いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
グラウンドを照りつける太陽は午後になってもその威力を弱めることなく、むしろ熱狂に包まれた生徒たちのボルテージに呼応するように、じりじりと肌を焦がすような熱を放ち続けていた。
午前中の競技を終え、盤面の裏側で白組が仕掛けている『Dクラスの出場表漏洩を利用した作戦』の存在に気づいた私は、その事実を胸の内に秘めたまま、午後の競技へと臨んでいた。
昼休憩を挟んで午後一番に行われたのは、体育祭の華とも言える花形競技『騎馬戦』だった。
まずは女子の部である。
私は自陣のAクラスのテントから、グラウンドの中央で繰り広げられる激しい攻防を静かに見守っていた。
紅組と白組に分かれての総力戦。しかし、グラウンドを俯瞰してみれば、この勝負の行方はすでに決していると言っても過言ではなかった。
「Bクラスの第三騎馬、右へ三歩後退。そのままCクラスの第二騎馬と連携し、孤立しているDクラスの騎馬を包囲してください」
グラウンドの白線の外側から、拡声器を手にした坂柳有栖が涼やかな声で指示を飛ばしている。
彼女は身体的なハンデにより直接競技に参加することはできない。だが、その類稀なる頭脳と圧倒的な統率力をもって、まるでチェス盤の上で駒を動かすかのように、白組の女子生徒たちを完璧に操っていたのだ。
「はいっ!」
坂柳の指示を受けたBクラスの女子が滑らかに動き、武闘派のCクラス女子と見事な連携を見せて、連携の取れていないDクラスの騎馬を次々と食い破っていく。
「くっ……! 囲まれた! 逃げて!」
「きゃあっ!」
堀北が負傷して精彩を欠いていることもあり、Dクラスの女子たちは完全に烏合の衆と化していた。白組の洗練された包囲網の前に為す術もなく、次々と鉢巻きを奪われてリタイアしていく。
我がAクラスのリーダーである一之瀬も、先陣を切って必死に応戦し、クラスメイトたちと素晴らしいチームワークを見せていた。
(一之瀬、本当に頑張ってるな。あんなに泥だらけになって、声を張り上げて……。うちのクラスの女子たちも、彼女の背中を見て必死に食らいついてる。それに、ひよりも一生懸命に騎手を務めてる。普段は図書室で本ばかり読んでいるあの子が、振り落とされまいとあんなに必死な顔で……。頑張るのは偉いけど、頼むから落ちて怪我だけはしないでくれよ……!)
私は、まるで娘の初めての運動会を見守る父親のような心境でハラハラしつつも、Aクラスの健闘を心から称えていた。
しかし、坂柳の見事の指揮により、数的不利に陥ったAクラスの騎馬も徐々に追い詰められていった。
(……見事だな。坂柳のあの指揮能力は本物だ)
私は敵ながら、坂柳の完璧な統率力に感心していた。全く異なるクラスを即座に連携させ、無駄なく相手の弱点を的確に突く。まさに軍師としての才能だった。
結果として、女子の騎馬戦は白組の圧勝という形で幕を閉じた。
そして、続くは男子の騎馬戦である。
(事前の打ち合わせでは、俺は身長も高いし『俺が土台をやるよ』と提案しようとしたのだが――)
『――天に立つべきだ、藍染。俺たちが盤石の礎となろう』
(神崎が急にオサレなことを言い出して、あれよあれよという間にクラスメイトたちの賛同を得て、俺が騎手を務めることになってしまったんだよなぁ)
私は、神崎たち三人が強固に組んだ騎馬の上に、威風堂々と鎮座していた。
(……絶対に重いよな。ごめんよ、神崎、みんな! 俺、背が高いから絶対に肩や腰に負担かかってるよね!? 本当にごめん!!)
私は内心で平謝りしながらも、表面上は一切の隙を見せない、王者のような態度を崩さずにいた。
『――ピーッ!!』
開始のホイッスルが鳴り響く。
私はAクラスの仲間たちを導くべく、静かに戦局を見渡した。
しかし――。
「ククッ……あの化け物には一切触れるな。周りの雑魚から確実に削り取れ」
遠くから、龍園の冷酷な指示が飛ぶ。白組の騎馬たちは、私の圧倒的な威圧感を警戒し、誰一人として私の騎馬には近づこうとしなかったのだ。
その代わり、彼らの牙は完全に『Dクラス』へと向けられていた。
ここまでの競技でBクラスとCクラスにボコボコにされ、理不尽な敗北を重ねてきたDクラスの生徒たちは、すでにフラストレーションが限界に達していた。
「ふざけんなCクラス!! ぶっ殺してやる!!」
「須藤くん! 駄目だ、勝手に動いちゃ!」
平田が必死に制止の声を上げるが、血の上った須藤の耳には届かない。須藤を筆頭に、怒りに我を忘れたDクラスの騎馬たちが、事前の作戦や陣形を完全に無視して特攻を仕掛けてしまったのだ。
だが、それは完全に龍園たちの罠だった。単騎で突入した須藤たちは、待ち構えていた白組の複数の騎馬に囲まれ、あっという間にバランスを崩されて鉢巻きを奪われていく。
(うわぁ……。須藤たちが勝手に暴走したせいで、紅組の陣形が完全に崩壊してるぞ。……いや、俺が全体に的確な指示を出せれば、この状況からでも立て直せそうなんだがな。……ひよりがそばにいないと、まともな指揮なんて取れないんだよなぁ……!)
私が自陣のコミュニケーション不全に頭を抱えている間に、戦況はさらに悪化。
Dクラスの暴走を皮切りに紅組の防衛線は決壊し、私以外のAクラスの騎馬たちも数の暴力に飲まれ、次々と撃破されてしまった。
最後は私の騎馬だけがポツンと残り、殺到する白組の騎馬群を相手に、神崎たちの意地と私の身のこなしで凄まじい粘りで孤軍奮闘し、鉢巻きを守り抜いたものの――。
結局、圧倒的な残騎の数の差を覆すことはできず、男子の騎馬戦も白組が勝利を収める結果となった。
騎馬戦が終わり、生徒たちがそれぞれのテントへと戻っていく中。
隣接するDクラスのテントから、周囲の喧騒を切り裂くような凄まじい怒号が響き渡った。
「ふざけんなテメェら!! なんで俺について来ねえんだよ!!」
声の主は須藤だった。
彼はパイプ椅子を蹴り飛ばし、顔を真っ赤にして周囲のクラスメイトたちに当たり散らしている。
「俺が突っ込んだら合わせて動くのが当たり前だろ! テメェらがビビってチンタラしてるから負けたんだろうが!! この役立たず共が!!」
これまでの理不尽な連敗で限界まで溜め込んでいたフラストレーションが、ついに決壊したのだ。その凶暴な八つ当たりに、Dクラスの生徒たちは怯えて後ずさる。
「す、須藤……お前が勝手に突っ込んだのが悪いんじゃないか……」
「あぁん!? なんだとテメェ、もういっぺん言ってみろ!!」
反論した生徒の胸倉を掴み上げ、今にも殴りかからんとする須藤。
「やめるんだ、須藤くん!」
そこへ、Dクラスのリーダー格である平田洋介が割って入った。
「みんな疲れてるんだ。お互いを責めても状況は良くならない。今は落ち着いて、次の競技に備えよう」
平田は必死に平和的な解決を図ろうと、須藤の肩に手を置く。
しかし、完全に頭に血が上っている須藤の瞳には、そんな平田の優しさすらも『自分を否定する敵』としか映らなかった。
「うるせえんだよ偽善者野郎が!! 偉そうに指図してんじゃねえ!!」
――ドゴォッ!!
鈍い破裂音がテントに響いた。
須藤の振り抜かれた右拳が、平田の美しい顔面をモロに捉えていた。
「がっ……!」
平田はなす術もなく吹き飛び、地面に転がる。
「ひぃっ!?」
「きゃあああ!!」
Dクラスの女子たちから悲鳴が上がり、テントはパニック状態に陥った。
「チッ……! やってらんねえ! 俺は帰る!!」
須藤は吐き捨てるようにそう言うと、地面に倒れる平田を一瞥することもなく、そのままグラウンドを出て寮の方向へと歩き去っていった。
その一部始終を、私はAクラスのテントの端から静かに、そして内心で盛大に呆れ返りながら眺めていた。
(ええ……嘘だろアイツ。味方の顔面全力で殴って帰ってったぞ)
私はあまりの光景に、頭痛すら覚えていた。
(っていうか、アイツ一学期にCクラスの生徒と暴力沙汰起こして、俺が直々に『二週間の停学処分』の裁決を下したばっかりだよね!? なんであんな白昼堂々、グラウンドのど真ん中で同じことやってんの!? 全然反省してないじゃん!!)
私は自陣のテントを振り返った。そこでは、Aクラスの生徒数名が、他クラスの動向を記録するためにタブレット端末でしっかりと今の光景を『録画』していた。
(ほらぁ! うちの優秀なクラスメイトたちがバッチリ動画撮ってるよ!どんだけ後先考えてないんだよあの単細胞は!)
私は須藤の愚かさに呆れ果てつつも、この学校のイカれたルールと現状に頭を抱えたくなった。
(はぁ、生徒会副会長として過去の審議記録に目を通したから分かるが……この学校は、第三者からの情報提供だけでは、当事者の明確な訴えがない限り、多少のいざこざ程度では、退学までの重い措置は取られない傾向にあるんだよなぁ)
普通、あんなあからさまな暴力沙汰なんて一発退学にするべきだろう。それを『生徒間の自治に任せる』という名目で黙認しているようにも見える。……この学校は一体何を目指して、こんな歪なルールを敷いているんだ?
ともかく、平田自身が被害者として学校側に訴え出ない限り、私たちがこの映像を提出したところで須藤を確実に排除できるとは限らない。そして平田の性格上、クラスのマイナスになるような、ましてやクラスメイトを売るような告発は絶対に良しとはしないだろう。
(……ってか、そもそもこんなあからさまな暴力、試験中なんだから絶対にどこかで教師が監視してるはずだろ!? なんで『生徒間の自治に任せる』とか言って放置してんだよ! 普通に教師が出てきてどうにかするべきだろ!!)
盤面を外からコントロールし、敵の自滅を誘う。それが白組の狙いであり、Dクラスは見事にその策に溺れて内部崩壊を起こしたのだ。
私は内心で深くため息をつきながら、全体の戦況を改めて見渡した。
(Dクラス女子の主力である堀北は不自然な事故で潰され、男子の主力である須藤もこれで完全に自滅だ。ただでさえ一年Dクラスの出場表が流出して紅組のポイントがゴリゴリ削り取られているってのに……配点の高い推薦種目があるといえど、紅組全体の勝敗としては挽回できないラインまで来たな)
(……ってか、南雲は何してんだよ! 普段から生徒会室で『俺は二年生全体を支配している』ってドヤ顔でマウント取りまくってるくせに! 南雲のクラスが暫定一位とはいえ、二年生全体で見ても白組がリードしてるじゃないか!)
(……いや、待てよ。まさかあいつ、事前に龍園か坂柳と接触していたのか? 今回、仮に紅組が勝利して学年一位になれば、俺たち一年Aクラスは白組のBクラスに対して最大250クラスポイントもの差を広げることができる。あいつ、俺が一年生を支配しようとしてると勝手に勘違いして、『学年全体を支配している』という自分のアイデンティティを取られたくなくて……自クラスの首位だけはキープしつつ、わざと白組が勝つように立ち回ってるのか?)
(いや、俺は学年を支配するつもりなんて全くないんだけど!! ただ平和に過ごしたいだけなんだけど!! ……でも、南雲ならそれにプラスして、単純な俺への嫌がらせ目的でそれくらいは平気でやりそうなんだよなぁ。ネチネチした支配者とか本当に最悪だよ……)
(……って、よく考えたら。もし紅組が負けるとしたら、俺が普段から生徒会室で南雲を無駄に煽りまくってヘイトを稼ぎすぎたのが原因の一つじゃん!! やばい、完全に俺が戦犯だ!! Aクラスのみんな、そして学先輩……後で心の中でめちゃくちゃ謝らないとな……)
今回の体育祭の仕組み上、我々Aクラスがいくら学年一位の成績を叩き出そうとも、同組である一年Dクラスの崩壊と南雲の陰湿な暗躍が合わされば、紅組としての勝利は絶望的だ。
(だが……仮に紅組が負けたとしても、今の状況を見るに、白組のBクラスは学年三位程度に留まるはずだ。結局のところ、俺たちAクラスが一年生の中で学年一位を取りさえすれば、Bクラスにクラスポイントの差を詰められることはない。……よし)
私は心の中で周囲への土下座を済ませてから思考を切り替え、次の自身の出番に向けて静かに息を整えた。
(……俺は俺の仕事を淡々とこなして、Aクラスを確実に一位へ導くだけだ)
その後に行われたのは、全員参加の個人競技である『200メートル走』だった。
私はここでも、他の生徒たちを文字通り置き去りにする圧倒的なスピードを見せつけ、見事に1位を獲得した。
スタートの合図とともに爆発的に加速し、カーブを一切の減速なしで滑らかに曲がり切る。身体の重心移動と筋肉の使い方が完璧に最適化されているため、まるで地面を滑るように駆け抜けることができるのだ。
(藍染スペック、マジで恐るべし……! 俺の意思とは関係なく、ただ身体が『最も速く走る方法』を自動で実行してるだけなのに、周りからは超人にしか見えないんだからな)
私は息一つ乱すことなくゴールし、クラスメイトたちから「藍染くんすげえ!!」「カッコよすぎる!!」という称賛と歓声を一身に浴びていた。
この200メートル走をもって、全員参加の種目は全て終了した。
ここから先は、各クラスから選抜された生徒が出場する『推薦参加』の種目へと移っていく。
私が次に出場することになっているのは、推薦種目の『借り物競走』だった。
グラウンドに用意された箱の中から紙を引き、そこに書かれた『お題』に該当する人物や物を連れてゴールする、というバラエティ色の強い競技だ。
『位置について、よーい、ドン!』
ピストルの音とともに、各クラスの代表者たちが一斉にグラウンドの中央に置かれた箱へと走る。
私も無駄のない走りでトップで箱に辿り着き、一枚の紙を引いた。
そこに書かれていたお題は、シンプルだが少し悩ましいものだった。
『尊敬している人』
(……ふむ。尊敬している人、ね)
私は紙を見つめながら、走りながら思考を巡らせた。
(一之瀬は頼れる我らがリーダーだし、ひよりは俺の大切な大親友だ。でも、『尊敬』という言葉とは少しベクトルが違う気がする。かといって神崎を選ぶと、最近オサレポエムに感染気味だから変にカッコつけてきそうで面倒だ……)
そこで、私の脳裏に二人の人物の顔が浮かんだ。
(純粋に『尊敬』できる人物……あの人たちがいるじゃないか!)
私は迷うことなくトラックを逆走し、三年生が座るテントへと向かって一直線に駆け出した。
テントに到着すると、生徒会長の堀北学が腕を組んだまま、鋭い視線で私を見てきた。
私は彼に対して、生徒会長としての手腕やその厳格な姿勢を尊敬している。そして、その隣に立っている小柄な女子生徒――生徒会書記の橘茜先輩のことも、日々の業務を真摯にこなす姿を見て深く尊敬していた。
私は外面の堂々とした態度を崩さず、橘先輩へと視線を向けた。
「――橘。少し、付き合っていただこう」
「えっ? わ、私!?」
突然指名された橘先輩は、驚いて目を丸くした。
「ど、どうして私なの? お題は一体なんなのよ?」
「――己の歩むべき道を見失わぬよう、夜空に輝く道標を借り受けに来たまでだ。……行くぞ」
(訳:お題が『尊敬している人』だったんです。生徒会の仕事でいつもお世話になってるし、本当に尊敬してるんで、先輩来てください)
オサレポエム全開で手を差し出すと、橘先輩は一瞬ポカンとした後、私の手元にある紙のお題を覗き込んでパッと顔を明るくした。
「そ、尊敬している人……!?」
彼女の頬がみるみるうちに赤く染まり、口元がにやけそうになるのを必死に堪えているのが分かった。
(ふ、ふふん! 普段は生意気で傲慢なポエムばかり吐く藍染くんですが、なんだかんだ言って、私のことを生徒会の先輩としてちゃんと尊敬してくれていたのですね! 仕事は完璧にこなすし、もっと素直に話せばいいのに……全く、可愛い後輩です!)
橘先輩のそんな心の声が聞こえてきそうなほど、彼女は嬉しそうにしていた。私も、生徒会の癒し枠である彼女が喜んでくれて何よりだと思った。
「ええ、ええ! 後輩の窮地とあらば、この生徒会書記・橘茜が一肌脱いであげましょう! さあ、行きなさい藍染くん!」
テンションが上がった橘先輩は、自ら私の腕を引っ張るようにしてグラウンドへと走り出した。
結果として、生徒会役員という誰も文句をつけられない『尊敬すべき先輩』を連れてきた私は、審査員から満場一致でOKをもらい、見事に1位でゴールテープを切ることに成功した。
「よくやりました、藍染くん! これからも私を目標に精進しなさい!」
「フッ、善処しよう」
満足げに胸を張る橘先輩をテントへと送り届けた後、私は自陣のテントへと戻った。
すると、テントの入り口付近で、ひよりが少しだけ頬をぷくっと膨らませて待ち構えていた。
「惣右介くん、お疲れ様です」
「ああ、ただいま」
「……見事な1位でしたね。ところで、あのお題はなんだったんですか? ずいぶんと嬉しそうに橘先輩を連れて行かれていましたが」
(んん……? なんだか、ひよりのご機嫌が斜めだな……? 俺、何か怒らせるようなことしたっけ?)
私は少し不思議に思いながらも、素直に答えることにした。
「――仰ぎ見る星の光を、地上の花と見紛うことはない。ただ、先達の背を、僅かに識るための儀式に過ぎなかったというだけだ」
(訳:お題で、『尊敬している人』って書かれてたからだよ!)
「…………」
ひよりは一瞬だけきょとんとした後、ふっと肩の力を抜いて、すぐにいつもの柔らかい笑顔を取り戻した。
「ふふっ、尊敬している人、ですか。そうだったんですね」
ひよりはどこかホッとしたような、安心したような表情を浮かべた。
「……君が待つ場所へ戻るのに、寄り道などするはずがない」
(うわぁ! また俺の口が勝手にオサレムーブかましてる! でもひよりの機嫌が直ったみたいだから結果オーライ!!)
私は大親友の笑顔が戻ったことに、内心でガッツポーズをキメていた。
するとそこへ、借り物競走に出場している神崎が、猛ダッシュでテントへと飛び込んできた。
「藍染、少し手を貸してくれ。……この難局を打開するには、お前の『規格外の器』が必要なんだ」
(えっ!? ど、どうした神崎!? いきなり手を掴まれたんだけど!?)
息を切らしながらも真剣な表情で、どこか微妙にオサレなフレーズを滲ませる神崎に腕を引かれ、私はされるがままグラウンドへと連れ出された。
「……神崎、君の導き出した『解』とは何だ?」
(訳:お題は何だったんだ?)
「これだ。……お前以外に、この玉座に相応しい男は思い浮かばなかった」
神崎がバサッと私の目の前で広げた紙には、デカデカとこう書かれていた。
『将来、悪の組織のボスになりそうな人』
(ぶっ!! 悪の組織のボスって!! 確かに俺のガワはゴリゴリのラスボスだけど! ってか神崎、お前真顔でこのお題に俺を選んだのかよ!? さっきの『玉座』ってそういう意味!?)
私は内心で激しく吹き出し、神崎から真顔で『悪の組織のボス』扱いされている事実に泣きそうになったが、外面の強靭なエゴは微塵も揺るがず、ただ不敵な笑みを浮かべていた。
「……そうか」
「助かる……! 行くぞ、藍染!」
神崎は至って真面目な顔のまま私を引き連れ、そのままゴールへと駆け込んだ。
そして審査員の教師たちも、私の堂々たる佇まいと威圧感を見るなり「あー、うん。満場一致でOK」と即答し、神崎も見事に1位を獲得したのだった。
(いや、先生たちも即答でOK出すなよ!!俺、そんなに悪の親玉っぽい!?)
そんな私の嘆きを他所に、体育祭のプログラムは熱気を帯びたまま容赦なく進んでいく。
その後に行われた推薦種目『四方綱引き』。
四つのクラスが十字に結ばれた太い綱を同時に引き合うという、純粋なパワーと連携が試される過酷な勝負だった。
私は最後尾で綱をしっかりと握りしめ、涼しい顔をしながら、しかし全身のチート筋力をフル稼働させて強烈な力で綱を引き寄せていた。
(よし! みんなの力を無駄にしないように、俺が土台になって絶対後ろに引かれないようにするぞ!)
白組の妨害やDクラスの混乱が渦巻くグラウンドの中で、Aクラスのチームワークと私の絶対的な支えにより、我がAクラスは完璧な団結力を見せつけ、この四方綱引きでも見事勝利を収めたのだった。
盤面では白組の策略が猛威を振るい、Dクラスは内部崩壊の危機に瀕している。
しかし、そんな泥沼の争いを他所に、我がAクラスはただひたすらに前を見据え、仲間を信じ、着実に勝利へのポイントを積み重ねていく。
体育祭の結末は、いよいよすぐそこまで迫っていた。