後半戦もどうぞよろしく
それでは、お時間いただきます
行き過ぎた善意は、悪意に姿を変える
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桜が散り、花びらたちが制服に身を寄せる頃、青井は新しいクラスの中で一人佇んでいた。いつものクラスメイトと滅多に話さないのだから、そうなるのも無理はない。でも、青井はこの状況に対して、劣等感を抱かなくなっていた。その理由は、目の前にいる先生にある言葉をもらったからである。
「はい!授業を始めます!」
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「青井さんは、話すのが苦手なだけで、嫌いじゃないって感じかな?」
今月から新しく入ってきた先生に質問される。ピンク色の髪、健康的な身体、常にワントーン高い声。凄く堂々とはしているけれど、それ以外はいつしか出会ったあの人に凄く似ている。ついつい、あの名前で呼んでしまいそうになる。
「そう…なんですかね…」
この先生は出会ってからそんなに経っていないのに、私の全てを見透かしていそうな雰囲気がある。根拠とか、データとかは一切ないけれど、私に関する質問は全部先生が代理で回答出来るのではとすら思ってしまう。
「うん。話を広げようとしてくれるのは伝わるし、色々な事を教えてくれるから。ただ、話の上手く広げる方法を上手く実践できていないだけだと思う」
しかも、話し方の知識を勉強していることも知っていそう。もし、その知識がないと思っているなら、『知らないだけ』と言うはずだからである。
「他に聞きたいことはある?ちょっとだけなら時間あるよ」
「えっ…えっと」
正直、聞くべきかどうか迷った。学校ではずっと一人だから、誰かに期待されていることを伝えても、無理して質問を作ったと思われるんじゃないかと思ったから。でも、この人にはいずれ悩んでいること自体はバレてしまいそうだし、デスゲームの事を隠せば問題ないかなと思った。
「私…お…お母さんに喜んで貰おうと思って…正直辞めたい…な…習い事を続けてるんです。今日も良かったね、って…凄く喜んでくれるし、その習い事が私にとって得意なことではあるっていう自覚は…あるんです。だから…辞めたいって言い出せなくて」
精一杯の嘘を交えながら話した。トウダさんの事をお母さんっていうのはちょっと恥ずかしかった。
「そっか…青井さんは優しいね。今まで会ってきた子の中で1番優しい人かも」
「え…」
「でも、もうちょっと自分の思いのままに生きてほしいって思うな。それにもっと甘えてもいいと思う。これやりたーい!これはやりたくなーい!って。私もたくさん甘えちゃうし…青井さんはまだ、大人にならなくて良いんだよ」
「…!」
青井はまた、心の奥底がスッとしたような感じがした。青井は、自分だけで完璧に出来るようにならないといけないと思っていた。それも、今の年齢にはみんなそうなっているべきなんだと思い込んでいた。でも、そうじゃなかったらしい。
「この後会議があるから戻るね。ありがとう!」
「あっ…えっと…ありがとうございます!」
頭は相変わらずモヤモヤするけど、心はずっと軽くなっている気がする。
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そんな事を思い出しながら、青井は黒い車に揺られている。もちろん、運転手はトウダである。今日もお話しする…とは行かなかった。
耳に入ってくるのは、エンジン音と、タイヤと地面のこすれる音、そして睡眠用かと思うくらいつまらないトークのラジオが小さい音で流れている。今日は青井が、あまり話す気分では無かった。二つの世界の板挟みになり、生き方を問われている。思考が煮詰まって頭が熱くなる感覚が、青井を襲っていたのだった。
トウダもいつもとは違うなと感じてはいた。まさか自分が原因だとは微塵も思っていないが。
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久しぶりに、青井に出会う前に送迎したプレイヤー達を思い出していた。その子達とは全くと言っていいほど、普段の二人のように、日常的な会話をしていなかった。しかし、全員の死に様は強烈に覚えている。
初めて送迎した子は、敵プレイヤーに捕まって拷問を受けていた。チーム戦だったのだが、情報を引き出すために運悪く捕まえられてしまったのである。そんな彼女はとても仲間思いだった。『情報を吐く』か『自殺するか』を、選ばされた時に迷わず自殺を選んだ。私はショックでしばらく身体が動かなかった。
二回目の子は、生き残るつもりなんてなかったんだろうと思う。目を覚ましてからずっと寝そべったままだったし、他のプレイヤーに見つかって、刺された時も抵抗している様子なんか微塵もなかった。しかも穏やかな表情をしていた。その様子を見ている時は、私の心臓が締め付けられているような感覚があった。
三回目の子は、騙されてゲームに参加せざるを得なくなった子だった。罠である毒ガス部屋に入れられてしまい、ドアを壊そうと最後までもがいていた。あとから聞いた話なのだか、シングルファザーである彼女の父親が自分の家から巣立つのが嫌なあまり、生き人形にしてほしいと運営に頼み込んだらしいのだ。この世界にいる私が言うのもおかしいが、とんでもない外道だと思う。
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なんて思いふけっていると、もう睡眠薬を飲ませないといけない時間になった。慌てて青井に告げる。
「時間です。薬を飲んでください。」
「…はい」
「それでは、健闘を祈ります。またあとで会いましょう」
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青井は12回目のゲーム〈Doll Dustbox〉に参加した。外国製の人形が身につけているようなドレスを着ているが、デザインに違和感がないように汚れされている部分がある。さらに、周りの景色を見渡すとゴミの山に見える装飾品が数多く置かれている。
全員が目覚めた所で、目が真っ黒な人形が突然喋り出す。
「私たち、捨てられちゃった。捨てられちゃった」
「許せないよね。私たち捨てちゃうなんて、許せないよね」
「私達、今、ゴミ捨て場にいるの」
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今回のゲームは、鬼側6人と生存者側24人に分かれて戦う対戦型。簡単に言うと、捕まれば死ぬ鬼ごっこである。
鬼側は各プレイヤーに4人ターゲットが指名されており、そのうち2人が死亡すればクリア。生存者側は制限時間いっぱいまで逃げ切るか、自身をターゲットにしている鬼をゴミ捨て場に入れられればクリア。
ゴミ捨て場について説明すると、まず、今回の会場は住宅街を模したものである。そこに緑色の大きなゴミ箱がいくつかあるので、そこに鬼を放り込めば、即刻燃やしてくれる。
他にも色々ルールが設けられている。
鬼側は
1つ目、生存者の背中に刃物を刺さなければならない。
2つ目、鬼は、ターゲットの生存者に対してのみ、電話をかけることが出来る。電話をかけた場合、再び電話をかけるまで、30分クールタイムが必要である。また、電話をかけられる生存者は自身のターゲットのみである。
3つ目、一度の電話で足止めできる時間は10秒とする。
上記において、故意、過失問わず違反が確認できた場合は、即刻ゴミ捨て場行きとする。
生存者側は
1つ目、自身をターゲットにしている鬼の居場所のみ、一定間隔でその生存者に通知される。
2つ目、生存者は携帯電話が鳴った時は、5秒以内に出なければならず、足を止めなければならない。
3つ目、鬼の居場所通知をほかのプレイヤーに見せてはならない。
4つ目、生存者は背中を20秒以上隠してはいけない。
上記において、故意、過失問わず違反が確認できた場合は、NPCが即刻殺害する。
また、共通項目として
鬼が違反によって退場した場合は、ターゲットを別の鬼が請け負い、居場所通知が届くようになる
生存者が違反によって退場した場合は、別のプレイヤーターゲット1人を自由に殺害してもよいものとする。
どちらかが全滅した場合、ゲームは即終了となる。
と定められている。
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「はぁ…めちゃくちゃ遠い…しばらく大丈夫ね」
生存者側のプレイヤー、犬塚は木の茂みにうつ伏せになって隠れていた。居場所通知を見ると、今いる地点の真反対に鬼の反応がある。少なくともターゲットに見つかることはしばらくなさそうだ。
「さてさて、ちょっと仮眠…とは行かないけど、じっとしてよ…」
プルルルルルル…
「ヤバ!」ピッ
『もしもし、いまどこにいるの?』
「アハッ…教えるわけ゛ッ…!」
突然背中に激痛が走る。理解できない間に綿がこぼれていく。
「いだい゛!いだい!…や゛めっ…で!」
「のんきに!寝てんじゃねぇ!」
犬塚はあっという間に息を引き取った。
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「自分のターゲット以外を殺害する?」
「はい…居場所が分かってしまうのなら、どうしても先手を取られてしまいます。なので、ターゲットじゃない人をそれぞれ狙いましょう。誰か見つけたらターゲットになっている鬼の人に電話をしてもらうんです。そうすれば、足止め出来て確実に仕留められます。」
「それって、殺す担当にメリットあるかな?」
「正直薄いです。けど、私は鬼側全員で生存したくて、その第一歩として必要かなと思います」
鬼側はファーストプランとして、ターゲットとは違う生存者を襲撃することにした。居場所が遠いと分かることが逆に罠として使えると踏んだのである。さらに、ターゲットが死亡している必要があるのであって、自身が殺害しなくても良いのだ。
そのため、初めの1時間は一切攻撃をせず、プレイヤーの傾向を見ることにした。固まっているプレイヤーも入れば、孤立しているプレイヤーもいる。孤立している人はこの世界でも狙われる運命なのだ。
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まず、これで5人殺害した。そして、1人はすでにクリア条件を満たした。かなり申し訳なさそうにしていたが、チーム全員が納得している様子だったので、問題は無さそうだ。
しかし、青井のターゲットはまだ1人も殺せていない。おそらく本人より、トウダの方が焦っている。
「青井…」
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この後も、ルールを活かして一人ずつ殺していった。時には武器を持たない生存者一人に数人で乗っかり、背中を20秒以上隠させてルール違反で殺害した。また、背中以外に刺さなければいいので、前方から殴り合いの真っ向勝負を挑むこともあった。ゴミ箱に遺体を捨てろと言って、偽物のミッションを伝えておびき出したりもしてみた。無事ではないが、何とかパーフェクトゲームに近づいてきている。最後は、青井のターゲットを一人殺すだけとなった。残りの二人のうち一人を追いかけて仕留めることになると思われた。
しかし、今の前には生存者11人が立ちはだかっている。
「こうすれば、あんたは生き残れない。」
やられっぱなしだった生存者達は一矢報いたかった。自分が狙われることは無い、生き残りがほぼ確定している状況を捨ててでも。
「私たちは逃げられない。でも、殺されることは無い」
あまりにも厳しい状況だった。チームメンバーに力でねじ伏せられる人はいないし、ナイフは背中以外にさせないので、首を掻っ切ってすぐ絶命させることもできない。でも、まだ終わっちゃいない。
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「もう30分たったよ」
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
プルルルルルル
勝負は10秒間。
一秒。鬼たちは、携帯電話を投げ捨て走り出す。
二秒。誰が動いてはいけないのかが分からず、判断が鈍る。
三秒。青井以外の鬼たちが電話をかけていないプレイヤーに殴りかかる。
四秒。命は惜しくないことを思いだす。
五秒。立ち止まるプレイヤーの横をすり抜ける。
六秒。鬼を捕まえようと手を伸ばす。
七秒。ターゲットをうつ伏せにする。
八秒。人を襲う背中が恐ろしく遠くなる。
九秒。背中を一直線に切り伏せる。
十秒。デスゲーム終了の鐘が鳴る。
(12/15)
「お疲れ様でした。」
「はい。ありがとうございます」
いつも通り、車に乗り込む。でも、なんだかスッキリしない空気感が、社内に漂っていた。
「あの…トウダさん…」
初めて人を殺めたあの日からずっと悩んできた。でも答えを出せなかった。でもそれは仕方のないことだ。まだ、自分が気づいていないことだってあるし、まだ大人じゃない。こんな難しい問題を一人で抱える必要な全くないのだ。だから、思い切って本人に聞いてみることにした。
「私、デスゲーム辞めたいと思っているんです。」
(?/#)
は?
(@/!)
「駄目ですよ!!!」
「えっ…」
「これしかなかったって言っていたあなたが?満足そうにプレイしているあなたが?ここまで躊躇わず人を殺せるあなたが?辞めたい?今さら何を言っているんですか!!!」
「もう引き返せないでしょう?普通の世界に戻っても、出来ることなんて限られるじゃないですか?お金だって今ほど稼げません。毎日数時間働いて、もらえるお金は賞金と比べたらバカらしくなってきますよ」
「それに、あなたはここでショーを観てもらうだけでいいんです。自分がやりたいように自由にやっているだけでいいんです。こんなに割のいいことないでしょう!?それを辞めたいなんて、冗談でも言わないでくださ…い…」
(15/15)
ふとバックミラーを見た時に我に返った。そこに映っていたのは、体をガタガタ震えさせ、耳をふさぎ、大粒の涙を流す青井だった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
とんでも無いことをしてしまった。
「やめるなんて…いいませんから」
「おこらないで…くだ…さい」
これから何を言おうと手遅れだ
「わたしにはこれしかないです」
普通の世界に戻って欲しいと、思っていたはずなのに
「じょうだんい…って…ごめん…なさい」
だからお前はダメなんだ、橙田(トウダ)
読んでいただきありがとうございました!
次はエージェントさんの深堀りです。