いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
六月中旬。
梅雨の湿気が窓ガラスを曇らせる頃、高度育成高等学校の各教室には、来る夏休みの凄惨な戦いを予感させる重苦しい空気が漂っていた。
二年Aクラスのホームルーム。教壇に立つ担任の星之宮先生の口から、次なる特別試験――『無人島サバイバル』の通達と詳細なルール説明が行われていた。
今年度から新しく導入された真新しいホワイトボードには、試験の全体スケジュールがマーカーで書き出されている。
スケジュール
・七月十九日:乗船、ルールの最終説明
・七月二十日:特別試験開始
・八月三日:特別試験終了。船内にて順位発表、それに合わせて報酬を支給する
・八月四日:船内クルージングで自由行動
・八月十一日:港に到着。学校へ戻り解散
「今回の特別試験は、三学年合同で行われる無人島でのサバイバルよ。期間はなんと二週間! みんな、気合入れてね〜!」
星之宮先生の軽いトーンとは裏腹に、モニターに映し出された詳細なルールの数々は、極めて複雑かつ過酷なものだった。
ルール
・無人島では、同学年の生徒で最大六人の大グループを組んで二週間の試験が行われる。
・乗船の三日前までに、最大三人(一年生に限り四人)の小グループを組んでおくことが出来る。
・男女混合で構成する場合は、女子の比率を三分の二以上としなければならない
・試験開始後に小グループが合わさって大グループを作ることが出来るようになる。
・四人以上の大グループでは女子の割合が五割以上としなければならない
・全員がリタイア(病欠含む)すれば下位が確定するが、誰かがリタイアしても同グループの誰かが残っていれば続行可能
そして、生徒たちの目の色が最も変わったのは、続く報酬とペナルティの項目だった。
報酬
・一位グループ:300クラスポイント、106万プライベートポイント、一プロテクトポイント
・二位グループ:200クラスポイント、56万プライベートポイント
・三位グループ:100クラスポイント、31万プライベートポイント
・上位50%グループ:6万プライベートポイント
・上位70%グループ:1万プライベートポイント
ペナルティ
・上位報酬のクラスポイントは下位三グループの学年全体から均等に徴収。
・下位が同学年の場合のみ、下位三グループのクラスから均等に徴収。
・成績下位五グループかつ指定のボーダーラインを下回ったグループは全員退学。退学取り消しにはグループ人数で六百万プライベートポイントを頭割り。ただし試験開始後はプライベートポイントの譲渡ができない
「――以上が、基本的なルールよ。どう? なかなかハードでしょ?」
黒板を背にした星之宮先生は、少しだけ声のトーンを落として言葉を続けた。
「今回の無人島サバイバルは、みんなが持っている『すべての能力』が総合的に問われる、本当に厳しい試験になっているわ」
星之宮先生が言葉を切ると、教室内にざわめきが広がった。
退学という重いペナルティ、見知らぬ無人島でのサバイバル、そして複雑なグループ結成の条件。誰もが少し不安そうな表情を見せてはいるが――一之瀬をはじめとするAクラスの生徒たちは、誰一人としてパニックを起こすことなく、真剣な眼差しでルールを噛み砕き、試験についての対策や作戦を考えている様子だった。
「あ、でも安心してね!」
不安を少しでも和らげるように、星之宮先生が明るい声を張り上げた。
「安全面や衛生面は学校側が保証します! 無人島にも仮設シャワーや仮設トイレもかなりの数を設置することになっているのと、本部がある拠点には大浴場もあるからね!」
(ほう……)
私は口角をわずかに上げた。
生徒会を通して要望した『衛生面の充実』と、下位グループが即退学になるのを防ぐための『ボーダーラインの設定』という救済措置。どうやら、こちらの打診はしっかりとルールに反映されているようだ。
(無人島での試験期間の短縮という要望は通らなかったようだが……まあ、学校側を相手にこれだけの要望が通ったのなら仕方がないな。十分上出来だ)
「それから、今回の試験を大きく左右する『カード』について説明するわね!」
モニターの表示が切り替わり、様々な効力を持ったアイテムについての説明が映し出された。一人一枚、ランダムで配られるというそのカードには、以下の種類が存在した。
先行:試験開始時に使えるポイントが1.5倍される
追加:所有者の得るプライベートポイント報酬を2倍にする
半減:ペナルティ時に支払うプライベートポイントを半減させる(所有者のみ反映)
便乗:試験開始時に指定したグループのプライベートポイント報酬の半分を追加で得る。指定したグループと自身が合流した場合効果は消滅する
保険:試験中に体調不良で失格した際、所有者は一日だけ回復の猶予を得る。不正による失格などは無効とする
増員:このカードを所有する生徒は七人目としてグループに存在できる。本試験開始後から効果が発揮され、男女の割合にも左右されない。一学年に一枚のみ(特殊カード)
無効:ペナルティ時に支払うプライベートポイントをゼロにする(所有者のみ反映)。一学年に一枚のみ(特殊カード)
試練:特別試験のクラスポイント報酬を一点五倍にする権利を得る。ただし上位三十%に入れなかった場合グループはペナルティを受ける。また増加分の報酬は学校側が補填するものとする。一学年に一枚のみ(特殊カード)
「このカードはね、明日の朝、みんなのOAAに表示されるようになってて、誰が何持ってるかも閲覧できるよ〜!」
星之宮先生は、マーカーペンでトントンとホワイトボードを叩きながら重要なルールを付け加えた。
「それに、カードは基本、特殊問わず同学年であればトレードが可能になってるよ! ただし同じクラス内でのトレードは不可能なのと、一度所有者を変更すると再トレードは不可能になるからね! 特別試験開始前までならトレードできるようになってるよ! それから同じカードを持っていても効果は重複しないからね!」
(……なるほど)
星之宮先生の説明を聞きながら、私は静かに思考を巡らせる。
同学年・他クラス間での譲渡やトレードが可能であり、効果は重複しない。
(となると、同じ生徒が異なる種類のカードを『すべて』所有することも不可能ではないのか。)
「現段階で説明できるのはここまでかなぁ。無人島での詳細なルールに関しては、試験の直前に公開されることになってるからね〜。今日説明したグループ作りやカードのルールについては、お昼までに端末で確認できるようになるから、各自しっかりチェックしておくこと! それじゃ、今日のホームルームはここまで!」
星之宮先生の号令で、重苦しくも熱を帯びたホームルームが終了した。
解散の空気が流れる中、すぐに一之瀬が立ち上がり、クラス全員に向かって澄んだ声を響かせた。
「みんな! とりあえず放課後に、みんなで集まって話し合おう!」
「賛成!」
「おう、そうしようぜ!」
一之瀬の提案に、Aクラスの生徒たちは迷うことなく力強く了承の返事をした。
未知の無人島サバイバルに向けた、熱い前哨戦が今、静かに幕を開けようとしていた。
放課後。
宣言通り、Aクラスの教室ではクラス全員が残っての作戦会議が開かれていた。
教壇には一之瀬が立ち、その横では白波がマーカーを手に持ち、ホワイトボードに意見を書き込んでいく書記係を務めている。
「みんな、残ってくれてありがとう。まずはルールの確認と、大まかな方針をすり合わせていきたいと思うんだけど……一番警戒しなくちゃいけないのは、やっぱり下位の五グループになってしまった時のペナルティだね」
一之瀬の言葉に、クラス中が真剣な表情で頷く。
「ああ」
神崎が腕を組みながら、冷静なトーンで口を開いた。
「退学になるかどうかの『学校側の定めるボーダーライン』がどこに設定されるか分からない以上、我々はそもそも下位五グループに沈むこと自体を絶対に避ける必要がある」
「うん、そうだね。それに、下位のグループに入ってしまった学年から、上位のグループのクラスポイントが徴収されるルールがある以上、Aクラスだけじゃなくて、二年生の学年全体で下位を避けるように動く必要があると思うんだ」
「となると、今回は二年生全体での協力も視野に入れる、ということですか?」
浜口が眼鏡の位置を直しながら問いかける。
「それが出来たら理想なんだけど……」
一之瀬が少し困ったように眉を下げる。
すると、私の隣の席に座るひよりが、静かな声で現実的な意見を述べた。
「他のクラスからしても、上位のクラスポイント報酬は確実に欲しいはずです。全員がライバルである以上、安易な協力体制を敷くことは難しいでしょうね」
「うん。特にトップを走る私たちAクラスと、無条件で協力してくれるクラスは少ないと思うな」
上位を狙う精鋭グループに、Aクラスの生徒を招き入れて手柄を分け合うお人好しはいないだろう。
一之瀬の言葉に、神崎が同意するように頷いて引き継ぐ。
「ああ。だからこそ、まずは自クラスの足元を固めるべきだ。安全面や衛生面を保証してくれるとはいえ、二週間もの無人島生活だ。当然、環境の変化で体調を崩す生徒も出るだろう」
神崎が、全体を見渡しながら冷静な意見を重ねる。
「単独行動でリタイアになれば、その時点で下位が確定してしまう。少なくともうちのクラスからは、絶対に単独で参加する生徒が出ないようにグループを組むべきだな」
「そうだね! 最終的なグループ決めについては他クラスの動向もあるからまだすぐには決めない方がいいと思うけど、もしクラスの中で単独になりそうな子がいたら、絶対に声をかけ合って拾い上げてね!」
一之瀬が力強く呼びかけると、クラスメイトたちは頼もしく「了解!」と声を揃えた。
(……他クラスの動向、か)
私は静かに、内心で盤面を俯瞰していた。
(試験の全容はまだ見えないが……舞台が無人島であり、全ての能力が問われるならば、俺、清隆、南雲が中心となるグループが上位に入る可能性が高いだろうな)
清隆はCクラスとの同盟がある以上、間違いなく龍園と組むはずだ。それに総合力の高い南雲を中心とした三年生も強力なグループを組んでくるだろう。
では、二年Bクラスはどう動くか。
(もちろんBクラスも個人の能力が高く、決して油断できない相手ではある。だが、坂柳が身体能力の問われる試験で本領を発揮できない以上、この上位争いに割って入るグループをBクラス単独で組むのは厳しいだろう。……俺たちAクラスに協力を持ちかけてくる可能性も十分にあるな)
もしそうなった場合、こちらとしても悪い話ではない。
(ここでBクラスを突き放しすぎれば、後々危機感を抱いたB・C・Dクラスが結託し、『Aクラス包囲網』を敷かれるリスクが高まる。……それに、すぐ後ろにBクラスが迫っているという適度な緊張感が、クラスメイトたちの更なる成長にも繋がっているからな。それらを考慮すれば、条件次第ではBクラスと同盟を結ぶという選択肢は十分にありだ。……まあ、これについては混乱を避けるためにも、後で一之瀬たちにだけ伝えておくとしよう)
さて、この私自身のグループ編成だが。
(各グループに分かれての試験とはいえ、これまでの特別試験を振り返っても、結局のところクラスとしての連携や総合力が問われる場面は必ず訪れる。……そうなると、やはりひよりと同じグループを組むのが最適解だろうな)
チラリと、隣でニコニコと微笑んでいる愛らしい天使を盗み見る。
(無人島という特殊な環境下で、他のグループやクラスメイトへ指示を出す際、俺のポエムを即座に『翻訳』できる彼女の存在は戦略的に不可欠だ。……もっとも、純粋にひよりと同じグループになりたいという私情が多分に含まれていることは、否定しないが)
白波のマーカーの音が響く中、一之瀬が改めてクラス全体に向けて結論を告げる。
「それじゃあ、今日の会議のまとめね! まだ他クラスの動向が分からないから、今はまだすぐにはグループを固定しないでおこうと思うの。ただ、基本方針としては、体力的に不安な女子をしっかりフォローできる体制にしたいから、『男子一人、女子二人』の小グループをベースに組んでいくのがいいと思う」
一之瀬はそこまで言うと、少し申し訳なさそうに男子たちの方へ視線を向けた。
「そうなると人数的にどうしても男子が余っちゃうから、残った男子たちには『男子だけ』の小グループを組んでもらう必要が出てくるんだけど……お願いできるかな?」
「ああ。全体の底上げを図るならそれが一番確実だし、男だけのグループがあった方が機動力も活かせるからな」
「俺たちに任せてくれ! 力仕事ならいくらでも引き受けるぜ!」
神崎が冷静に頷き、柴田が力強く胸を叩いて快諾する。
(二週間にも及ぶ無人島でのサバイバル生活ともなれば、拠点の設営や食料調達など、確実に男手は必要になるだろうからな。理にかなった方針だ)
男子たちの頼もしい反応に、私も内心で深く同意する。
「ありがとう、みんな! それじゃあ方針としては、クラス全員で協力して『絶対に下位に沈まないようなグループ』を組むことと、上位報酬を狙う『勝ちに行くグループ』を編成すること。この二つを軸に動いていこう!」
未知なる無人島サバイバルという過酷な戦場に向けて、Aクラスは確かな団結と冷静な戦略をもって、その第一歩を踏み出したのだった。
教室での作戦会議を終えた後。
私は生徒会室へ向かい、南雲たちと共に日々の業務を迅速かつオサレに終わらせてから、自身の部屋へと帰宅した。
本日の夜は、私の部屋に一之瀬、神崎、そしてひよりが集まり、方針のすり合わせと詳細な作戦会議を行うことになっている。
「お待たせしました、惣右介くん。お野菜切れましたよ」
「ありがとう、ひより。とても美しい切り口だ。君の包丁さばきには、一切の迷いがないな」
「えへへ、ありがとうございます!」
会議を始める前に、まずは腹ごしらえだ。私とひよりは二人でキッチンに立ち、手際よく夕食の準備を進めていた。
(あああぁぁ……エプロン姿で楽しそうに料理を手伝ってくれるひより、最高に可愛すぎる……!!)
内心では嬉しさのあまり荒ぶる感情を抑えきれず、ひよりの微笑みを見るたびに甚大な癒しゲージを回復させていたが、外から見ればあくまで『完璧にエスコートする優雅な強者』の姿である。
出来上がった料理――彩り鮮やかな炒め物や、出汁の効いたスープなどをテーブルに並べると、ソファで待っていた一之瀬と神崎が目を輝かせた。
「わあ……! すごく美味しそう! 藍染くん、ひよりちゃん、作ってくれて本当にありがとう!」
「ああ。生徒会の業務で疲れているだろうに、すまないな。」
「――フッ。感謝など不要だ。君たちに、極上の活力を与えるのも天に立つ者としての務めだからね」
私がオサレに腕を組んでみせると、ひよりが「冷めないうちに食べましょう!」と微笑み、私たちはテーブルを囲んで夕食を取り始めた。
食事が進み、場が少し落ち着いたところで、自然と話題は無人島サバイバルの件へと移っていった。
「教室でも言ったように、今回の試験は下位に沈まないことが何より大事だね」
一之瀬が真剣な表情で切り出し、真っ直ぐに私を見た。
「やっぱり上位を狙って勝ちに行くなら、藍染くんを中心にグループを組むべきだと思うんだ」
「その通りだな」
神崎が頷きながら箸を置いた。
「OAAの総合力的には、俺と柴田と藍染で男子三人の小グループを作り、一之瀬、椎名、津辺の女子三人の小グループと、無人島本番で合流して大グループを結成するのが理想的じゃないか?」
神崎の提案に、一之瀬は少し考え込むように首を振った。
「うーん……でも、本番で希望通りに大グループを組めるかが確実じゃないよね。藍染くんが一番力を発揮できるのは、やっぱり隣にひよりちゃんがいる時だから……最初から藍染くんとひよりちゃんには同じ小グループでスタートしてもらった方がいいと思うの」
「……確かにそうだな。藍染の言葉を正確に理解し、指揮を円滑に回すには椎名の存在が不可欠だ」
神崎も、私の横でニコニコと微笑んでいるひよりを見て、深く納得したように頷いた。
「うん! だから、そこに私か、津辺ちゃん、初川さんあたりのOAAの総合力が高い女子を入れて、三人での小グループがいいんじゃないかなって思うんだ」
「なるほどな。ならば、俺と柴田がそれぞれ女子二人と小グループを作って、本番でそのどちらかが藍染たちのグループと合流して大グループを組む、ということか」
「うん、それが一番確実で強力な布陣になると思う!」
(俺たちAクラスだけで上位を狙うなら、確かにそれが最適解だ。……ただ、他クラスの動向も絡んでくるとなれば話は別だ)
私は紅茶の入ったカップを優雅に持ち上げ、静かに口を開いた。
「――我々だけで遥かなる頂を目指すのであれば、その陣形こそが至高だろう。だが……白き女王は、自らの玉座を守るため、不可侵の領域へ足を踏み入れようとするやもしれない」
オサレなポエムを空間に響かせると、ひよりはその真意を理解して「なるほど」と納得したように小さく頷き、それからパッと明るい顔で翻訳を被せてくる。
「『Aクラスとして上位を狙うなら、その編成が一番いいと思います。だけど、坂柳さんがこの試験に限り、AクラスとBクラスでの同盟を組もうと交渉に来る可能性がありますね』と言っています!」
ひよりの翻訳に、神崎が眉をひそめた。
「Bクラスが? だが、ここで同盟を組んで上位を分け合っても、俺たちとのクラスポイントの差は縮まらないぞ?」
「――彼我の戦力差を測れぬほど、彼女の眼は曇ってはいない。天にそびえる三つの絶対峰を前に、孤軍で挑む愚を犯しはしないだろう。……もっとも、自らの流血を厭わず、単騎で玉座へ挑む狂気を秘めているとすれば、その限りではないがね」
私がさらに鷹揚に告げると、ひよりがコクンと頷いて通訳を続ける。
「『坂柳さんなら、惣右介くんがいるグループ、綾小路くんと龍園くんの同盟、南雲先輩率いる三年の精鋭たち。この三つのグループに明確に勝ち目があるグループを、Bクラス単独では組めないことは理解しているはずですよ。……もちろん、それでもBクラス単独で勝負を挑んでくる可能性も、ゼロではありませんけどね』とのことです!」
一之瀬は少し考える素振りを見せた後、納得したように頷いた。
「藍染くんが同じグループにさえいれば、上位三位までに入る確率は飛躍的に高まるもんね」
ひよりが紅茶を一口飲み、冷静な分析を口にする。
「こちら側としても、今回でBクラスに差をつけすぎた場合、危機感を抱いた三クラスが結託して『Aクラス包囲網』を敷かれる危険性があります。それを未然に防ぐというメリットもありますが……」
「だが、突き放せる場面で確実に差をつけておいた方がいいとも言える。難しいところだな」
ひよりの言葉を引き継ぐように、神崎が顎に手を当てて深く頷いた。
「なるほど……」
二人の意見を聞き、一之瀬も真剣な表情で頷く。
「――差し出される杯が甘美な毒でなく、確かなる恵みをもたらすのならば、共に飲み干すのも一興だろう」
「『だからこそ、こちらに有利な条件であれば、この試験に限っては同盟を組んでもいいと私は思っています』ですね!」
「確かに。同盟を組ませないためとはいえ、三クラスで結託されたところで、試験の内容によっては意味をなさない場合もある。ここで差をつけるメリットも大いにある以上、向こうからこちらに確かなメリットを提示してもらう必要があるな」
「――盤上の行く末を決めるのは、王たる君の特権だ。いかなる采配を振るおうとも、私はその軌跡を支えよう。……もっとも、白き女王との密談に、私は招かれないだろうがね」
「『このクラスのリーダーは帆波ちゃんです。どんな決断をしても、全力で帆波ちゃんをサポートします。それに、おそらく交渉の場には私は呼ばれないでしょうからね』と言っています!」
ひよりの翻訳を受け、一之瀬は真剣な眼差しで私たちを見据えた。
「うん。私も、この試験は学年全体で協力するメリットは大きいと思う。それに、特殊な形で坂柳さんが指揮役として本部で待機するなら、私たちのクラスの生徒が下位に沈まないように、外から上手くコントロールしてもらうこともできるんじゃないかなって思うし。……ありだと思う」
「――運命の札が配られし後、黄昏時までに、白き女王からの招待状が届くだろう」
「『明日の朝にはアイテムカードが配られますから、おそらくその日の放課後には、坂柳さんから接触があると思いますよ』とのことです!」
ひよりの明快な翻訳を聞いて、一之瀬は深く、確信を持った様子で頷いた。
一之瀬の表情からいつもの柔らかい笑みがスッと引き締まり、代わりに理知的な光が瞳に宿る。
「うん。藍染くんの言う通り、たぶん坂柳さんは藍染くんを交渉の場には呼ばないはずだよ。藍染くんがそこにいるだけで、話し合いの流れがどう転ぶか分からないし……彼女なら当然、警戒して手立てを打ってくると思うから」
そこまで冷静に分析を口にした後、一之瀬はふっと息を吸い込んだ。
次に紡がれた言葉には、先ほどの推測とは違う、確固たる決意が込められていた。
「でも、どんな状況になったとしても──」
彼女は背筋を真っ直ぐに伸ばし、迷いのない、力強い眼差しで前を見据える。
「私はクラスのリーダーとして、その時は必ず、クラスのみんなのためになる選択をするよ」
それは決して揺らぐことのない、彼女自身の信念を打ち立てるような力強い宣言だった。その真っ直ぐな言葉に、その場にいる全員の心が一つにまとまっていくのを感じる。
美味しい手料理を囲みながら、Aクラスの幹部たちの絆と戦略はより一層強固なものとなっていく。
静かに迫る無人島のサバイバル。不確定要素に満ちた盤上を制するため、私たちは着実に準備を進めていた。
そろそろストックが心許なくなってきましたが、できるだけ毎日更新を続けられるよう頑張ります。これからもよろしくお願いいたします。