いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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九十五話

 七月二十一日。午前五時。

 波の音と小鳥の囀りで、私は目を覚ました。

 

 六時に起床する約束になっているため、他のテントからは規則正しい寝息が聞こえ、皆はまだ深い眠りの中にあるようだ。

 

(うーん、よく寝た!昨日の疲労もしっかり取れて、体力は全回復だね!)

 

 テントを抜け出し、大きく伸びをする。

 

 せっかく早く目が覚めたのだから、朝食の準備をしておこうか。

 ポイントで購入したカセットコンロを使ってもいいが、せっかくなら無人島らしい雰囲気を味わいたい。私は手際よく薪を集め、焚き火を起こした。

 

 お米を飯盒で炊きつつ、事前に購入しておいた鍋で湯を沸かし、味噌汁を作っていく。

 

(おかずも欲しいところだけど……とりあえずそれは、みんなが起きてから各々が持ってる缶詰とかで済ませてもらえばいいか)

 

 それから三十分後。

 テントのファスナーが開く音がして、ひよりが姿を現した。

 

「ふぁ……。おはようございます、惣右介くん……」

 

 ひよりは目をこすりながら、まだ少し眠たそうに歩み寄ってくる。その無防備な姿がたまらなく愛らしい。

 

「――夜の帳が明け、再び君という光を拝めることを喜ばしく思うよ」

 

「えへへ、おはようございます。……あ、朝早くからご飯の準備、ありがとうございます。私にも手伝わせてください」

 

 ひよりは私のオサレな挨拶にニコッと笑うと、すぐに焚き火のそばに座り、炊き上がったご飯や味噌汁をみんなの分に分ける作業を手伝ってくれた。

 

 そこからしばらくして、葛城や姫野たちも次々と目を覚まし、テントから顔を出した。

 

 用意された朝食を見て、みんな口々に「ありがとう!」と感謝してくれる。

 

「すまない、藍染。昨日からお前に働かせてばかりだな」

 

 葛城が真剣な表情で歩み寄り、深く頭を下げた。

 

(みんなに喜んでほしくてやってることだから、全然気にしないで!それに、この藍染スペックの体力なら、これくらいのことでは全く疲れないからね!)

 

 内心でガッツポーズを決めつつ、私はフッとオサレな笑みをこぼした。

 

「――謝罪は不要だ。他者のために剣を振るうことに、疲労など感じるはずもないからね。さあ、冷めないうちにいただこうか」

 

 朝食を済ませた後、拠点に留まる坂柳以外のメンバーは、すぐに移動できるようにそれぞれのテントを片付け始めた。

 

「今日からは『ランダム指定』のエリアが始まります。ですから、本部のあるここへ戻れることも少なくなるとは思いますが、皆様、どうか無理はしないでくださいね」

 

 坂柳が出発の準備を整えた私たちに優しく声をかける。

 

「坂柳有栖はいい子ですね。私が抱きしめてあげましょう」

 

 森下が真顔で両手を広げ、坂柳に抱きつこうと近づくが――。

 

「近寄らないでください」

 

 ペチッ!と無慈悲に杖で払いのけられた。

 

「はぁ……森下、いい加減にしろ。坂柳、本当にすまない」

 

 葛城が深々とため息をつきながら森下を注意する。相変わらずのBクラスの光景に、ひよりや姫野たちも楽しそうに笑っていた。

 

 

 そして、午前七時。

 タブレットの通知音が鳴り、二日目最初の指定エリアと課題が発表された。

 

「今回の指定エリアは、【E9】ですね」

 

 タブレットを確認したひよりの言葉を受け、私は即座に最適な盤面を構築し、葛城へ提案した。

 

「――天の導きは【E9】を指しているが、我々が真に刈り取るべき星は別にある。葛城、君は天の意を満たしてほしい。私とひよりは別の知の泉を汲み上げに行こう」

 

「『葛城くんは指定エリアに向かってもらえますか?私とひよりで課題を取りに行きます』とのことです」

 

 ひよりが翻訳すると、葛城は顎に手を当てて深く頷いた。

 

「確かにその方が確実に得点は稼げるか。分かった。では、俺は鬼頭や吉田たちのグループと共に、本部でアメニティ類の補充をしてから指定エリアを目指すことにする」

 

 役割分担が決まり、私たちは坂柳に別れを告げた。

 

 私はひよりを軽々と抱き上げ、森の中に向けて駆け出した。

 その後、私とひよりは出現したいくつかの課題を回り、順調に得点と食料を稼ぎ出していく。

 

 

 そして、午前九時。

 タブレットの通知音が鳴り、二回目の指定エリアが発表された。

 

「次の指定エリアは……【G9】ですね」

 

(一つ南東のエリアか。葛城の位置によっては、着順報酬を狙おうか)

 

「――新たなる天の導きは【G9】だね。葛城の現在地次第では、再び天翔ける疾風を狙うのも一興だ」

 

 私がオサレに提案すると、ひよりは「そうですねっ!」とふわりと笑い、トランシーバーを取り出して葛城へ通信を入れた。

 

『――こちら葛城だ。今は【E9】の北東寄りにいる。距離的には十分狙える位置だな。急ごう』

 

 葛城の了承を得た私は、ひよりを抱き上げて【G9】のエリアに向けて森の中を飛ぶように駆け出した。

 

 

 【G9】に到着し、私たちは葛城が来るのを待った。

 しばらくして、彼がエリアに足を踏み入れたことでポイントが加算される。結果は着順報酬二位で5点、それに到着ボーナスの3点が加わり、ポイントが着実に追加された。

 

(二位か。葛城もかなり急いで来てくれたみたいだが、やはりその時いるエリアの位置関係に大きく左右されるから、着順報酬を安定して取り続けるのは難しいか)

 

 私は内心で冷静に分析する。

 

「葛城くんに連絡して、一旦合流しますか?」

 

「――ああ。まずは彼と歩調を合わせようか」

 

(訳:そうだね!一度葛城と合流しようか)

 

 ひよりが再び通信を入れ、私たちは【G9】エリアの砂浜と森の境目あたりで彼と合流することになった。

 

「すまん。急いだつもりだが、一位を取ることができなかった」

 

 合流するなり、少し息を切らした葛城が悔しそうに謝罪してきた。

 

「着順報酬は運の要素も大きく絡みますので、仕方がないですよ」

 

 ひよりが優しくフォローを入れる。

 

(ひよりの言う通りだよ!それに、葛城が安定してエリアに到着してくれるという安心感があるからこそ、俺たちも自由に課題に取り組めてるんだよ!)

 

「――彼女の言う通りだ。君という盤石なる盾が指定の地を確実に踏み締めてくれるからこそ、我々は憂いなく星を狩ることができる。気にする必要はないさ」

 

「『葛城くんが安定してエリアに到着してくれる安心感があるから、私たちも課題に取り組めているんです。気にしないでくださいね』とのことです」

 

 私のオサレな本音をひよりが翻訳すると、葛城は少し肩の力を抜き、「そう言ってくれて助かる」と真面目な顔で頷いた。

 

「初回と今回は、法則通りのエリア移動だったな。となると、次の二回のどちらかが『ランダム指定』となるな」

 

「そうですね。昨日から島の南側のエリアにいることも多いので、一気に北側に向かわされる可能性もありますね」

 

 葛城の推測に、ひよりもマップを見ながら同意する。

 

「ああ。坂柳の通信によると、すでにいくつかのグループはランダム指定されていて、かなりの長距離移動を強いられたと聞いている」

 

「もしこのエリアから北に向かうとなると、山越えがありますね。迂回するか、山を越えるか……」

 

(ランダム指定が連続することはない仕様だから、そうなった場合はみんなで一緒に向かう方がいいね。道中で課題を狙いつつ、山は迂回して体力を温存するのが良さそうだ)

 

「――気まぐれな天の采配が連続しない以上、その時は群れを成して進むのが最善だ。険しき峰は避け、平野を迂回しながら道中の星を拾い集める。それが最も堅実な行軍だろう」

 

「『ランダム指定が連続することはないので、そうなった場合はみんなで一緒に向かいましょう。道中で課題を狙いつつ、山は迂回して体力を温存するのがいいですね』とのことです」

 

「そうだな。まだ試験も序盤だ。山越えのリスクは避けるべきだな。……それに、そろそろ水が少なくなってきたな」

 

 葛城が自分のリュックのサイドポケットを確認しながら呟いた。

 

「得点は大きく増やせませんが、そろそろ競争の課題を狙いますか?」

 

(そうだね!食料はまだ余裕はあるし、得点も十分に稼げてるからね!)

 

「――異論はないよ。我々の頭上には十分な星が瞬いている。今は渇きを潤す杯を手に入れようか」

 

「『食料にはまだ余裕がありますし、得点も稼げているのでそうしましょう』とのことです」

 

「となると、ちょうど【H9】に出ているから向かうか」

 

「そうですねっ!」

 

 近くに他に参加できそうな良条件の課題もなかったため、私たちは三人で並んで【H9】の課題会場へと歩いて向かった。

 

 この『競争』という課題は、シンプルに会場へ到達するまでの早さを競うだけの特殊なものだ。目的地のエリアに足を踏み入れた時点で自動的に終了となる。

 

 上位三組に入り込めば得点と多めの水が手に入るが、仮にそれを逃しても、先着三十組に入りさえすれば確定で500mlのペットボトルの水が貰える仕様となっている。

 

 私たちは急がず歩いて向かったため、上位三位に入り込むことはできず得点こそ稼げなかったものの、無事に三十組の枠内には滑り込むことができた。これにより、目的通り500mlのペットボトルの水を三人分、きっちりと確保することに成功した。

 

 

 この時点で、時刻は十一時過ぎ。

 

(よし、いい時間だね。次のエリア発表のある十三時が来る前に、ここで昼食を取っちゃおうか)

 

「――太陽が天頂で燃え盛る前に、我らも束の間の宴を開こうか」

 

(訳:十三時の指定エリア発表が来る前に、ここで昼食を取ろう!)

 

 私の提案に二人も賛同し、私たちは木陰に腰を下ろした。

 

 午前中の課題で獲得した夏野菜と、パンを取り出し、手際よく調理して三人で分け合う。

 

 過酷なサバイバルの中にあっても、こうして仲間と共に食べる食事は、確かな活力を私たちに与えてくれていた。

 

 そんな和やかな食事の最中だった。

 

「あら……」

 

 不意に声がして顔を上げると、そこには同じくこのエリアを通りがかった堀北鈴音、松下千秋、伊吹澪の小グループの姿があった。

 

(あ、堀北さんじゃん!元気そうだね!)

 

「――広大な緑陰の迷宮で、君たちの足跡と交差するとはね。どうやら、この過酷な遊戯にあっても、君の瞳から光は失われていないようだ」

 

 私がオサレな立ち振る舞いで声を掛けると、堀北は軽く息を吐きつつも、冷静な様子で足を止めた。

 

「ええ、奇遇ね。そちらも随分と優雅な食事を楽しんでいるようで何よりだわ、藍染くん」

 

「あはは……」

 

 冷静に言葉を交わす堀北の隣で、松下は少し引き攣った苦笑いを浮かべている。

 

 だが、もう一人の少女の反応は違った。

 

「はぁ?何あんた、その偉そうな口の利き方」

 

 伊吹澪が、明らかにイラついた様子で鋭く突っかかってきた。

 

(伊吹とは今まで直接話したことないけど、なんか俺、嫌われてるんだよなぁ……。廊下ですれ違う時も高確率で睨まれるし……。津辺に学年末試験で苦戦させられたことを、俺の差し金だと思って根に持ってるのかな?)

 

 とはいえ、ここで揉めるつもりはない。私は「伊吹たちも、この課題で水を獲得しにきたの?」と純粋な疑問を投げかけようとした。

 

「――自身の器も測れずに、無闇に牙を剥くものではないよ。その底の浅い威嚇は、些か滑稽に映るからね」

 

(いやめちゃくちゃ煽ってるって!?俺の口!?ただ『お水貰いに来たの?』って聞こうとしただけなのに!!ちょっと突っかかられたからって、なんでそんなに煽るの!?)

 

 これ以上の暴発はまずい。そう焦った瞬間、隣のひよりがニコッと可憐に微笑み、透き通るような声で『翻訳』を始めた。

 

「『ご自分の器の小ささも理解できずに、喚く姿はとても惨めですよ』……と、惣右介くんは仰っています」

 

 堀北が顔に手を当てて深く天を仰ぐ。松下は顔面蒼白になって固まっている。

 

(ひよりさぁぁぁぁん!?やめてぇぇぇ!今のは絶対翻訳しちゃダメなやつ!!嘘でもいいから普通に「こんにちは」って言って!!)

 

 普段は天使のように優しいひよりから放たれた地獄のように丁寧な意訳に、私は内心で大パニックに陥った。

 

「ッ!!ぶっ飛ばしてやる!!」

 

「落ち着きなさい!伊吹さん!」

 

「そ、そうだよ伊吹さん!ここで手を出したら失格になるかもしれないよ!?」

 

 完全にブチギレて私に飛びかかろうとする伊吹を、堀北と松下が必死に背後から羽交い締めにして止める。

 

「挑発は彼の専売特許よ!乗ってはダメよ!」

 

「離せ!アイツ絶対ここでぶっ飛ばす!!」

 

 伊吹は「フーッ!フーッ!」と荒い息を吐きながら、猛烈な殺気を私に向けてくる。

 

 対する私は、内心では焦りまくっているというのに、外面だけはフッと伊吹を路傍の石でも見るかのように見下すオサレな表情を微塵も崩さない。

 

 隣ではひよりが「ふふっ」とニコニコしており、葛城は「あ、藍染……?」とこのカオスな状況に困惑している。

 

 堀北と松下の必死の制止もあり、なんとか踏みとどまった伊吹は、ギリッと歯を食いしばって私を睨みつけた。

 

「……覚えときなさい!この試験で、絶対にあんたを倒してやるから!!」

 

 その怒りに満ちた宣戦布告に対し、私の口はまたしても勝手に動いた。

 

「――あまり感情を荒立てるものではないよ。虚勢を張らねば己を保てぬその姿は、酷く脆く見える。私には、君が怯えて震えているようにしか視えないのだがね」

 

「『弱い犬ほどよく吠えると言いますが、キャンキャンと威嚇してご自分の弱さを隠そうとするお姿は、とても惨めで、哀れに感じます』……とのことです」

 

(ひよりさぁぁぁん!!追撃やめてぇぇぇ!!なんで天使の笑顔でトドメを刺しにいくの!?)

 

 ひよりの完璧な(?)翻訳が炸裂し、伊吹の堪忍袋の緒が完全に吹き飛んだ。

 

「あああああっ!!やっぱり殺す!!」

 

「ダメよ!松下さん、手伝って!これ以上ここにいさせるとまずいわ!」

 

「わ、分かった!」

 

 これ以上の接触は完全にアウトだと判断した堀北と松下は、暴れる伊吹の両脇を抱え、ズルズルと引きずるようにしてその場から強制退場していった。

 

 嵐が去った後の木陰。

 静寂の中、葛城がゴクリと息を呑み、戦慄した表情で私を見た。

 

「……なるほど。あえてあそこまで過激にライバルを挑発することで、精神的に揺さぶり、手を出させて自滅に追い込もうとしていたのか……!恐ろしい作戦だ……!」

 

(葛城ぃぃぃ!違うんだよ!!そんな極悪非道な作戦してないよ!!結果的にそうなってるだけで俺の意志じゃないから!!)

 

「ふふっ。お食事を再開しましょうか、惣右介くん、葛城くん」

 

 完全に一人だけ空気が違うひよりが、空気をいい感じに丸め込むように、にっこりと可憐に微笑んでパンを差し出してくる。

 

(……まあ、ひよりが楽しそうなら、いっか)

 

 すべてを諦めた私は、オサレにパンを受け取り、波乱に満ちた二日目の昼食を再開するのだった。

 

 

 

 ――その後、二日目の午後、そして三日目と、私たちの進撃が止まることはなかった。

 

 懸念されていた『ランダム指定』による容赦のないエリア振り分けも私の前では何の意味も成さなかった。

 

 私はひよりを抱きかかえたまま、風すら置き去りにする速度で険しい山や森を駆け抜け、次々と指定エリアのポイントと課題を獲得していく。

 

 学力系の課題では私とひよりの比類なき知力で制圧し、運動系の課題では私が単独で他を圧倒する。

 

 葛城という盤石の盾による確実なエリア踏破と、坂柳の冷静な後方支援。同盟の歯車は恐ろしいほどの精度で完璧に噛み合っていた。

 

(いやー、順調順調!ひよりを抱っこして島中を走り回るの、マジで最高だね!全然疲れないし、課題も無双状態でポイントがガッポリ稼げてるよ!)

 

 内心でテンションを爆上がりさせつつ、私はひよりを抱き抱えたままフッと傲慢な笑みを浮かべる。

 

「――天の気まぐれがどれほど我らを突き放そうと、私と君の双翼を縛ることはできない。我々の歩む軌跡こそが、この島の新たな理となるのだから」

 

(訳:遠いエリアが指定されても、俺たちならすぐに着いちゃうから全く問題ないね!)

 

「ふふっ、頼もしいです。……でも、本当に無理だけはしないでくださいね?」

 

 私の腕の中で心配そうに気遣ってくれる彼女と、この三日間で何度こうしたやり取りを交わしたことだろうか。

 

 他グループが体力を削られ、過酷なサバイバルに疲弊し始める中、私たちだけはピクニックのような余裕を保ちながら得点を重ね続けた。

 

 

 

 そして――三日目の夕方。

 私たちは坂柳からの通信を受け、【D4】エリアへと足を運んでいた。

 

 目的は、明日から解禁される『大グループ結成』のシステムに向けて、A・Bクラス同盟の中で二番目に得点を重ねている一之瀬、神崎、神室のグループと事前に合流しておくためだ。

 

「あ、みんな!お疲れ様!」

 

 合流地点である森の開けた場所に到着するなり、一之瀬がパッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。彼女はそのまま、私の隣にいたひよりの両手をきゅっと優しく握りしめる。

 

「帆波ちゃんたちも、お疲れ様です」

 

 ひよりも嬉しそうに目を細め、二人の美少女が手を取り合う。

 

「ひよりちゃん!ずっと会いたかったよー!炎天下での移動続きだけど、体調崩したりしてない?疲れてないかな?」

 

 一之瀬が心配そうに、けれど心底嬉しそうにひよりの顔を覗き込む。

 

「ふふっ、私は全然大丈夫ですよ。移動を急ぐ時などは、惣右介くんが私を……連れて行ってくださるので」

 

 ひよりが少し頬を染め、恥ずかしそうにはにかみながら答える。すると、一之瀬はポンと手を叩いた。

 

「あ!そういえば麻子ちゃんたちが、遠くから藍染くんがひよりちゃんをお姫様抱っこして森の中を走ってるのを見たって言ってたね!麻子ちゃんと同じグループの戸塚くんが『誘拐の現場にしか見えない……』って言ってたみたいだよ!」

 

「うぅ……。やはり色々な方に目撃されていると思うと、少し恥ずかしいです……」

 

 一之瀬が楽しそうに笑うと、ひよりは両手でぽっと赤くなった顔を覆ってしまった。

 

(誘拐って……!まあ、確かに遠目から見たらでかい男が女の子を抱えて森を爆走してる図だから、そう見えなくもないか……。とにかく、ひよりも一之瀬も嬉しそうで俺まで嬉しくなってくるよ……!)

 

 私が内心で大いに癒やされている傍らで、葛城と神室もお互いに「お疲れ」と軽く労いの言葉を交わしていた。

 

「坂柳の通信で聞いていたが、お前たちのグループも順調にポイントを稼いでいるみたいだな」

 

「まあ、エリアも課題もそれなりに獲得できてるからね。……にしても、そっちとは倍近く差があるなんてどうなってるのよ。いくらなんでも異常じゃない?」

 

 神室が呆れたようにため息をつくと、葛城は真面目な顔で頷いた。

 

「基本的に俺が指定エリアを踏破しつつ、藍染が椎名を抱えて課題を荒らし回っていたからな。一日に一回は着順報酬も狙いに行くが、基本は課題を中心とした方針だ」

 

「……本当にイカれてるわね。藍染のやつ」

 

 呆れ果てたように肩をすくめた後、神室はふと視線を逸らして呟いた。

 

「そういえば、私たちは初日からずっと本部に寄れてないんだけど……有栖は元気にしてる?」

 

「俺たちも初日以降は寄れていないが、近くを通りがかった同盟のグループが顔を出したり、共にキャンプをしていると坂柳から通信で聞いている」

 

「……いくら動いてないとはいえ、この暑さはあの子には堪えるでしょうからね」

 

「そうだな。無理はしないようには伝えてあるが……。俺たちも本部付近のエリアを指定された時に、また顔を出そうと思っている。坂柳も、お前に会いたがっていたからな」

 

「私に?」

 

「ああ。俺たちと同じテーブルである森下も初日以降は本部に寄れていないはずなんだが……坂柳が『夜になると森下さんがトランシーバー越しに子守唄を歌ってくるんです……』とひどく嘆いていたからな」

 

 葛城の言葉に、神室は呆れつつも、どこか面倒見の良い姉のような少し優しい表情を浮かべた。

 

「あー……森下の相手は疲れるからね。あの子も本気で嫌がってるわけじゃないんだろうけど、気疲れはするんでしょうね」

 

 どうやら、森下による坂柳へのダル絡みは連日絶賛開催中のようだ。

 

 そんな二人の会話の裏で、神崎が鋭い視線を私に向けてきた。

 

「藍染。坂柳から通信で聞いたが、お前たちのグループの得点は凄まじいな。俺たちも足を引っ張らないように全力で挑んだが……これでは、大グループを結成した時に、お前たちの得点をかなり下げてしまうな……」

 

 神崎が申し訳なさそうに拳を握りしめる。

 

 大グループ結成時、グループの得点は合流した小グループ同士の平均値に再計算される。つまり、突出している私たちの得点は、合流によって一時的に大きく下がるシステムになっているのだ。

 

(謝る必要はないよ!それに清隆や南雲たちも大グループ結成時には得点が平均化されて下がるだろうから、条件はみんな同じだからね!)

 

「――悔恨の言葉は不要だ。群れを成す刻には等しく天秤にかけられる。条件は皆、同じなのだからね」

 

 私がオサレにフォローを入れると、神崎の瞳にスッと鋭い光が宿った。

「ああ。そうだな。明日からは俺たちも、お前の光を見失わないよう、さらなる深淵へと踏み込むとしよう」

 

「――良い覚悟だ」

 

(って、神崎またオサレになってるぞ!!一之瀬がひよりと楽しくお喋りしてるから今は注意されてないけど、これ後で一之瀬にバレたらまた怒られるやつだ!!)

 

 神崎の『オサレ共鳴』に内心で激しくツッコミを入れつつも、外面はフッと余裕の笑みを浮かべてみせる。

 

 こうして、私たちは頼もしい同盟メンバーたちと合流を果たし、明日の決戦に向けて英気を養うのだった。

 

 

 

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