いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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九十八話

 十三時の指定エリア発表後、私たちは大グループの利点を最大限に活かして部隊を分割し、効率的に課題に挑み続けた。

 

 私とひよりのペアは、私の圧倒的な機動力と二人の知力を駆使して次々と学力系の課題を総なめにし、一之瀬と神崎、神室の三人も別行動で手堅く別の課題をクリアして着実に得点を集めていく。

 

(うん!大グループを結成して別行動をとることで、参加できる課題の幅も一気に広がったし、順調に得点を重ねられてるね!)

 

 そして、午後十五時。

 タブレットの通知音が鳴り、本日最後となる四回目の指定エリアが発表された。

 

「最後の指定エリアは、【E8】ですね」

 

 ひよりがタブレットの画面を確認して告げる。

 

「【E8】か。目的としている本部拠点にもかなり近いし、帰還ルートとしては丁度いいな」

 

 合流した葛城が、マップを見ながら深く頷いた。

 

(よし!ここからなら十分間に合うし、最後は全員で向かって着順報酬を狙いにいこう!)

 

「――我らが帰還の道標は示された。だが、ただ漫然と歩を進めるだけでは退屈だ。ここは全員で風を切り、天からの褒美を奪い取ろうか」

 

「『【E8】は本部にも近いですし、全員で向かって着順報酬を狙いましょう』とのことですっ」

 

 私がオサレに提案し、ひよりがふわりと微笑みながら翻訳する。

 

「うんっ!みんなで走ろう!」と一之瀬も気合を入れ、私たちは一丸となって森を駆け抜け、【E8】エリアへと飛び込んだ。

 

 結果は見事に一位。全員で協力して急いだ甲斐もあり、着順報酬のポイントをしっかりと確保することに成功した。

 

 

 時刻は十五時を少し回ったところ。

 木陰で一之瀬や神崎たちが軽く息を整えている中、葛城が私に問いかけてきた。

 

「さて、どうする?今日のエリア移動はこれで終わりだが……このまま本部に向かって、早めにキャンプの用意をするか?」

 

(まだ近くに取れそうな課題が出てるからね!俺とひよりでサクッとクリアしてから本部に向かうよ!)

 

「――太陽は未だ天に在り、刈り取るべき星は残されている。私と彼女は、残光を拾い集めてから玉座へ向かおう」

 

「『まだ取れそうな課題があるので、私と惣右介くんはそれをクリアしてから本部に向かいますね』とのことですっ」

 

 私のオサレな宣言をひよりが完璧に翻訳すると、一之瀬が心配そうに眉を下げる。

 

「えっ……藍染くん、疲れてない?午前中も一人で山を登ったり、ずっと走り回ってたし……大丈夫かな……?」

 

「――疲労とは、地を這う者にのみ許された枷だ。天を駆ける私の翼が、これしきの風で重くなることはないよ」

 

(訳:全く問題ないよ!)

 

 私がフッと余裕の笑みを浮かべてみせると、隣にいたひよりは「ふふっ。でも惣右介くん、あまり無理はしないでくださいね?」と、優しく気遣うように微笑みかけてくれた。

 

 

 一之瀬たちが心配そうに見守る中、私とひよりは連れ立って【E8】周辺に発生していた学力系の課題へと向かった。

 

 結果は言うまでもなく、二人で完璧な解答を導き出し、危なげなく一位を獲得して5得点を追加した。

 

「無事に一位を取れましたねっ!この後はどうされますか?もう近くに参加できそうな課題もないですし、私たちも拠点に戻りましょうか?」

 

「――刈り取るべき星はすべて我が手に収まった。これより、我らも安息の地へ帰還しよう」

 

(訳:そうだね!戻ろうか!)

 

「はいっ。本部までの距離もそう遠くないですし、急がずゆっくり歩いて戻りましょうか」

 

「――木漏れ日を浴びながら、君と並んで歩むのも一興だ。焦る必要はないさ」

 

(訳:うん!そうしようか!)

 

 私たちは課題の会場を後にし、坂柳の待つ本部周辺の拠点へと向かって、並んで森の中をゆっくりと歩き始めた。

 

「……惣右介くんのおかげで、この過酷な無人島の試験も、毎日楽しく過ごせています。本当に、ありがとうございます」

 

 歩きながら、ひよりがふと嬉しそうに目を細めて私を見上げた。

 

(いやいや!俺の方こそ、ひよりがいるからこれだけ無人島サバイバルを楽しめてるんだよ!)

 

「――感謝の言葉は私の台詞だよ。君という月光が私を照らしてくれるからこそ、この荒野の道程すらも、私にとっては至上の楽園に変わるのだから」

 

「ふふっ。……ありがとうございます」

 

 ひよりは少しだけ頬を染め、私の袖をちょこんと指先でつまむ。

 

「でも……これだけ長く読書ができないのは、少し悲しいですね。試験が終わって豪華客船に戻ったら、また一緒に読書をしましょうね」

 

(そうだね!試験前に一緒に買った本も早く読みたいし、船に戻ったら二人でゆっくりしようね!)

 

「――ああ、約束しよう。この戦いが終われば、活字の海を二人で漂う穏やかな時間が待っている。君と共に手に入れた新たな叡智の扉を開く日を、私も楽しみにしているよ」

 

「はいっ。とっても楽しみです」

 

 二人でそんな甘く穏やかな会話を交わしながら歩いていると、やがて視界が開け、本部周辺に設営されたテントの群れが見えてきた。

 

「あ、ひよりちゃん!藍染くん!お疲れ様!」

 

 私たちの姿を見つけるなり、一之瀬がパッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。

 大グループの面々はすでにそれぞれのテントの設営も大方済ませているようだった。

 

「テントの用意、手伝うよ!」

 

「ふふっ。ありがとうございます、帆波ちゃん」

 

 一之瀬や神崎たちの手伝いもあり、私とひよりのテントもあっという間に設営が完了した。

 

 荷物を置き一息ついたところで、私たちは坂柳のテントの前に全員で集まり、円座になって話し合いの場を設けた。

 

「お疲れ様でした、皆様。大グループ結成後も、順調に得点を集められていますね」

 

 いつも通り、木陰で優雅に座る坂柳が微笑みながら私たちを労う。

 

「それから、私の方からの報告です。私たちの同盟の中で得点の低かったグループですが、手筈通り、橋本くんのグループと柴田くんのグループにそれぞれ合流してもらいました。とりあえずは私たちの同盟のグループは安全圏と言えるでしょう」

 

「ありがとう!坂柳さん!」

 

 一之瀬がホッと胸を撫で下ろし、坂柳に深く感謝する。

 

「まだ先は長いですし、怪我や体調不良でリタイアが出る可能性もあります。各グループの動向には、これからも注視しておきますね」

 

「ああ。お前が後方で支えてくれているおかげで、俺たちも憂いなく全力で試験に取り組めている。……坂柳も、動いていないとはいえ、この暑さだ。無理はするなよ」

 

 葛城が真剣な顔で気遣うと、坂柳は「ふふっ」と嬉しそうに目を細めた。

 

「お気遣いありがとうございます、葛城くん。私は大丈夫ですよ」

 

 安全圏の確保という報告に場が安堵に包まれた後、話題は自然と『今後の動き』、特に六日目から解禁される『GPSサーチ』へと移っていった。

 

「おそらく、明後日GPSサーチが解禁されれば、綾小路くんたちは確実に動いてくるでしょうね。……南雲先輩は、今回は学年全体を指揮して動かしてくることはないのですよね?」

 

 坂柳が確認するように私へ視線を向ける。

 

(南雲は今回、純粋なグループの力での勝負を俺に挑んでくるって宣言してたからね。学年全体を使った大規模な妨害はないと思うよ!)

 

「――王の誇りが、群れを率いて星を潰すような無粋を許しはしないさ。彼は純粋なる力のみで、頂に手を伸ばすだろう」

 

「『南雲先輩は、純粋なグループの力での勝負を挑んでくると宣言していたので、学年全体を使った妨害はないと思いますよ』とのことですっ」

 

 私の言葉をひよりが翻訳すると、坂柳は納得したように一つ頷いた。

 

「でしたら、懸念は一つ無くなりますね」

 

「綾小路や一年生からの妨害行為があるかもしれない、ということか?」

 

 葛城が険しい表情で問うと、坂柳は杖の先で地面を軽くコツコツと叩きながら答える。

 

「こちらの大グループには、生徒会所属である藍染くんと一之瀬さんがいらっしゃいますからね。あからさまな暴力や、直接的な妨害行為はしてこないと考えています。ですが……進路を塞ぐような妨害や、精神的な揺さぶりなどは、常に頭に入れておいた方が良いかと」

 

「なるほどな」

 

(それから、GPSで俺たちの位置を把握して、俺たちの狙いそうな課題の枠を先回りして埋めるように動いてくるだろうね!)

 

「――盤面を見通す目が開かれれば、彼らは我々の影を踏み、星への道を先回りして封じてくるだろう」

 

「『私たちの狙いそうな課題を読んで、先回りして枠を埋めてくるように動くと思います』とのことですっ」

 

 私の予測を聞き、神崎が顎に手を当てて思考を巡らせた。

 

「それなら、こちらも同じように、彼らの狙う課題を先読みして枠を埋めるように動いた方がいいか?」

 

「でも……同盟のグループ同士を同じ課題に集め続けて妨害を優先したら、得点が伸びなくなっちゃうよ。下位に沈むリスクが上がると思うな」

 

 一之瀬が神崎の提案に待ったをかける。

 

「私も一之瀬さんと同意見です。今はまだ、我々が他者を妨害してまで順位を下げる段階ではありません。……逆転され、点差がつけられ始めたら私たちも対策を考えた方がいいかと思いますが」

 

 坂柳の冷静な判断に、その場の全員が深く頷く。

 

「相手は惣右介くんの得点を阻止するために動いてくるでしょうから、その分、私たちが頑張って得点を稼ぎましょうっ!」

 

 ひよりが両手で小さくガッツポーズを作りながら、気合を入れる。

 

「うん!ひよりちゃんの言う通りだね!藍染くんにばかり頼ってられないよ!」

 

「ああ。俺たちもいつまでも藍染の力に甘えてばかりではいられないからな。Aクラスの底力を見せよう」

 

 一之瀬と神崎が、力強く呼応した。

 

「頼もしいわね。でも、私たちBクラスも負けてられないわよ」

 

「ああ。ここまで藍染に負担をかけてばかりだったからな。俺たちも一位を獲る大グループに相応しい成果を挙げよう」

 

 神室が不敵に笑い、葛城も頼もしい顔つきで腕を組んだ。

 

(みんな……!めちゃくちゃ頼もしいね!!みんなと一緒なら、絶対に勝てるよ!!)

 

 仲間たちの心強い決意表明に内心で大いに感動しつつ、私は外面だけはフッと傲慢な笑みを浮かべた。

 

「――ならば、君たちのその誇り高き翼に期待するとしよう。私が地に足をつける時、天を舞うのは君たちだ」

 

「『皆さんの活躍を頼りにしていますね』とのことですっ」

 

 私のオサレな信頼の言葉をひよりが優しく翻訳すると、みんなも気合に満ちた表情で頷いた。

 

「私も、後方からの指揮は任せてください。相手の思考を読み、皆さんが最も輝けるように的確な指示を出せるよう努めます」

 

「ああ。お前を信じている」

 

 坂柳の言葉に、葛城が短く、しかし確かな信頼を込めて返す。

 

 その後も、私たちは今後の課題の選び方やルート構築について綿密な話し合いを重ね、同盟の結束をより一層強固なものにしていった。

 

 

 

 やがて、夕方の十七時前。

 日が少し傾き始めた頃、私たちは本部にある大浴場へ向かうことにした。

 

 荷物の番をする必要があるため、まずはひより、一之瀬、坂柳、神室の女子四人が先に向かうことになった。

 

「――ゆっくりと羽を休めておいで。君の帰還を、ここで待たせてもらうよ」

 

「はいっ、すぐ戻りますね」

 

 女子たちを見送った後、テントの前には私と葛城、神崎の男子三人が残された。

 

(せっかく本部の近くにいるし、女子たちが戻ってくるまでに、また海で美味しい魚でも獲ってこようかな!)

 

「――彼女たちが清らかな雫を纏って帰還する前に、私が再び海神の宝を獲ってこようか」

 

「いや、その必要はない」

 

 オサレに立ち上がった私を、葛城が即座に手で制止した。

 

「課題の報酬で得た食料がかなり余っているからな。この暑さで傷むことも考えると、先にそちらを消費した方が良さそうだ」

 

「ああ。それに、これ以上藍染にばかり負担はかけたくないからな」

 

 神崎も葛城に同意する。

 

(確かに、この暑さだと生鮮食品は早く食べないと腐っちゃうもんね!)

 

「――なるほど。君たちの気遣い、確かに受け取ったよ」

 

 私はフッと笑い、再び席に座り直した。

 

 女子たちを待っている間、私たちは手際よく焚き火を起こし、報酬で得たコーヒーを沸かして、男三人での静かな会話の時間を楽しむのだった。

 

 

 一方、その頃。

 女子更衣室を抜け、大浴場へと足を踏み入れた四人は、火照った身体を洗い流して湯船に浸かっていた。

 

「…………一之瀬さんは、規格外ですね……」

 

 お湯に浸かりながら、坂柳がジィーっと一之瀬の胸元を見つめ、どこか恨めしそうな声で呟いた。

 

「ん?どうしたの?坂柳さん?」

 

 突然の言葉に、一之瀬がきょとんとして首を傾げる。隣にいたひよりも、不思議そうにぱちぱちと瞬きをした。

 

「いえ……なんでもありません」

 

「確かに、一之瀬のスタイルは凄いわね。ここに森下が居なくて良かったわよ、本当に」

 

 呆れたようにため息をつく神室の言葉に、坂柳の表情がピクリと引き攣る。

 

「……初日に同じテーブルの方とここに来た時にも、森下さんに憐れむような目で見られたんですっ!!許せません!!森下さんも大してないくせに!!」

 

 よほど根に持っていたのか、坂柳がギリッと唇を噛み締めながら憤慨する。その珍しく感情を露わにした姿に、神室がやれやれと肩をすくめた。

 

「はいはい。有栖もいつか成長するわよ」

 

「ふふっ。神室さんは、なんだか坂柳さんのお姉さんみたいですね」

 

 神室の面倒見の良さに、ひよりが楽しそうに笑う。

 

「にゃはは!本当だね!」

 

「…………私が小さいと?そう言いたいのですか?」

 

 一之瀬の笑い声に、坂柳がじろりと冷たい凄みを放つ。

 

「はぁ。ごめんね、一之瀬、椎名」

 

「ふふっ」

 

 神室の謝罪に、ひよりは口元を押さえてクスクスと笑った。

 

「で、でも、坂柳さんも変わったよね!一年生の頃は、もっと怖い人なのかな?って思ってたから、今のこの感じ、凄く話しやすくて嬉しいな」

 

 一之瀬が率直な感想をこぼすと、坂柳はまたジィーっと一之瀬の豊かな胸を凝視した。

 

「……やはり、舐められている感じがします」

 

「はあ。この二人がそんなこと思うわけないでしょ」

 

 神室のツッコミを受け、坂柳は小さく息を吐いた。

 

「……冗談ですよ。でもそうですね、私もかつては、自分一人の力でこの学校を支配できると、思い上がっていました。ですが、藍染くんという圧倒的な存在と、一之瀬さんの人徳によって完璧にまとまっているAクラス。勝つためには、今までの私ではダメだと、そう思ったのです」

 

 静かに語る坂柳の横顔は、一クラスのリーダーとしての確かな成長を感じさせるものだった。

 

「だからこそ、損得抜きで信頼できる『仲間』が必要なのだと気づかされました。……まあ、少し不器用な歩み寄り方にはなってしまいましたが」

 

 少しだけはにかむように微笑む坂柳を見て、ずっと隣で彼女を支えてきた神室が、からかうように鼻で笑う。

 

「不器用なんてレベルじゃないでしょ。最初は私のちょっとした弱みにつけ込んで、都合のいい手駒みたいにこき使ってた癖に」

 

「……っ、それは、その……」

 

 痛いところを突かれたのか、坂柳が少し気まずそうに目を逸らす。神室はさらにニヤリと口角を上げて追撃した。

 

「ふふ。この二人にも見せてあげたいわ。そんな悪の親玉みたいに振る舞ってた有栖が、顔を真っ赤にしながら『私と……友達になってください』って必死に言ってきた時の姿」

 

「真澄さんっ! その話は忘れてくださいと言ったはずです!」

 

 神室の容赦ない暴露に、坂柳はいつもの余裕を完全に失い、顔を真っ赤にしてバシャッとお湯を跳ね返す。

 

「にゃはは! 坂柳さんって可愛いね!」

 

「ふふっ。そうですね、とっても可愛らしいです」

 

 一之瀬とひよりが楽しそうに笑い合い、お風呂場には温かく和やかな声が響き渡った。

 

 

 その頃、拠点での留守番を任された私、葛城、神崎の男三人は、コーヒーを飲みながら静かな時間を過ごしていた。

 

(うーん、見事に静かな空間だね!葛城も神崎も静かにコーヒーを飲む姿が渋くて絵になってるよ!これぞ男の休息って感じだね!)

 

 私は内心でそんなことを思いつつも、フッと優雅に紙コップを傾け、穏やかな風を感じながら彼女たちの帰還を待つ。

 

 それからしばらくして。

 

「お待たせしました、惣右介くん」

 

「みんな! お留守番ありがとう!」

 

(お風呂上がりのひより……! ほんのり頬が赤らんでて、めちゃくちゃ可愛い!! みんなもさっぱりした顔をしてるし、お風呂で女子たちの絆も深まったみたいだね。過酷な試験の中で、みんなしっかり疲れが取れたみたいで何よりだよ!)

 

 内心でひよりの可愛さに悶えつつ、私はフッとオサレな笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「――清らかなる泉が、君たちの内に蓄積した重荷を洗い流してくれたようだね。纏う空気が、朝露のように澄み切っているよ」

 

「『みんな、しっかり疲れが取れたみたいでよかったです』とのことですっ」

 

「にゃはは、ありがとう藍染くん! すごくリフレッシュできたよ!」

 

 ひよりが可憐に翻訳し、一之瀬が明るく笑う。

 

 女子たちと入れ替わるように、今度は私と葛城、神崎の男三人で連れ立って大浴場へと向かった。

 

 湯船に浸かり、今日一日の汗と泥を洗い流していると、隣に浸かっていた神崎が私の身体をまじまじと見つめてきた。

 

「……それにしても藍染。凄まじい肉体だな。無駄な肉が一切ない、彫刻のように完璧な筋肉だ。これなら椎名を抱えて島中を走り回れるのも頷ける」

 

「ああ。俺も鍛えているつもりだが、お前のその完成された肉体には感嘆するほかない。一体どんな鍛錬を積めばそうなるんだ?」

 

 葛城も腕を組みながら、真面目な顔で私の肉体を称賛してくる。

 

(正直、何もしなくても藍染スペックでこの肉体だからね!ホワイトルームを追い出された後も鍛錬は怠ってないけど、元のスペックが高すぎて肉体面は努力の効果が全く実感できてないんだよな……。学力に関しては、知らない問題は解けないから参考書を読んだりしてるけど)

 

「――肉体とは魂を収める器に過ぎない。精神が遥かなる高みへと至れば、器は自ずと洗練され、疲労など入り込む隙はなくなるものさ」

 

「……なるほど。精神力の強さが肉体に表れているということか。やはりお前は底が知れないな」

 

(いや、神崎!一人で勝手に納得して感心しないで!絶対あとで一之瀬に『深淵が〜』とか言い出さないでね!?)

 

 謎の納得を見せる神崎に内心で焦りつつも、私たちは過酷な試験の最中とは思えないほど、ゆったりとした時間を男同士で共有した。

 

 

 お風呂から上がった後は、全員で協力して夕食の準備に取り掛かった。

 

 葛城の言う通り、これまでに課題の報酬で得たパンや肉、新鮮な野菜などの食材が豊富にあったため、傷んでしまう前に贅沢に消費することにしたのだ。

 

「いい匂いですね……。まるで林間学校に来ているようです」

 

 完成した具沢山のスープと香ばしく焼かれた肉を前に、坂柳が目を細めて微笑む。

 

「本当ね。私たちがサバイバル試験の最中だってこと、忘れそうになるわ」

 

 神室も呆れたように肩をすくめながらも、配られたスープを美味しそうに口に運んでいる。

 

「みんなで食べると美味しいね!藍染くんたちがいっぱい食料を稼いでくれたおかげだよ、ありがとう!」

 

 一之瀬が満面の笑みで美味しそうに頬張る姿に、場はさらに温かい空気に包まれた。 

 

 焚き火の炎がパチパチと爆ぜる音だけが、静かな森の夜に心地よく響く。

 

 ライバルであるはずのAクラスとBクラス。だが、こうして火を囲み、同じ釜の飯を食らうこの瞬間だけは、確かな絆で結ばれた一つの『仲間』だった。

 

 和やかな夕食を終え、明日の動きを軽く確認し合った後、私たちはそれぞれのテントへと戻った。

 

 テントの中、寝袋に潜り込んだ私は、静かにタブレットの画面を見つめる。

 

(今日で無人島サバイバルも四日目が終了か。大グループも結成して、同盟の基盤は完全に盤石になった)

 

 明日の五日目は、おそらく嵐の前の静けさとなるだろう。

 

 本当の勝負は――全グループの位置情報が暴かれる『GPSサーチ』が解禁される、六日目からだ。

 

 南雲が、龍園が、そして清隆や一年生たちが、私たちを引き摺り下ろそうと、一斉に牙を剥いてくる。

 

(ここからは波乱の中盤戦だ。油断はできないけど……。うん!楽しみだな!)

 

 私は暗闇の中で静かに目を閉じ、来るべき明日の戦いに向けて、心地よい疲労と共に思考を休めるのだった。

 

 

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