満ちる月を越える者 作:業火の跡地
伊織が彩葉より早くヤチヨの正体に気づけた理由は彩葉よりも月見ヤチヨを客観視していた為である
伊織は馬鹿ではないし、突拍子の無いことをいきなり信じることも無い。だが何度も刀を交え、同じ動きを学びそれしか無いと確信を得た
===九州 薩摩地方===
次々日は登り、沈む。月が登り、沈み行く
伊織は時折かぐやや彩葉と連絡を取りながら爺さんの道場で稽古に明け暮れていた。
内容は延々と実戦を積む事。刀、槍、弓、鎌etc...
伊織が教えを乞うてきた師匠たちとの戦闘
そして現実と同時にツクヨミ上ではSETUNA上位ランカー陣、大量のプロゲーマーが襲ってきている
つまり現実と仮想、その両方に同時に相手取っていたのだ。2つのせかいで
至る所から向けられる殺気、殺気を伴わない攻撃、五感全てを研ぎ澄まし、酷使した戦闘術
そして、1日、また1日と伊織の武はその鋭さや斬れ味を増していく
「はぁ、はぁ、・・・まだぞ。まだ足りん」
木槍を杖代わりに立ち上がり、再び構える
何度も木刀やら木槍やらで打たれて。射掛けられ、ツクヨミでも何度もやられた
4日5日も過ぎれば、体がこれに適応した
どんどんと、気付いた時には視界が色を捨て去り、世界が完全なモノクロへと戻っていた
そして、精神性もひたすら強さを渇望していたあの頃へと向かう
そして、9/10日の夜の事である
「かぐや。そっちは順調か?」
『うん!楽しみにしてて!最っ高のライブ見せたげる!』
「よかぁ。なら俺も俺で気張らんとの」
表面上、取り繕っている。しかし声に違和感がある。無理矢理声の強弱をつけている
それに、体中が痛い。辛うじて顔には食らってないが、体中痣だらけだ
『伊織、本当に大丈夫?』
「心配はなか。目的は違えとらん。体もまともなもん食うとる」
『なら、いいんだけど・・・』
彩葉には、見抜かれていそうだ
だが、ここまで来て止まれない
もう少し話をして、通話を終えた。その時に、襖が開く
「爺さん。なんぞ」
「伊織、明日、午後から休めい」
「なぜぞ」
「一週間以上ぶっ通し。ぶっ倒れてないのが不思議なくらいじゃ。いざ言う時に疲れて倒れたら元も子もなかろ」
「そいじゃ何も」
「どんだけ体に無理かけとう思うちょる?成す前にお前が死ぬど」
爺さんはそれだけ言うと襖を締めた
確かにまだ倒れる訳にいかない
少し冷静になる。午後から翌日の午前に掛けて丸一日の休みが出来た
休むことなど考えても居なかったので、何をしたものか
===墓場===
9/11の午後、道場ではモーションキャプチャ装置の搬入と設置が行われていた。その間道場が使えず、家族の元へと、自然に足が伸びた
本仮屋家之墓と刻まれた墓石の前で、伊織は手を合わせる
「少しぶりじゃの」
「俺にも守るモノが出来たんじゃ。彩葉とかぐや。名前が一緒とは偶然じゃろうが見ててくれ。俺は、本仮屋伊織は必ず事を成す」
「この刀に・・・誓う」
そして、もう暫く話をして、墓石の前から立ち去ろうとしたとき、追い風が背中に吹き付ける
何かを感じた。悪意や野生動物では無い。振り返っても何も無い。ただ穏やか風が流れ、竹や木々を揺らすだけのなんてこと無い風景
「・・・?」
そこから立ち去る。それを見送るのは供えれた向日葵の花だけだった
===9/12 爺さん家の道場===
古めかしい道場には大量のセンサーが壁や天井に取り付けられ、伊織自身も特殊なスーツや体の各部にセンサーを取り付けている
その全てが伊織のために調律されていた
その中に立つ伊織。右腰に父の太刀を、左腰に母の打刀、腰背面には己の脇差と彩波の短刀
周囲には伊織に武具を投げ渡すために師匠達や爺さんが待機していた
その中に立つ伊織
もう、一週間前の伊織では無い
ただひたすら強さを渇望していた時期。あの時の幽鬼のような、殺意を隠さない自らの害を全て排除する殺戮機構のような。辛うじて残っていた良心のリミッターを完全に外した剥き身の刀
全ては敵を屠る為、かぐやを守る為
「伊織、お前はもう剣豪の境地におる」
「まだぞ」
「今のお前に一対一で勝てる人間はこの世に居らん。こいはこの場全員の総意ぞ。じゃっどんそれでは大成まで行かん」
「そいでよか。この命ここで散らしても惜しくない」
そう、言い切った
「・・・ほうか。伊織、最後に問うぞ」
「何ぞ」
「お前が武器を取るのは、何が為じゃ?」
「かぐやを。彩葉を守る為」
「それを忘れるなよ。大馬鹿者」
既に日は落ちた。絶対零度の灯火が宿る目が青く光る。そしてモーションキャプチャ群とリンクし、伊織をツクヨミへと送り出した
===ツクヨミ===
既にイロも黒鬼もROKAまみも揃っている。イオリが、最後であった
「遅れたか」
「時間通りだよ。伊織・・・」
纏う空気が、違う
彩葉が初めて、いや、初めてではない。あの時の、家族がバカにされ激昂したときのような
狩りをする時の野生動物のような
「お前、まるで三年前だ。まさかもう一度それを見るとはな」
「おう」
帝は人間を信用せず全てを焼き尽くし死を振りまく『黒い鳥』と言う二つ名が付けられた時への逆行に感じた。しかし纏う空気がそうではないと思わせる
「イオリ、それで良いのか?」
「よか」
まみやROKAは完全に怯えていた
乃依も思わずたじろぐ
「ありがとう。伊織、かぐやを守るのに、そこまでしてくれて」
「よか。己で定めたことぞ」
そして、時間になった。フィールドへの転送が始まる。いつの間にか桃に詰め込まれ、フィールドに立つ
藪を突いてなにが出る