ここで初めて幽鬼さんの描写あるので、ちょっと緊張して書きました笑
この物語は終盤戦
それではどうぞ
これは、誰かに仕えるしかなかったメイドが、自分で行き先を決められる旅人になる世界の話。
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幽鬼はいつも、目覚めるのが遅い。日常においても、デスゲームにおいても。
あたりを見回すと、立派に成長した木々たちが幽鬼を囲んでいる。そして、木々たちが風の音とともに体を揺らしている。まるで、幽鬼の寝癖がひどく、笑いをこらえきれないとでもいうような態度だ。でも、そんな幽鬼の様子を笑わない少女が一人いる。青と赤が入り混じる珍しい瞳。それだけで、誰かであるかを決定づける時が出来た。少し昔っぽい旅人の衣装を身にまとっている。よく見ると、幽鬼も似たような衣装を着ていることに気が付いた。
「幽鬼さん…」
「青井、久しぶり」
「えっと、その、わ…私」
「落ち着いて」
話し方も変わらないように見える。でも、話していくうちにコミュニケーションが出来ないことが理由ではなく、突然再開したことに戸惑っているだけのように見えた。わざわざ耳元を貸すことは無かったし、聞き直すこともなかった。本当にあの時の青井なのだろうか。
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「今回はどんなゲームなんでしょうか」
「まだ何も聞いてない?」
「はい…周囲を見たんですけど、何も手掛かりが無いですね」
今回は、一切ルールが明かされていない。それに、他のプレイヤーも見当たらない。かなりステージが広いのか、そもそも二人しかいないのか、全く見当がつかない。
「ひとまず、一緒に行動しようか」
「はい!」
幽鬼にとって、森のステージは初めてでは無い。ただし、森はゲームにおいて不確定な要素が多い。木の生え方はもちろん、地面の状態、見通しの良さなど、命取りとなる要素が軒並み予測が困難なものなので、下手なトラップがある施設より推測が難しいのだ。これは骨が折れるな。なんて思っていると、
「離れたらいけないですから」
と幽鬼の手を取り、前に立って慎重に歩みを進める。
「ねぇ、本当に青井だよね?」
「はい、そうですよ」
あまりにも別人に見えた。あの時、袖をつかんで引っ付いてきた気弱なメイドさんとは思えない。でも、ここまで生き残ってきたのだから、当然と言えば当然だろう。ひとまず、青井についていくことにした。
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しばらく歩いたが、一向に景色が変わる様子はない。だんだん、木や風が鳴らす音が私たちを嘲藁っているかのように感じてきた。今回は長期戦になりそうなので、一休みすることにした。といっても、地面に腰掛けるしかないのだが。
「いったん、手を離してもいいんじゃない?」
「わっ!ごめんなさい!」
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「そういえば、なんでデスゲーム続けてるの?」
「私には、これしかなくて」
本当は、これしか言わない予定だった。
「…と、思ってたんですけど」
「?」
「分からないんです。自分はこの世界の方が向いているっていう自覚はあるんです。必要なら、躊躇わずに人を殺せます。何も考えなくても、身体が勝手に動いてくれるんです。初めは幽鬼さんの真似をしていただけなんですけど、すぐに慣れました。エージェントさんも褒めてくれます。辞めたら駄目とも言われました。」
「…」
「でも、ずっと辞めたいとも思っているんです。人を殺した感覚は全く慣れなくて。自分はこの世界しかないんだって言い聞かせるみたいに、殺人は仕方ないっていう態度を取ったりもするんですけど、やっぱりごまかせなくて。」
「うん。」
「それに、普通の世界でも頑張れるんじゃないかとも思っていて。いろんな人に言葉をもらったんです。趣味の事を褒めてもらいました。まだ大人にならなくていいって言ってくれました。本当は何がしたいのって言われちゃいました。」
「うん。」
「こんなにたくさんもらったのに、いまだに答えを出せなくて。ついにここまで来てしまいました…幽鬼さん、私、どうすればいいですか」
正直、相談するのは怖かった。あの時みたいに、怒られるんじゃないかって思った。でも幽鬼さんに怒られたなら仕方ないって割り切れる気がした。それに、怒られたとしても、『この世界に留まる』って決心出来る気がした。
でも帰ってきた答えは予想とは違うものだった。
「どうするべきかについては、何も言わないよ」
「!」
「というか、言わない方がいい気がする。自分で言うのもなんだけど、青井は私の言ったこと基準でどうするか決める気がするな。辞めろって言うなら辞めそうだし、続けろって言えば続けそう。」
まるで心の中を見透かされているかのような感覚に陥った。やっぱりこの人はすごいな。
「でも、何も言わないのも申し訳ないから…そうだね…」
「私は、得意なことで勝負『したい』、って思ってる。これは私の…」
そう幽鬼が伝えると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。声は途切れ途切れであり、かなり痛々しい傷を負わされていることは容易に想像できる。近づかないのが得策だが、別の場所から原因と思われる影がのそのそと現れた。
「熊…」
おそらく、悲鳴がした場所の熊とは別の個体だろう。この広い森に数匹放たれていると考えて間違いない。普通の森で遭遇した時は、体を大きく見せる、後ずさりしながら離れるのような対処法がある。しかし、これはデスゲーム。一定のルールに従って動く場合もある。
しばらくにらみ合う時間が過ぎたが、結局熊はそっぽを向いてどこかに行ってしまった。話の続きをしようと思っていたが、そんな気持ちの余裕は無かった。
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ひたすら森の中を歩く。歩く。歩く。が、景色が変わる様子が全くない。熊が出現することもあるが、にらみ合っては熊が折れて、どこかへ行くという繰り返しになっていた。また、時々悲鳴も聞こえてきた。おおよそ、熊に襲われたとみていいだろう。しかし、不審な点があった。死体を見かけた時、必ず似た衣装の二人が死んでいる。それに、一定の距離を保って死んでいるのだ。
「一応熊に襲われた形跡はありますけど…」
「にしては、不自然だよね」
3組の死体は、どれも同じくらいの距離感で横たわっていた。
このことが分かった瞬間、二人は最適解を見つけ出す。
「幽鬼さん、もう一度手を繋ぎませんか」
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それはもう、退屈で仕方が無かった。このゲームは一見、熊から逃げ切る生存型に見えるが、実際はペアのプレイヤー同士が20メートル以上離れてはいけないというだけのゲームである。ペアを見捨てて逃げたり、別行動をすると、再び20メートル以内になるまで狂暴化する仕組みになっていた。
幽鬼と青井、この二人がペアになるということで、裏では殺戮ショーが繰り広げられるのかと盛り上がっていたが、そんな要素は微塵もなかった。明らかにミスキャスティングであり、観客からも恐ろしく不評だった。これは企画した人詰められるだろうな、なんて考えていた。
が、そんなことを考えてしまう自分に恐ろしく嫌悪感を抱いていた。自分が過去にした愚行を呪っていた。なぜ幽鬼のように、耳を傾けられなかったのだろうか。自分の言葉の重みを理解していなかったのだろうか。一番近くにいたのに、一番欲しい言葉をかけてあげられなかったのだろうかと、自責の念が私を押しつぶしていた。
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私は、誰かに合わせてばかりだった。両親の言うことに反抗することは無かったし、学校でも特に意見を言うこともなかった。デスゲームに参加し始めた時も、ついていっただけだったし、参加する動機だって、トウダさんが喜んでくれるからだった。そんな私だって、別に悪くはないんだと思う。
でも、今まで『こうしたい』って思う自分は無視することが多かった。ずっと心の奥底で、無視されて辛かったんだと思う。じゃないと、怒られちゃったときにあんなに泣かないはずだから。もうそんな思いはさせない様に、今から向き合いたい。
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「幽鬼さん」
「どうしたの」
無事、森から脱出することが出来た二人は、エージェントの迎えを待っていた。
「私、もうデスゲーム辞めます」
「そっか、決心がついたんだね」
「はい。」
「…敵にならなくて良かったよ」
「え?」
「だって、99回の目標阻止されそうだから」
青井は少しだけ、脅威に思ってくれていたことに驚きつつも嬉しくなる。
「また、会えますか?」
「会わない方がいいよ。…いや、会いたくないわけじゃなくて」
「分かってますよ。意地悪な質問になっちゃいましたね」
途端に寂しくなってしまった。けど、もうこの人とは完全に関係を切るべきだ。と心の準備を整えていると、
迎えの車がこちらにやってくる。
「じゃあ、元気でね」
「はい。幽鬼さんも。…さようなら!」
二人は手を離した。
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読んでいただき、ありがとうございました!
あと一話だけありますので、少々お待ちください!