いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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六十八話

 三月二十二日。

 一年間の集大成である『学年末特別試験』の当日がやってきた。

 

 朝のホームルーム前、Aクラスの教室には心地よい緊張感と、誰一人欠けることなくこの日を迎えられたという確かな熱気が満ちていた。

 

 司令塔として別室へ向かう前、一之瀬帆波は教壇に立ち、クラスの全員を見渡して口を開いた。

 

「みんな、今日まで本当にお疲れ様! いよいよ本番だね」

 

 一之瀬の明るくも凛とした声に、クラスメイトたちが真剣な眼差しで応える。

 

「ひよりちゃんが提案してくれた『プライベートポイントで七種目目の選出権利を買い取る』っていう作戦なんだけど……星之宮先生に確認した結果、やっぱり莫大なポイントを要求されたよ。今の私たちのクラス貯金でも払えないことはないんだけど……」

 

 そこで一之瀬は少しだけ言葉を区切り、真剣な表情で続けた。

 

「藍染くんが分析してくれた通り、仮に相手の本命種目が選ばれても私たちに勝ちの目は十分にあるし、万が一負けたとしてもペナルティはマイナス三十クラスポイントで済む。先のクラス内投票で大金を使ったばかりの今の状況で、これ以上大きくポイントを放出するのはリスクが大きいと判断して、今回は見送ることにしたの」

 

 一之瀬はそこまで説明を終えると、すぐにパッと顔を上げて眩しい笑顔を見せた。

 

「だから、最後の七種目目がどっちのクラスから選ばれるかはランダムになる。でもね、買わなくても私たちの種目が選ばれる可能性は十分にあるし……もし相手の本命種目が選ばれたとしても、私は少しも不安じゃないの。だって、みんなが今日まで死に物狂いで頑張ってきたのを、一番近くで見てきたから! どんな種目になっても、私たちなら絶対に勝てる! みんなで力を合わせて、絶対にこの試験を乗り切ろうね!!」

 

「おおおおおっ!!」

 

 一之瀬の力強い演説に、クラス中から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。

 

 その熱を帯びた空気の中、神崎隆二が静かに立ち上がり、力強く頷いた。

 

「ああ。一之瀬の言う通りだ。Cクラスがどのような策や極端な種目を用意していようと、俺たちが積み上げてきた努力と団結力が揺らぐことはない。……全員で、確実に勝利を掴み取ろう」

 

「うんっ! ありがとう、神崎くん!」

 

 クラスの副官とも言える神崎の真摯で頼もしい言葉に、一之瀬は満面の笑みで頷く。

 

(……うん。これなら何も心配はいらないな)

 

 完全に仕上がったクラスの士気を前に、私は一人、静かに満足げな笑みを浮かべた。

 

「それじゃあみんな、行ってくるね!」

 

 一之瀬はクラスメイトたちに大きく手を振ると、そのまま司令塔の待機する多目的室へと向かっていった。

 

 

 ――司令塔ルーム。

 複数のモニターと通信機材が並べられた無機質な部屋に足を踏み入れると、そこにはすでにCクラスの司令塔である金田悟の姿があった。立会試験官として、自クラスへの肩入れを防ぐため、今回の対戦とは無関係の担任である真島智也と茶柱佐枝が静かに壁際で見守っている。

 

「一之瀬氏。本日は、よろしくお願いします」

 

 金田が眼鏡の位置を直し、丁寧な態度で頭を下げてきた。

 

「うん、よろしくね、金田くん。お互い、悔いのないように頑張ろう!」

 

 一之瀬も真っ直ぐな瞳で挨拶を返す。そして、モニター前の席に座りながら、少しだけ探るように言葉を投げかけた。

 

「……実は、藍染くんが『Cクラスは龍園くんが司令塔を務めて、揺さぶりをかけてくる可能性がある』って言ってたんだけど……結局、プロテクトポイントを持ってる金田くんがやることになったんだね」

 

 一之瀬の言葉に、金田の瞳の奥が微かに鋭く光った。

 

「……やはり、藍染氏はそこまで推測されていましたか。ですが、ここで龍園氏に退学されるわけにはいきませんからね。もちろん、我々も全力で勝ちに行くつもりですが……彼には、武道系の種目で最前線に立って暴れてもらわねばなりませんので」

 

「そっか。やっぱり、武道系には出てくるんだね」

 

 和やかな口調の中にも、司令塔同士の探り合いが静かに火花を散らす。

 

「それでは時間だ。これより、Aクラス対Cクラスの選抜種目試験を開始する。最初の種目は――」

 

 真島先生の厳格な声が部屋に響き、第一の種目が告げられた。

 

 

【一種目目:Aクラス選択種目『世界史テスト』参加人数8人】

 

 モニターに表示された文字を見て、一之瀬は即座に手元の端末を操作し、クラスの学力上位層8名を選出する。対する金田も、一切の迷いなく5名の生徒を選出した。

 

(……いきなり、ここで3人減らしてきた。定員が8人の種目なのに)

 

 一之瀬はモニターに映し出されたCクラスの選出メンバーを見て、瞬時に相手の狙いを悟った。

 

(この試験では、四十一人のAクラスに対して三十八人のCクラスは人数で不利を背負ってる。学力テストで真っ向から勝負しても絶対に私たちには勝てないから、最初から勝ちを捨てて人数を消費し、全体の人数差を早い段階で合わせにきたんだ。……確かに、彼らにとってはそれが一番手堅い戦略かもね)

 

 一之瀬の予想通り、試験の結果はAクラスの圧倒的な大差での勝利となった。

 

《Aクラス1勝:Cクラス0勝》

 

 

【二種目目:Cクラス選択種目『腕相撲』参加人数9人】

 

 中央のモニターに第二の種目が表示された。

 

(……ここは捨てるところだね。空手や柔道といった激しい武道系種目と違って、腕相撲なら怪我のリスクも少ないから、ここで学力テストには出ない女子たちを使おう)

 

 一之瀬は迷うことなく、学力には自信がない女子生徒を中心に9名を選出した。対するCクラスは、女子数名と腕っぷしの強そうな男子主体でメンバーを固めてきた。

 

 モニターに表示されたCクラスの顔ぶれを見て、一之瀬は内心で納得する。

 

(山田くんや石崎くん、それに龍園くんの名前はない。……やっぱり、本命の武道系種目に彼らを温存してきたね)

 

 結果は言うまでもなく、パワーで勝るCクラスの圧勝となった。

 

《Aクラス1勝:Cクラス1勝》

 

 

【三種目目:Cクラス選択種目『柔道』参加人数7人】

 

 再びCクラスの種目。一之瀬の手が、一瞬だけピタリと止まる。

 

(参加人数7人の星取戦……。藍染くんたち主力級の男子を選ぶなら、やっぱり5人の『空手』か3人の『剣道』に固めたい。でも、相手も絶対にそれは分かってるはず。ここで敢えて裏をかいて、藍染くんたちを柔道にぶつければ……確実に3勝は取れるかも。でも……)

 

 一之瀬は盤面全体を俯瞰し、冷静に確率を弾き出す。

 

(いや、藍染くん、神崎くん、柴田くんの3人が勝ってくれたとしても、あと1人勝たなきゃ種目としての勝利には届かない。ここでギャンブルをするべきじゃない)

 

 一之瀬はあえて主力を温存し、勉強が少し苦手な男子を中心に7名を選出した。彼らも藍染の指導のもとで健闘し、見事2勝をもぎ取ってみせたが、残る5敗を喫し、この種目もCクラスに取られる結果となった。

 

《Aクラス1勝:Cクラス2勝》

 

 

【四種目目:Aクラス選択種目『現代文テスト』参加人数4人】

 

 無機質な電子音と共にモニターが切り替わり、今度はAクラスの本命である学力系の種目が選出された。

 

(よし。ここは少人数だから、確実に点数を稼げるメンバーで固めよう)

 

 一之瀬は、後のテスト種目に備えて一部の学力上位層を温存しつつも、ひよりを筆頭に現代文を得意とする四名を的確に選出する。対するCクラスは、学力でAクラスに太刀打ちできるはずもなく、結果は大差をつけたAクラスの危なげない圧勝となった。

 

《Aクラス2勝:Cクラス2勝》

 

 

【五種目目:Aクラス選択種目『化学テスト』参加人数7人】

 

 連続して選ばれたのは、またしてもAクラスが得意とする学力テストだった。

 

 一之瀬は盤石の学力層を惜しみなく投入する。Cクラスの金田も表情を崩すことなく静かにメンバーを選出したが、やはり基礎学力の差はいかんともしがたい。

 

 結果はAクラスが順当に点数を稼ぎ出し圧勝。これでついに、Aクラスが勝利へ王手をかけた。

 

《Aクラス3勝:Cクラス2勝》

 

 

【六種目目:Cクラス選択種目『女子キックボクシング』参加人数1人】

 

 ここで勝てばAクラスの勝利が決まる大事な一戦。一之瀬は、クラス内で最も運動神経が良く、この日のために藍染から直接指導を受けていた津辺仁美を選出した。

 

 対するCクラスは、当然ながら伊吹澪。

 

 体育館の特設リング上で向かい合った伊吹は、素人相手と高を括り、余裕の笑みを浮かべていた。だが、試合開始のゴングと共に放たれた彼女の鋭い連撃を、津辺は藍染直伝の無駄のないステップと防御術を駆使し、紙一重で躱してみせる。

 

「なっ……!?」

 

 予想外の動きに伊吹が焦りを見せた一瞬の隙を突き、津辺は流れるような動作で懐に潜り込み、伊吹の顎先を的確に捉える見事なカウンターのストレートを叩き込んだ。

 

「くっ……!」

 

 伊吹の顔が弾かれ、モニター越しに見ていたCクラスの陣営にどよめきが走る。しかし、津辺の攻勢はそれだけでは終わらなかった。

 

 藍染から叩き込まれた『相手の思考の死角を突く』立ち回りを完全に体現し、動揺する伊吹に対して息もつかせぬラッシュを仕掛けたのだ。的確なローキックで体勢を崩し、ガードが開いたところに左フックを叩き込む。

 

「あぐっ……! ふざけ、るなっ!」

 

 防戦一方に追い込まれ、ロープ際まで後退させられる伊吹。付け焼き刃の素人だと完全に侮っていた相手に対し、津辺は明らかなダメージを与え、あと一歩でダウンを奪えるところまでCクラス女子最強の武闘派を追い詰めてみせた。

 

 しかし――幼い頃から武道を修め、幾度も実戦を潜り抜けてきた伊吹澪の『闘争本能』は、追い詰められたことで完全に火がついた。

 

「……舐めるなッ!!」

 

 血を吐き捨てるように叫んだ伊吹は、瞬時に体勢を立て直すと、これまでのセオリーを完全に無視した変則的で殺気立った猛攻へと転じる。

 

 藍染の理詰めのシミュレーション通りに動いていた津辺にとって、理屈を超えた伊吹の野生的なコンビネーションは計算外だった。重く鋭いミドルキックと、フェイントを交えた怒涛の散らし。それは、急造の技術しか持たない津辺の防御を徐々に削り、確実にリングの主導権を奪い返していった。

 

 それでも、津辺は決して倒れなかった。

 

 どれほど重い蹴りを受けようと、藍染の教えである『致命傷を避ける防御』を徹底し、歯を食いしばってリングに立ち続けた。伊吹の猛攻を泥臭く耐え凌ぎ、時には起死回生のカウンターを返し、一歩も退かずに懸命に食らいつく。

 

 そして――規定のラウンド終了を告げるゴングが、体育館に鳴り響いた。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 両者共に肩で息をし、汗と痣にまみれた状態での判定決着。

 

 審判が下した結果は――後半で圧倒的な手数と有効打を稼ぎ、執念で形勢を逆転させた伊吹の判定勝ちだった。

 

 惜しくも敗北を喫した津辺だったが、最後までダウンを許さず、伊吹を極限まで苦しめたその健闘に対し、Aクラスからは労いと称賛の大きな拍手が送られた。

 

《Aクラス3勝:Cクラス3勝》

 

 

 ついに、3勝3敗の完全なイーブン。

 この時点で、残っている生徒はお互いに5人。

 選ばれるのは、Aクラスの『数学テスト』か、Cクラスの『空手』の二択に絞られた。

 

(相手はもう武闘派の生徒しか残っていない……。もし数学テストが来れば、藍染くんや神崎くんも残ってるし、確実に勝てる……!)

 

 一之瀬は祈るようにモニターを見つめ、金田もまた、額に汗を滲ませながらモニターを凝視していた。

 

 やがて、無慈悲な電子音が鳴り響き、真島先生が重々しく結果を告げた。

 

「最後の種目は――Cクラス選択種目『空手』に決定した。参加人数5人。各司令塔は、速やかに選出及び対戦順を決定しろ」

 

 その通達を聞いた瞬間、金田は深く息を吐き出し、隠しきれない安堵の表情を浮かべた。

 

 対する一之瀬は、ギュッと唇を噛み締めた。

 

(くっ……引かれた。でも、絶望することはない。ここからは私と金田くんの、読み合いだね)

 

 一之瀬は手元の端末に視線を落とす。

 

 Cクラスの残っている生徒は、龍園、山田アルベルト、石崎、時任、近藤の5人。

 

 対するAクラスの残りは、藍染、神崎、柴田、滝川、渡辺の5人。

 

(藍染くんの見立てでは、神崎くんと柴田くんなら石崎くん相手なら勝機はあるけど、龍園くんと山田くんには間違いなく勝てないって言ってた。……つまり、確実に勝つためには、山田くんか龍園くんのどちらかに藍染くんをぶつけて『相殺』する必要がある!)

 

 星取戦の男子空手は、事前のオーダー提出ではなく、1試合ごとに司令塔がその場で選手を選出するルールだ。

 

「第一試合、選出を」

 

 一之瀬は深く深呼吸し、1人目に『柴田』を選択した。

 対する金田は『時任』を選択。

 

(よしっ!)

 

 一之瀬は内心でガッツポーズをした。金田は読み違いに「ぐっ……!」と悔しげな表情を浮かべる。

 

 体育館での試合はかなりのいい勝負になったが、持ち前の運動神経とスタミナで押し切った柴田が見事に勝利を収めた。

 

《Aクラス1勝:Cクラス0勝》

 

「第二試合、選出を」

 

 一之瀬は『渡辺』を選択。金田は『近藤』を選択。

 ここは実力で勝る近藤が勝利した。

 

《Aクラス1勝:Cクラス1勝》

 

(これでCクラスの残りは龍園くん、山田くん、石崎くんの主力3人。対するこちらは滝川くん、神崎くん、藍染くん。……金田くんも、藍染くんをどこで出すか徹底的に警戒してる。もう勝つには、石崎くんに神崎くんをぶつけるしかない。二戦目に神崎くんを出せていれば確実だったのに……)

 

 一之瀬は自身の采配をわずかに悔やみつつ、次の一手を思案する。

 

「第三試合、選出を」

 

 一之瀬は『滝川』を選択。

 対する金田は――ここでCクラスの首領『龍園翔』を投入してきた。

 

(チッ、金田のやつ読み負けたか。だが、まだ勝負は終わっちゃいねえ)

 

 体育館のコートに上がった龍園は、舌打ちをしながらも口角を凶悪に吊り上げた。自分が滝川という捨て駒に当てられたことで、金田が一之瀬の采配に翻弄されていることを悟ったのだ。

 

(仮にこの後、石崎と神崎の対戦になったとしても、充分に石崎の勝機はある。それにアルベルトと神崎の対戦になった瞬間勝ちが決まる。依然、有利なのはこちらだ)

 

 全体の戦局を俯瞰し、確実な一勝をもぎ取るべく、龍園は対戦開始の合図と共に容赦なく滝川へと襲い掛かった。

 

 滝川も藍染に仕込まれたステップや防御技術で必死に応戦するが、実戦慣れしている龍園の苛烈な暴力の前には通じず、最後は強烈な蹴りを浴びて敗北を喫した。

 

《Aクラス1勝:Cクラス2勝》

 

 モニター越しに龍園の勝利を見届けた金田は、隠しきれない安堵と緊張の入り混じった息を吐き出した。

 

 一方、一之瀬は冷静に状況を整理する。 

 

(金田くんは今、龍園くんを使って勝負に出た。……これでCクラスの残りは山田くんと石崎くん。対するこちらは神崎くんと藍染くん)

 

 チラッと隣を見ると、金田は顎に手を当てて深く沈思黙考していた。

 

(金田くんも冷静だね。私がいつ藍染くんを切るか、必死に迷ってる……!)

 

「第四試合、選出を」

 

 極限の思考戦の末、一之瀬は『藍染』を選択した。

 そして金田の選出は――『山田アルベルト』だった。

 

(読み勝った……!)

 

 一之瀬の目が確信に輝く。対する金田は「クッ……!」とあからさまに絶望的な顔をした。

 

(ここで神崎氏が来ると読んで、確実に潰すために山田氏をぶつけたというのに……! まさかここにきて、最強の藍染氏を当ててくるとは……!)

 

 祈るようにモニターを見つめる金田。

 

 体育館のコートでは、Cクラスの誇る巨漢『山田アルベルト』と、Aクラスの絶対的強者『藍染惣右介』が対峙していた。

 

(よし! さすがは一之瀬だ。この極限の読み合いの中で、見事に俺に一番厄介な相手を回してくれた。……あとは、任せておけ!!)

 

 開始の合図が鳴っても、アルベルトは動かなかった。

 彼は私から放たれる底知れぬ圧を本能で警戒し、決して不用意に踏み込もうとはせず、一定の距離を保ったまま油断なく構えている。

 

 私はオサレな笑みを浮かべ、構えすら取らずに静かに口を開いた。

 

「……間合いが意味を持つのは対等の力を持つ者同士の戦いだけだよ。私と君の間には間合いなど何の意味もない」

 

 その言葉の直後。

 私の身体はブレるように消失し――次の瞬間には、アルベルトの巨体の真正面へと幻影のように滑り込んでいた。

 

「……!?」

 

 驚愕に見開かれたアルベルトの視界。

 その巨大な胸板に右手の平をそっと添え、私は冷酷に告げる。

 

「ほら、こうすれば今すぐにでも、心臓に手が届きそうだ」

 

 一切の力みがない、完璧な脱力状態から放たれた右の掌底が、巨漢の鳩尾を正確に撃ち抜いた。

 

 打撃音すら鳴らない、内部を直接破壊するような一撃。

 

 アルベルトの巨体は一瞬だけビクンと跳ね、そのまま糸が切れた大木のようにマットへと崩れ落ちた。

 

(何言ってんの俺!? いや、これ黒崎一護に言ってたやつじゃん!! 勝てたからいいけども!! ……って、やばっ! ちょっと力入れすぎた!? 大丈夫かなアルベルトくん!?)

 

 息をするように極上のオサレ空間を演出してしまった自分に、内心で全力のツッコミを入れ、予想以上の威力がモロに入ってしまったことに内心で滝のような冷や汗を流しつつ……私はあくまで涼しい顔で、絶対強者の余裕を崩さず静かに立ち尽くす。

 

「……そこまで! 勝者、Aクラス・藍染!」

 

 審判の声が体育館に響き渡り、土壇場でAクラスが星を五分に戻してみせた。 

 

《Aクラス2勝:Cクラス2勝》

 

「第五試合。残った選手による最終戦となる」

 

 ついに、2勝2敗で迎えた運命の最終試合。

 自動的に選出されたのは、Aクラスの『神崎』と、Cクラスの『石崎』の対決だった。

 

 体育館のコートでは、気合い十分の石崎と、静かに構える神崎が対峙していた。

 

「俺は絶対に負けねえぜ! 龍園さんのためにも、Cクラスの意地を見せてやる!」

 

 闘志を剥き出しにして吠える石崎に対し、神崎は冷静に前髪をスッと払って口を開いた。

 

「……奇遇だな。俺もまた、我々が紡いできた『光の軌跡』を守るため、君の放つ濁った暴力をここで浄化するつもりだ」

 

「は……?」

 

 石崎は訝しげに眉をひそめた。

 

(なんだこいつ。……そういや、時任の野郎も混合合宿以降、変な喋り方になってるが……藍染のやつ、催眠術でも使ってんのか?) 

 

 石崎が内心で至極真っ当なツッコミを入れた直後、試合開始の合図が鳴り響いた。

 

「うおおおおっ!!」 

 

 石崎は実戦で培った荒々しい突進と、力任せの重い連撃で神崎に襲い掛かる。だが、神崎は藍染直伝の無駄のないステップと脱力を意識した防御技術で、その猛攻を紙一重で完璧に捌き切ってみせた。

 

「くっそ! ちょこまかと!」

 

 空を切った石崎の隙を突き、神崎は冷静かつ的確なカウンターを打ち込んでいく。

 

 しかし、石崎も持ち前のタフさと根性で決定打を許さず、強引に距離を詰めて泥臭い打撃を返し始めた。藍染仕込みの洗練された技術と、実戦で鍛え上げられた野性的な暴力。両者一歩も譲らぬ大接戦となり、息を呑むような激しい攻防がコート上で繰り広げられた。

 

 やがて時間切れのブザーが鳴り響き、勝負は判定までもつれ込んだ。

 

 そして――審判の旗は、有効打で上回った神崎へと上がった。

 

「……良い闘争だった。だが、我々の歩む『光の軌跡』は、ここで途切れることはない」

 

 息を切らしながらも、膝をついた石崎を見下ろして静かに言い放つ神崎。

 

 モニター越しにその姿を見守っていた一之瀬は、歓喜の表情を浮かべながらも内心で盛大に突っ込んだ。

 

(神崎くん!! また変な喋り方になってるけど……勝ってくれた!!)

 

 同時刻、固唾を飲んで試合の行方を見守っていたAクラスの教室では、見事に勝利を掴み取った神崎の雄姿に、地鳴りのような大歓声が爆発した。

 

《Aクラス3勝:Cクラス2勝》

 

 これにより、七種目目の空手はAクラスの勝利となり、学年末特別試験全体の勝敗も完全に決した。 

 

【最終結果:Aクラス4勝/Cクラス3勝】

 

 司令塔ルームで結果を見た一之瀬は、安堵の涙を浮かべてその場にへたり込んだ。金田は悔しそうに拳を握り締め、深く頭を垂れた。

 

 ――同日、全ての試験が終了した後。

 学校の掲示板には、Bクラス対Dクラスの結果も開示されていた。

 

【最終結果:Bクラス4勝/Dクラス3勝】

 

 綾小路を司令塔に据え、一芸に秀でた特化型人材で挑んだDクラスだったが、坂柳有栖の完璧な統率と総合力を前に、あと一歩及ばず敗北を喫したようだ。

 

 負け越したDクラスの司令塔である綾小路は、これにより退学ペナルティの身代わりとしてプロテクトポイントを消費することになる。

 

(せっかく清隆にプロテクトポイントをあげたのに、速攻で無くなってんじゃん!! 坂柳のやつ、『綾小路くんを守るため』とか言ってたのに、結局自分で剥がすのかよ!!いや真剣勝負だから仕方がないけども!!)

 

 私は内心で激しいツッコミを入れつつも、すぐに冷静さを取り戻して思考を巡らせる。

 

(……しかし、いくら清隆といえど、根本的なクラスの戦力差を完全に覆すことはできなかったか。Bクラスは生徒個人の能力が高い上に、彼らを統率する坂柳は間違いなく天才だからな)

 

 これにより、各クラスのクラスポイントの変動が確定した。

 

【三学期終了時・クラスポイント】

Aクラス(一之瀬):1378cp

Bクラス(坂柳) :1155cp

Cクラス(龍園) : 506cp

Dクラス(堀北) : 116cp

 

 絶対的な首位を維持し続けるAクラス。

 それを盤石の体制で猛追するBクラス。

 敗北を味わいながらも再起を誓うCクラス。

 そして、最底辺へと沈み込むDクラス。

 

 様々な思惑と理不尽が交錯した波乱の一年目は、こうして絶対的な『格差』を残したまま、静かに幕を下ろしたのだった。

 

 

 

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