いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
サバイバル試験、二日目の朝。
原生林の木々の隙間から、眩しい朝陽が差し込んでくる。
鳥たちの囀りと、近くを流れる小川のせせらぎ。無人島の朝は、思いのほか清々しいものだった。
私たちBクラスの初日は、極めて順調に終了していた。
拠点である井戸周辺は地盤も固く、テントの寝心地も悪くない。真夏の夜の暑さも、森の木陰と川の冷気のおかげで快適に過ごせた。ペナルティによる減点もゼロ。完璧なスタートダッシュである。
「ふわぁ……よく寝た! 朝の水、冷たくて美味えっ!」
早起きの柴田が、井戸で顔を洗いながら元気な声を上げている。
一之瀬や他のクラスメイトたちも、それぞれに身支度を整え、協力して朝食の準備を始めていた。
(……うんうん。みんな元気そうで何よりだ。初日の夜を越えて、サバイバル生活にも少し慣れてきたみたいだな)
私がテントから出て、大きく伸びをしていると、不意に視界の端に銀色の髪が揺れた。
朝露に濡れた葉っぱを愛おしそうに眺めている、我らが天使、椎名ひよりだ。
「おはようございます、惣右介くん。よく眠れましたか?」
「――ああ。……無粋な羽虫の羽音も、昨夜ばかりは心地よい子守唄だったよ」
(訳:おはよう! テントの中だったけど、虫も入ってこなかったしぐっすり眠れたよ!)
「ふふっ、それは良かったです」
ひよりは、少しだけ首を傾げて微笑んだ。
「惣右介くん。もしよろしければ、朝のお散歩に行きませんか? 少し森を歩いてみたい気分なんです」
(――――ッ!! 行きます!! 親友から無人島での朝のお散歩のお誘い!? 行かない理由が存在しない!!)
私は内心でガッツポーズを決めつつ、極めて優雅に頷いた。
「――君が望むなら、この鬱蒼とした森も、見晴らしの良い庭園へと変えてみせよう。……エスコートさせてもらうよ」
こうして、私はひよりと共に、Bクラスの拠点周辺を軽く散策することになった。
朝の森は涼しく、土と緑の匂いが肺を満たしてくれる。
隣を歩くひよりと「この花、綺麗ですね」「ああ、そうだね」などと他愛もない穏やかな会話を交わしながら、木漏れ日の道を歩いていた。
だが、そんな平和な時間は、森の交差点に差し掛かったところで唐突に破られた。
ガサッ……。
草むらを掻き分けて現れたのは、Dクラスのジャージを着た二人組だった。
黒髪を靡かせる、気の強そうな美少女――堀北鈴音。
そして、その後ろを気配もなく歩く、虚ろな瞳の少年――綾小路清隆。
「あら。……こんな朝早くから、優雅に森のお散歩かしら。Bクラスはずいぶんと余裕みたいね」
堀北が、私とひよりを見てピタリと足を止め、トゲのある声を放った。
彼女の顔には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。Dクラスはまだ安定した拠点を確保できていないのか、あるいはサバイバルの環境に適応できていないのだろう。
そして何より、堀北鈴音は私に向かって、親の仇でも見るかのような『強烈な敵意』を剥き出しにして、鋭く睨みつけていた。
(うおっ……めちゃくちゃ睨まれてる。怖い怖い。なんでそんなにキレてんの? ……あ、そうか。この前の生徒会での暴力事件の審議で、俺が須藤に二週間の停学と、クラスポイントマイナス50の裁定を下したからか。……そりゃ恨まれるよな)
私は内心で冷や汗を流し、「あの時は俺も立場上、仕方なかったんだよ」と、やんわりと弁明しようと口を開いた。
「――その地を這うような湿った視線。……敗北を運命づけられた負け犬が、手の届かぬ月に向かって遠吠えを上げているようで、ひどく哀れだね。……君には、その這いつくばった泥の味がよく似合っているよ」
(うわあああああああ!!! 最悪だ!! 弁明するつもりが、完全に相手を底辺のゴミ扱いする超絶煽りポエムになっちゃった!! なんで俺の口は相手が怒ってるとさらに火に油を注ぐ仕様になってるんだよ!!)
案の定、私のそのオサレすぎる挑発ポエムを聞いた堀北の顔が、怒りでピクリと引き攣った。
「……何よそれ。相変わらず、意味の分からない回りくどい言い方ね。私を馬鹿にしているの?」
堀北が、イラつきを隠そうともせずに睨み返してくる。
しかし。
ここで、私の隣にいた最強の翻訳機が、にっこりと慈愛に満ちた笑顔で口を開いてしまった。
「あ、堀北さん。惣右介くんはこう仰っているんです」
(ひよりさん!? ちょっと待って!? 今のは翻訳しなくていいやつ!!)
「『先日の審議の裁定をまだ根に持っているようですが、そのように悔しそうに私を睨みつける姿は、負け犬のようでとても哀れですよ。あなたには、今のその惨めな状況がお似合いですね』……と」
「――――ッ!!」
堀北鈴音の中で、何かがプツンと切れる音がした。
(ひよりさぁぁぁぁぁぁぁん!!! なんでそこを寸分違わず完璧に、しかも笑顔で翻訳しちゃうの!? 嘘でもいいから『おはようございます』くらいにマイルドに改変してよ!! 堀北さんがガチギレしちゃったじゃないか!!)
「あなた……っ!! 言わせておけば、随分と偉そうに!!!なぜ……なぜ貴方のような人間が、兄さんに認められて、生徒会の副会長にまでなれているのよ……っ!」
堀北はギリッと歯を食いしばり、悔しさに顔を歪めながら私を睨みつけた。
(ええっ!? 生徒会長の話!? いや、俺は別に認められてるっていうか、勝手に副会長にさせられて雑務をさせられてるだけなんだけど!? っていうか、もしかして堀北ってめちゃくちゃお兄ちゃんっ子だったの!?)
私は内心で驚きながらも、「いや、生徒会長も色々大変なんだよ」と苦笑いして誤魔化そうとした。
しかし、私の口から飛び出したのは、あまりにも有名で、あまりにも残酷な、あの『伝説のオサレポエム』だった。
「――良い機会だ。一つ憶えておくといい、堀北鈴音」
「……何?」
「――憧れは、理解から最も遠い感情だよ」
(うわあああああああ!!! 出たああああ!! 俺が前世で一番好きだったBLEACHの名言!! だけどこれ、兄への憧れをこじらせてる今の堀北に一番刺さっちゃダメな特大の地雷じゃねえか!!)
案の定、堀北は痛いところを正確に抉られたように目を見開き、絶句した。
「『お兄様への憧れが強すぎるあまり、お兄様の本質や、周囲の状況を正しく理解できていないのではありませんか』……と、惣右介くんはあなたを心配して仰っています」
ひよりがすかさず慈愛の笑顔でフォローの翻訳を入れたが、その言葉の芯はあまりにも鋭く、的確に堀北のコンプレックスを貫いていた。
「くっ……! 貴方なんかに、兄さんの何が……!」
堀北が肩を震わせ、今にも私に掴みかからんばかりの勢いで一歩前に出た。
しかし、その肩を、後ろにいた綾小路がスッと掴んで制止した。
「やめとけ、堀北。他クラスへの暴力行為は即失格だ。お前がここでキレても、何の意味もない」
「くっ……離して、綾小路くん! 私はただ……!」
「冷静になれ。相手は生徒会の副会長だぞ」
綾小路の淡々とした、しかし有無を言わせぬ圧力に、堀北はギリッと唇を噛み締め、なんとか怒りを呑み込んだ。
私は内心で(ごめんなさいごめんなさい、清隆ナイスストップ! マジで助かった!)と安堵の息を吐きながら、何事もなかったかのように、極めてオサレな笑みを浮かべて綾小路に視線を向けた。
「――やあ、清隆。……君も、相変わらず退屈そうに息をしているようだね」
(訳:おはよう、清隆。元気そうだな!)
「ああ。惣右介も元気そうで何よりだ」
表面上は、旧知の男子生徒同士の、少し癖のある挨拶。
しかし、綾小路清隆の内心は、極限の警戒感で埋め尽くされていた。
(……惣右介。ホワイトルーム時代から底知れない男だったが、この学校に来てからの盤面支配は異常だ。あの暴力事件の審議の裏……オレが仕掛けようとしていた『ダミーカメラ作戦』を、事前に一之瀬を動かして潰したのは、間違いなくこの男だ)
綾小路の瞳の奥で、冷たい光が静かに瞬く。
(オレの動きを完璧に読み切り、あえて『喧嘩両成敗』という形でDクラスもろともCクラスの思惑を叩き潰した。そして今、堀北の痛所すら一瞬で見抜いて精神を乱してみせた。……この無人島でも、すでに何か強烈な布石を打っていると見て間違いない)
そんな綾小路の内心の警戒など露知らず、私は彼に向かって一つの探りを入れることにした。
「――ところで、清隆。……君たちのささやかな花壇にも、泥水に塗れた『毒蛇』は這い寄ってきたかな?」
(訳:そういえば、Dクラスの拠点にも、Cクラスからの怪我人スパイは来た?)
「……?」
綾小路が、言葉の真意を測りかねて僅かに眉を動かす。
すかさず、隣のひよりが完璧なアシストを入れた。
「『あなたたちのDクラスの拠点にも、Cクラスから怪我人を装ったスパイはやって来ましたか?』とのことです」
ひよりの翻訳を聞いた瞬間。
綾小路清隆の瞳が、僅かに細められた。
(……なんだ、この女子生徒は。先程から、惣右介のあの極度に抽象化された難解な隠喩を、まるで呼吸をするように一瞬で、正確に翻訳している……? ただのクラスメイトではない。惣右介の言葉の『深淵』まで完全に理解し、共有しているのか。……要注意だな)
ひよりの純粋な優しさからの翻訳が、綾小路の中では「魔王の参謀による完璧な暗号解読」という恐ろしい評価に変換されていた。
綾小路は、私とひよりを交互に見据え、感情のない声で答えた。
「……悪いが。いくら惣右介でも、敵のクラスにそんな情報は渡せないな」
その返答。
それを聞いた瞬間、私の『藍染スペック』の思考回路がカチリと音を立てて繋がった。
(……なるほど。スパイは『いる』んだな)
私は内心で深く頷いた。
(もしCクラスからスパイが来ていないなら、清隆の性格なら無駄な警戒を解くために『来ていない』と事実だけを伝えるはずだ。しかし、『情報を渡せない』と濁した。それはつまり、Dクラスには現在進行形でCクラスのスパイが潜り込んでいるという証拠だ)
そして、私の思考はさらにその先へと向かう。
(昨日の砂浜での龍園の豪遊……『ゼロポイント作戦』。他クラスにスパイを送り込み、自分たちはポイントを使い切った上で大多数がリタイアし、リーダー当ての150ポイントだけに全振りする戦略)
(先日の暴力事件の時、龍園は石崎という『手下』を使って工作を行い、結果的に俺に潰されて失敗した。……となると、クラスポイントが大幅に変動するこの超重要な特別試験で、また手下に重要な役目を任せるか?)
結論は否だ。
(……龍園、か?)
私は、一つの仮説に辿り着いた。
(ポイントを使い切って他の生徒を全員リタイアさせた後、自らの身を隠し、島に残って他クラスのリーダーを探り当てる『Cクラスのリーダー』。それは……龍園翔、あいつ自身である可能性が高い。まだ確定はできないが、あの男の性格なら、自ら盤面に残る道を選ぶはずだ)
たった一つの質問と、綾小路の返答のニュアンス。
それだけで、私はこの特別試験における『Cクラスのリーダー』の輪郭を掴みかけていた。
「――フッ。……無意味な探り合いだったね。警戒するのは構わないが、足元に気をつけたまえ。……毒蛇の牙は、君が思っているよりも深く、その心臓に届こうとしているかもしれないよ」
(訳:教えてくれなくて残念だけど、スパイには気をつけてな! じゃあ、また!)
「行くぞ、ひより」
「はい、惣右介くん」
私はひよりを連れて、その場を立ち去ろうと背を向けた。
そして、別れ際に肩越しに振り返り、綾小路に向かって最後の一撃を放った。
「――清隆。……君がどれほど精巧な糸を引こうとも、私から見れば全て透けて見える。……せいぜい、私の盤上で美しく踊り狂って見せてくれ」
(訳:清隆も、サバイバル頑張れよ! 応援してるぜ!)
「…………」
堀北が「なんなのあいつ……!」と最後まで怒りを露わにする中、綾小路は一言も発することなく、私が森の奥へと消えるまで、その場からピクリとも動かなかった。
(……『全て透けて見える』、か。やはり、オレがダミーカメラの件を企てたことも、Dクラスの裏で動いていることも、惣右介には完全に掌握されている。……この試験、最大の壁はお前だな)
私の応援メッセージは、綾小路の心に『絶望的なまでの警戒感とプレッシャー』を植え付けることに成功してしまったのだった。
その後、私はひよりと共にBクラスの拠点である井戸へと戻り、すぐに一之瀬、神崎を集めて四人での作戦会議を開いた。
「どうしたの、藍染くん? 散歩中に何かあった?」
一之瀬が不思議そうに首を傾げる。
私は、『Cクラスのリーダーに関する仮説』を二人に伝えた。
「――影に潜む蛇の王は、自らの手足を切り落とし、孤独な毒牙となることを選んだようだ」
(訳:Cクラスのリーダーだけど、もしかしたら龍園自身かもしれない)
「『Cクラスのリーダーは、龍園くん自身の可能性が高いです』と仰っています」
「龍園が……リーダー……!?」
神崎が驚きの声を上げる。
「だが、あの男は昨日、砂浜で誰よりも派手に狂騒を演じていたのだろう? ……光を浴びる駒ほど狩られやすい。わざわざ自ら標的となるリスクを冒すか?」
「――凡夫の浅知恵ならば、そうだろうね」
私は腕を組み、昨日看破した『ゼロポイント作戦』と結びつけ、オサレな解を紡ぎ出した。
「――すでに泥船は沈み始めている。彼らは自らの退路を焼き払い、無価値な羽虫どもを甘い幻夢と共に盤上から追放し、白き箱舟へと逃げ帰らせただろう」
(訳:普通の作戦ならそうだけど、ポイントを使い切ったあいつらは、最終日を待たずに二日目の現時点で、すでに大多数の生徒を船へとリタイアさせてるはずだよ)
「……後に残るのは、孤独なる玉座のみ。群れを捨てた一匹の毒蛇が、誰の目にも触れぬ暗闇の底で息を潜め、愚者たちが運ぶ贄を暗がりで喰らう。……ひどく臆病で、合理的な『死角』だ」
(訳:そうなれば島に残るのはごく少数……おそらくリーダーの龍園とスパイだけだ。たった一人で森に隠れて、スパイからの情報だけで他クラスのリーダーを当てる気だよ)
私の圧倒的に抽象的で物騒な推理を、隣の天使がすかさず完璧な日本語へと変換する。
「『普通の作戦ならそうですが、昨日見抜いたゼロポイント作戦と合わせると話は別です。彼らはポイントを使い切った後、最終日を待たず、すでに現時点で大多数の生徒を船へとリタイアさせているはずです。そうなれば島に残るのはごく少数……おそらく、リーダーである龍園くんとスパイだけです。たった一人で森に潜伏して完全に身を隠し、スパイからの情報を元に他クラスのリーダーを当てる。これなら、自分がリーダーであるリスクを極限まで減らせます』とのことです」
「なるほど……! もうすでに大半がリタイアしているなんて……他クラスは『Cクラスは完全に脱落した』と思い込んで警戒を解く。その隙を突いて、島に残った龍園くんがポイントを根こそぎ奪っていくってことか!」
一之瀬がハッとして口元を手で覆った。
「悪魔のような戦略だな……。だが、理にかなっている」
神崎も、冷や汗を流しながら同意した。
(まだ確定じゃない。ただの俺の推理だ。だが、その可能性は極めて高い)
「――盤面の霧を晴らすため、君たちの目を借りたい。……一之瀬、神崎。探索班に指示を出してくれ」
(訳:一之瀬、神崎。探索班にちょっと頼み事をしてほしいんだ)
「何をすればいいんだ、藍染?」
「――森の深淵に、はぐれた獣の足跡がないか。……単独で島に潜伏している『痕跡』を見つけたら、決して触れず、即座に私に知らせるように伝えてくれ」
(訳:森を探索する時に、もし誰かが単独でキャンプしてる跡を見つけたら、すぐに知らせるように指示を出してほしい)
「『探索班の皆さんに、もし森の中で誰かが単独で野営している痕跡を見つけたら、絶対に手出しせず、すぐに知らせるように指示を出してください』とのことです」
「分かった! 柴田くんたちに伝えておくね!」
「ああ。もし龍園が単独で潜伏しているなら、必ずどこかに痕跡があるはずだ。徹底的に洗い出そう」
こうして、Bクラスはただサバイバルを行うだけでなく、龍園の『ゼロポイント作戦』の裏をかくための探索網を敷くことに成功したのだった。
その日の午後。
私たちBクラスの拠点は、相変わらずの平和と充実感に包まれていた。
「おーい藍染! 見てくれ、川の下流の方で魚が獲れたぜ! あと、食べられそうなキノコと山菜も!」
泥だらけになった柴田が、手作りの銛に突き刺した数匹の川魚と、葉っぱに包んだ山の幸を抱えて帰ってきた。
「すごい! 柴田くん大活躍だね!」
一之瀬が拍手で出迎える。
「おう! でも、これどうやって食う? そのまま焼くか?」
「――そのまま焼くなど、命を与えてくれた大自然への冒涜だ。……私が、その無骨な肉塊に至高の魔法をかけてやろう」
(訳:任せて! 俺が美味しく料理してあげるよ!)
私は腕まくりをし、Bクラスの『専属シェフ』としての活動を開始した。
ポイントで購入していた少量の塩や油、そして柴田たちが採ってきた野草を駆使し、藍染スペックの完璧な調理技術で魚の香草焼きと、キノコと山菜のスープを完成させる。
「うおおおおお!! なんだこれ、めちゃくちゃ美味え!!」
「本当だ……! レストランの料理みたい! 藍染くん、サバイバルでも完璧だね!」
「惣右介くんのお料理は、いつでも世界一です」
焚き火を囲みながら、神崎や白波たちも笑顔で舌鼓を打つ。
夜空には満天の星が輝き、パチパチと爆ぜる火の粉が心地よい。
他クラスがギスギスとした空気の中で泥水をすすり、他者を疑い、苛立ちを募らせている中……我らがBクラスだけは、まるで気の置けない仲間たちとの『楽しいサマーキャンプ』のような、最高に充実した時間を過ごしていた。
(……この笑顔だ。一之瀬、ひより、神崎、柴田……みんなが心から笑って、協力し合って生きている。俺は、この幸せな空間を守りたい)
私は、自分が淹れた食後の紅茶をゆっくりと啜りながら、夜空を見上げた。
(Aクラスのリーダーは戸塚。Cクラスのリーダーはおそらく龍園。……すでに敵の急所は二つ、この手の中にある。あとは最終日まで、このBクラスの平穏を崩さずに逃げ切るだけだ)
私は静かな闘志を燃やしながら、サバイバル試験の二日目の夜を、穏やかな仲間たちの寝息と共に越えていくのであった。