満ちる月を越える者   作:業火の跡地

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伊織の一口メモ
現実でも伊織はかなりの強者である。誰が評したか、世界最新の侍
恐らく本物の武器を振るう死合であるなら一対一での接近戦では現代で世界最強格ですらある


花火のような日常

 

===家===

色々聞きたいことはあったが、伊織がライブを終えた2人を労う

伊織の膝の上にかぐやが座り、彩葉は伊織の隣でかぐやの髪の毛をブラッシングしていた

そして、彩葉が何かを言いかけたようだ。何かを取り繕っている

 

 

 

「コラボライブ、終わっちゃったね」

「かぐや彩葉、よかライブじゃった。歌を楽しむ性分じゃ無いと思っとったんだがの」

 

 

 

そう言い、かぐやと彩葉の頭をぽんぽんと撫でる

頭を擦り付けてくるかぐやと、気恥ずかしそうにしている彩葉

 

 

 

「楽しんで貰えたならやって良かったかも」

「だね、彩葉。でもまだやりたいこと沢山あるんだ〜。明日もまた食材届くし」

「それは楽しみじゃの」

「欲深怪獣かぐや、」

「がお〜!じゃあ、お先。寝まーす」

 

 

 

かぐやは彩葉と伊織に襲いかかり、じゃれついた後自分の寝室へと消えた

彩葉は自分の携帯の母親への着信通知に目を落としている。そして、吹っ切れたような顔をした

 

 

 

「やりたいこと、か」

「何か定めたか?」

「うん。とりあえずだけど。伊織、少し、話聞いてくれる?」

「よか。いくらでも聞いちょる」

 

 

 

伊織が、微笑んだ

 

 

 

「ありがと・・・私さ、お母さんに認められたかったんだよね。それで、こっち来て、このまま東大とか行って、一流企業に勤めてさ」

「それでも多分母さんは認めてくれなくて、いつの間にかそんな事を考えた自分にゾッとした」

「ほうか」

「でも伊織を見てさ。どこまでも真っ直ぐに自分を貫き通すのを見て、私決めたんだ。とにかくかぐやを守る。私に何が出来るか分かんないけど、伊織、手伝って」

「よか。俺もそのつもりぞ。俺は俺でその準備だの」

「何かするの?」

「おう。己ば鍛え直す」

 

 

 

彩葉と伊織の目には強い意思が宿っていた

 

 

そして伊織は自室でまだ怪しき雰囲気を発する己の半身である脇差と向かい合っている

 

あの灯籠頭が現れたとき、確かに刀身は輝きを放っていた

 

 

 

「・・・」

 

 

 

お前には何がある?何故お前からツクヨミの中で感じたモノと同じモノを感じた?

 

その答えは、出なかった

 

 

 

===早朝===

 

謎の気配で目を覚ます。木刀片手に部屋を飛び出し、階段を無視してリビングに着地する。何も見えない。だが、確実に何かが居る

 

 

 

「誰ぞ。姿ば見せい」

 

 

 

殺意を持って放った牽制、それに答えたのは、起きてきたかぐやだった

寝起きである。目を擦りながら階段を降りてきた

 

 

 

「いおりぃ?どうしたのぉ?」

「・・・いや、何でもなか。起こしたか?すまんの」

「いやー?今から白甘鯛届くしー」

「こんな時間にか・・・よか。日課ば行ってくる」

「行ってらー」

 

 

 

早朝、マンションの屋上で木刀を振るう。強い風が吹き抜け、余計な思考が押し流される

 

成すために何を為すか、それを考えた

自分の強さの源流は弱い己が嫌いだったからだ

だが今刀を手にする理由は違う。彩葉とかぐやを守ること

 

そして、答えに至る。自分が言っていたでは無いか

『縁』である。己は己の力で強くなったのではない。己が強さは数多の師範から授かってきたモノ

偉大な先人達が積み上げてきた大いなる遺産。その一端を受け継ぎ発展させてきたもの

 

 

「かぐやでは無いが、我儘言ってみるかの」

 

 

 

そして、部屋に戻る。縁を頼るとして、その後をどうするべきか・・・いざかぐやを守るとなっても武力でどうも出来なければ自分は無意味、予め何か手を打つ必要はある

 

 

 

===その日の昼頃===

 

それはそれ。これはこれ。伊織にはバイトの予定もあり、今は警備の休憩中でかぐやが作ってくれた弁当を食べていた。コレを食べたら上がりである。が、何時もの上司に声を掛けられた

 

 

 

「あら?伊織君いつもおにぎりじゃなかったっけか?」

「親戚が作ってくれた。旨いです」

「いやぁ、いいねぇ。誰かの手料理、羨ましいよぉ。最後に食べたのは、お袋の料理かなぁ、今年の盆に帰れなかったし、また隙みて顔出さんとなぁ」

 

 

 

染み染みとした事を言っている。そして巡回へと行った。伊織の携帯が鳴る

 

 

 

「む?どうした?かぐや?」

『伊織!花火行こ!彩葉が誘ってくれたんだ!』

 

 

 

電話越しで伝わってくる。嬉しそうな声色。彩葉からの誘いがそれほど嬉しいのだろう

そう言えば、彩葉からの誘い自体が初めてなのかもしれない

 

 

 

「おう。細いことはメッセージで送ってくれ」

『伊織も一緒に着物着よ!』

「着物?着物かぁ・・・よか。たまにはええの」

 

 

 

袴と違い正直動き辛いから遠慮したかったが、こんな事でもないと着ないだろうし、と承諾

 

 

そして、時刻はもうすぐ夕刻。伊織は直接待ち合わせ場所の着物のレンタルショップへと向かうのだった

 

 

「和服良き〜」

「うーん、何か変じゃない?」

「にょ?何着ても似合うよ〜!」

「おう。二人とも良く似合っとる。俺も、着物なんぞいつぶりか・・・」

 

 

 

彩葉は白、かぐやは黒、伊織は紺とツクヨミで着ているのと同じ羽織。だが三人共に向日葵の模様の着物を着ている。伊織は2人に選んでもらった

 

 

 

「伊織も良く似合ってる!やっぱ普段から和装してるからイメージピッタリ!」

「うん。黒じゃなくて紺ってのが良い」

「ほうか。俺にはよう分からんのぉ」

 

 

 

今朝の彩葉はどこか悲しそうだった。多分かぐやが何も言わない。普段通りで在ろうとしているのに悲しみを抱いていた

 

引きずっている。と察っして伊織は2人に連れられて電車に揺られ、花火会場へ

車窓に目を輝かせ、何時もよりずっとずぅっとはしゃぎ続けるかぐやを追いかけたり、諫めたり、正直疲れた。

昔の両親もこんな気持ちだったのだろうか

 

 

「彩葉!伊織!早くー!」

 

 

ピューッと動き回るかぐやを追いかける

 

 

「まだ明るいの。なんかすんのか?」

「屋台回る!あ!銃撃つやつ!あれやりたい!」

 

 

 

射的の屋台へと走っていった

 

 

 

「楽しそうじゃの」

「うん。誘って良かった」

 

 

 

彩葉も楽しそうで、伊織も楽しんでいる

 

 

 

「いよっし!当たった!」

「ぐっ、これは物が」

 

 

 

次々と命中させるかぐやに、当てられない彩葉。ツクヨミでは当てられるのに、ぐぬぬっと言った感じだ

 

 

 

「構え方の問題ぞ。引き金引く時ブレとる。店主、俺もやっど」

 

 

 

伊織が、コルク銃を構えた。銃器の扱いは北海道で猟師してる人達から一通り教わった

その立ち姿に迷いは無い。店主も息を呑む

 

発砲

 

特賞の的、その上側を精確に射抜き、倒した

 

 

 

「伊織凄ーい!」

「こんなもんぞ。彩葉、なんか欲しいのあっか?」

「え?良いの?」

「おう。かぐやも欲しいならもっかい当てっぞ」

「勘弁してくれ兄ちゃん・・・」

 

 

 

店主が両手を上げた。そして彩葉は景品を一通り見る

 

 

「あ、これがいい」

 

 

手に取ったのは扇子。広げてみると紺色ベースで白、金で美しい九尾の狐が描かれていた

 

 

「わ〜、綺麗〜。彩葉に良く似合うよ〜」

「狐か。イメージ通りじゃ」

「う、うん。ありがと」

 

 

 

そして、かぐやが蟹を釣ったり、食べ物屋台を梯子したり、目に見えるもの全てに突っ込むようで

 

 

 

「やっぱ現実サイコーっ!」

「私はツクヨミも好きだけど?」

「両方よか場所ぞ。それぞれんよさばある」

 

 

 

その内に花火の上がる時間が近付いてきた

河川敷に3人並んで座る

 

 

 

「楽しすぎ〜!楽しキングダム!」

 

 

 

両手を合わせて、それを城の用に天へと向ける

彩葉もその真似をしている。伊織は何故か故郷の桜島を思い出した

 

 

 

「イェ~イ、彩葉まねっこー」

 

 

 

かぐやの腕輪がからりと鳴る。空では、花火開始の号砲が轟く

 

 

 

「それ、いつも付けてるよね」

「そうじゃの。あの時から外しとんの見たことないの」

「あー、何か落ち着くんだー。故郷って感じ?伊織の脇差みたいな感じかなぁ?」

「ふむ?」

 

 

 

そうして、かぐやは話を続ける

 

 

 

「月ってさ、味も温度も無くて、超つまんない

決められた役割をずぅっと繰り返すだけなんだよね・・・かぐやだけ、浮いてたんだ」

 

 

 

どこか作った笑顔で、かぐやは言った

夜空のキャンパスに次々と大輪が咲き乱れる。

職人たちが刹那のために心血を注いだ百花繚乱の花束達。かぐやが綺麗、と声を漏らす

 

 

 

「寂しいし、退屈。毎日おんなじ繰り返し。退屈死にそう!もうやだどっか行きた~い!って思って、窓から彩葉たちの世界を見たら皆好き勝手動いてて、複雑で1回きりで自由に見えた」

「でも、押さえても居るんだよね。自分の気持ちを、もっと大切なモノのために」 

 

「かぐやらしくない事言う。哲学者見てえじゃ」

「何?大人じゃん・・・」

「へへっ、二人の真似〜」

 

 

 

どこか影のあるかぐやと、少し目元が光る彩葉

伊織も、そんな2人を見て、何かを思う。だが、その感情の正体は、良くわからない。でも2人は悲しいのは分かる。その原因が別れが近い事が元である事も

 

 

 

「じゃっどんそれは己の生き様次第ぞ。俺は最近まで強くなる事しかやっとらんかったしの。いざ命を落とす時に後悔せねば俺はそれで良か」

 

 

 

伊織の命の価値観は、変わらない。後悔せずに死ねれば、それで良い

 

 

 

「彩葉は?お母さんの事好き?」

「っ」

(それを言う・・・いや、彩葉にとっては、避けては通れん事か)

「好き、好きか・・・どうだろ、分かんないな」

 

 

 

伊織は何も言わずに、聞きに徹する。断片的に聞いている母親である酒寄紅葉の事。厳格で、何かをするなら一番を取れ。と

だが、伊織は何となく感じている事がある

多分、自分とどこか近い

弱さを見せない母親、彼女は、夫を事故で亡くした。だから酒寄兄妹の為に強くあるしか無かったのではないか。不器用だが手本を見せて、一人でも生きられるようにしたかったのでは、ないか、と。喪った後も、守らねばいけないモノがあった

この推察も何処まであっているのか分からない。的外れかもしれない

 

 

 

「そうだね・・・嫌いになれたらなって、何度も思ったよ」

(凄いの、やっぱ敵わん)

 

 

 

彩葉の目には、涙が滲んでいる。答えを聞いたかぐやも、泣き出した

 

 

 

「そんなん彩葉、余計かわいそうじゃん、てかごめんね。怒ったってよかったのに『かぐやにはわかんない』って、言いたかったっしょ?」

 

 

 

彩葉が倒れた日のことだ、かぐやは少し申し訳なさそうにしていた

 

 

 

「違うよ」

 

 

 

伊織には、彩葉が何を思っているのか、心の中は分からない。ただ、一つ分かる。彩葉も、彩葉の母親も、家族を愛している事

 

 

 

「言いたくなかったの」

「・・・ほうか」

「伊織は、家族の事、好き?」

「おう。先に逝った家族も、今の家族も、大好きぞ。そのためならどれだけでも奔ってやる、この命、使い果たしても後悔ばない」

 

 

 

伊織も、家族への思いは変わらなかった。先に逝ってしまったけど、他の家より短い時間しか共に住んでいないけど、家族が大好きだ

 

 

 

「かぐや、帰っちゃうの?」 

「いや〜、仕事放り出して来ちゃったからさぁ〜。強制送還、的な?伊織に言ったら怒られちゃうかなーって、言えなかったんだよね」

 

 

 

 

から元気で、かぐやは笑っている

 

 

 

「かぐやは、かぐや姫だったみたい」

 

 

 

彩葉の目に、哀しみが溜まる。伊織は、やっぱあれはそう言う事か、と。そして、本音は違う事も見抜いてしまう

 

 

 

「次の満月の夜、お迎えが来る」

「家か?」

「多分ツクヨミにかなぁ?仮想の世界って月によく似てるから」

「・・・あれはそう言う」

 

 

 

かぐやは何度もツクヨミで空を見上げぼーっとしていることがあった。その行動は既視感から来ていた。伊織は漸くそれが腑に落ちる

そして、謎の確信があった。やりようはあると

 

 

 

「また逃げればいいじゃん、かぐやはかぐや姫じゃないよ。もっとハチャメチャで、メチャクチャで、おとぎ話とは違う、」

 

 

 

手元のかき氷にスプーンを突き立てながら、胸の内の激情を押し殺している。結露の雫が、彩葉の涙のようだった

 

 

 

「既に起こった過去は変わらん。じゃっどん未来は変えれる。そんで良いがか?」

 

 

 

かぐやが明るくニコッと笑う。それは可憐な大輪のようで

 

 

 

「そんなハチャメチャかぐや姫にもお迎えが来ましたが、最後の日までメチャクチャ楽しく過ごしましたとさ!・・・そう言うのがいいんじゃん!」

 

「これが私のエンディング!超楽しく、運命に向かって走ってく!」

 

 

 

前向きに、だけど伊織にも、彩葉にも後ろ向きに聞こえてしまう言葉。自分の願いを押し殺しているのは、目に見えていた。どう、言葉を掛ければいいのか、言葉が出て来ない

 

 

 

「そりゃもっと2人と遊びたかったよ。歌も踊りも、もっと」

 

 

 

かぐやの本音が、溢れた。どれだけ取り繕っても、かぐやはかぐやである。そんな彼女がこんな諦めを受け入れるのは・・・伊織には信じ難い事であった。だが、強烈な既視感に襲われる

 

 

 

(なんぞ、なんぞこの、俺は・・・見たことある。ないでぞ、何処で見た。何で見た事がある?考えろ本仮屋伊織、思い出せ、思い出せ!)

 

 

 

普段は明るいが、どこか悲観しているような、全てを受け入れ諦めているような

それはまるで───

 

 

伊織の中で点と点が結ばれ、結ばれた線が絵を描き出す

 

 

 

(月見ヤチヨ?)

 

 

 

これは、偶然の一致ではない。かぐやが何故2人居るのか?という疑問はあるが、漸く確信した

 

 

 

(月見ヤチヨを問い詰める)

 

 

 

「そうだ!ライブしたいな!お迎えの日、派手に!」

 

 

 

伊織は思考を切り替え花火に感動するかぐやと、それを見て悲しそうな顔をする彩葉を見た

 

そして、成すべきを定めた。お迎えがツクヨミに来るのなら斬り伏せる

そのためには何を為すか

前に斬れたのなら次斬れない道理は無い

ならば武を更に研ぎ澄ます。だが伊織の強さは仮想ではなく現実の物、現実を仮想に近付けるために、何がいるか

 

 

いつの間にか花火は枯れ果てて、周りの人間も疎らとなっている

 

 

 

「帰らなくちゃ、帰れなくなっちゃう」

 

 

 

伊織も無意識にかぐやの手を取っていた

 

 

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