早くもここまで来ましたね
それでは、お楽しみくださいませ
忘れ去ろうとすることが、もっとも罪深いことなのかもしれない。
(0)
「駄目ですよ!!!」
青井は初めて『拒絶』を経験した。両親はいつも、青井のやりたいことを肯定してくれた。友達とは、そもそも距離を置いていた。他人と話すことは最小限にしていた。誰かとぶつかり合う前に、自分から離れていた。青井が今まで感じた「拒絶」は、自分で被害妄想を最大限膨らませて作った以上のものは無い。
人からの「拒絶」というものは、あまりにも惨たらしいものだ。まず、本みたいに一方的に言葉を投げつけられる。そこから、反論はほぼ封じられてしまう。次に「言葉のトゲ」を、大人と同程度、いやそれ以上に子供は受け止められなければならないからだ。何事も経験をしないと成長は出来ない。しかし「拒絶される」という経験は、子供にとって劇物すぎる。普通の世界の青井が耐えきれるはずは無かった。
普通の青井は心の奥底に閉じこめた。
(1)
橙田は思い出す。自身が会社を辞め、エージェントになるまでのわずかな記憶。『消去』していたのは、プレイヤーとしての記憶。
(2)
橙田は、長所が無いと『思っている』。何をしてもダメ、脚を引っ張ってしまうからダメ、いるだけで迷惑がかかるからダメと『思っている』。だから、得意なことがある人がうらやましかった。
「ここは目良に入ってもらうべきです!」
「だから、身長高いと不利なんだって…」
得意なんだから、それでいいじゃないか。なんでわざわざ得意じゃないことをするんだろう。
「この先は小暮に任せるべきです」
「ちょっと…さすがに休ませてあげなよ」
たくさん活躍できる場があるじゃないか。私には何もないのに。
「あんたのせいだ…あんたに仕方なく合わせた私が馬鹿だった…!」
橙田はとあるチーム戦のデスゲームにて、それぞれ得意なことをするべきという主張を押し通した結果、崩壊を招いてしまった。
「得意なことが無いあんたは楽だったよね。人任せにできてさ」
「そういうやつが決まって生き残るんだ。あっちの世界と変わんないじゃん…」
「とっとと死んじまえ!こっちの世界で一生懸命に生きてる奴らにも迷惑なんだよ!」
「うるさい!お前の声なんか聴きたくない!」
「はぁ…やだな…死にたくないなぁ…」
その日を境に、橙田は死に、トウダと名を変える。
(3)
自分の考えを押し付けるのは駄目だって知ったはずだ。それなのに、自分が思い出すのがつらいからって、記憶の消去に頼ってしまった。なにが「人間関係リセット」だ。そんなもの無くても、お前は孤立してた。勝手に期待して、それ以上を求めて、お前は何か相手に返したかよ?そんなことあるわけないよな?だって、何も持っていないんだから。
それだけでは飽き足らず、子供の生き方も決めつけだしたか?あれだけお前は編み物が凄いだの、お辞儀が凄いだのって気づいてたよな?元の世界に戻ってほしいと思ってたよな?けど、いざ目撃したらなんだ。今まで気づいたこと全部忘れてた。『デスゲームしかない』ってお前はあっという間に決めつけた。その後の青井との会話の内容、少しでも思い出したか?ちょっとでも思い出せたなら、普段の事について自分から聞けたよな?でも、頭の中はデスゲーム中の青井のことばっかり。どこまで行ってもお前、普通じゃないんだよ。でもよかったな。お前が決めつけたおかげで、思いとどまってくれたみたいだな。
(4)
「青井って子、人気ですね~。オークションに出されたら、とんでもない額になるんじゃないんですか?」
「私、そのためにお金貯めてるんですよ!だから今日は控えめに賭けます」
「いやいや、どれだけあっても足りませんって!でかく行っときましょうよ」
気づけば、青井は注目の的になっていた。10回目くらいからオッズは2倍を切っていたし、青井の敵になったプレイヤーに同情するくらいには実力を持っていることが知れ渡っていた。中には『綺麗な遺体で死んでくれ』という吐き気のする会話を聞くことだってあった。自分が望んでいた通り、青井に対する目は増え続けている。しかし、自分はこのことを喜べずにいた。
青井はこんな風に悩んでいたのだろうか。現実と理想の板挟みになり、頭が焼ききれる感覚に、ずっと、ずっと苛まれてきたのだろうか。
(5)
「これをしたいとかは無いです」
「ほら、編み物とかやってたじゃないですか」
「してはいますけど、もし編み物のデスゲームがあったときに備えているだけです」
エージェントは、この世界から離れさせようと必死になっていた。しかし、どの話題も結局デスゲームの話に繋がってしまう。自分のしたことの罪の重さを痛感する。でも、「この世界から離れた方がいい」なんて直接言えるわけがない。自分がすることの一貫性が無さすぎる。
反応の仕方も、すごく機械的になった。最低限の話をして終わり。以前ならもっと、もっとと沢山話してくれたのに。心は常に、あのいかれた世界に置いてけぼりになっている。
「私の話はもういいじゃないですか。早く連れて行ってください」
(6)
刺殺。圧殺。射殺。撲殺。惨殺。殴殺。轢殺。薬殺。…一通りの殺し方は全部実践した。どれも恐ろしく簡単にできてしまった。いやというほど、自分はこの世界で生きるべきだと、身体は教えてくる。でも、そんなことはとうに知っている。
「どうして、どうしてそんなこと出来るんですか!!!ここまで一緒に頑張ってきたのに!」
金髪のツインテール、食べているか心配になるくらいの細い体、言動から優しさがにじみ出ている彼女。自分が初めて手にかけたといっても過言ではないあの時であった少女にとても似たプレイヤーに責められる。
「どうして?生きるためには仕方ないよ。デスゲームなんだから」
「だからって、何も言わせずに殺すなんて…」
「じゃあ、自分が死ぬよなんて言うつもり?」
「…」
「あなたみたいに思っていた時期もあったよ。でも、そんなこと考えてる人から死んでいく。どんな目的で参加したかは知らない。でも、これが嫌なら、今すぐこの世界からさよならしてね」
心優しい青井は、心の奥底で永い眠りについていてしまっていた。
「まさか、人を殺したくてこの世界に来たんじゃないですよね」
「…」
「仕方なくしているだけですよね」
「…」
「誰かに言われたからじゃないですよね」
「!」
「本当はどうしたいんですか!!!」
「うるさい!あなたはどうするか選べたんだ!でも、私はそうじゃない!ここでしか生きていけない!あなたに私の気持ちなんてわかるわけない!」
青井は珍しく声を荒げた。ここから何を言ったかは覚えていない。でも、また心がモヤモヤしだしている。彼女ののせい…いや、彼女のおかげだ。
(7)
「青井…まだ続けてたんだ」
幽鬼は目を覚ますなり、クローゼットを開け、メイド服を取り出す。袖が少しシワになっている部分を見るなり思い出す。あの時、初めに引っ付いてきたプレイヤーが、まさか熟練プレイヤーになっているとは。でも、それなりに片鱗はあった気がする。コミュニケーションは苦手だから、普通の世界だと辛そうだった。丸鋸の罠の時は、手を切り落として鍵を取りに行っていたから、判断力はいいものを持っていた。紅野がもどしている時も、寄り添うどころか私の後についてそそくさと脱出していた。情を持ちすぎないのもこの世界では大事だ。でも、なんで続けているんだろう?
(8)
これしかない。誰かが褒めてくれるから。
これしかない。自分が得意なのを知ってるから。
これしかない。トウダさんに言われたから。
これしかない。これしかない。これしかない。
「本当はどうしたいんですか!!!」
何故この世界にいるのか。自分の気持ちを理由にしたかったけど、一つも見つからなかった。
(9)
「幽鬼さん…」
「青井、久しぶり」
忘れかけていた願いが叶う瞬間は、不意に訪れた。
「えっと、その、わ…私」
「落ち着いて」
青井にとって29回目のゲームをきっかけに、多くの人に別れを告げることになる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
初めての二次小説も終わりに近づいてきており、ちょっとウルっと来ています(笑)
どうか最後までお付き合いいただけると嬉しいです