いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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五十一話

 一月下旬。吐く息も白くなるほどの厳しい冷え込みの中、私たちは数台の大型バスに分乗し、三学期の一大イベントである『混合合宿』の舞台となる校外の山間施設へと向かっていた。

 

 暖房の効いた車内は、これから始まる未知の特別試験への緊張感と、どこか遠足気分のような浮き足立った空気が入り交じっている。

 

 私の隣の席には、もちろん、愛しの彼女である椎名ひよりがちょこんと座っていた。

 

「外の景色、すっかり雪化粧ですね。白一色の世界……とても綺麗です」

 

 ひよりが窓の外の銀世界を見つめながら、嬉しそうに微笑む。

 

「――ああ。だが、どんな純白の絶景も、隣で微笑む君の輝きには及ばないさ」

 

(訳:本当に綺麗だね! でも、俺は外の景色よりひよりの顔見てる方が幸せだよ!)

 

「ふふっ……もう、惣右介くんったら。……でも、ありがとうございます」

 

 ひよりは少し頬を染めて、私の方に寄り添ってくれた。

 

(うおおおおおっ!! 肩が! ひよりの華奢な肩が触れてる!! シャンプーのいい匂いがする!!このまま永遠にバスでドライブしてたい!!)

 

 私は内心で絶叫しながらも、外面は完璧なクールフェイスを保ち、彼女との穏やかな会話を楽しんでいた。

 

 しばらくバスが山道を進むと、前方でマイクのハウリング音が鳴り響き、担任の星之宮先生が教官用の席から立ち上がった。

 

「はーい、みんな注目ー! そろそろ目的地に近づいてきたから、今回の『混合合宿』のルール説明を始めちゃうよーっ!」

 

 星之宮先生のいつもの軽いトーンに、車内のざわめきが一瞬にして収まる。全員の視線が前方に集中した。

 

「それじゃ、しっかり聞いてね。まず、今回の試験は『同学年で男女別』に行われます。みんなには、一年生男子、一年生女子っていう枠組みの中で、それぞれ6つの『小グループ』を作ってもらいまーす。この小グループには『責任者』を一人決めること。そして、絶対に『複数クラスの生徒』で構成しなきゃダメだからね」

 

 星之宮先生が生徒の顔を見渡しながら説明を続ける。

 

「そして、自分たちの小グループができたら、今度は二年生、三年生の小グループと合流して、三学年合同の『大グループ』を作ります。最終的に、一年から三年までが交ざった大グループが、男女それぞれ6つずつ出来上がるってわけ!」

 

「三学年合同のグループ……。先輩たちと同じチームで動くってことか」

 

 柴田がごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「合宿中は、その大グループ単位で生活や授業を受けてもらうよ。授業の内容は『禅』『筆記』『駅伝』『スピーチ』の四つ! そして最終日に、その授業内容に基づいたテストを行って、大グループごとの総合得点で順位を決めまーす!」

 

 そこまで説明したところで、星之宮先生の表情が少しだけ真剣なものへと変わった。

 

「ここからが重要だよ。報酬とペナルティについて! まず基本報酬として、1位のグループには一人につき3クラスポイントと1万プライベートポイント。2位には一人1クラスポイントと5000プライベートポイント。3位には一人3000プライベートポイントが支給されます」

 

 そこまでなら、さほどの報酬ではないように思える。だが、続く言葉でクラスに衝撃が走った。

 

「でもね、これはあくまで『基本報酬』! ここに『小グループの人数÷10』の倍率がかかります。さらに! その小グループが4クラスの生徒全員で構成されていればなんと『3倍』! 3クラスなら『2倍』になります! さらにさらに! その小グループの『責任者』がいるクラスの報酬は、最終的に四捨五入した後に『2倍』されちゃうの!」

 

「なっ……!?」

 

 神崎が驚愕に目を見開いた。

 

 私は瞬時に頭の中で計算式を走らせる。

 

(仮に14人の小グループで、4クラス合同、さらに責任者がいるクラスが1位になった場合…基本報酬3cp × 人数倍率1.4 × クラス混合倍率3 = 12.6。四捨五入して13。責任者ボーナスでさらに2倍……つまり、一人あたり26クラスポイントだ。そして、最終的にそのグループが獲得する報酬は、そのクラスの所属人数に依存する。1人ずつ他クラスの生徒を入れて14人のグループを作った場合、Aクラスの生徒は11人。26cp × 11人で、クラス全体として『286クラスポイント』もの莫大なプラスになる計算か!)

 

 それは、クラスの勢力図を一変させるには十分すぎるほどの爆発的な報酬だった。

 

「でも、美味しい話ばっかりじゃないからね。ペナルティの方も強烈だよ」

 

 星之宮先生がニコリと笑う。

 

「4位のグループは一人5000プライベートポイント没収。5位は一人3クラスポイントと1万プライベートポイント没収。そして最下位の6位は……一人5クラスポイントと2万プライベートポイントの没収!」

 

 ゴクリと、誰かが生唾を飲み込む音が車内に響く。

 

「さらに怖いのがここから。6位のグループの中で、成績が一定の『ボーダーライン』を下回ってしまった小グループが出た場合……その小グループの『責任者』は、即刻『退学』になります!」

 

「た、退学っ!?」

 

 網倉が悲鳴のような声を上げた。

 

「うん、退学。それから、もし責任者が退学になった場合、その責任者は『自分の小グループのメンバー1名』を道連れにして、退学させることができます。ただし、明確にグループの足を引っ張ったって証明できる生徒に限るけどね。……はいっ! 説明は以上! 質問は受け付けませーん!」

 

 星之宮先生はそれだけ言い残すと、さっさと教官席に座ってしまった。

 車内は、重苦しい沈黙と、得体の知れない恐怖によるざわめきに包まれた。

 

(……男女別行動で、複数クラスでの混成チーム。そして、連帯責任と道連れ退学のシステム……)

 

 私は脳内で高速のシミュレーションを走らせる。

 

(このルールのキモは『責任者』だ。莫大な報酬を得るチャンスであると同時に、最下位になれば真っ先に退学の危機に晒される。そして、道連れ退学……。もし意図的に誰かを陥れようと思えば、これほど都合のいいシステムはない)

 

 私はゆっくりと隣に座るひよりへ視線を向けた。

 

「――ひより」

 

「はい、惣右介くん」

 

「――以前、警告した『影』の輪郭が、今、明確な形を成したようだ。新たな玉座に執着する男は、この泥濘を利用し、かつての王の絶対的な右腕を引きずり込みに来るだろう。……だが、無数の毒蛾が結託し、意図的に羽を休めれば、いかに君たちの光をもってしても盤面の最底辺に堕ちる可能性は否めない」

 

「……」

 

「故に、星々を二つに分かとう。一人は天の頂を目指す強固な城塞を築き、もう一人は深淵へと下り、泥濘の中で彼女を護る盾となってはくれないか。……この理不尽な凶刃を弾き返せるのは、君たちだけだと確信している」

 

 私のオサレな比喩と厚い信頼を込めた言葉に対し、ひよりは瞬きを一つして、こくりと力強く頷いた。

 

「はい。先日お話ししていた通りですね。この『道連れ退学』を利用して南雲先輩が橘先輩を狙う可能性が高いです、上級生が結託して手を抜けば、最下位に落ちる危険があります。だから、私と帆波ちゃんで役割を分担して、一人は上位を狙えるグループを作り、もう一人は橘先輩と同じグループに入って彼女をお守りすればいいんですね」

 

 ひよりはそこでふわりと花が咲くように微笑み、言葉を続ける。

 

「私たちの力を信じて任せてくださって、ありがとうございます。帆波ちゃんとも相談して、必ずやり遂げてみせますねっ!」

 

(状況の厳しさと俺の意図を完璧に汲み取ってくれてる上に、なんて頼もしいんだ!! ありがとう!!俺の大天使!!)

 

(……いくら南雲でも退学者を複数救済するような無駄なポイントは使えないと思いたいが……俺への嫌がらせでひよりを標的にしてくる可能性もゼロじゃない。万が一のことがないよう、しっかり気をつけるように伝えておこう)

 

 私は少し心配を滲ませた真剣な眼差しで、ひよりを見つめた。

 

「――だが、忘れないでくれ。泥濘に潜む悪意は、私への当てつけとして、傍らに咲く『白銀の百合』へと矛先を向けるやもしれぬ。もし君の周囲で僅かでも風が淀んだなら、迷わず私へ報せてほしい」

 

「『南雲先輩が、惣右介くんへの嫌がらせとして私を標的にするかもしれないから、何かあればすぐに教えてね』……ですね。はいっ、ありがとうございます。少しでもおかしいなと思ったら、すぐに惣右介くんに相談しますね」

 

 南雲のやつがひよりを狙うとしたら、龍園や坂柳と裏で接触して、意図的にひよりのグループを潰しにかかる可能性もあるからな……。だが、状況を完全に把握してくれているひよりなら、すぐに異変に気づけるはずだ!)

 

「ああ。任せたよ」

 

「はい。惣右介くんも、お気をつけて」

 

 私とひよりが密談を終えた直後、一之瀬と、神崎が、私たちの近くにいた生徒と席を代わって集まってきた。いつもの幹部四人による、即席の車内作戦会議だ。

 

「ルール、聞いたよね。かなり複雑でリスクも高いけど、報酬も桁違いだね」

 

 一之瀬が声を潜めて言う。

 

「ああ。特に小グループの構成が鍵を握る。他クラスの動向を窺いながら、慎重に布陣を敷く必要があるな」

 

 神崎が顎に手を当てて分析する。

 

 私は二人の意見に内心で頷きつつ、オサレな口調で自らの考えを提示した。

 

「――案ずるな。我々を凌駕する力など存在しない。グループごとに動ける以上、連携という最大の武器が活きる。弱気な布陣は不要だ」

 

「――だが、可憐なる華々の盤面は異なる。七つの夜を越える長き試練……その重圧は、美しき花々の花弁を散らすやもしれん。星々を散りばめ、互いの光で支え合う陣形こそが、破滅を退ける盾となるだろう」

 

 神崎と一之瀬は真剣な顔で私の言葉を受け止めたが、いまいち具体的な方針が掴めない様子だった。そこで、ひよりがすかさず完璧な翻訳を挟む。

 

「『男子はうちのクラスのチームワークを活かして、勝ちに行く最強のグループを作りましょう。でも女子の方は、七泊八日という長期間で体力を消耗するリスクがあるから、優秀な生徒を一つのグループに集めず、いくつか分散させてリスクヘッジをした方がいい』と仰っています」

 

「あっ、なるほど……! 確かに、女子は体力面での不安が大きいもんね。万が一誰かが倒れてもカバーできるように、人数を散らしておくのはすごくいい作戦だね!」

 

 一之瀬が目を輝かせた。二人は私の意図をなんとなく察知しつつも、ひよりの通訳によって完全に納得したようだ。

 

「同感だ。だが……男子のグループ構成はどうする?リスクを減らすために、他クラスの生徒は必要最低限の1人だけに留めるべきか?」

 

 神崎の尤もな疑問に対し、私は静かに首を振った。

 

「――天秤は常に等しく傾くとは限らない。最大の結果を望むのなら、あらゆる不確定要素を盤面に招き入れるのが道理だ。……我々が考える最適解は、他の者たちも等しく辿り着く。盤面は必然的に、四つの均衡と、二つの残骸へと分かたれるだろう」

 

(訳:いや、各クラスから1人ずつ入れた方が報酬が跳ね上がる以上、各クラスから入れるべきだ。もちろん他クラスも同じことを考えるから、一年生のグループは最終的に『各クラス主力の混合のグループが4つ』と、『余った生徒で作られる混合グループが2つ』になる可能性が高いだろうね)

 

「そうですね。惣右介くんの言う通り、報酬の最大化を狙うなら各クラスから1人ずつ集めるべきです。他のクラスも同じことを考えるでしょうから、自然とそういったグループが4つ、そして余った生徒のグループが2つ、という形に収束する可能性が高い思います」

 

 ひよりの滑らかな翻訳に、一之瀬も神崎も「なるほど」と深く頷いた。

 

 方針が固まったところで、一之瀬は周囲のクラスメイトたちに向けて明るく声を張った。

 

「みんな! 実際のグループ分けは向こうに着いてから他クラスの子たちとも話し合わないといけないから、まだ確定はできないんだけど……報酬とペナルティの扱いに関しては、体育祭の時と同じようにしたいと思うの!」

 

 一之瀬の提案に、柴田や網倉たちが真剣な顔で耳を傾ける。

 

「今回、試験で得たプライベートポイントは『クラス貯金』に回して、逆にペナルティで失ってしまったプライベートポイントは、クラス貯金から全額補填する形にしようと思うんだ。そうすれば、誰か一人に責任が偏ることもないし、最下位になるリスクを恐れずに、みんなが安心して全力で試験に挑めると思うから!」

 

「なるほど! それなら変にビビらずに思い切って勝負できるな!」

 

「うん、大賛成! 一之瀬さんの言う通りにしよう!」

 

 一之瀬の思いやりに満ちた合理的な提案に、クラスメイトたちは誰一人反対することなく、力強く頷いて賛同した。

 

(一之瀬、本当に完璧なリーダーだな! クラス貯金のおかげでみんなの士気もさらに上がったし、これで心置きなく1位を狙いに行けるぞ!)

 

 

 バスが山奥の合宿施設に到着した。

 窓の外には、見渡す限りの雪景色と、巨大な体育館や宿泊棟が広がっている。

 

 バスを降りると、すぐに男女別々に行動するよう指示が飛んだ。

 私は女子の列へと向かうひよりの背中に声をかける。

 

「――ひより」

 

 彼女が振り返る。

 

「――我々の往く道が、たとえ冷たい雪に閉ざされようとも……その先には必ず、共に掴み取るべき春が待っている。互いの空で、最高の星を輝かせよう」

 

(訳:それじゃあ、ひよりも気を付けてね! お互い全力で頑張ろうね!)

 

「ふふっ。はい、惣右介くん。お互い、頑張りましょうね!」

 

 ひよりは花が咲くような最高の笑顔を見せ、私に小さく手を振って女子の集団へと駆けていった。

 

(くっ……! 可愛い! 雪景色の中のひより、本当に妖精さんみたいだ! よーし、俺も気合い入れて頑張るぞ!)

 

 

 一年生男子が全員集められた直後、真っ先に動いたのはBクラスの葛城康平だった。

 

「聞いてくれ! Bクラスの男子は、俺を含めたこの13人でグループを作る! そして、他クラスの生徒を誰か一人だけ入れて、小グループを完成させるつもりだ!」

 

 体育館の中心で、葛城が堂々と宣言する。

 

「はあっ!? 勝手に決めてんじゃねーよハゲ! 俺たちだってどう組むか考えてんだよ!」

 

「そうだそうだ! お前らだけで美味しい思いしようなんてずるいぞ!」

 

 CクラスやDクラスの生徒たちから、一斉にブーイングが飛び交った。

 しかし、葛城は微動だにせず、冷静に言葉を続ける。

 

「落ち着け。今なら、俺たちのグループに入った他クラスの一人は、絶対に『責任者』にはしない。そして、万が一俺たちのグループが最下位になり、俺が道連れ退学の権利を得たとしても、決してその一人のことは指名しないと誓おう! つまり、このグループに入れば『絶対に退学にならない』ことを保証する!」

 

 その言葉に、ブーイングを飛ばしていた生徒たちがピタリと黙り込んだ。

 退学のリスクが完全にゼロになる。それは、この過酷な試験において喉から手が出るほど欲しい『安全地帯』の提示だった。

 

「お、俺! 俺入りたいっス!! 絶対に足引っ張らないから、頼む!!」

 

 真っ先に飛びついたのは、Dクラスの山内春樹だった。葛城は少し呆れたような顔を見せつつも、山内を迎え入れて早々にグループを一つ完成させた。

 

(なるほど、葛城らしい手堅い戦術だ。報酬の倍率は捨てる代わりに、完全にクラスの統率を保ち、裏切りや足を引っ張られるリスクを限りなく低くする。……だが、俺が気になるのはそこじゃない)

 

 私は騒ぎの中心から少し離れた場所に立ち、周囲を観察する。

 

(Cクラスの龍園翔……。あいつが、この状況で一切口出しをしてこない? 普段なら真っ先に暴れ回ってこの場を支配しようとするはずだが、今は大人しく壁際に寄りかかって、完全に落ち着き払っている)

 

 龍園は、まるで玉座を降りた暴君のように、ただ静かに状況を眺めていた。

 

(Cクラスのリーダーを降りたのか? あいつが降りるということは、単純な権力闘争や喧嘩で負けたということ。だが、Cクラスの中にあいつ以上の力や恐怖で支配できる奴はいない。同じクラスの人間なら、いくら龍園を恨んでいても、あいつの力が必要なことは分かっているはずだ。だとすれば……単純に喧嘩で龍園に勝てる生徒は、俺を除けば、清隆と高円寺くらいだろう。あの変態がそんなクラスの覇権に関わるような面倒なことをするとは思えないし、消去法で清隆なんだろうな)

 

(――ってか! 高校生にもなって殴り合いの喧嘩なんてするなよ!! 監視カメラのない場所でやればバレなきゃセーフとか、そういう問題じゃないんだよ!! 不良漫画じゃないんだからもっと平和に話し合いで解決しろよ!!)

 

 そんな私の推測と至極常識的なツッコミを他所に、各クラスの代表者たちによる話し合いが始まった。

 

 Dクラスからは平田洋介と幸村輝彦、Cクラスからは金田悟と石崎大地、そしてAクラスからは私と神崎が歩み寄る。

 

「基本的には、各クラスから一人ずつ出し合って、4クラス合同のグループを作るのが理想的だと思う。報酬も大きくなるしね」

 

 平田が爽やかな笑顔で提案する。

 

「同意します。ペナルティのリスクは跳ね上がりますが、互いに牽制し合うことで裏切りを防ぐこともできるでしょう」

 

 金田が眼鏡を押し上げながら頷いた。

 

 こうして、事前の私の予測通り、各クラスから人員を出し合う形でグループの編成が進められた。結果として、葛城の堅実なグループと4クラス合同のグループが三つ出来上がり、余った生徒たちで構成された混合グループの責任者は、Dクラスの幸村と三宅が務めることになった。

 

 問題は、我々Aクラスが主体となるグループの『責任者』を誰にするかだ。

 私と神崎が顔を見合わせた直後、神崎が一歩前に出た。

 

「俺が責任者に立候補する」

 

 神崎が、迷いのない声で名乗りを上げた。

 

「神崎……いいのか? もし最下位になれば、お前が退学になるリスクがあるんだぞ」

 

 柴田が心配そうに声をかける。

 

「構わない。……このクラスの要である藍染を、責任者という退学のリスクに晒すわけにはいかない。万が一の時、俺が防波堤になるのが一番合理的だ」

 

(神崎……っ!)

 

 私は神崎の自己犠牲の精神と、私への確かな信頼に、内心で熱いものを感じた。

 

(お前、根は本当に仲間想いで熱い男なんだな! 任せろ、俺が絶対に最下位なんかにさせない!)

 

 私は神崎の肩に手を置き、不敵な笑みを浮かべた。

 

「――神崎。地に伏す覚悟など不要だ。我々の歩む道に、敗北という名の影が落ちることはない。……心配するな。私がいる限り、お前の背中には絶対の勝利しか約束されない」

 

 神崎が、ふっと笑って力強く頷く。

 

「ああ。お前のその言葉が、俺にとっての『理』となる。立ちはだかる試練など、もはや視界を遮る塵ほどの意味も持たん」

 

(……ううん、まだちょっとオサレ病抜けきってないな! でも、今の神崎は最高にかっこいいぞ!)

 

 こうして、神崎を責任者とし、私や柴田を筆頭にAクラスの中でも能力の高い生徒11名が中核を担う布陣が完成した。そこにBクラスから吉田、Cクラスから時任、Dクラスから池を加えた計14名。これが、我々の小グループだ。

 

 グループ分けが粗方終了し、私は改めて体育館全体を見渡した。

 余り物の生徒たちで作られた二つのグループ――その一つに龍園翔が、そしてもう一つのグループには綾小路清隆が属しているのを確認する。

 

(……龍園と清隆は、それぞれ別の余り物グループに収まったか。清隆のスタンスが相変わらず読めないな)

 

 私は顎に手を当て、高速で思考を巡らせる。

 

(無人島試験では、堀北を隠れ蓑にしてクラスを勝たせるように動いていた。だが、体育祭ではクラス内に『裏切り者』がいることに気付きつつ、あえて見逃してクラスを敗北へと導いた。そして今回の合宿でも、自ら目立つことはせず、余り物のグループに収まっている。……Dクラスには平田や櫛田のような優秀な生徒もいるが、問題のある生徒も多い。清隆は今、単にクラスを勝たせるのではなく、あえて困難な状況に身を置くことで、Dクラス全体の底上げを図っている段階ということか?)

 

 私は、無表情のまま他の生徒たちに紛れている幼馴染の姿を見つめた。

 

(あいつ、ああ見えて根はめちゃくちゃ負けず嫌いだからな! 表向きは適当にやってるフリして、裏では全部計算ずくで何かを仕掛けてくるに違いない。……だが、俺も負けてられないぞ。清隆の思惑がどうであれ、この合宿試験、絶対にAクラスの力でねじ伏せてやる!)

 

 こうして、見えざる悪意と幾重にも絡み合う策謀が渦巻く、波乱の混合合宿が幕を開けたのだった。

 

 

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