いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
七月十九日。
いよいよ無人島へと向かう船への乗船日を迎えた。
目の前にそびえ立つのは、まるで一つの街が丸ごと海に浮かんでいるかのような、規格外の巨大な豪華客船だった。
(うおおおおおっ!! なんだこれ!? デカすぎるだろ!! 去年の豪華客船も凄かったけど、今回のは完全に桁違いじゃん! 三学年全員が乗るからって規模がヤバすぎる! プールに映画館にショッピングモールにレストラン街まであるってどういうこと!? テンション爆上がりなんだけど!!)
私は内心で大興奮し、両腕を突き上げて走り出したい衝動に駆られながらも、それを微塵も顔には出さない。あくまで落ち着き払った態度で、海風に髪を揺らしながらフッとオサレな微笑をこぼした。
「――我々を新たな舞台へと導く方舟としては、少々華美に過ぎるかもしれないな」
(訳:去年の客船も凄かったけど、三学年乗るだけあって桁違いにデカくてワクワクするね!)
「ふふっ。本当に大きいですね!」
私の言葉を完璧に理解したひよりが、ニコニコと微笑みながら同調してくる。
今日は学年ごとに分かれて、この船内で無人島特別試験の詳細なルール説明が行われる予定になっている。だが、その時間までは完全な自由行動だ。
「さあ、ひより。決戦の前の、束の間の休息だ。少し船内を歩こうか」
「はい、惣右介くん!」
私はひよりの手を優しく握り、エスコートしながら歩き出した。
吹き抜けのきらびやかなエントランスを抜け、海が見えるカフェで優雅に紅茶とケーキを嗜み、最上階の展望デッキで潮風を浴びながら談笑する。過酷な無人島生活が控えているとはいえ、今この瞬間だけは、完全な非日常のリゾートデートだ。
潮風に揺れるひよりの髪が陽光を反射してキラキラと輝いている。そのあまりの可愛さに、私はつい口を開いていた。
「果てしなく広がる美しい蒼穹だ。だが……君の瞳に宿る知性の輝きと、その愛らしさの前では、この大自然の造形美すらも霞んでしまうね」
ひよりはポッと頬を染めながらも、照れくさそうに笑った。
「えへへ、ありがとうございます。私も惣右介くんと一緒にこの綺麗な海を見られて、とっても嬉しいです」
そんな穏やかで甘い時間を過ごしていると、突然、背後から弾むような明るい声が鼓膜を揺らした。
「あーっ!藍染先輩に、椎名先輩!こんにちわぁっ!」
振り返ると、一年生の天沢一夏が小悪魔的な笑みを浮かべながらこちらに手を振っていた。
「天沢か……奇遇だね。君も展望デッキの風を浴びに来たのかな」
「んふふ〜、そんなところです!それにしてもぉ、無人島試験でもお二人は一緒なんですねぇ!相変わらずラブラブですねぇ!」
「っ!?ら、ラブラブだなんて……そ、そんな……っ」
天沢のからかうような言葉に、ひよりは顔を真っ赤にして慌てふためく。
「愛という形なきものを、いとも容易く言葉の枠に当てはめる……君のその無邪気な感性は嫌いじゃないよ。だが――」
私はそこで言葉を切り、手すり越しに広がる大海原へと視線を移した。
「単なる戯れ言で終わらせるつもりはない。次に我々が足を踏み入れるのは、生ぬるい遊戯の延長などではない。万物が淘汰される過酷な盤上……そこで私が完全なる『勝利』という理を体現するためには、彼女の持つ力がどうしても不可欠なのだからね」
「『単なる遊びやデート気分で一緒のグループを組んでいるわけではありません。明日から始まる過酷な無人島試験において、私たちが一位を勝ち取るためには、精神的な支えや全体の連携といった面で、ひよりのサポートがどうしても必要不可欠なんです。だからこそ、私は彼女と組んだのです』……とのことです」
顔を真っ赤にしながらも、ひよりはコホンと一つ咳払いをして、私のオサレなポエムを完璧に翻訳してみせた。
「――え?」
からかうつもりで放った言葉に対し、一切の照れ隠しもない『絶対的な信頼と必要性』を突き返されたことが予想外だったのか、天沢は小悪魔的な笑みを一瞬だけ引っ込め、呆けたように僅かに目を丸くした。
だが、すぐにまたいつもの調子を取り戻してパタパタと手を振る。
「へぇー……そうなんですかぁ!あ、やば!私たち一年生はもうすぐ説明会の時間なんで、今日はこの辺で!じゃあねー、せぇんぱい!」
天沢は軽やかな足取りで、来た道を戻っていった。
「……嵐のように去っていきましたね。相変わらず掴みどころのない子ですね」
「ああ。だが、捉えどころのない風も、いずれは自らの進むべき道を示す……今はただ、好きに吹かせておけばいいさ」
「ふふっ、そうですね」
私のオサレな肯定に、ひよりは静かに微笑んだ。
一方、二人から離れて歩き出した天沢は、先ほどの態度の裏で冷たく思考を巡らせていた。
(あの藍染先輩が、勝利のために椎名先輩の力が必要、なんてね)
天沢の脳裏に浮かぶのは、藍染惣右介という男から常に滲み出ている圧倒的な強者のオーラだ。
ホワイトルームを追放された、規格外の怪物。天沢が崇拝する綾小路清隆とはまた違う、かつてのホワイトルームにおけるもう一つの『伝説』。彼女にとって、彼は底知れない興味を惹きつけられる存在だった。
(今回の無人島試験はグループの人数が多い方が有利だって事前に説明されてたけど……藍染先輩なら、一人の方がよっぽど強いだろうに)
椎名ひよりの身体能力の評価は『D+』。過酷なサバイバルとなる無人島において、彼女が足手纏いになることは明らかだ。
(わざわざ足手纏いを抱えて、綾小路先輩に勝つつもりなのかな?それとも、本当に椎名先輩の力が必要だってこと?……ふふっ。綾小路先輩と藍染先輩、どっちが勝つか楽しみだなぁ)
これから始まる無人島でのサバイバル。最高傑作と、追放された怪物。二つの未知数が交わるであろう激突に、天沢は楽しげに唇を吊り上げた。
それからしばらくして。
船内に落ち着いた電子音が鳴り響き、いよいよ二年生に向けたルール説明会のアナウンスが流れ始めたのだった。
『――二年生の生徒にお知らせします。まもなく、特別試験のルール説明を行います。二年生の生徒は、映画館に集合してください。繰り返します――』
その放送を聞き、私は展望デッキの手すりから静かに身体を離した。
(いよいよだな。ここで全てのルールが開示されるってわけか。気を引き締めていかないと)
「――どうやら、幕開けのファンファーレが鳴ったようだね」
「はい、時間になったみたいですね。説明会場に行きましょう、惣右介くん」
私は静かに頷き、ひよりと手を繋いだまま、ルール説明の舞台となる映画館へと歩みを進めた。
映画館の薄暗い空間に二年生の全生徒が集い、静寂が満ちる中、ステージ上のスクリーン前にBクラス担任である真島先生が立った。
マイクを通した落ち着いた声で、いよいよ無人島特別試験の全容が語られ始める。
私はひよりの隣の席で腕を組み、静かに耳を傾けながら、その膨大な情報量を脳内で整理していった。
……要するに、今回の無人島サバイバルのルールはこうだ。
【基本事項とリタイア条件】
・怪我、体調不良、ルール違反を犯した場合は強制リタイアとなる。
・後述の条件を満たすことで、最大六人の『大グループ』作成が解禁される。
・自身の所属するグループメンバーが「全員」リタイアした時点で失格となり、その順位が確定する。
【基本移動のルールと得点】
・指定エリアの告知: 1日に4回(初日と最終日は3回)、目指すべきエリアが告知される。
・ゴール時間:①7:00〜9:00、②9:00〜11:00、③13:00〜15:00、④15:00〜17:00
・指定エリアの法則: 1日3回は「前回のエリアから前後左右2マス、斜め1マスの範囲内」。1日1回は「全エリアからランダム指定(2回連続のランダムはない)」。
・着順報酬: 指定エリアに辿り着いたグループ順に、1位:10点、2位:5点、3位:3点が付与される。(※グループ全員が到着した時点の記録が参照される)
・到着ボーナス: ゴール時間内に到着すれば、着順に関わらず全員に1点。着順報酬との重複も可能。(例:三人グループが1位到着なら着順10点+ボーナス3点で計13点)
・事前待機: 告知段階で既に指定エリア内にいた場合は、到着ボーナスのみ得られ、着順報酬は無効となる。
・ペナルティ: 3回連続で指定エリア到着をスルーすると減点。ただし、1度でも到達すれば累積はリセットされる。(グループの誰か一人でも辿り着けばスルー回避となるが、貰えるボーナスは到着した人数分のみ)
【支給品(腕時計とタブレット)について】
・試験中、生徒全員に腕時計とそれに連動するタブレットが支給される。
・ 腕時計による生体管理: 24時間健康状態が管理される。破損などの異常が検知されると得点が入手できなくなる。
・アラート機能: 健康状態に応じてアラートが鳴る。緊急アラートが鳴った場合はスタート地点に戻ってメディカルチェックを受ける必要がある。鳴ったまま5分放置すると、即座に医療班が現場に急行する。
・移動テーブル: 腕時計には12通りの『テーブル』が存在し、テーブルごとに指定エリアの順序が異なる。(生徒全員が常に同じ場所を目指すわけではない)
【課題とグループ拡張】
・無人島の至る所に『課題』が設置され、これをこなすことでも得点や報酬が得られる。
・課題の出現: タブレット上に赤い点で位置が示されるが、いつ、どこに、どんな課題が出るかは予測不可能。
・出現時間帯: 7:00〜17:00に随時出現。(初日は10:00〜、最終日は〜15:00)
・課題内容: 学力系4割、身体能力系3割、その他3割で構成される。上位入賞者には得点や食料などが与えられる。
・大グループ化の条件: 四日目以降の課題の中に、「グループの最大人数枠を解放する」報酬が出現する。1位で3人枠、2位で2人枠、3位で1人枠が解放。最大上限の解放権利を得たグループは以降この課題には参加不可。
・この権利を得られるのは、全体を通してわずか2〜3割程度と狭き門。
・合流時の処理: 合流してグループが拡張された場合、双方のこれまでの得点を平均化してリスタートとなる。
(……なるほどな)
私は真島先生の説明を聞き終え、密かに息を吐いた。
(確かに総合的な能力が問われる試験になってるな。それに、大グループの条件も、そもそも課題で上位に入らなきゃ枠を広げられないとなると、確実に六人組になれる保証はないのか)
試験の厳しさに気が引き締まる思いだったが、同時に安堵もしていた。
(とりあえず、腕時計の生体管理システムや医療班の待機など、安全面の対策はしっかりしているみたいで良かった。だが、点数を焦って無理な移動をすれば、結局は怪我やリタイアに繋がる。……試験が始まる前に、クラスのみんなには絶対に無理をしないように伝えておかないとな)
そうして真島先生からのルール説明が一段落し、ふう、と生徒たちの間に少しの緊張とどよめきが広がった、その直後だった。
真島先生と入れ替わるようにして、不敵な笑みを浮かべた男がゆっくりとステージへ上がってきた。
――月城理事長代行だ。
彼は慇懃無礼な笑みを口元に浮かべたまま、マイクを握りゆっくりと口を開いた。
「学校として、安全と秩序の維持には最大限努めます。ですが、それでも全てに目が届くとは言い切れません。二週間という長丁場の無人島生活において、男女の違いによる問題が起こる可能性も否定できません。もし性的なトラブルが発生した場合、退学はもちろん、悪質な場合は警察への通報も行います」
冷ややかな声で、月城は全生徒に向けてそう通達した。
(それはそうだろうな。だからこそ、俺も生徒会経由で期間の短縮を要望に入れたんだがな。まあ、これだけきつく釘を刺されれば、わざわざ問題を起こすような生徒が出ることはまずないだろう。そのための男女比率の設定でもあるんだろうしな)
私は内心で頷き、冷静に月城の言葉を咀嚼していた。だが、彼の真の目的は次の言葉に隠されていた。
「それからもう一つ。この無人島での滞在が長くなれば、自然とフラストレーションが溜まるでしょう。それによって起こる生徒同士の小競り合いは、ある程度認める方針です」
(……清隆を退学させるために、ある程度の暴力沙汰は認めるってことか。ふざけたことをしやがって。だが、清隆はあの高円寺と組んでいる。いくらホワイトルームの刺客とはいえ、あの二人を同時に力ずくで潰すなんて不可能だろう。……となれば、狙いは『分断』か。支給される腕時計に細工でもして意図的に緊急アラートを鳴らさせ、清隆を本部へ強制的に呼び戻す。そして、単独になったところを確実に仕留めるつもりか?)
私が月城の姑息な手段を推測していると、ステージ上の真島先生が慌てた様子で月城に歩み寄り、何やら耳打ちをした。おそらく、教師として「暴力を容認するような発言は控えてくれ」と抗議したのだろう。
しかし、月城は悪びれる様子もなくマイクを通し直した。
「今、この発言について撤回するように言われましたが、撤回するつもりはありません。トラブルというのは、起こるべくして起こるものだからです。ただ、もちろん限度はあります。悪質だと判断した場合は容赦なく処罰を下します」
(……分断して孤立させた清隆に刺客をぶつけ、暴力を伴うトラブルに発展させる。ホワイトルームの刺客なら、そもそもこの学校を退学になっても痛くも痒くもない。最初から清隆を道連れにしてまとめて退学にする腹なら、どんな処罰を下されようが関係ないってことか)
私は月城の言葉の裏にある思惑を正確に推測し、密かに警戒レベルをさらに引き上げた。
「私からは以上になります。どうか、高度育成高等学校の生徒として相応しい行動をお願いします」
月城はそう言い残し、ステージを降りていった。
再びマイクの前に立った真島先生は、少し険しい表情を見せたものの、すぐに気を取り直して説明を再開する。
「……月城理事長代行、ありがとうございました。では最後に、無人島で生活するにあたって不可欠な、食料や道具の購入についての説明に移る」
【物資購入のルール概要】
・初期ポイント: 個人に与えられるポイントは5000ポイント。
・先行カードの恩恵: 先行カードを持っている生徒は、これに2500ポイントが加算される。
・購入期限: 品物はすべてマニュアルに記載されており、明日の午前6時まで購入可能。
・現地調達ペナルティ: 試験スタート後、無人島の港で買い足すことも可能だが、現地購入の場合は値段が2倍になる。
・アメニティ類: 基本的なアメニティ用品は無料で配布。スタート地点に戻れば、必要な数量が提供される。
・物資の譲渡: 他のグループが購入した物資を譲渡・共有することはルール上認められている。
「次に、支給されるタブレットの機能についてだ」
【タブレット機能の概要】
・基本機能: 無人島のマップ閲覧、指定エリアおよび自身の現在地がリアルタイムで確認可能。
・課題情報の開示: 発生している課題の位置や報酬内容を閲覧できる。
・順位の確認: 試験四日目から十二日目まで、全グループの「上位十組」と「下位十組」の得点・順位が確認できる。
・GPSサーチ機能: 試験六日目以降解禁。1点(得点)を消費することで、全生徒の現在地をマップ上で閲覧できる。
・メッセージ受信: 試験全体に影響する問題が起こった場合、学校側からメッセージが届く可能性がある。
・バッテリー関連: バッテリーが不足した場合、スタート地点や特定の場所で充電が可能。
「――以上だ」
(なるほど。マニュアルのリストを見る限り、トランシーバーがあるな。これは情報伝達においてほぼ必須のアイテムだ。それに、基本のテントと最低限の水と食料。水や食料は課題の報酬でも入手できるし、無人島なら最悪現地調達も可能だ。だが、ある程度は初期ポイントで購入しておく必要があるな)
私は手元のマニュアルを眺めながら、自分のグループのポイント配分を脳内で素早く組み立てていく。
「この後は、別室にて物資のサンプルを展示する。今日の深夜0時までは自由に確認可能となっている。各自、しっかりと目を通しておくように。……以上で、二年生への説明を終わる」
真島先生がマイクを置き、深く一礼した。
映画館がざわめきに包まれる中、隣に座っていたひよりが私の方を向き、静かに口を開いた。
「やはり、事前の説明通り、グループの人数が多ければ多いほど、恩恵がありますね」
「ああ。群れを成すほどに、光は増していく。……まずは我々の剣となる物資を見極めに行こう。その後で、一之瀬や坂柳たちと今後の盤面について語り合うとしようか」
(訳:その通りだね。とりあえず物資を見に行って、その後一之瀬や坂柳たちと作戦会議しようか)
私がオサレに同意を示すと、ひよりは花が咲くような愛らしい笑顔で頷いた。
「はいっ!」
私たちは立ち上がり、他の生徒たちの波に混じって、物資のサンプルが展示されている別室へと向かった。
広々とした展示室には、サバイバルに用いる様々な道具や食料が所狭しと並べられている。私はそれらを一つ一つ確認しながら、脳内でシミュレーションを重ねていった。
(無料配布のリュックサック。一番大きいサイズのものを選んで、ひよりの荷物の分まで俺が持つ方がいいだろうな。無人島を長時間歩くとなれば、どうしても移動で体力が必要になる。体力に不安のあるひよりの負担は極力減らしたいし、まあ、いざとなればひよりごと背負って移動すればいいか)
次に寝床となるテントのサンプルに目を向ける。
(テントはやはり一人用にするのが無難だな。ルールで男女が同じテントで寝ることは固く禁じられているし……かといって、葛城とむさ苦しく男二人で一つのテントに寝るのもな……。うん、普通に嫌だな。熟睡できる気がしない)
「惣右介くん。一人用テントと、グループで一つトランシーバー。それから水と食料。ここまでは必須ですね」
「ああ。そこが最低限の生命線になるだろうね。……だが、『見えざる糸』に関しては、私たちのグループの『人数分』購入しておこう」
「人数分、ですか?」
ひよりが不思議そうに小首を傾げる。
「――我々が狙うのは遥か高み、絶対的な一位だ。盤面に現れるあらゆる課題を掌握するためには、常に一つの群れとして留まる必要はない。状況に応じて陣を分け、同時に複数の標的を射抜く……そのための『見えざる糸』は、全員が持っておくべきだからね」
「あっ、確かにそうですね! 実際始まってみないと課題がどれほどの頻度や場所で行われるか分かりませんし、効率よく得点を稼ぐために別行動することも十分に考えられますね」
(その通り! 一点に固まってるより、分散してタスクをこなした方が絶対に効率がいい場面が出てくるはずだからね!)
(……とはいっても、ひよりを一人で過酷な無人島を歩かせるわけにはいかないから、基本的には俺とひよりが離れることはない予定だけど。もし課題の位置的に、俺が全力で走れば間に合いそうって時は俺だけ先行して、ひよりには葛城と一緒に休憩しててもらう感じにするのが一番安全だろうな)
私は内心でひよりの完璧な理解力に拍手を送りつつ、彼女の安全を最優先としたフォーメーションを思い描きながら、静かに頷いた。
今回の試験において、我々Aクラスの目標は『下位に沈むグループをゼロに抑えつつ、トップを獲る』ことだ。そのために、事前にBクラスとの交渉も交え、恩恵の大きい『先行カード』や『追加カード』を私、ひより、坂柳、葛城の主力メンバーにトレードして集約させていた。
結果として、我々のグループは他の生徒たちよりも初期ポイントにかなりの余裕を持っていた。
「ひより。それに加えて、タブレット用のモバイルバッテリーと、調理器具。食器類も複数購入しようか」
「確かに、タブレットの充電問題は必ずありますから、モバイルバッテリーは必須ですね。それに携帯食料だけでは気力や体力が持ちませんから、ちゃんとした料理も必要ですね!」
ひよりが嬉しそうに賛同してくれる。サバイバルとはいえ、食事の質は士気と健康に直結する。豊富なポイントを活かして、環境を可能な限り快適にするつもりだ。
必要な物資の目星をつけながら、私は改めて先ほどのルール説明の内容――特に『タブレットの機能』について思考を巡らせた。
(六日目から解禁されるGPSサーチ機能……これがあるのは非常に大きいな。坂柳が司令塔として全体を把握して指揮をしてくれれば、俺たちのクラスから下位に沈むグループが出るリスクはほぼゼロにできるだろう)
1点を消費するという代償はあるため、無闇に連発はできない。だが、下位に落ちそうなグループを把握した上で、ポイントに余裕のあるグループにGPSサーチを使わせ、坂柳が最適な指示を出すという連携戦略が取れる。
(……やはり、坂柳たちBクラスと同盟を組んで、クラス全体をカバーする態勢を作ったのは正解だったか。これで俺は後顧の憂いなく、心置きなく一位を狙いに動ける)
隣を歩くひよりが、物資リストを見つめながら安堵の息を吐く。その柔らかな横顔を眺めつつ、私の思考は『もう一つの焦点』へと移っていく。
(清隆なら月城の姑息な思惑には気づいているだろうし、あいつなら自力で問題なく対処できるだろう。それに……月城も、俺の存在を強く警戒しているはずだ)
一筋縄ではいかない盤外の脅威。私はこれから降り立つ広大な無人島を脳内に描き出し、思考をさらに加速させる。
(確実に清隆を仕留めるつもりなら、俺が遠く離れたエリアにいて、物理的に駆けつけられないタイミングを見計らって仕掛けてくるだろうな。……いざという時は、要や寛治たちに頼るのも一つの手だな)
盤面を覆う暗雲すらも己の手札に組み込み、勝利への道筋がより明確になったことを感じながら、私とひよりは物資の選定を完全に終え、作戦会議の場として指定していた船内のフリースペースへと足を運んだ。
いよいよ明日から始まる過酷な無人島サバイバル。その広大な舞台を完璧に支配し、我々が玉座へと至るための最後の布石を打つために。