満ちる月を越える者   作:業火の跡地

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巡る輪廻

===新幹線車内===

 

薩摩に帰る。手荷物は形見が4振りと少しの着替え

 

爺さんの家の道場が伊織の強さの源流であり、変化した自分を根本から見つめ直し鍛え上げるのには薩摩以上の土地はない

 

そして、かつての師達や、ヤチヨ、神戦の上位ランカー陣に我儘を言った

「今以上に強くなる。手ば貸して欲しい」と

全員から快諾された。良い縁に巡り会えてきた。その幸運に感謝し、鉄路に揺られ心を整える

 

 

これでかぐやを守る準備の準備が済んだ。

 

 

 

「後は、己ぞ」

 

 

 

未来の弱い己を斬り捨てる。覚悟は既に済んでいた

 

 

 

 

───昨日の昼過ぎ───

 

 

 

仮想と現実の間を埋める方法を思案している伊織

動かない伊織の髪を弄ったりしているかぐや。その内飽きて蟹に手を出し始めた

 

 

 

(今のスマコンも良か品じゃが・・・)

 

 

 

例えば、蜻蛉返し。神速の技を現実で繰り出しても、ほんの一瞬だけ遅れたり、動きの反映が可笑しかったりする

特に困る程の事では無かったり、一手先を読むことで対処してきたが、今はこれすら無くしたかった

だが肝心のその方法が思い付かない。かぐやなら何か知らないだろうか

 

 

 

「かぐや」

「んー?伊織、どしたん?」

「もっと精密に早い動きをツクヨミに反映するにはどうすれば良いかとの」

「スマコン以外でー?んー・・・モーションキャプチャとか?」

「あー、なんか言っとったの。カメラ使ったもんじゃったか」

「うん。カメラめっちゃ使ったり。それだけじゃなくて専用のスーツもあったりするけど、どしたの?」

 

 

 

専用のスーツに、複数台のカメラ・・・こいなら

それの調達は・・・月見ヤチヨを頼ってみるか

そして、玄関が開いた

 

 

 

「ただいまー」

「おっかー」

「お、彩葉おかえり」

「かぐや、何やってんの?」

「蟹ビビらせてる」

 

 

 

何をしているのだろうこやつ。と言う顔をする彩葉が言葉を紡ぐ

 

 

 

「かぐや、新しい曲、作る?」

「え?いいの!?いやっほーいー!」

「上手く出来るか分かんないけど、どんなのがいい?」

 

 

 

かぐやは一瞬だけ考えたようで

 

 

 

「あの途中で終わってた曲!」

「えぇ、あれかぁ、うーん・・・分かった。やってみる」

「いっヤッター!」

「そうじゃ。2人にも言うとくの。明日から暫く薩摩に帰る」

 

  

 

一瞬だけ、静寂が支配する。優しく、諭すように伊織が続けた

 

 

 

「すまんの、かぐや。残された時間、本当なら一緒に居てやるのが情かもしれん・・・」

 

 

 

声色が一気に変わった。強い意思と覚悟の籠もったモノに

 

 

 

「じゃっどん二度と大切な物を失うのは御免じゃ。まだ手を伸ばせるのに伸ばさないのはもっと御免じゃ。足掻けるだけ足掻く。諦めたらヒトは死ぬ。俺はそう教わった。だから奔る」

 

 

 

何が何でも、この命に代えてもかぐやを守り通し、彩葉の元へ返す。伊織の覚悟であった

目つきもかってないほどに意思が宿っていた

伊織の闘志が燃えている

 

 

 

「・・・分かった」

 

 

 

かぐやは少し寂しそうな表情をしたが、それ以上を言わなかった。大切な物が関わった伊織は自分の意思を曲げない

それを、分かっていた

 

 

 

「ごめんな。かぐや」

 

 

 

かぐやの頭を優しく撫でる。そのたびに、意思は固く、鋭くなる

かぐやも、彩葉も悲しませやしない

そんな伊織を見たかぐやが明るさを取り戻す

 

 

 

「よし!じゃあ今夜は豪勢に行こー!伊織、なに食べたい?」

「なら、和食がよか」

「いよっしゃ!かぐやに任せんしゃい!」

 

 

 

かぐやが楽しそうにキッチンに飛び込む

思えば料理のリクエストは初めてかもしれない

 

 

 

「伊織・・・」

「俺はそう決めた。安心せい。必ずかぐやも、彩葉も守る。この日常を壊させはせん。だから、信じて欲しい」

 

 

 

不安げな彩葉。普通ならそばに居てやるべきなのだろう。それに兄が出ていったのが少しトラウマなのか、袖を握られていた

だが、伊織とてかぐやを失うのは嫌であり、それは彩葉も同じで

 

 

 

「うん。分かった。伊織を信じる」

「その様子、考えばあるんじゃな?」

「うん。上手くいくか分かんないけど」

「よか。ならば各々出来ることを為す。かぐやを頼んだ。彩葉」

「オッケー、任せて。伊織」

 

 

 

静かに、腕を突き合わせた

2人の道が、明確に分かれた。だが、到達点は同じ

 

 

 

そうして、その日の夜、かぐやが寝た後

荷造りを進める伊織の部屋へ彩葉が入ってきた

 

 

 

「伊織、ちょっと良い?」

「彩葉?」

「かぐやの事と、皆にも話したいことがあって、ツクヨミに一緒に来て欲しいの」

「分かった。今スマコン付ける」

 

 

===ツクヨミ===

 

豪華絢爛な市街とは変わり、雲海の上にあるような秘匿性が高いスペース

ここでの会話は本人達が漏らさない限り、外に漏れることは無い

 

イロとイオリがかぐやの事を、月から来たり、急にデカくなったりしたことを全て話した

 

 

 

「カーっ!かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは!分かるっ!」

「富山生まれじゃ無かったんだ」

「海行っても肌真っ白だったもんねー」

「すまん。本当の事言っとらんだ」

「いくらなんでもコレを信じるのは無理だって・・・今じゃないとね」

 

 

 

乃依が言った。誰の目から見てもあのコラボライブ中に発生したツクヨミの異変、それと呼応したような現実での原因不明の立川周辺の通信障害

 

イオリとイロの月からの干渉だと言うなら納得はできた

 

 

 

「月見ヤチヨ、ツクヨミ管理人に聞くがあの灯籠の発生源は分かっとらんのか?」

「調べてみたんだけどね〜、何処からアクセスしてるのかも分かんなかったよ。ゴメン」

「なら、確実かの」

「相手が現実に手出しできないなら、ツクヨミで追い払えばいいんでしょ?」

 

 

 

本当に現実に干渉出来ないのかは不明、だが多分肉体を持ったかぐやがいる以上その可能性は高い気がする

ただツクヨミで迎撃出来なければ話にならない

2人は頭を下げる

 

 

 

「かぐやを守る。力ば貸してほしい」

「私もやる。何が出来るか分かんないけど、お願いします」

 

 

 

 

滅多に人を頼らない2人が、人を頼った

各々の思いがある。だから

 

 

 

「なら、準備だな。乃依?」

「えぇ〜?めんど〜」

「リーダーは絶対」

「伊織、お前に斬られて目が覚めた」

 

 

 

そして、酒寄朝日が本仮屋伊織と目を合わせる

 

 

 

「伊織、俺は手を伸ばすことを諦めねぇ。必ず掴み続けて見せる」

「よか。頼むど」

 

 

 

伊織は少し笑って、朝日の覚悟を受け取った。まみとROKAも、快諾してくれた

 

 

 

「来年、また一緒に海行こうね」

「温泉も行こ〜」

「うん!」

 

 

 

だが、この瞬間、伊織だけは、ヤチヨを見ていた

その表情は明るいものでは無く、何処か申し訳無さを込めたような、何かとても辛い事をする時の覚悟のような、少なくとも何かを知っている

確信した

そして、彩葉に声をかけられて何時ものヤチヨに戻る・・・いや、仮面を被った

 

 

 

(聞くなら、今じゃの)

「ヤチヨ、お願いがあるんだけど」

「お?なんだいなんだい?」

「かぐやの卒業ライブの場所、KASSENの会場に出来ないかな」

「そういう事ならお安い御用。でもごめんねー。ヤチヨはツクヨミの管理人だから、戦いには参加できないの〜。でもライブのプロデュース、させてもらうね」

「ありがとうヤチヨ!かぐやも喜ぶよ」

 

 

 

ヤチヨにはヤチヨで守らねばいけない場所がある

 

そして、イオリ以外はログアウト、それぞれの備えを始める

そして、伊織の話が始まった

 

 

 

「月見ヤチヨ、俺からも頼みばある」

「お?珍しいね〜」

「精度の高いもーしょんきゃぷちゃーを借りる事、出来んか?撮るやつとか、着るやつとか」

「・・・そのスマコンじゃあ、満足出来なかった?」

「普段ならこれで良か。じゃっどん全力で武具を振るうと俺に付いてこん事がある」

「んー・・・用意は出来るけど・・・」

「納得できる対価は必ず用意する。何とか、頼んます」

 

 

 

伊織は頭を下げる。ヤチヨは困った顔であった

随分長く悩んでいる。事前にツクヨミでのライブ用のレンタルモーションキャプチャが存在するのは乙事照から聞いていた。少々値は張るらしいがここまで悩まれるとは思わなかった

 

 

 

「うーん・・・よし、じゃあ、こうしよっか。SETUNAで伊織がヤチヨに勝ったら、手配してしんぜよ〜」

「ありがとうございます・・・そんでもう一つ」

「ナニナニ?愛の告白でもしちゃう〜?」

 

 

 

頭を上げたイオリ。そして、普段通りの態度で何でも無いように言い放つ

 

 

 

「ないでそんな事しとる。かぐや」

「ッ!?」

 

 

 

明確に、ヤチヨが動揺した。だが直ぐに取り繕われた

それを見逃す伊織ではない

 

 

 

「何言ってるのかにゃ〜?」

(畳み掛けかの)

「褒められたがりなとことか、雑なフェイントで釣れるとことか、勝ったと思って油断するとことか、なーんも変わっとらん。そいで隠しとるつもりかの?」

「私は8000歳のスーパーAIライバーなのですよ?月のお姫様とは」

「りめんばー。その一部とイロが親父さんと十年ほど前に作っとった曲とまったく同じじゃった。そいに、おまんの動きは俺が教えた基礎から発展しとる。洗練されとるがかぐやそのものぞ」

「・・・」

「前に頭撫でたときの反応、かぐやとよう似とった」

 

 

 

ヤチヨが、諦めたように、吐き出すようにアハハと笑った

何か吹っ切ったような

 

 

 

「もう・・・伊織の目は誤魔化せないなー。うん。そうだよ。でも、約束、守れなかった」

「じっくりは聞いてやれんが聞かせい。何があった?」

「かぐやはさ、月に帰っちゃうんだ。でももう一度会いたくて、地球に帰ってきた。でもちょっとドジっちゃってさ〜」

「8000年間、地球で、生きてきた?」

「うん、そういう事。いや〜ここで気づかれちゃうんだ〜。まったく気づかなかったよ〜」

「お前を守りきれんかったんか、俺は」

「違うよ。そういう輪廻、決まり事なんだよ」

 

 

 

花火の時のかぐやのような、顔をする

そして弱かった未来の己に絶望した

かぐやはヤチヨで過去を、未来を知っていて、伊織にとって目の前の月見ヤチヨは、かぐやを守れなかった弱さの証明以外の何物でもなかった

 

 

 

「・・・」

「伊織も言ってたじゃん。起こることは起こるって。変わんないって。ねぇ伊織、私に協力して。かぐやを月に送り出して」

 

 

 

いつものヤチヨではない。何かに怯えている。いや、縋っている?

だが、伊織も曲がらない

 

 

 

「すまん無理ど。彩葉と約束した。かぐやを守り通すと。そいに俺にとっては未来の話ぞ。まだなんも決まってなか」

「そっか。そうだね。伊織も変わらないなぁ・・・じゃあ、私が勝ったら、協力して」

「俺が勝ったらさっきの奴、頼むど」

「約束するよ。SETUNAで良い?」

「おう。互いに全力でいくど」

 

 

 

ここまでくれば細かい言葉は最早不要なのだろうか

 

 

 

===神戦modeSETUNA===

 

伊織は、太刀と脇差。そして懐に十手が忍んでいる

一方のヤチヨは手持ち傘以外に空中に浮かぶ和傘や扇子を大量に従えていた

 

 

 

「伊織、本気で行くよ!」

「おう。こい!」

 

 

 

伊織の目が青く光る

 

1時間以上に渡る大激戦が繰り広げられた

 

 

ヤチヨは浮遊する傘や扇をファンネルの用に射撃や突撃させる全方位からの面制圧

 

一方伊織は脚足を止めない機動戦と徹底的なインファイトで対応、聴覚に頼った常軌を逸した空間把握能力が光る

 

勝利の女神は、イオリが引き寄せた

 

面制圧射撃や爆撃、体当たりを紙一重で躱し、弾幕に突入、最短経路でヤチヨに突撃、を幾度も繰り返す

 

やがて傘や扇をイオリが斬り落とし、数をじわじわと減らしていた

 

決まり手は、十手術であった

 

蜻蛉の構えで突撃、退いて浮遊和傘での一斉掃射を食らう前に刀を手放し、十手を抜いたのだ

 

懐に入り込むために和傘を十手でからめとり、開いた片手で掴み、足払い。

間接を決めて地面に押し付け、完全に制圧

文句無しの早業、相手を殺すのではなく、捕まえる為の流派《一角流十手術》刀に気を取られたヤチヨの完璧に意表を突いた

 

イオリの周りにはまだ十本以上の和傘が浮いていたが、留めを刺す方が速い。首への貫手

 

 

「これで、しまいぞ」

 

 

 

  決 着 

 勝者 イオリ

 

 

 

===ツクヨミ 天守閣===

決着が付き、ヤチヨと共に天守閣へとテレポートした。上座でヤチヨが四肢を放り投げる

一周回って清々したようだ

 

 

 

「あーあー、負けちゃったー。これからどうなるんだろ」

「なんも変わっとらんの。かぐや」

「うん。まっかせといて!最高の機材を用意するよ!」

「助かる。この事、他には?」

「言わないで、欲しいかな。特にかぐやには」

「分かった。約定は守る」

「伊織は、九州に行っちゃうの?」

「おう」

「そっか・・・これから先、どうなるか、聞きたい?」

「別によか。俺は、俺のなすべきを成すだけぞ。じゃが、今度聞かせい。たった十年そこらの俺が良か縁に会えたんじゃ。かぐやの旅路の話をな」

 

 

 

仮に伊織が成し遂げてしまえば・・・ヤチヨは考えるのを辞めた。それで良いと、思っていた

伊織も馬鹿ではない。自分がしようとしていることがヤチヨにとって、自分達にとってどう言う影響を及ぼすのか分からない事も理解していた

しかし、奔るのを辞める理由たり得ない

 

 

 

 

 

===翌日 早朝===

 

東京を発つ。少しの手荷物を持って、部屋を出た

すると

 

 

 

「伊織、行っちゃうの?」

「おう。行く」

 

 

 

かぐやが、リビングに居た。お弁当を作っていたらしい

 

 

 

「かぐや、良いかの」

「何?」

 

 

 

伊織は、荷物の中から刀を取り出した

4振りを胸に持ち、かぐやの前で片膝を付く

 

 

 

「家族に、己に誓う。かぐや。俺はお前を守る。だから帰ってきたら、彩葉とおかえりって、声ば掛けてくれ」

 

 

 

成した後の伊織の頼み。そして、また騒がしい日常を歩むと言う覚悟

 

 

 

「うん!分かった!特大のパンケーキ焼いて待ってる!」

 

 

 

上から彩葉も見ていた。その表情は測れない

 

 

 

「伊織、いってらっしゃい!」

「おう。行ってくる」

 

 

 

伊織が征く。その目には静かな焔が燃えていた

 

 

 

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