いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
十二月の喧騒と穏やかな年末年始が過ぎ去り、冷え込みが一段と厳しさを増した一月。
ついに冬休みが明け、高度育成高等学校における三学期の幕が上がった。
始業式を終え、いつものように一年Aクラスの教室でホームルームが始まる。教壇に立った担任の星之宮知恵は、相変わらずの緩い空気を纏いながらも、どこか楽しげな様子で私たちに重大な通達を行った。
「みんなぁ、あけましておめでとー! 冬休みはしっかり休めたかな? 三学期も張り切っていこーねっ。さてさて、いきなりなんだけど……今月の月末から、校外の施設で特別試験が行われることになりまーす!」
星之宮先生の言葉に、クラスの空気がピリッと張り詰める。
「しかも今回は、なんと一、二、三年生が全員参加する『三学年合同』の合宿形式だよ〜! 詳しいルールや班分けなんかは、当日に向こうで説明するから、みんな体調だけはバッチリ整えておいてねっ!」
その衝撃的な内容に、教室中は一瞬の静寂の後、ハチの巣をつついたようなざわめきに包まれた。
「さ、三学年合同だって!? マジかよ、上級生たちと一緒に試験受けるのかよ!?」
「合宿ってことは、何日か泊まり込みになるのよね……。先輩たちと一緒の部屋になったりするのかな……」
「ペーパーシャッフルみたいな筆記試験とは違うのか? 一体何をやらされるんだ……」
未知の試験形式、しかも全く関わりのない上級生との合同という事実に、柴田や網倉をはじめとする生徒たちから不安と戸惑いの声が次々と上がる。
無理もない。これまでの特別試験はあくまで一年生の中だけでの争いだった。しかし今回は、この学校の酸いも甘いも噛み分けた百戦錬磨の上級生たちと同じ盤面に放り込まれるのだ。
しかし、そんな不安に呑まれそうになるクラスの空気を、凛とした澄んだ声が一刀両断した。
「みんな、聞いて!」
一之瀬帆波がスッと立ち上がり、パンッと大きく手を叩いてクラス全員の視線を集めた。
「確かに三学年合同なんて初めてのことだし、不安になる気持ちもすごく分かるよ。でも、私たちはこれまでの特別試験を通して、クラス全員で力を合わせることの大切さを学んだじゃない! それに、私たちAクラスは一年生の中で一番の団結力を持ってるって、私は信じてる!」
一之瀬は太陽のような明るい笑顔で、クラスメイトたち一人ひとりの顔を見渡していく。
「どんな試験内容が来ても大丈夫。藍染くんや神崎くんたち頼りになる人もいるけど、私たち自身ももっと成長して、全員で支え合えば、絶対にどんな壁だって乗り越えられるよ! Aクラス全員で、この合宿試験も笑って乗り切ろう!」
「……っ! そうだな……!俺たちも自分にできることを全力でやろうぜ!」
「うん! Aクラスのみんなで頑張ろう!」
一之瀬の言葉に呼応するように、柴田が力強く拳を握り、他の生徒たちも次々と前向きな声を上げる。二学期の痛手から立ち直り、クラス全体が明確に精神的な成長を遂げていることがありありと窺えた。
(おお……! みんなすごい前向きだ! 一之瀬のカリスマ性も健在だし、クラスの雰囲気は最高潮だな! )
私は頼もしいクラスメイトたちの姿に、内心で深く感動しながら、ただ静かに、そして不敵に微笑んでみせた。
放課後。
私、一之瀬、神崎、そしてひよりの四人は、ケヤキモールのカフェ『パレット』に集まり、今後の対策について話し合っていた。
テーブルにはそれぞれのドリンクが置かれている。私はお気に入りのブラックコーヒーの香りを楽しみながら一口飲み、静かに喉を潤した。
「とはいえ、正式なルールが分からない以上、具体的な対策の打ちようがないね」
一之瀬がストローでアイスティーをかき混ぜながら、少し困ったように眉を下げる。
私と一之瀬は生徒会の業務を通して、三学期に三学年合同の特別試験があること自体は事前に知らされていた。だが、情報漏洩を防ぐための厳格な守秘義務があるため、この場でもそのことは伏せている。
「そうですね……。今できることと言ったら、勉強会を開いてクラス全体の基礎学力を高めたり、部活動などを通じて上級生の方々の人となりを少しでも知っておくくらいのものでしょうか」
ひよりが両手でカップを包み込みながら、的確な提案をする。
「確かに椎名の言う通りだ。試験内容がブラックボックスである以上、我々の地盤を固めて不測の事態に備えることこそが、最善の『
神崎が真面目な顔で頷きかけた直後、ハッと我に返って咳払いをした。
「ちょっと神崎くん!? また変な言葉交ざってたよ!? 本当にお願いだから普通に喋ってね!?」
「くっ……すまない、一之瀬。無意識のうちに、藍染の深淵なる思考回路に接続しようとする癖が抜けないんだ……」
(一之瀬! 神崎! お前ら頼むから俺の前でそのやり取りしないでくれ!! 俺の精神がゴリゴリ削られていくから!!)
神崎は一之瀬からの再三の注意もあり、重度のオサレ病からは脱却しつつあったが、ふとした瞬間にまだオサレワードが漏れ出してしまう後遺症に悩まされていた。
一之瀬は、そんな神崎の様子に小さく苦笑いを浮かべつつも、すぐにクラスのリーダーらしい真剣な表情へと切り替えて口を開いた。
「どんな試験内容になるかはまだ分からないけど……一番重要なのは、絶対に誰一人として退学者を出さないことだよね」
一之瀬が真剣な眼差しでそう言うと、ひよりも柔らかく微笑んでこくりと頷いた。
「ええ、そうですね。私も帆波ちゃんと同じ気持ちです」
私は咳払いをして、カップをソーサーに置いてゆっくりと口を開いた。
「――我々が歩むのは、茨に満ちた暗い道だ。だが、誰一人として欠けることなく、この虚構の箱庭を越えてみせよう。我々の背に続く者たちを、決して深淵には落とさない」
(訳:どんな試験がきても、誰一人欠けることなく、絶対にクラス全員で乗り越えよう!)
私がそう言葉を落とすと、ひよりはふんわりと微笑んで翻訳を始める。
「『どんな理不尽な試験がこようと、誰一人欠けることなく、絶対にクラス全員で乗り越えよう』と仰っています」
「うんっ! 藍染くんがいれば百人力だね。みんなで協力して絶対に乗り越えよう!」
一之瀬がパッと表情を明るくして強く頷く。
「流石は藍染だ。まだ見ぬ盤面においても、既にクラス全員を守り抜くという確固たる意志と覚悟が決まっているというわけか。俺も全力でサポートさせてもらう」
こうして私たちは、未知の特別試験に向けた最低限の心構えと決意を共有し、カフェを後にしたのだった。
その週末の夜。
私は自身の寮の部屋に、ひよりと共に、元生徒会長である堀北学先輩を招いていた。
「相変わらず、見事な腕前だな。学生の自炊の域を遥かに超えている」
私が振る舞った手料理を口にした学先輩が、眼鏡の奥の目を少しだけ見開いて感心したように呟いた。
「ふふっ、でしょう? 私も惣右介くんのお料理は、世界一美味しいと思っていますから」
隣に座るひよりが、まるで自分のことのように誇らしげに微笑んでいる。
「――僅かでもかつての王の疲れを癒せたのなら幸いだ」
(訳:お口に合って良かったです! 毎日お疲れ様です!)
和やかな空気の中、食後の紅茶を淹れ終えたところで、私は静かに声のトーンを落とした。
「――さて。そろそろ本題に入ろうか、学」
私の言葉に、学先輩もティーカップを置き、居住まいを正した。
「ああ。わざわざ俺を呼び出したということは、生徒会絡みか。それとも、間もなく行われる三学期最初の特別試験についてか?」
「――新たなる玉座に座した男は、かつての王の首を直接狙うほど勇敢ではない。彼が狙うのは、王を支える堅牢な足場……あるいは、傍らに立つ美しき『鞘』だろう」
私がオサレな比喩で警告を発すると、ひよりがすかさず真剣な表情で翻訳する。
「『次の試験で、南雲先輩が堀北先輩を陥れるために何かを仕掛けてくる可能性が高いです。堀北先輩ご自身ではなく、橘先輩をはじめとするクラスメイトの方々が狙われる危険があります』と仰っています」
ひよりの真っ直ぐな言葉に、学先輩は静かに目を閉じ、短く息を吐いた。
「……なるほど。確かに、他学年の生徒と合同で行う特別試験は、時期的に考えても次がおそらく最後になるだろう。俺に固執する南雲が、この機を逃すはずがない。だが……」
学先輩はそこで一度言葉を切り、どこか南雲に対する一定の信頼を滲ませた声で続けた。
「あいつは、こと『勝負事』においては決して嘘をつかない男だ。俺に対して真っ向から勝負を挑んでくるのであれば、受けて立つまでだ」
(学先輩、相変わらずストイックというか、南雲を真っ当に評価しすぎなんだよな……)
私は内心で深くため息をついた。
(あいつは確かに勝負事に関して嘘はつかないかもしれない。だが、それは『正面から戦う』という意味じゃない。生徒会であの『道連れ退学』というルールを提案した時点で、あいつの狙いは明確だ。勝負の裏で、嫌がらせとして確実に学先輩のクラスメイト――特に橘先輩を退学に追い込もうとしている。だが……っ!)
私はグッと奥歯を噛み締める。
(俺は生徒会役員としての守秘義務がある。現時点で、試験の具体的なペナルティについて学先輩にバラすことは絶対にできない。ああもう、もどかしい!)
ルールを明かせない縛りの中で、私は最大限の警告を学先輩にぶつける。
「――正面からの刃を凌いだとしても、背後から迫る毒牙を軽視してはならない。盤面をかき回すのは、常に盤外の悪意だ。……王冠の輝きに気を取られ、足元の泥濘を見落とさぬよう。彼とその周囲の動向には、くれぐれも警戒を」
(訳:南雲先輩が何か汚い手を使ってくるのは確実です。ご自身だけでなく、橘先輩たちの周りの動きにも本当に気をつけてください!)
ひよりの完璧な翻訳を聞き終えた学先輩は、私の真意をしっかりと受け止めたように、深く静かに頷いた。
「……ああ。忠告、感謝する。藍染、そして椎名も。南雲の動向には、俺も十分に目を光らせておこう」
こうして、未知なる特別試験に向けて、それぞれの思惑と警戒が静かに交錯していくのだった。
目前に迫る特別試験に向け、まずはクラス全体の底上げを図るべく、次の日から私たちは放課後の教室を開放し、自由参加の勉強会を開催することにした。
私と一之瀬も、生徒会の仕事がない日や早めに終わらせた日は講師役として参加し、ひよりや神崎と共にクラスメイトたちの基礎学力向上に努めた。
「――この数式は宇宙の真理を紐解くための鍵だ。凡愚な思考を捨て、ただ数式の導く未来に従え」
「え、えっと……つまり、この公式に当てはめればいいってことかな……?」
「惣右介くんは、『この公式はとても重要なので、しっかりと暗記してそのまま当てはめてくださいね』と言っていますよ」
「あ、なるほど! ありがとう藍染くん、ひよりちゃん!」
私の仰々しい指導を、ひよりが即座に柔らかな言葉へと変換し、クラスメイトたちが笑顔で理解していく。勉強会を通じて、クラスの結束力と学力は、確かな手応えと共に向上していった。
(うんうん、みんないい調子だ! この平和で協力的な雰囲気、最高に居心地がいいな……)
私は黒板の前で堂々たる立ち姿を維持しながら、内心ではただひたすらに、この平穏な学園生活がいつまでも続くことを願っていた。
そして、特別試験を目前に控えた、一月二十一日。
私にとって、いや、世界にとって最も重要と言っても過言ではない日がやってきた。
私の愛する彼女、椎名ひよりの誕生日である。
この日のために私は、数週間前から綿密なスケジュールを組み、レストランの予約やプレゼントの選定に奔走していた。
休日の午後。待ち合わせ場所であるケヤキモールの入り口で立っていると、人混みの中からパタパタと小走りでこちらに向かってくる見慣れた人影があった。
「お待たせしました、惣右介くんっ」
息を弾ませて微笑むひよりの姿を見た瞬間、私の思考は完全にフリーズした。
彼女は、首元にふわふわの白いファーがついた淡い水色のダッフルコートを着ており、頭には可愛らしい白のベレー帽をちょこんと被っていた。雪の妖精と見紛うほどの圧倒的な可憐さである。
(か、可愛いぃぃぃぃぃぃっ!!! なんだこれ、冬の大天使降臨じゃねーか!! コートの袖からちょっとだけ出てる指先とか、寒さでほんのり赤くなってる頬とか、全てが計算し尽くされたかのような完璧な可愛さ! 破壊力が高すぎて直視できん!!)
私は内心で大絶叫し、危うく顔面をデレデレに崩壊させそうになったが、間一髪のところで『藍染スペック』の強靭な精神力を総動員し、いつもの余裕の笑みを浮かべたオサレモードへと移行した。
「――凍てつく冬の空すらも、君の微笑み一つで春へと変わるようだ。……よく似合っているよ、ひより」
「えへへ……。ありがとうございます。惣右介くんにそう言ってもらえると、すごく嬉しいです」
ひよりが頬を桜色に染め、はにかむように微笑む。
(くっ……! この笑顔を守るためなら、霊圧ないけど『黒棺』も放てそうな気がするぞ……!)
私たちは自然に手を繋ぎ、まずはケヤキモール内の大型書店へと向かった。
本を愛する彼女にとって、書店はテーマパークと同義である。私たちは背表紙を眺めながら、最近読んだミステリー小説のトリックについて語り合ったり、お互いに読んでほしい本を選び合ったりして、ゆったりとした時間を楽しんだ。
「惣右介くん、この作家さんの新作、すごく面白かったですよ。叙述トリックが見事で……」
「ほう。君がそこまで言うのなら、是非読ませてもらおう」
彼女の嬉しそうな横顔を見ているだけで、私の心は満たされていく。
買い物を終えた後、私は少し背伸びをして予約していた、モール内でも一際高級なイタリアンレストランへと彼女をエスコートした。
薄暗い間接照明と静かなクラシック音楽が流れる店内。私たちは夜景の見える窓際のテーブル席へと案内された。
「わぁ……とっても素敵なお店ですね……!」
ひよりが目を輝かせて店内を見渡す。
私はメニューを開き、極上のフルコースを注文した。黒毛和牛のカルパッチョから始まり、濃厚なトリュフのクリームパスタ、そしてメインディッシュのオマール海老のロースト。
「美味しい……! とっても美味しいです。でも……ふふっ。私にとっては、惣右介くんがいつも作ってくれるお料理も、これと同じくらい世界一美味しくて大好きですよ」
「――プロの技巧が織りなす芸術すらも、君のその言葉の前では色褪せる。……喜んで、私の手で君の味覚を満たし続けよう」
(訳:えへへ、嬉しいな。これからもいっぱい俺の手料理作ってあげるからね!)
ひよりが幸せそうに頬張る姿を見ながら、私は内心で(プロの高級イタリアンと俺の家庭料理を同列に扱ってくれる大天使!! プライベートポイントはめちゃくちゃ飛んでいくけど、ひよりのこの笑顔が見られるなら安いもんだ!!)とガッツポーズを決めていた。
食事中も会話は途切れることなく、クラスの様子や、これからの学校生活、そしてお互いのことについて、穏やかな笑い声と共に語り合った。
ディナーの締めくくりとして、私は彼女を自分の部屋へと招いた。
外の寒さを遮断するように、部屋の中は暖房が効いており、私が丁寧に淹れた最高級のダージリンティーの芳醇な香りが空間を満たしている。
「今日は本当にありがとうございました、惣右介くん。とっても楽しかったです。お誕生日をこんなに素敵にお祝いしてもらえるなんて……」
ソファに深く腰掛けたひよりが、カップを両手で持ちながら、幸せそうに目を細めた。
「――君が共に歩む軌跡に、ささやかな彩りを添えられたなら重畳だ。……これは、私からの祝祭の証だ。受け取ってくれ」
(訳:喜んでくれて俺もすごく嬉しいよ。これ、俺からの誕生日プレゼント。受け取ってね)
私はオサレな言い回しと共に、用意していた二つの小さな箱をテーブルに置いた。
ひよりが少し緊張した面持ちで、一つ目の細長い箱をそっと開ける。
「あっ……!」
中に入っていたのは、本を愛する彼女にぴったりの、精巧な銀細工が施された美しい栞だ。持ち手の部分には、繊細な百合の花のモチーフが彫り込まれている。
「すごく綺麗……。私、栞を集めるのが好きなので、とっても嬉しいです」
「――それはよかった。だが、もう一つある」
私はもう一つの、正方形の小さな箱を開けた。
ベルベットのクッションの上に鎮座していたのは、華奢なプラチナチェーンに、小さな雪の結晶のモチーフがあしらわれた、可憐なネックレスだった。中央には、ひよりの瞳の色によく似た、淡い紫色の小さなアメジストが輝いている。
「惣右介くん……これ……」
「少し、失礼するよ」
私はソファから立ち上がり、彼女の背後に回った。
そして、驚いて身を固くするひよりの細い首元へ、そっとネックレスを回す。
(うおおおっ!! 近い!! ひよりのうなじ、めちゃくちゃ綺麗!! しかもシャンプーの甘い香りが直接脳髄に響いてくる!! 俺の心臓、今絶対BPM180超えてるぞ!! 落ち着け俺、ここで手が震えたら一生の恥だ!!)
私は内心で凄まじいパニックに陥りながらも、外科医のような精密な動作で留め具を止め、静かに彼女の正面へと戻った。
ひよりの白い肌に、雪の結晶のネックレスが完璧なほどに似合っていた。
「わぁ……」
ひよりは胸元のネックレスにそっと触れ、そして――彼女の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。
「惣右介くん……ありがとうございます……。私、こんなに嬉しいお誕生日は初めてです……っ」
感極まって涙ぐむ彼女の姿に、私の胸の奥がキュッと締め付けられる。
「――その瞳から零れる雫は、星の輝きにも勝る。だが、私が君の顔に見たいのは、悲哀ではなく歓喜の笑みだけだ」
「ふふっ……はい。ごめんなさい、嬉しすぎて、つい……。私、惣右介くんに出会えて……本当に良かったです。このプレゼント、ずっとずっと大切にしますね」
ひよりは涙を拭い、今日一番の、花が咲き誇るような、この世の何よりも美しい笑顔を見せてくれた。
(ひよりぃぃぃぃぃ!! 俺の方こそ出会えてよかったよ!!)
その後も、紅茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごし、名残惜しさを感じつつも彼女を寮の部屋まで送り届けた。
「おやすみなさい、惣右介くん。また明日」
「ああ、良い夢を」
自室へと戻った私は、静寂に包まれた部屋の中で、ふぅっと深く息を吐き出した。
(……幸せだなぁ。ひより、本当に喜んでくれてたし、最高の誕生日になったんじゃないかな。……よしっ!)
私はキュッと拳を握りしめ、窓の外の暗闇を睨みつける。
(この幸せな日常を守るためにも、明後日からの特別試験、絶対にAクラスを勝利に導いてみせるぞ!)
私は脳裏に焼き付いた彼女の極上の笑顔を反芻しながら、目前に迫る過酷な混合合宿試験へ向けて、静かに、そして激しく闘志を燃やすのだった。