満ちる月を越える者   作:業火の跡地

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お引越し!

===伊織の部屋===

 

「えー!伊織一緒に来てくれないのぉ!」

「ないでぞ・・・あー、一応保護者俺か」

 

 

 

一緒に引っ越して来て欲しいとかぐやに駄々を捏ねられていた。伊織は何故?と言った感じ。彩葉も困った表情であり、だがなんか妙な表情をしている

 

 

 

「本当ごめん伊織。かぐやがどうしてもって聞かなくて。止めれんかった・・・」

「由は分かった。じゃっどんのぉ」

 

 

 

伊織は少し考えた。少なくとも伊織の親戚であると芦花や真実、知り合い数人に紹介している。確かにややこしい事になるかもしれない

が、それ以上にここを離れる理由もない。それに付き合って無い男女が一つ屋根の下というのも如何なものかと

 

 

 

「むー・・・あ!じゃあ伊織に触れたら勝ち!」

「よか。狭いで1分ぞ」

 

 

 

何時もの奴。座っていた伊織が後方、窓際に飛び、突っ込んできたかぐやを躱す。部屋の中で追いかけっこが始まった

 

避けて避けて避けて、もうすぐ60秒

 

そして、次はドア付近に移動した所で伊織は背中に触れられた。かぐやは目の前に居る。腕を触手よろしく伸ばしているわけではない

 

バッと振り返る。そこには少し悪い微笑みを浮かべて舌を出した彩葉が、伊織の背に触れていた 

困惑と動揺が混じった声を出す

 

 

 

「な、ないごて?」

「ごめんね伊織。かぐやを止められるのって伊織だけだし?でも勝ちは勝ちだよ?誰が触れたらとか言ってないからね〜」

「いやっほーい!やったね彩葉!」

「いえーい!」

「酒寄もそっち側じゃったんか・・・」

 

 

 

2人はハイタッチ。かぐやの奇策がハマったぁ!

刹那の硬直。してやられた事を理解した

確かにかぐやは伊織に触れたらとしか言っていなかった、誰の指定がなかった。伊織の詰めの甘さである

 

 

 

「負けは負け・・・腹ば括るか」

 

 

 

そして、引っ越しの日取りを決めた。引っ越しまで数日、その準備と、かぐやと彩葉、ヤチヨのコラボライブの練習が始まる。慌ただしくなりそうだ

 

 

 

===ツクヨミ===

ヤチヨが設けた4人しか入れない特別なトレーニングルーム。何処かの武道場の様な、能の舞台の様な?

ヤチヨから打ち合わせと練習にイオリも呼ばれたのだ

 

 

 

「来たよ〜ヤチヨ〜」

「ど、どうも」

「いーろは、そんなに固くならないで〜」

「おう。月見ヤチヨ」

「伊織も来てくれてありがと~。でも呼び捨てでも良いんだよ?」

「かぐやと彩葉は分かる。ないで俺も?」

 

 

分かった上でスルー。自分が呼ばれた理由が本当に分からない

 

 

「だってかぐやにダンス教えてくれたの伊織じゃん?だからまた、教えてぇ?」 

 

 

 

可愛くおねだりされた。まあ、断る理由は無い

 

 

 

「かぐやからそう聞いたよ〜。だから手伝って貰おうかなって。それに動きを覚えるの、得意なんでしょ?2人で踊るパートとかの相方してくれないかな〜って」

「そう言う事か。なら手ば貸す」

「伊織は出てくれないの〜?」

「出ん」

「えぇ~?そこを何とかさ〜おねがぁ〜い伊織ぃ〜?」

「い、お、り?おねがぁい?」

「出ん」

 

 

 

彩葉なら即オチするかぐやとヤチヨのWおねだりだが、伊織は拒否であった

 

 

 

「そうだ。ヤチヨ、コラボライブ、何を歌うの?」

「んー?今考えてるのはね〜、ワールドイズマインと新曲!」

「新曲!?ヤチヨの!?」

「私達の、だよ?伊織、私かぐやのパート踊るから覚えて?」

「よか」

 

 

 

ヤチヨの指パッチンとともに《ワールドイズマインCPKremix》が流れ出し、ヤチヨがそれに合わせて踊り出す。

次は新曲、《Ex-Otogibanashi》自らに課せれた運命を良しとするのか?誰かに決められるのではなく、自分の運命は自分で決める。かぐや、かぐや姫に向けられた曲、だが伊織はその歌詞に胸騒ぎを覚えた

 

それはそうとしてイオリは真剣に見る。全体の動き、足先から指先、体の重心の移動までリアルタイムで頭の中にトレースしていく

 

そして、やはりと言うべきか。戦闘だけではなかった。そもそも体を動かし方の基礎が自分と、その教え子のかぐやに近しい物がある

 

 

 

「おぉ〜むずそ〜」

「かぐやなら大丈夫だよ〜」

「よか。覚えた」

「ほほぉ〜う?じゃあ早速合わせちゃおう!イオリ、それじゃあ体の動き見づらいからコレに着替えて?いきましょー」

 

 

 

白いラインが入ったジャージに着替えた

ヤチヨとイオリが並ぶ。ヤチヨの指パッチンで再び曲が流れ出した

 

 

音に合わせて二人が踊り出した。正確無比なイオリの動きはヤチヨの隣に立っても何ら違和感のあるものでは・・・いや 感情の薄さで違和感はバリバリか?

だが息の合った二人のステップに目を奪われる彩葉とかぐや

 

2曲が終わる

 

 

「こんな感じかの?」

「さっすがイオリ!息ぴったりだね!イェ~イ」  

 

 

ヤチヨからのハイタッチに答えるイオリ

感嘆しているイロと拍手喝采のかぐや

 

 

 

「凄っ!1回見ただけでこんなに出来んだー」

「イオリ凄い、ヤチヨと最初に一緒に踊った人になっちゃった」

「後はおまんらぞ。ライブ、楽しみなんじゃろ?んじゃあ修練積んで、後悔ないようにの」

 

 

 

そして、イオリはかぐやとダンスの練習、ヤチヨは彩葉とベースと全体の流れの確認をして最後に全員で合わせてみる

 

イオリはかぐやなら振り付け無視してやりたいように本番で好き勝手やるだろう。と思っていたし、実際その通りだった

 

 

して、三人の歌の合わせ。ワールドイズマインの時に

 

 

「ねーねー、どうせなら彩葉も歌おうよぉ〜」

「え"いやいやいや、」

「あ、こことか良いんじゃな〜い?ヘイベイビー、彩葉が言えば皆イチコロだよ〜」

「いや!それならヤチヨの方が!」

 

 

もろに狼狽えている。正直見ていて面白い

少し乗るか

 

 

「別によかろ」

「イオリ!?」

「彩葉ぁ、おねがぁい?」

「恥ずかしいって!」

「彩葉、やって、くれないの?」

「つ、謹んでお受け致しますぅ!」

 

 

コイツちょっろ(N回目)

  

(今の・・・月見ヤチヨが合わせたんか?それにしては彩葉のツボ知り過ぎじゃろ)

 

 

練習の中で深まるヤチヨとかぐやの共通点に、伊織の中で何かが出来上がりつつある

 

 

 

======

 

 

 

そして、引っ越し当日である。前日までに荷物(大半は武具)を纏めて彩葉に託し、己はかぐやと共に鉄路で新居へと向かっていた。

荷物が四つ。自分の脇差と家族の形見の太刀、打刀、短刀。纏めて厳重に布で巻かれている

そしてかぐやは車窓に目を輝かせていた

 

 

 

「ねぇ、伊織」

「どした?」

「一緒に来てくれてありがと!やっぱ伊織も居ないとつまんない〜」

「おう。勝負の結果だしの・・・そうじゃ。こないだの神戦、よかぼっけじゃった」

「ぼっけ?えへへぇ褒めて褒めてぇ」

 

 

 

ぽんぽんと頭を撫でる。前々から思っていたが手触りが良い。素直に甘えられるのもあまり慣れていない。それこそ彩波以来で・・・

 

 

 

「伊織?」

「いや、何でもなか。でも最後は油断したろ?精進せい」

「はーい。そうだ!彩葉と今度ゲーム配信やりたいんだ!また遊ぼ!」

「よか。面白ろ可笑しい喋りは出来ん。あと今は静かにせい」

「うん。分かった」

 

 

 

最近古い記憶頼りだが自分の視界に結構色が戻ってきた。海に行ったときよりも鮮やかになってきた。まだ慣れないがそのお蔭で細かい相手の動きが見やすく観察力が上がった気がする

 

 

 

「ありがとの。かぐや」

「ほぇ?」

「お前んお蔭で最近退屈せんで・・・いや、正確じゃないの。最近お蔭で楽しい」

「へ?・・・い、いやっむぐッ!?」

「静かにせい」

 

 

 

叫びそうになったかぐやの口を押さえる。不満気にもごもごと何かを言いたげだ。あ、舐められた

 

 

 

「ぷはっ、酷ーい」

「喧しくしようとしたろ。と言うか、ないぞ?」

「へぇ?ああ。ごめん伊織。伊織が楽しかったって言ってくれて、凄く嬉しかったんだ!」

「まあ、普段から表情は無いしの。これでん出るようになった方・・・らしい。改めてありがとの。かぐや」 

「ぶぃっ!」

 

 

 

そして電車は目的の駅へと入線、後は件のタワーマンションへ向かうだけだ。歩きながら会話は続く

良くレパートリーが尽きないものだ

 

 

 

「そう言えば伊織の脇差、だっけ?ってなんか不思議な感じするよねー」

「不思議?俺の半身じゃがただん刀ぞ?」

「なんか、うーん?」

「なんぞ?」

 

 

 

そんな話をする内に件のタワマンへと着いた。デカい。そう思いながら中へ

かぐやの相手をしながら自分の部屋になる場所を教えてもらう

 

 

 

「改めて見っと広いの」

「うん!ここ良いでしょ?防音もしっかりしてるからどんだけ騒いでも大丈夫!」

 

 

 

飛んだり跳ねたり歌ったり、配信ではしてなさそうな変な動きしたり、取り敢えずテンションは高い。しまいに伊織に飛び付いてきた

 

 

 

「おっと、」

「むふふぅ、暖かーい!」

 

 

 

そう言えば度々飛び込まれている気がする。昼寝に誘われて気付けば上で寝ていたり、抱き締め返すと頭を擦り付けてきたり、好き勝手甘えられてる

 

 

 

「汗臭いじゃろ」

「別にー?」

「そろそろ離れい。酒寄も来る。荷物の受け入れ準備すっぞ」

「はーい!」

 

 

 

======

 

 

 

引っ越し業者と彩葉がこっちに来た。伊織も伊織でトレーニング変わりに荷物の搬送をお手伝い

家具と荷物の搬入が粗方終わり引っ越し業者さんは撤収した

 

 

「あ、かぐやのシャンプー無い。ちょっと買ってくるね」

「かぐやも一緒に行く!」

「ちょっとー、まだ荷解き死ぬほどあるでしょー」

「うぇーぁ!」

「俺も散策がてらご一緒しようかの。引っ越しん後じゃ。酒寄、買うもん多いじゃろ?」

「えぇー!伊織も行くのー?!」

「あー、そうだね。荷物持ちお願い?」

「よか。かぐや荷物の整理、進めいよ」

「ゔ〜」

「かぐや、ただでさえ荷物多いんだから。しっかりやんなさいよ?行ってきます」

「行ってくる」

 

 

 

2人は近所のスーパーへ向かう。その移動中

 

 

 

「えっと、シャンプーに化粧品・・・大体かぐやの買い物だ」

「近頃、酒寄も俺も生活の中心はかぐやになっとる。悪い気はせんが子育てみてえじゃ」

「そうだね、まったく、なんでこんなことになったのやら」

「酒寄はかぐやのこと、少なくとも嫌いじゃなかろ?本音ば聞かせい」

「・・・本人に言わない?」

 

 

 

その言葉に少し固まり、ちょっと恥ずかしそうに伊織の顔を見上げた彩葉

 

 

 

「約定は守るど」

「大好きだよ。かぐやも、伊織も。かぐやは私の太陽みたいな?正直、離れなきゃってなっても無理だと思う。お迎えも、来なければ良いのにって、」

「ほうか・・・俺も?」

「そりゃ好きでもないと同棲の提案なんか絶対聞かないし、あんな手は出さないよ。伊織とは一緒に居て安心する」

 

 

 

そう言う彩葉は笑っていた。伊織も釣られて笑う

この日常は続く。伊織もそれはとてもとても楽しみなことだった

 

 

 

「そう言う伊織は?かぐやの事、好き?」

「おう。酒寄共々感謝しとる

最近の、世界が眩しいんじゃ。久々に目に色彩が戻ってきとる」

「え?良かったじゃん!おめでとう!」

 

 

まるで自分のことのように喜ぶ彩葉を見て、空を見上げた伊織が話を続ける

 

 

「かぐやもそう。酒寄もそう。それまでも良か縁に恵まれた

今だから分かる。家族との縁、今までの師との縁、ツクヨミでの縁、義実家との縁、綾紬と諫山との縁

良か人に恵まれとった。だから今まで人で居られた。完全に壊れず済んだ

俺は、この騒がしい日々が好きぞ。家族とおったあの日常と同じくらいの」

 

 

 

伊織は己が強さを求める理由を、刀を握る理由と定めた。彩葉と、かぐやを、この日常を守るために

ただ、それだけのために

 

 

 

「そっか。伊織も楽しそうで安心した。あ、スーパーここだね」

「おう」

 

 

 

そしてお買い物中、粉物のコーナーで2人は立ち止まる。ホットケーキの粉に彩葉が手を伸ばした

 

 

 

「買ってってやるか・・・いやいや、私何言ってんの」

「良かろ。新居祝いじゃ」

「・・・だね」

 

 

 

手に取ろうとした時、伊織の手が勝手に動き背後に回り、隠れて着いてきたのか、飛び付こうとしていたかぐやの顔面を掴んだ。

 

 

 

「ブベッ!」

「かぐや!?」

「いきなりなんかと思ったぞ」

 

 

伊織が手を離す

 

 

「かぐや荷解きは?」

「2人が居ないと、つまんないよー!エヘッ!」

「まあ、良かろ」

「あ!アレ使いたーい」

「あー、もう!」

 

 

かぐやも混じって賑やかな買い物になった。伊織も今を楽しんでいる。だが、何故か少し妙な胸騒ぎがするのだった

 

 

 

===タワマン===

 

昼時、ご飯の準備中である。イオリはパスタの生地を捏ねていた

 

 

 

「ねー伊織?」

「どした?」

「彩葉の事、彩葉って呼ばないの?」

「・・・」

 

 

 

考えもしなかったことを言われて、返す言葉に困る。確かにこれまでずっと酒寄呼びであった

 

 

 

「かぐや!それは」

「へ?あ、ごめ」 

 

 

かぐやは何の気なく言ったのだろうが、名前の組み合わせが不味かった。咄嗟に謝ろうとしたかぐやを伊織が制止した

 

 

「いい。そうじゃの・・・何時までも過去に囚われんのは彩波も望まんかの。良いか?」

「大丈夫?」

「おう。改めてよろしくの。彩葉」

「うん!伊織」

「あ〜、彩葉照れてる〜」

「かぐやぁ、からかわないで!」

 

 

 

少し、体が軽くなった気がする

かぐやも、穏やかに笑っていた。彩葉は照れくさそうだ。顔に朱が灯っている

今まで付けられなかった踏ん切りが着いた。自分が無意識に次へと進もうとしているのだろう。その先にある物は・・・

 

 

 

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