちは不満を漏らすこともなく、速やかに私物を没収用のカゴへと預け、整然と列を作った。
事前に「夏休み中に過酷な試験がある」と知らされていたおかげで、心の準備ができていたのだ。
(よし。これでパニックにならずに済んだ。あとは、どんな試験のルールが来るかだな……)
私はひよりと共に、静かにタラップを降り、無人島の白い砂浜へと足を踏み入れた。
強烈な太陽が照りつける、無人島の砂浜。
全クラスの生徒が上陸を終え、困惑と不安のざわめきが広がる中。
私たちの前に、Aクラスの担任であり、一年生の学年主任でもある真島先生が姿を現した。
「これより、今年度初の『特別試験』を開始する」
真島先生の低く、容赦のない声が、砂浜に響き渡った。
「お前たち高度育成高等学校の生徒には、この無人島で一週間の『集団生活』を行ってもらう」
「い、一週間!?」
「サバイバルしろってことかよ!?」
悲鳴が上がる中、真島先生は冷徹にルールの説明を始めた。
「この特別試験のテーマは『自由』だ。それではルールを説明する。まず、各クラスには『300ポイント』の試験専用ポイントが与えられる。そして、一週間後の試験終了時に残っていたポイントは、その全てが『クラスポイント』に加算され、夏休み明けに反映される」
その言葉に、生徒たちの顔色が変わった。
300ポイントがそのままクラスポイントになる。それはつまり、現在最下位のDクラスであっても、一気に上位へ食い込むチャンスであり、逆にAクラスが陥落する可能性もあるということだ。
「ただし。お前たちに配られるのは最低限のテントと衛生用品だけだ。飲料水や食料、バーベキューセットなどの快適な設備は、全てこの『300ポイント』を消費して購入しなければならない」
「……つまり、泥に塗れて過酷なサバイバルを耐え抜くか、対価を払ってかりそめの安息を買うか。……そういう天秤というわけか」と、神崎が呟く。
(なるほど。極限まで切り詰めれば300ポイント丸儲けだけど、水も食料もない状態で一週間は死人が出るぞ……。ていうか、前から薄々思ってたけど、最近神崎の言い回しがちょっと俺のポエムに影響されてきてないか? 真面目な顔で『かりそめの安息』とか『天秤』とか、やけにオサレな単語チョイスになってるんだけど……)
「次に、腕時計だ。今から配る専用の腕時計は、試験終了まで絶対に外してはならない。これにはGPS、体温・脈拍センサー、緊急ボタンが備わっている。体調を崩したり、大怪我をして続行不可能と判断された者は『リタイア』となり、クラスから【マイナス30ポイント】が引かれる」
(マイナス30ポイント!? 一人脱落するだけでそんなに引かれるのか! 熱中症や食中毒には絶対気をつけなきゃダメだな)
「さらに、この島には『スポット』と呼ばれる地点がいくつか存在する。洞窟や、水源、果樹の群生地などだ。このスポットを『占有』したクラスのみが、その場所を自由に使用できる。占有には専用の『キーカード』が必要であり、一度の占有につき【1ポイント】が得られる。ただし、権利は8時間で切れ、更新しなければならない」
真島先生は、鋭い視線で生徒たちを見渡した。
「そして、このキーカードを使用できるのは、各クラスで事前に決めた『リーダー』一人だけだ。正当な理由なくリーダーを変更することはできない。……ここからが、この試験の最大の肝だ」
真島先生は、ゆっくりと言葉を区切った。
「七日目の最終日。お前たちには『他クラスのリーダーを言い当てる権利』が与えられる。見事、他クラスのリーダーを的中させることができた場合、一つにつき【50ポイント】が得られる。しかし、間違えた場合は【マイナス50ポイント】。……逆に、言い当てられてしまったクラスは、代償として【50ポイント】を支払わなければならない」
「「「…………っ!!」」」
その凶悪なルールに、全生徒が息を呑んだ。
(……エグい。エグすぎるぞこの試験。ただのサバイバルじゃない、他クラスのリーダーを探り合い、自クラスのリーダーを隠し通す『情報戦』と『心理戦』だ)
私は内心で戦慄していた。
(もし自クラスのリーダーがバレて、他クラス三つから当てられたら、マイナス150ポイント!? せっかく節約したポイントが一瞬で消し飛ぶどころか、大赤字になるじゃないか! ……逆に言えば、他クラスのリーダーを全て当てればプラス150ポイント。下克上には最高のルールだ)
「最後に、ペナルティについてだ」
真島先生の容赦ない説明は続く。
「許可なく腕時計を外した場合はペナルティ。環境汚染行為はマイナス20ポイント。他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合はマイナス50ポイント。毎日朝8時と夜8時の点呼に不在の場合は、一人につきマイナス5ポイントだ」
「そして……他クラスへの暴力行為、略奪、器物破損などを行った場合。対象者の所属するクラスは【即失格】とし、全ポイントを没収する。……ルール説明は以上だ。各クラス、マニュアルを受け取り、健闘を祈る」
真島先生が説明を終え、砂浜には絶望的なまでの静寂が落ちた。
「……マジかよ。こんなの、どうすりゃいいんだ……」
Dクラスの生徒が膝から崩れ落ちる。Cクラスも、何から手をつけていいか分からず混乱している様子だった。
しかし。
我らがBクラスだけは、違った。
「みんな、集まって!」
一之瀬帆波が、パンッと手を叩いてクラスメイトの視線を集めた。
彼女の表情には、不安や絶望は微塵もない。あるのは、仲間を導くリーダーとしての確かな決意だけだった。
「ルールは分かったよね。ポイントを使えば快適に過ごせるけど、私たちはクラスポイントを稼ぐためにここに来たんだ。だから、無駄なポイントは極力使わず、自分たちの力でサバイバルを乗り切ろう!」
「おう! 任せとけ一之瀬!」と柴田が拳を握る。
「でも、まずは拠点を探さないと……テントを張る場所と、飲み水だよね」と白波が不安そうに言う。
「うん。だから、足の速い男子数人に、先行して島の探索をお願いしたいんだ。水源のあるスポットを見つけたら、そこを私たちの拠点にしよう」
「よし、それなら俺が行くぜ! 中学の時、ボーイスカウトやってたから森の探索は任せろ!」
柴田が名乗りを上げ、数人の男子と共に森へと駆けていった。
(すげぇ。一之瀬の統率力、マジで完璧だな。みんな彼女を信頼してるから、パニックにならずに的確に動けてる)
私は内心で感心しながら、静かに周囲の状況を分析していた。
各クラスのリーダー決め。そして、拠点の確保。
(リーダーは……一之瀬にするのが一番自然だけど、目立ちすぎる。ここは目立っていない生徒をリーダーにして、裏から一之瀬が指示を出すのが安全だろう。……そして、拠点だ)
私は、船上から見た島の地形を思い出した。
(柴田なら、水源のあるスポットを見つけられるはずだ。でも、この島で『最も価値のあるスポット』はそこじゃない)
この灼熱の太陽。そして、山の天気は変わりやすい。突然のゲリラ豪雨に見舞われれば、テント生活では体力をゴリゴリ削られ、病人が続出するリスクがある。
それを防ぐための、最高の拠点。
(『洞窟』だ。あそこなら雨風を完全に凌げるし、テントを張るポイントすら節約できる。……絶対に、どこかのクラスが真っ先にあの洞窟を抑えに来るはずだ。先回りすれば、リーダーを見抜けるかもしれない)
私は、隣でマニュアルを熟読しているひよりに声をかけた。
「――ひより」
「はい、惣右介くん。何か良いお考えが?」
「――ここに群れる羊たちを導くのは、一之瀬に任せておけばいい。……私は少々、空の様子を窺ってくる。……この森の奥底に潜む、狡猾な蛇どもの尾を踏み潰すためにね」
(訳:一之瀬に任せておけばここは大丈夫だね。俺、ちょっと一人で森の中を探検してくるよ。他クラスの動きも気になるし)
「っ……惣右介くん」
ひよりは、私の物騒なポエムを聞き、真剣な顔でコクリと頷いた。
「わかりました。惣右介くんは、他クラスの『リーダー』の正体を暴きに行くのですね。……気をつけてくださいね」
「――ああ。……私の視界から逃れられる者など、この盤上には存在しないさ」
私は優雅に前髪をかき上げ、ひよりや一之瀬たちから離れ、単独で森の奥深くへと足を踏み入れた。
原生林の中は、むせ返るような湿気と熱気に包まれていた。
普通の高校生なら数十分歩くだけでバテてしまうような環境だが、私の肉体は『藍染スペック』によって完全に最適化されている。
足音一つ立てず、枝葉を揺らすこともなく、まるで幽鬼のように森を駆け抜ける。
(よし、船から見た地形通りなら、この先に開けた場所と、巨大な洞窟があるはずだ)
私の予測は完璧に的中した。
十分ほど森を抜けた先に、切り立った崖と、ぽっかりと口を開けた巨大な『洞窟』が現れたのだ。
中を覗き込むと、広さは十分。床は乾燥しており、雨風を完全に防げる構造になっている。
(間違いない。ここがこの島でナンバーワンの最強スポットだ。……さて、どのクラスがここを抑えに来るかな?)
私は洞窟の中には入らず、入り口から少し離れた巨木の上の枝に軽々と飛び乗り、気配を完全に遮断して身を潜めた。
藍染スペックの『隠密行動スキル』はチート級だ。どれほど索敵能力に優れた者でも、私の存在に気づくことは絶対にできない。
待つこと、数十分。
ガサッ……ガサッ……。
森の奥から、二つの足音が近づいてきた。
樹上から見下ろすと、そこに現れたのは、見覚えのある二人組だった。
(……ビンゴ。やっぱり来たか、Aクラス)
一人は、スキンヘッドで筋骨隆々の巨漢。Aクラスのリーダー格である葛城康平。
そしてもう一人は、葛城の腰巾着のように付き従う男子生徒、戸塚弥彦だ。
「葛城さん、本当にこんなところに良いスポットがあるんですか?」
戸塚が、汗を拭いながら尋ねる。
「ああ。船上から島の地形を観察していた時、ここに洞窟がある可能性が高いと踏んでいた。……見ろ、ビンゴだ」
葛城は洞窟を見つけ、満足げに頷いた。
「おお! すげぇ! これならテントも要らないし、雨が降っても完璧じゃないですか!」
「その通りだ。他クラスに取られる前に、ここを我がAクラスの拠点とする」
葛城はそう言うと、戸塚と共に洞窟の中へと入っていった。
私は樹上で息を潜め、彼らの動向を監視し続ける。
(……スポットを占有するには、専用の『キーカード』を使わなきゃならない。そして、キーカードを使えるのは『リーダー』だけだ。つまり、あの洞窟の中でキーカードをスキャンした奴が、Aクラスのリーダーってことだ)
十分ほどして、葛城と戸塚が洞窟から出てきた。
二人の顔には、拠点確保の安心感が浮かんでいる。
「よし、占有の手続きは完了した。これで8時間は、ここは我々Aクラスのものだ」
「さすが葛城さん! これで試験はもらったも同然ですね!」
「油断するな、弥彦。我々がここを押さえたことは、いずれ他クラスにも知れる。……だが、我々がここを使う限り、誰も手出しはできない。行くぞ、他の連中を呼びに戻る」
葛城と戸塚は、再び森の中へと消えていった。
二人の気配が完全に遠ざかったのを確認し、私は音もなく樹上から飛び降り、洞窟を覗き込んだ。
洞窟の奥の壁に、電子パネルが設置されているのが見えた。
パネルには、赤々と『Aクラス占有中』の文字が表示されている。
(……やっぱりな。間違いなく占有の手続きがされてる)
私は顎に手を当て、思考を回転させた。
(問題は、葛城と戸塚、どっちが『リーダー』としてあのパネルにキーカードを通したか、だ)
普通に考えれば、Aクラスを統率する葛城がリーダーである可能性が高い。戸塚はただの付き人に過ぎない。
しかし。
(……いや。葛城康平という男は、極めて『慎重』で『保守的』な性格だと聞く。リスクを徹底的に嫌う男が、わざわざ自分自身がリーダーになって、拠点確保のために最前線に出向くか?)
リーダーが誰かバレれば、最終日に50ポイントを奪われる。
もし葛城がリーダーなら、こんな風に少人数でスポットを占有しに来るリスクは絶対に犯さない。誰かに見られていれば、一発でリーダーだとバレてしまうからだ。
(葛城が自ら最前線に来た理由。それは『自分がリーダーだと思わせるためのカモフラージュ』だ)
私の脳内で、全てのピースが完璧に組み合わさった。
(本当のリーダーは、葛城に絶対の忠誠を誓い、かつ目立たない存在……。間違いない。Aクラスのリーダーは、戸塚弥彦だ)
葛城は、自分がリーダーであるかのように振る舞い、他クラスの目を引きつける。そして、実際のキーカードの操作は、同行させた戸塚にやらせたのだ。
(あのスキンヘッド、頭はキレるみたいだけど、俺の洞察力の前には赤子同然だな!)
私は不敵な笑みを浮かべ、洞窟を後にした。
開始わずか数時間で、最も厄介なAクラスのリーダーの正体を看破するという、ファインプレーを成し遂げたのだ。
(よし! これで最終日にAクラスを指名すれば、Bクラスに50ポイント入る!)
私は内心でホクホク顔になりながら、一之瀬たちが待つ拠点を探すことにした。
森を抜け、川のせせらぎが聞こえる開けた場所へと到着する。
そこには、すでにBクラスのメンバーが集結し、テントの設営準備を始めていた。
「あ、藍染くん! お帰りなさい!」
一之瀬が私を見つけ、手を振って駆け寄ってきた。
「柴田くんたちが、ここを見つけてくれたんだ! 井戸もあるし、少し開けてるからテントも張りやすいでしょ。ここを私たちの拠点にしようと思うんだけど」
「おう藍染! どこ行ってたんだよ。ここのスポット、井戸もあるし最高だろ!」
柴田が泥だらけになりながらも、白い歯を見せて笑う。
「――ご苦労。……君たちの働きには、及第点を与えよう」
(訳:お疲れ様! すごくいい場所だね、ありがとう!)
「(ひより)『とても良い場所を見つけてくれてありがとうございます。お疲れ様でした』とのことです」
「おう! 任せとけ!」
ひよりが私の隣に寄り添い、小声で尋ねてきた。
「惣右介くん。……いかがでしたか?」
私はひよりを見下ろし、極めてオサレに、そして絶対的な自信を込めて告げた。
「――王の首は、すでに私の手の内にある。……あとは、盤面が全て裏返る『七日目』を待つだけだ」
(訳:Aクラスのリーダー、戸塚だって分かったよ! 最終日に当ててポイントもらうぜ!)
「っ……!」
ひよりは目を丸くし、そして尊敬の念を込めて深く頷いた。
「さすがです、惣右介くん。……では、私たちもテントの設営を手伝いましょう」
かくして。
Aクラスの急所を完全に握り潰した魔王は、エプロンを身につけ、Bクラスのサバイバル生活における『最強の料理長』としてフライパンを振るう準備を始めるのであった。