いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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七十七話

 OAAという新システムがもたらした衝撃の余韻が冷めやらぬ中、教壇に立つ星之宮先生は、手に持っていたタブレットをトントンと指先で叩いた。

 

「はーい、みんな、静かにー。OAAの説明はこれで終わりだけど、実はもう一つ、すっごく大事な発表があるのよー」

 

 その言葉に、教室の空気が再びピリッと引き締まる。

 

「今年度最初の『特別試験』について、今から説明しちゃいまーす!」

 

 星之宮先生の明るい声とは裏腹に、クラスメイトたちの顔に一気に緊張が走った。

 

「今回の試験の名前は、『パートナー筆記試験』! 簡単に言うと、一年生と二年生が二人一組でペアを組んで、そのペアの合計点で競い合うっていう、学年を超えたビッグイベントなの!」

 

 先生はホワイトボードに、タブレットから試験のルールの詳細を映し出した。

 

【パートナー筆記試験・基本ルール】

 

ペアリング: 一年生の生徒と二年生の生徒が二人でペアを組み、ペアの合計点で競う。

 

申請方法: ペアの申請は『OAA』を使用する。希望の生徒に一日一度だけ申請することが可能。

 

受諾と拒否: 申請が受諾された場合はペア成立。されなかった場合は、翌日24時に再申請が可能になる。

 

解除不可: 一度受諾してペアが成立した場合、その後如何なる理由があろうともペアを解除することは出来ない。

 

ペアの秘匿性: パートナーが確定した両名は、翌日の朝8時からOAAで『パートナー確定済み』かどうかを確認できるようになり、そこから新たな申請を受け付けることは出来なくなる。ただし、『誰とパートナーを組んだか』は表示されない。(※24時から8時の間に、すでにパートナー決定済みの相手に申請を送ること自体は可能)

 

未成立の措置: 試験当日までペアを組み切れなかった場合、当日の朝8時にランダムで相手が選ばれ、総合点から5%の点数が割り引かれる。

 

人数差の調整: 現在、一年生より二年生の方が二名少ないため、ペアが組めなかった一年生は、自身の点数を二倍にした上で5%割り引いた点数となる。

 

【試験日程とテスト内容】

日程: 4月12日ペア登録受付開始。試験本番は4月下旬。5月1日に結果発表。

 

テスト内容: 五教科、一科目100点の合計500点満点。

 

【報酬】

個人報酬: 上位五組のペアに10万プライベートポイント。上位三割のペアに1万プライベートポイント。

 

クラス報酬: 一位のクラスは50クラスポイント、二位は30、三位は10、四位は0のクラスポイントを得る。

 

【ペナルティ】

二年生: ペアの合計点数が『500点以下』の場合、退学処分。

 

一年生: ペアの合計点数が『500点以下』の場合、三ヶ月間プライベートポイントの振込が停止される。

 

不正行為: 点数操作(意図的に問題を間違える、第三者に低い点数を強要するなど)が発覚した場合は即退学処分。

 

「た、退学……!?」

 

「合計点数が、500点以下で……!?」

 

(……なるほど。500点『未満』ではなく、500点『以下』、か)

 

 私は一人、静かに思考を巡らせていた。

 

(清隆を退学させるために送り込まれた刺客……そいつが一年生の中に潜んでいるならば、この試験のルールはあまりにも露骨だ。仮に清隆が全教科満点の500点を叩き出したとしても、ペアになった一年生が意図的に『0点』を取れば、合計点数はピッタリ『500点』。……つまり、清隆は退学になる。間違いなく、月城の思惑がこのルールにガッツリ反映されてるな。……まあ清隆ならば問題ないだろう)

 

「あーっ、みんな安心してね〜! 確かに退学のペナルティはあるし、今回の試験は『過去最高の難易度』になる予定なんだけど……それはあくまで『100点満点を狙う場合のみ』なのよ〜!」

 

 そう言って、先生は新たに『学力別の予測点数表』をホワイトボードに表示した。

 

学力E:150〜200点

学力D:200〜250点

学力C:250〜300点

学力B:350点前後

学力A:400点前後

 

「こんな感じで、学力がちょっと不安な生徒でもある程度はちゃんと点数が取れるように、簡単な問題もいーっぱい混ざってるからね! 普通に勉強して、普通にペアを組めば、500点以下になることなんてそうそうないから! ――でも、今回の試験はほんっとーに難しいから、さすがの藍染くんでも全教科100点満点は取れないかもね〜!」

 

 先生が私に向かって、からかうようにウインクを飛ばしてきた。

 

 その瞬間、私の口が勝手に動いてしまった。

 

「――時の砂を逆さに落とそうと足掻く姿はひどく滑稽だね。枯れゆく花が無理に蕾の仮面を被ろうとも、その年輪は隠しきれないよ、星之宮」

 

(ああああっ!! 担任の先生に向かって煽り返すなよ!!俺の口ィィィ!! お願いだから伝わらないで……!)

 

 私が内心で激しく頭を抱え、冷や汗を流していると――ひよりがニコッと花が咲くような満面の笑みを浮かべた。

 

「『いい歳してぶりっ子するのは見ていて痛々しいですよ、星之宮先生』と言っています!」

 

(ひよりさぁぁぁん!!!? なんでぇぇぇ!? なんでそこで天使の笑顔で完璧に翻訳しちゃうのおぉぉ!? 今のは絶対に翻訳しちゃダメなやつだろおおぉぉ!!?)

 

「…………っ! あ、藍染くぅ〜ん……? 先生、これでもまだギリ20代なんだけどなぁ〜?」

 

 星之宮先生は笑顔のままだったが、そのこめかみにはピキッと分かりやすい青筋が浮かび上がっていた。

 

(あああ先生が完全にキレてるぅぅ! 違うんです先生! 俺はただの反射で口が勝手に動いただけなんですごめんなさいごめんなさい!!)

 

 私が内心で高速ジャンピング土下座をかまし、教室に謎の緊張感が走る中。

 

「あ、あははは……! み、みんな、先生の言う通りだよ!」

 

 この妙にピリついた空気を察知した一之瀬が、慌てて立ち上がり、持ち前の笑顔でクラス全員を見渡して見事にフォローに入った。

 

「ちゃんと対策をして、みんなで協力して一年生と良いペアを組めれば、退学なんて絶対に避けられる。今年も一年間、誰一人欠けることなく乗り越えようね!」

 

 一之瀬の力強い言葉に、クラスメイトたちは大きく頷き、不安の波はスッと引いていった。

 

 

 昼休み。

 春の柔らかな日差しが差し込む二年Aクラスの教室で、私、ひより、一之瀬、そして神崎の四人は、机を寄せて一緒に昼食を取っていた。

 

「もうっ、藍染くん! いくらなんでも、星之宮先生にあんなこと言ったらダメだよ!」

 

 手作りのお弁当箱を開けながら、一之瀬が少し頬を膨らませて私に注意してきた。

 

 その横で、先ほど無慈悲な翻訳をかました張本人のひよりは、悪びれる様子もなく「ふふっ」と楽しそうに笑っている。

 

(ごめんってぇぇぇ! 俺だって言いたくて言ったわけじゃないんだよ! 煽られたら口が勝手に動いて、自動的に煽り返しちゃうんだよォォォ!)

 

 内心では血の涙を流しながら平謝りしつつも、私の絶対強者としての外面が崩れることはない。

 

 私はただ、フッと余裕に満ちた不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「――真実とは、時に残酷なものさ。私が紡ぐ言葉に偽りなど存在しない」

 

「あはは……まあ、藍染くんらしいけどさ」

 

 一之瀬は呆れたように苦笑すると、すぐに真剣な表情へと切り替わり、本題を切り出した。

 

「ねえ、今回の特別試験のことなんだけど……」

 

「退学者を出さない、それに一年生にもペナルティを与えないためにも……今日の放課後、一年生全員にOAAで全体メッセージを送って、今回の特別試験が不安な生徒を体育館に集めて『交流会』を開こうと思うの。どうかな?」

 

「一之瀬らしい提案だな」

 

 神崎が箸を止め、冷静な口調で応じた。

 

「だが、この試験は『学力評価の高い一年生をどれだけうちのクラスに取り込めるか』で勝敗が決まる。うちのクラスの豊富な資金力と『Aクラス』というブランド力を使って一年生の有力な生徒と確実に優秀なペアを組むべきではないか?」

 

 いかにも神崎らしい、勝利と効率を最優先した合理的な意見だ。

 

「確かに、勝ちに行くならそれが一番確実だね」

 

 一之瀬は神崎の意見を肯定しつつも、自らの考えを真っ直ぐに伝えた。

 

「だけど、今回の試験は最下位になってもクラスポイントのマイナスはないし、一位を取っても50クラスポイントしか増えない。それなら、ここで貴重なクラスの資金を無理に使わずに、一年生たちと純粋な『信頼関係』を結ぶ方が、今後のためにも大きなメリットがあるかな、と思ったの。それに、救済を優先してペアを組んだとしても、私たちAクラスの地力なら三位……あわよくば二位は十分に狙えると思う」

 

「……お二人の意見は、どちらも一理ありますね」

 

 お茶の入った水筒を両手で包みながら、ひよりが静かに口を挟んだ。

 

「ですが、おそらくCクラスの龍園くんとDクラスの堀北さんは、今年度から『同盟』を組んでくるでしょう。そうなると、Aクラスが最下位になる可能性も十分にあり得ます」

 

「同盟……だと……?」

 

 神崎がハッとして目を見開く。

 

「はい」

 

 ひよりはコクリと頷いた。

 

「これだけクラスポイントの差が開いていると、単独ではAクラスやBクラスに勝てないことは、龍園くんも堀北さんも痛いほど分かっているはずです。今回の試験で具体的にどう動いてくるかまでは読めませんが……ある程度の警戒は必要かと思います」

 

(……ひよりの言う通りだ。間違いなく、あの二人は同盟を組んでくる。いや、春休みのうちにすでに同盟を結んでいてもおかしくはない)

 

 私はサンドイッチをオサレに頬張りながら、内心で高速思考を巡らせた。

 

(一之瀬と神崎の意見はどちらも正しい。勝ちに行くなら、俺たちの圧倒的な資金力で優秀な一年生を買収すれば間違いなく勝てる。だが……50クラスポイントのために大きく資金を削るのは、どう考えても割に合わない。おそらく、去年の無人島試験や船上試験のように、夏にはまた大きくクラスポイントが動く過酷な試験が控えているはずだ。ここは一之瀬の言う通り、資金を温存しつつ一年生との信頼関係構築に努めるのがベストだな)

 

 考えをまとめた私は、ゆっくりと立ち上がり、神崎と一之瀬を見下ろして傲慢に微笑んだ。

 

「――流麗なる盤上の遊戯において、目先の金貨に目を奪われる者は、やがて足元の泥濘に沈む。真の王が築くべきは、一時的な傭兵の力ではなく、揺るぎなき城壁……すなわち、見えざる絆という名の絶対の礎だ。君の導きは、まさにその王道を行くものだよ、一之瀬」

 

 私がオサレに言い放つと、すかさず隣のひよりがパァッと明るい笑顔で口を開いた。

 

「『神崎くんの意見もわかりますが、50クラスポイントのために資金を削るのはもったいないです。夏にはもっとポイントが動く大きな試験があるはずなので、ここは資金を温存して、帆波ちゃんの言う通り一年生との信頼関係を築くのがベストだと思います』と言っています!」

 

(ひよりぃぃぃぃっ!! マジで翻訳が完璧すぎる!! 俺の言いたいこと全部伝わってるし、笑顔が天使すぎて午後からの授業も余裕で頑張れそうだ!!)

 

 私の激しい内心の歓喜は完全に隠蔽されたまま、ひよりの分かりやすい翻訳を聞いた神崎は、ふっと息を吐いて頷いた。

 

「……なるほど。確かに、去年も夏休みに大きくポイントが動いたな。藍染の言う通り、ここで無駄に資金を削るべきではない、か」

 

(……だが、マネーゲームに『参戦するフリ』だけはしておくか?)

 

 私はさらに思考を深める。

 

(Aクラスが多額の資金を投じてマネーゲームに参戦するという『ブラフ』を流せば、Bクラスの坂柳を牽制し、資金を無駄に削らせることができるかもしれない。……いや、坂柳ならそれくらいすぐに気付くか。ここで余計な策を弄して、一之瀬の強みである信頼を揺るがすような真似はやめておこう)

 

「フッ……まあ、そういうことだ。采配は君に任せよう、一之瀬」

 

 私が鷹揚に頷くと、一之瀬はパァッと顔を輝かせた。

 

「ありがとう、藍染くん! ひよりちゃんも神崎くんも、クラスの勝利のために真剣に考えてくれてありがとうね!」

 

 一之瀬は嬉しそうに微笑むと、すぐさま自らの端末を取り出した。

 

「善は急げだね! 早速、放課後に体育館の使用ができるか、生徒会と先生に確認しておくね!」

 

 新たなる試験の幕開け。

 見えざる刺客の影が蠢き、各クラスの思惑が交差する中、私たちは次なる戦いに向けて、静かに、しかし確実に歩みを進め始めていた。

 

 

 ――そして、放課後。

 体育館を舞台に、一年生と二年生が入り乱れる『交流会』の幕が上がった。

 部活動でどうしても来られないクラスメイトを除き、二年生Aクラスはほぼ全員が参加している。そして私たちの呼びかけに応えるように、一年生たちもぞろぞろと体育館へ集まってきた。

 

 私は手元の端末を開き、OAAのデータと照らし合わせながら、集まってくる一年生たちを静かに観察した。

 

(まだ全員のデータを確認できてないけど、やはり学力評価の高い生徒は少ないな……。ん?)

 

 ふと違和感に気づき、私は視線を巡らせる。

 

(一年Dクラスの生徒が、一人も来ていない……?)

 

 まさか、入学して間もないこの時期に、すでにクラスを完全に掌握し、統制を取っている奴がいるというのか?

 

 一瞬の疑念が頭を過ったが、すぐに思考を切り替える。

 

(まあ、今回の作戦には関係ないか。ここに来た一年生たちと交流して信頼関係を築き、クラスの資金を削ることなく試験を乗り越える。その目的さえ果たせればそれでいい)

 

「惣右介くん。一年Dクラスの生徒さん、誰もいらっしゃいませんね」

 

 隣に立っていたひよりが、私と同じことに気がついたようで、そっと耳打ちしてきた。

 

(おお! さすがひより! よく見ているね!!)

 

 内心で喝采を上げつつも、私はあくまで涼やかな笑みを浮かべ、彼女を見下ろす。

 

「ああ。些細な違和感から真実の輪郭を捉える……君のその慧眼、実に素晴らしいよ。美しい景色の中にある一輪の狂い咲きを見逃さない、その思慮深さを私は高く評価している」

 

 オサレな褒め言葉を紡ぐと、ひよりは「ふふっ」と少し照れたように、けれど嬉しそうに微笑んだ。

 

「一年生の皆さん、集まってくれてありがとう! 今日は学年を越えて、みんなで楽しく交流できたらって思ってます!」

 

 一之瀬が持ち前の柔らかな雰囲気と笑顔で挨拶をし、交流会が本格的にスタートした。

 

 Aクラスの生徒たちは、総じてコミュニケーション能力が高い。彼らは萎縮しがちな一年生たちに積極的に話しかけ、あっという間に打ち解けていく。

 

(うちのクラスのみんなは本当に凄いな……!)

 

 私は和やかな空気に包まれる体育館の光景を眺めながら、心底感心していた。

 

 そんな中、一年生たちの視線が時折、私の方へ向けられていることに気がついた。

 

「あれが、藍染先輩……」

 

「一年生から生徒会副会長なんだろ……?」

 

「OAAの数値、学力と身体能力100!?……やばすぎでしょ……!」

 

 ざわざわと、畏怖の入り混じった囁き声が波紋のように広がっていく。

 そこへ、一之瀬が軽やかな足取りで近づいてきた。

 

「みんな、聞いて聞いて! うちのクラスの藍染くんは本当に凄いんだよ! 入学して一ヶ月で生徒会にスカウトされたし、今までのテストは全部100点満点なの!」

 

 一之瀬は、私の功績を一年生たちに向かって自慢げに語り始めた。

 

(いやぁ、そんな風に言われると照れるなぁ……)

 

 内心で頭を掻きつつも、私は一之瀬の意図を察する。

 

(だが、一之瀬はさすがだな。一年生から見たら、俺から無意識に滲み出るこの『魔王オーラ』はさぞ怖いだろう。だからこそ、俺の功績をわかりやすく語ることで、恐怖を尊敬に変換し、壁を取り払おうとしてくれているんだな)

 

「そうなんです。惣右介くんは、とっても凄いんですよっ!」

 

 さらに、ひよりまでが誇らしげな笑顔で追撃をかける。

 

 私はこの交流会において、一年生たちを威圧して怖がらせないよう、極力喋らないつもりでいた。

 

 だが、信頼する仲間たちからこんなにも称賛され、一年生たちの羨望の眼差しを一身に浴びてしまったことで……つい、舞い上がってしまった。

 

 固く閉じているはずの口が、滑らかに言葉を紡ぎ始める。

 

「――光栄だね。だが、私が見据えているのは常に、遥か高みにある景色だけだ」

 

 私はゆっくりと一歩を踏み出し、静まり返る一年生たちを見渡した。

 

「君たちも、己の限界など憂う必要はない。ただ、私について来ればいい。私の往く道こそが、揺るぎなき真実なのだから。……さあ、行こうか。理の涯へ」

 

(やっちまったぁぁぁ!! 黙ってようと思ったのに!! 一年生たち、絶対怖がっちゃうよ!!)

 

 私の内心は大パニックだった。

 

 体育館に、水を打ったような静寂が訪れる。一年生たちはビクッと肩を震わせ、言葉を失っていた。

 

 無理もない。私の底知れぬ存在感と圧倒的で傲慢な言葉の圧力に、彼らは完全に呑まれていた。畏怖と、そして強烈な憧れを抱きながら。

 

 張り詰めた空気を打ち破ったのは、ひよりのふわりとした笑い声だった。

 

「ふふっ。惣右介くんはああ言っていますけれど、『一緒に頑張って、みんなで一番上を目指しましょうね』って意味なんですよ。頼りになる先輩ですから、なんでも相談してくださいね」

 

 ひよりの、天使のような完璧な翻訳が響き渡る。

 それを聞いた一年生たちの顔に、パァッと安堵と希望の光が差した。

 

「はいっ! 藍染先輩、よろしくお願いします!!」

 

「俺、先輩についていきます!!」

 

(ひよりぃぃぃ! 最高の翻訳ありがとうぅぅ!!)

 

 私は内心で平伏しながら感涙に咽んだ。

 

「あはは……藍染くんは少し表現が独特だけど、本当に仲間想いで優しいから安心してね!」

 

 一之瀬も苦笑いを浮かべつつ、見事に場をまとめてくれた。彼女たちのフォローのおかげで、交流会はさらに活気を帯び、その場で何組かのペアが順調に成立していった。

 

(月城の狙いは清隆なのだろうが……目的を果たすために、邪魔になり得る俺を排除しようと、一年生の中に刺客を紛れ込ませて当ててくる可能性も否定できない。ペア相手は、慎重に見極めなければ――)

 

 和やかな喧騒の中で一人、静かに思考を研ぎ澄ませていた私の目の前に、一人の男子生徒が静かに、しかし確かな熱を帯びた足取りで進み出てきた。

 

「――藍染先輩。私は、先ほどの貴方の言葉と圧倒的な存在感に心底感服致しました。貴方が歩む大義の道……どうか、私にも付き従わせてください。私とペアを組んでいただけないでしょうか」

 

 彼はまるで絶対の神でも崇めるような、静かで狂信的な熱を帯びた瞳で私を見つめ、深々と頭を下げ傅いてきたのだ。

 

 私は彼から提示されたOAAの画面へ、静かに視線を落とす。

 

【一年Aクラス:藤泉 要(とうせん かなめ)】

 ・学力    A(91)

 ・身体能力  A(88)

 ・機転思考力 D+(38)

 ・社会貢献性 B+(77)

 ・総合力   B(73)

 

(い、いや名前のニアピン具合エグッ!?響きが完全に『東仙要』じゃん!! 見た目こそ全然違うけど、なにこの狂信的な忠誠心と敬意に満ちた雰囲気! 学力もA評価で申し分ないけど……いやそれ以上に、こいつ絶対に俺のこと裏切らないだろ!! むしろこいつに裏切られて退学になるなら、それはもう俺も清々しく諦めがつくわ!!)

 

 内心で盛大にツッコミを入れつつも、私は表情をピクリとも動かさず、静かに彼を見下ろした。

 

(月城の罠を警戒して疑心暗鬼になっていたが……この圧倒的なシンクロ率を誇る名前と真っ直ぐな眼差し、俺にはどうしても断れない! 信じよう、彼を!)

 

 私はゆっくりと手を差し伸べ、藤泉の肩にポンと置いた。

 

「……いいだろう。君のその忠義、私が受け止めよう。私の歩む道に、君の力は不可欠だ」

 

「!! ……ははっ。光栄の極みに存じます、藍染先輩」

 

 藤泉は感極まったように声を震わせ、さらに深く頭を垂れた。

 

(よし、とりあえず無事にペアは確保できたぞ。……それにしても、まさか後輩に東仙(みたいな奴)ができるなんてな)

 

 純粋すぎる新たなる腹心(?)の誕生に内心でホクホクしながら、私はその足で会場を取り仕切っていた一之瀬の元へと向かった。

 

「一之瀬。私は一年Aクラスの藤泉と組むことにしたよ」

 

「あ、藍染くん! うん、ペア成立おめでとう!」

 

「彼の持つ優れた叡智と私が交われば、天の頂に立つことは必然の理だ。その勝利によってもたらされる果実は、全て我らが玉座の礎として還元しよう。この盤面における我々の絶対的優位を、より不可逆なものとするためにね」

 

 私がオサレにそう告げると、隣にいたひよりがニコリと微笑んで一之瀬に向き直った。 

 

「『学力Aの彼と私のペアなら間違いなく個人トップを狙えるので、個人報酬の十万プライベートポイントは全てクラスの貯金に回します。私たちの優位性をさらに強固にするためです』とのことです!」

 

 ひよりの完璧な翻訳を聞き、一之瀬はパァッと顔を輝かせた。

 

「えっ、本当にいいの!? ありがとう、藍染くん!すっごく助かるよ!」

 

 月城の罠への警戒を抱きつつも、私は『藤泉要』という名の最高に頼もしい後輩を見出し、この特別試験における最初の布石を完璧に打ち終えたのだった。

 

 

 

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