いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
三月九日。対戦カードが発表された日の放課後。
学校近くのカラオケボックスの一室には、重苦しい空気が立ち込めていた。
ソファーの中央に深く腰掛けているのは、先のクラス内投票で退学の危機を免れ、再びCクラスの表舞台へと戻ってきた男――龍園翔だ。
その周囲には、金田悟、石崎大地、伊吹澪、そして巨漢の山田アルベルトが控えている。彼らはモニターから流れる無音の映像を背に、打倒Aクラスへ向けた作戦会議を開いていた。
「龍園氏。今回の学年末特別試験……負け越せば退学となる『司令塔』の役目ですが、プロテクトポイントを持つ私が務めるべきでしょう」
口火を切ったのは、Cクラスの頭脳である金田だった。
「ああ、俺もそれがいいと思うぜ! 龍園さんがまた退学のピンチになるなんてごめんだからな!」
石崎も身を乗り出して金田の意見に賛同する。
龍園はテーブルの上のグラスを手に取り、氷をカラカラと鳴らしながら少しの間沈黙した。
「……クク。そうだな。金田、てめえに任せる」
「……よろしいのですか? 龍園氏ならば、退学のリスクを負ってでも司令塔を務めるかと思いましたが……」
金田の言葉に、龍園は鋭い眼光を細めた。
「……藍染惣右介。あいつさえいなければ、俺が司令塔を務めたんだがな」
「藍染氏、ですか?」
「ああ。間違いなくAクラスの司令塔は一之瀬だ。本来なら、俺が退学の重圧を盾にして盤面を荒らせば、あのお人好しの一之瀬のことだ、必ず冷静さを失って隙を見せる」
龍園はグラスをテーブルに置き、忌々しそうに舌打ちをした。
「だが、Aクラスには藍染がいる。俺がそういう戦略を仕掛けることすら完全に見越して、一之瀬に的確な助言を与えるだろう。そうなれば揺さぶりは通じねえ。……万が一にもここで俺が退学になれば、今のCクラスが浮上する可能性は完全にゼロになるからな」
龍園の冷静な判断に、金田は深く頷いた。
「確かに龍園氏の言う通りですね。藍染氏は、我々の思考のさらに先を読んで一之瀬氏に対策を講じてくる可能性が高いですね。ここで龍園氏を失うリスクは、あまりにも大きすぎます」
「チッ……ハッキリ言って、ここはDクラスを当てたかったところだがな」
龍園は苛立ちを隠すことなく吐き捨てた。
「藍染とクラス内投票のせいで、今のCクラスはAクラスより三人分も人数の不利を背負ってる。今のうちのクラスの状況じゃあ、まともにやり合ってAクラスやBクラスに勝てる道理がねえ」
その弱気とも取れる言葉に、腕を組んで壁にもたれかかっていた伊吹が眉をひそめた。
「あんたらしくないじゃない。戦う前から諦めてるわけ?」
「馬鹿が。諦めてるんじゃねえ、現実を見ろと言ってんだ」
龍園は伊吹を冷たく睨み返した。
「この試験のルールなら、頭数が多くて平均学力も高いAクラスもBクラスも、間違いなく『学力テスト系』の種目を複数用意してくる。うちの馬鹿どもが学力で奴らに勝てるとでも思ってんのか?」
「まあ、それは……そうね」
痛いところを突かれ、伊吹は押し黙る。
「ええ。やはり我々が勝機を見出すならば、運動系……それも、山田氏や石崎氏の腕力、伊吹氏の格闘能力を活かせるような『武道系』や『パワー系』で固めるしかないでしょう」
金田が眼鏡の位置を直しつつ進言する。アルベルトもその後ろで、静かに力強く頷いた。
「ああ、それしかねえ」
龍園もそれに同意したが、その表情は決して明るくはなかった。
「だがな……その武道系の種目を作るにしても、代表者の一対一や、勝った奴がそのまま次の相手と戦う『勝ち抜き戦』のルールにすれば、藍染の野郎が出場した時点で負ける」
「……! 藍染氏が、ですか?」
「あの体育祭での異常な身体能力を見てねえとは言わせねえぞ。あいつはただ頭が回るだけのインテリじゃねえ。間違いなく、暴力のレベルも一級品だ。下手に勝ち抜きルールでぶつかれば、あいつ一人にアルベルトたちまでまとめて抜かれる可能性が高い」
「確かに体育祭の棒倒しの時の動きは異常でしたね……」
石崎が納得しつつ複雑な表情をするも、龍園は真顔のままだ。
「だから、やるなら一人一試合ずつのオーソドックスな『団体戦』にするしかねえ。あいつがどこかのポジションで出てきて一勝を持っていかれたとしても、残りの試合でアルベルトやてめえらが確実に勝利をもぎ取れれば、種目としての勝利は拾えるからな」
藍染惣右介という男の底知れなさを前提とした徹底的な対策に、Cクラスの面々は重い沈黙に包まれた。
「じゃ、じゃあ……試験の前に、相手の主力を潰しに行きますか? それなら俺たちが……!」
石崎が焦ったように物騒な提案をするが、龍園は鼻で笑って一蹴した。
「ククク。馬鹿か? 藍染の野郎がその可能性を考えてねえ訳がねえだろうが。放課後や休日の単独行動は徹底して避けるように指示を出してるはずだ。確実に対策されてる」
「その通りです」
金田も石崎の案を咎めるように口を開いた。
「それに、藍染氏は現在、生徒会副会長として君臨しています。そのような暴力的な裏工作を取れば、藍染氏の権力によって試験の勝ち負け以前に、我々のクラスから退学者が出るという最悪のペナルティを食らう可能性すらあります。リスクが高すぎます」
「……ちっ。なら、どうすりゃいいんだよ」
石崎が頭を抱える。
「こっちの種目が四つ選ばれさえすれば、勝ちの目はある。だが、確実に向こうに学力系の種目で三つは取られるだろうな。最後の四つ目が向こうの学力種目なら、その時点で俺たちの負け確だ。……今回ばかりは選択の運に任せるしかねえ」
龍園はそう結論づけた後、獲物を狙う蛇のように目を細め、不敵な笑みを浮かべた。
「だが……まだ勝負は終わっちゃいねえ。卒業まであと二年もある。……ここからクラス全体を底上げして、最後には必ず、藍染も坂柳も綾小路も俺の足元に引き摺り下ろしてやる」
その言葉には、かつての独裁者としての驕りではなく、敗北を知り、底辺から這い上がろうとする泥臭い執念が宿っていた。
「……やはり。この学年末特別試験では意味がありませんが、来年度へ向けて『Dクラスとの同盟』……正確には、綾小路氏と手を組むことは視野に入れるべきですね」
金田が、これからのクラスの生存戦略として一つの案を提示した。
その名が出た瞬間、かつて屋上でその圧倒的な暴力を前に平伏した面々の間に、独特の緊張感が走る。
「はぁ!? なんであんな奴と!? あいつの顔なんか、あたしは二度と見たくないんだけど!」
真っ先に伊吹が嫌悪感を露わにして声を荒らげた。
「いや、でも……確かに綾小路なら!」
反対に、石崎は身を乗り出して目を輝かせた。
「あいつが味方になってくれるなら、これ以上心強いことはねえぞ!」
「クク。そういうことだ」
龍園は喉の奥で笑い、淡々とこれからの展望を語った。
「俺だって綾小路の野郎と手を組むなんざごめんだが、あいつらに勝つにはそれしか方法がねえ。……混合合宿やこの前のクラス内投票を見るに、やはりBクラスの坂柳と葛城は完全に手を組んでやがる。坂柳や葛城単体なら付け入る隙はあるが……完全に一枚岩になったBクラスには、今の俺たちじゃあどう足掻いても勝てねえ」
「……確かに。葛城氏が坂柳氏の傘下に入ったことで、Bクラスの守りは鉄壁になっていますね」
金田も同意するように深く頷く。
「それに、Aクラスの藍染と一之瀬も同じだ。あいつらも完璧な信頼関係で結ばれてやがる。……ここからAクラスとBクラスの圧倒的な戦力差を覆して逆転するには、あのバケモノの力と、Dクラスを利用するしか方法がねえんだよ。……春休みのうちに、俺が鈴音と直接交渉するさ」
「でも……Dクラスが、うちと同盟なんて結んでくれますかね?」
石崎が不安げに尋ねる。
「ククク。鈴音も馬鹿じゃねえ。このまま単独でやってても、完璧に仕上がった上二つのクラスには一生勝てねえことくらい理解してるさ。……利害は一致する。下位二つのクラスを俺たちが掌握して完全にコントロールすれば、単純な人海戦術でAクラスやBクラス相手にも立ち回ることができるようになる」
龍園の瞳に、再び狂暴な野心の炎が灯る。
「首を洗って待ってろよ、藍染、坂柳。てめえらの独壇場は、俺が必ずぶっ壊してやる」
カラオケの狭い密室の中で、Cクラスの首領は静かに反撃の牙を研いでいた。
――一方、時を同じくして。
『Aクラス対Cクラス』
『Bクラス対Dクラス』
モニターに映し出された結果を見つめながら、Bクラスの司令塔を務める坂柳有栖は、誰にも悟られないように口角を微かに吊り上げた。
(ふふふ……抽選の運もありましたが、これでようやく貴方と戦うことができますね、綾小路くん……私がこの手で葬ってあげましょう)
極上の喜びに満ちた笑みを零しながら、坂柳は静かに杖を握り直した。
ホームルーム終了後。
Bクラスの頭脳であるメンバーたちは、葛城康平の自室に集まり、作戦会議を開いていた。
部屋に集まっているのは、坂柳を中心として、葛城、橋本、鬼頭、真田、神室の六名である。かつては坂柳派と葛城派で二分されていた彼らだが、先のクラス内投票を経て完全な協力体制を築き上げたことで、今のBクラスはかつてないほどの強固な結束を誇っていた。
「狙い通り、Dクラスを引き当てることができたな」
腕を組んで壁にもたれていた葛城が、深く頷きながら口火を切った。
「だな。Dクラス相手なら、学力テストで固めれば人数の差もあるし、三つは確実に取れるだろう」
橋本も余裕の笑みを浮かべて同意する。退学者ゼロのBクラスに対し、退学者を一人出したDクラスは純粋な総合点ルールにおいて明確な不利を背負っている。
「ですが、幸村くんや王さん、それに堀北さんなど、学力では学年上位の層もいます。こちらの種目といえど油断はできません」
真田が冷静に相手の戦力を分析し、警戒を促した。
「ふふふ。相手は学力上位層を一つの科目に固めるしかありませんからね。彼ら三人の得意科目からいって、おそらく『数学』か『英語』でしょう。それなら、その二つの科目以外の科目を選出すれば、私たちのクラスの学力なら確実に勝てるでしょう」
坂柳が淀みなく反論を口にする。
「その通りだ。しかし、本命の五種目を全て学力テストで固めるのか?」
葛城の問いに、坂柳はふわりと微笑んだ。
「一つ、私の我儘を許してもらいたいのですが……『チェス』を入れたいと思っています」
「チェス、か。なるほど」
葛城は少し考えた後、納得したように頷いた。
「司令塔が大幅に介入できるルールにして、実質的にお前が相手と戦うわけか。お前の頭脳なら、問題ないだろう」
「姫さんなら、チェスで確実に勝ちを拾えるだろうし、ありなんじゃないか?」
橋本も面白そうに賛同する。
「ふふふ。私の我儘を聞いてくださって、ありがとうございます。……あとは、クラスの皆さんに自分の自信のある種目を考えてもらい、その中で勝率の高そうなものを選びましょう」
翌日。三月十日。
朝のホームルームにて、坂柳はクラス全体に向けて「各々が自信のある種目」を考えて提出するように通達を出した。
放課後になる頃には、多くの生徒から様々な種目案が坂柳の元へと集まってきた。
そんな中、一人の女子生徒が音もなく坂柳の机の前に現れた。
「坂柳有栖、ダンゴムシの観察対決を選出しましょう。私はダンゴムシの生態には自信があります」
真顔でとんでもない提案をしてきたのは、森下藍だった。
「……はい?」
さすがの坂柳も予期せぬ斜め上からの提案に呆気にとられたが、森下は坂柳の返答を待つことなく、言うだけ言ってスタスタとその場を立ち去ってしまった。
(……ダンゴムシ、ですか。彼女の生態の方がよほど観察のしがいがありそうですが……)
放課後の葛城の部屋。
提出された案を精査した結果、Bクラスの提出する10種目が決定した。
『本命五種目:現代文テスト、物理テスト、世界史テスト、チェス、フラッシュ暗算』
『ブラフ五種目:数学テスト、英語テスト、バレーボール、ドッジボール、囲碁』
「堅実な選出だな。俺も異論はない」
リストを見た葛城が力強く頷く。
「いいんじゃない? 後は勉強会とかで、全体の基礎力をあげるだけでしょ?」
神室が退屈そうに髪を弄りながら言う。
「ええ。その通りです」
坂柳は微笑み、葛城へと視線を向けた。
「葛城くん、貴方の選んだ『フラッシュ暗算』が選出された場合は、確実に勝利を期待していますよ」
「ああ。任せてくれ」
葛城は頼もしく胸を叩いた。
「それと、今から真澄さん、真田くん、橋本くんは私とチェスをしていただきます。誰が一番筋がいいか、私が直接判断して選出メンバーを決めます。……鬼頭くんは、相手は須藤くんを擁している以上、確実にバスケットボールを選出してくるはずですので、私が指定するメンバーと練習をお願いします」
「ああ。分かった」
鬼頭が静かに頷き、それぞれの役割分担が完了した。
その後。
候補者三人とのチェスの対局を経た結果、最も状況適応能力が高く、司令塔の指示を忠実に実行できる『橋本』がチェスの代打ちとして選出されることに決定した。
(ふふふ……。楽しみですね)
自室へ戻る道すがら、坂柳は一人、心地よい高揚感に包まれていた。
(Aクラスに離されないためにも、この試験は確実に勝つ必要がありますが……それ以上に。綾小路くん、ホワイトルームの最高傑作である貴方に、『偽りの天才』は『本物の天才』には敵わないということを、私が証明しなくてはなりませんからね)
絶対の自信と、底知れぬ執着。
盤石の態勢を整えたBクラスの女王は、来たるべき決戦へ向けて、静かに牙を研いでいた。
――同じ頃。
抽選によってBクラスとの対戦が決定したDクラスの教室は、ひどく重苦しい空気に包まれていた。
担任の茶柱先生が対戦カードを発表して教室を去った後も、誰一人として口を開こうとはしない。
それも無理はない。山内春樹というクラスメイトが『退学』という名の生贄になってから、まだ数日しか経っていないのだ。
教室の前方では、クラスの中心人物として誰よりも周囲を気遣っていた平田洋介が、虚ろな瞳で机の一点を見つめたまま、完全に外界との関わりを絶っている。さらに、山内と特に仲の良かった面々も、友人を失った喪失感から抜け出せず、暗い空気を引きずって深く俯いていた。
だが、容赦なく時間は進んでいく。ここで立ち止まれば、さらなる犠牲者を生むだけだ。
「……少し、いいかしら」
重苦しい静寂を破り、堀北鈴音が毅然とした態度で教壇に立った。
「学年末特別試験の対戦相手がBクラスに決まったわ。ルールの通り、負ければ退学というペナルティが課せられる『司令塔』を誰にするか決めなければならないけれど……」
「……それについてなんだが、オレがやってもいいか?」
堀北の言葉を遮るように、教室の後方から手を挙げたのは――綾小路清隆だった。
その瞬間、クラス中の視線が一斉にオレへと集まる。
「はぁ!? お、お前が司令塔!? 冗談だろ、初めから勝負を捨てる気かよ!?」
本堂が目を丸くして叫んだ。
「そうよ! あんたみたいな陰キャが、みんなに的確な指示なんて出せるわけないじゃない!」
篠原も不安そうに声を上げる。彼らの反応は至極真っ当だった。表向きは何の取り柄もない目立たない生徒であるオレが、クラスの命運を握る司令塔に立候補するなど、彼らからすれば自殺行為にしか見えないだろう。
「静かにしなさい」
騒ぎ立てるクラスメイトたちを、堀北が冷ややかな一瞥で制した。
「負け越せば退学者が出る以上、プロテクトポイントを持つ綾小路くん以外に適任はいないわ。誰か他に、自ら退学のリスクを背負って司令塔をやりたい人はいるの?」
堀北の鋭い問いかけに、本堂も篠原も押し黙る。
「……それに。彼は決して無能ではないわ。彼なら十分に、司令塔の役割を果たせるはずよ」
堀北の確信に満ちた擁護の言葉。クラスの実質的リーダーである彼女がそこまで言うのであればと、クラスメイトたちも渋々ながらオレの司令塔就任を受け入れた。
「司令塔は決まったわね。次は、私たちが提出する10種目の選定よ。この試験は、自分の得意な分野を種目として設定できる。だから……みんなには宿題を出すわ。明日までに、『これなら絶対に負けない』と自信のある種目を考えてきてちょうだい。勉強でも、スポーツでも、趣味のゲームでも構わないわ」
堀北の呼びかけに、クラスメイトたちは顔を見合わせ、少しずつだが思考を回し始めた。
そんな中、池が急にスッと立ち上がり、片手で顔を覆いながら低く響くような声を出した。
「フッ……ついに俺たちの隠されし力が解放される時が来たようだな。暗黒の淵より蘇りし俺の『真の特技』で、Bクラスの奴らを絶望の底に沈めてやろう……」
堀北は、深い溜息を吐き出しながら、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
池は以前の混合合宿で、Aクラスの藍染惣右介と同じグループだった。その際、圧倒的な実力とカリスマ性でグループを牽引する藍染の姿に心酔してしまい、以来、彼に憧れて謎の言葉を口走るようになってしまっていたのだ。
言動こそひどくおかしなことになってしまったが、今の池はクラスの誰もが認めるほど必死に勉強や体力作りに励んでおり、実際に結果を出し始めている。だからこそ、堀北も呆れつつも強く注意することができずにいた。
「……明日、期待しているわ」
堀北はため息交じりでありながらも、確かな信頼を込めた言葉を告げると、そのまま解散を宣言した。
放課後。
生徒たちがパラパラと教室を出ていく中、オレは一人自席に残り、これからについて思考を巡らせていた。
(……Bクラスとの対戦か。坂柳の望み通りの展開だな)
Bクラスの総合力や平均学力は、間違いなくDクラスを大きく上回っている。だが、各クラスが独自の種目を設定できる今回の試験ルールは、Dクラスにとって決して不利なものではない。
(Dクラスには総合力や協調性に欠ける反面、特定の分野においてのみ突出した才能を持つ『尖った人材』が多く存在している。須藤や小野寺をはじめとする一芸に秀でた彼らの特技を種目として用意すれば、いくら優秀なBクラスであってもその全てを完璧にカバーすることは不可能だ)
Dクラスの持つ特化型のポテンシャルを適切に盤面に配置できれば、格上のBクラス相手でも十分に勝ちの目を拾うことができる。勝つこと自体は決して不可能ではない。
だが――オレにとっての真の問題は、Bクラスとの勝敗ではなかった。
(問題は……オレを退学させるために、あの『月城理事長代理』がどう動くかだな)
ホワイトルームからの刺客として送り込まれてきた月城。彼が、学校側の絶対的な権力を行使してこの試験に介入してこないはずがない。
この学年末特別試験は、司令塔が負け越せば退学になる。そして、今のオレはプロテクトポイントという『一度だけの退学免除権』を持っている。
(奴は、この試験を利用してなんとしてでもオレのプロテクトポイントを剥がそうとしてくるはずだ)
Bクラスの坂柳との頭脳戦。
そして、盤外から介入してくるであろう月城との権力戦。
二つの厄介な要素が絡み合う盤面を前に、オレは誰にも悟られることなく、静かに防衛の策を練り始めていた。