満ちる月を越える者 作:業火の跡地
伊織が月人相手に互角以上に渡り合えた理由は単純に現実の強さをツクヨミに持ち込んだから
戦う事を捨ててそうな月の文明に対して、伊織は相手を殺す為に武を磨き続けてきました
目上を気取って牙を磨くのを辞めた連中相手に、相手を殺す為に牙を磨き続ける人類が持つ闘争の可能性を叩き込んだだけの事です
===ツクヨミ===Side芦花
かぐやの卒業ライブの翌日、真実と芦花もまた、無力感の中に居た
結局自分達は月人たち相手に何も出来なかった
だがそれよりも心配なのは、あれ以来彩葉とも、伊織とも連絡が取れないことだった
「彩葉も伊織も、落ち込んでるのかなぁ」
「うん。私たちがこれなんだから、あの二人はもっと・・・」
「おーい!そこの鹿角と小さい耳のお嬢さん!」
気を落としながら歩いていると、青いケルト風和装の長身の男に呼び止められた
芦花は何処かで見たような顔な気がするが?
「・・・誰?まみ、知ってる?」
「何処かで見たような?」
「なんか気落ちしてっとこ呼び止めて悪かった。俺はランナ。こういうもんだ」
自分のプロフィールを提示した。そこに書かれているSETUNAのトップランカーの証
「あ!思い出した!帝様の配信で何回か見たことある!」
「ランカー・・・ってことはイオリの知り合い?」
「おう。俺が槍を教えてあいつをここに連れてきた。んじゃ分かってもらえたなら本題入るわ。ちょっと現実の伊織の話でな、ちょっとRANSEの部屋来てくんね?」
「あ、じゃあ私のプライベートルームで話しませんか?」
「あー・・・その方が確実か?」
「多分?」
ランナは期限付きまみまみのプライベートルームの鍵を受け取る
===まみまみの部屋===
まみとROKAの前のソファにどかっと座り込んだランナ
「まず嬢ちゃん達は狐の嬢ちゃん・・・いろPの知り合いで良いか?」
「ですです」
「うん。そうだけど?」
若干目の前の男を怪しんでいる2人
上位ランカーであるということでイオリの知り合いと言うことは間違い無いのだろうが
そして、伊織の本名を出した
「実はイオリの、本仮屋伊織の事で話がある」
「何でしょう?」
「伊織が意識不明になった」
「え?」
「伊織が・・・ですか?」
「おう。今は故郷の病院で眠ってる。十日の無理が祟ったか、原因は医者もよく分かんねぇらしい」
「そう・・・ですか」
連絡が取れない理由が、そんなだとは思いもしなかった
そして、一週間以上に渡る常軌を逸した鍛錬の内容も聞かされて、言葉に詰まる
「あいつぁ言ってたよ。かぐやと彩葉と楽しい日々だったって。だから必ず守るって・・・」
「でも、駄目だった・・・」
「そうか・・・兎の嬢ちゃん絡みで何があったかは聞かねぇ。会ったらで構わない。伝言だけ頼んでいいか?」
「分かりました。必ず伝えます」
「気休めだがこれは俺の勘だ。アイツは諦めてねえし、死なねえ。死ぬ人間の臭いがしない」
その後伊織の詳しい状態や入院中の病院の住所などを聞いてランナはログアウト
そして、数日が経つ
===学校===Side彩葉
暫く塞ぎ込んでいた。かぐやは月へ行ってしまい、伊織も何故か帰ってこない
まともに物を食べない日が続き、吹っ切った
彩葉が一見、何時もと変わらぬ様子で、登校する
「ごめん二人ともっ!」
「彩葉!ちょっと来て!」
「伊織も大変なの!」
顔を見られた瞬間、芦花と真実で彩葉の手を引いて人の少ない廊下の隅へと連れ込まれた
「どうしたの?そんなに慌てて」
「彩葉、落ち着いて聞いて。伊織が倒れた。意識が無いみたい」
「・・・え?」
「今は故郷の病院で眠ってる」
芦花が、そう告げられた
伊織が、たおれた、倒れた?病院?なんで?意識が無い?
思考が、纏まらない?
「彩葉、大丈夫?」
「まって、上手く、言えない」
「と、とりあえず深呼吸しよ〜」
一先ず落ち着きを取り戻した。だけど、まだ飲み込みきれない
「かぐやちゃんを守る為に、肉体も脳も相当な無茶してたみたいで、そのせいじゃないかって」
「そこまで、かぐやの事・・・」
「でも!ランナさんって人が伊織は死なないって。まだ諦めてないって」
「ッ!?」
あの時からずっと、伊織が走り続けてるかもしれないという事が、深く突き刺さる
あの時、私は足を止めた。諦めてしまった
それに、帰ってほしくないと、伝えられもしなかった。道理で伊織が弱い自分を嫌いになる訳だ
「これ。伊織のお爺さんの家と入院先と、連絡先。行くなら一言電話入れてから来てくれって」
「・・・ありがとう」
──────
翌日の昼頃、彩葉の身は薩摩に在った
本仮屋家の最寄りバス停で降りた時、声をかけられる
伊織の面影を感じる老夫婦だ
「あなたが彩葉さんかい?」
「は、はい。じゃあ、伊織の」
「おう。爺と婆だ。よろしく頼むど」
「あのっ、伊織は大丈夫なんですか」
「・・・あー、とりあえずくたばる事ばなか。じゃっどん起きっ気配もねぇ。とりあえず見舞い、行くじゃろ?」
「お願いします」
そして、そこから伊織の爺の車に乗る。伊織の眠る病院へと、向かう
===病室===
そこには、ベッドの上で力なく横たわる伊織が居る。何本かチューブが繋がれている
「難しい話はよお分からん。が、医者が言うには昏睡とも植物状態とも違うらしくての、未知の状態だと」
「積もる話も有るでしょう。少し2人でお話すればいいさぁ」
二人きり、彩葉が近くの椅子に腰掛ける
横たわる伊織に、かぐやの元へと舞い上がったときのような気迫は感じられない
「・・・ごめん。いおり、私かぐやの事諦めちゃった。私から手伝ってくれって言ったのに、走るのを辞めちゃった」
伊織は何も返さない
傷だらけの手を握るが、握り返されることは無い
だがその手はとても暖かい
「したいこと、分かんなくなっちゃった」
何も言わない
「やっぱり、伊織は強いよ。どんな時でも自分のしたいことがあって」
何も言われない
「私、何をすれば良いんだろうね」
何も、言わない
「・・・伊織、お願い。目を覚まして」
伊織は、それに答えない
暫くして病室のドアが開く。伊織の爺さんが入ってきた
「伊織は止まっとらんど。今もどっかで突っ走っとるだろうよ」
「やっぱり、そうですよね・・・」
「しかし、数奇なもんじゃ。妹と同じ名前のおなごと縁を結ぶとはの」
「縁・・・」
「お主にとって、伊織は何なんじゃ?」
「伊織は・・・」
言葉に詰まった。友人、親友?違う。もうそれだけじゃない。恩人?それも違う。頼りにはさせてもらっているが、それではない・・・
自ずと、答えは出た
「伊織は、私の家族!」
「ほぅ・・・伊織にそう言ってくれる人が出来たとはの。よか!こいを君に託す。多分おいが持っとるより伊織もその方が喜ぶじゃろ」
そう言って、渡された布を解くと、それは伊織の脇差だった
触れると、最近感じた不思議な感じがする
「これを?」
「おう。そいつは伊織の半身ぞ。使い込まれた道具は使い手と結びつく。おいはそう信じとる」
腕輪を見てそう言われた
爺さんの脳裏に過ったのは、確かにあの時伊織の近くに居て、背を押した伊織の妹と両親
ずっと伊織の近くで見守っていたのか、刀に宿った残渣のような物なのか?それは分からない
一つ確信はある。伊織は死んでいない。事を諦めていない
「話せるならでよか。かぐやっちゅう少女、あん時なんがあったんか教えてくれんかの」
「・・・分かりました。信じてもらえるか分かんないですけど、かぐやは、月から来たんです。私も、伊織もかぐやを守りたくて、でも、駄目だった」
「月から来たおなごか。竹取物語みたかじゃ」
「信じてくれるんですか?」
「こん齢になるまで信じられん不思議な事なんざいくらでも観てきたわ。今で御伽噺が一つ実のもんになっても驚かん」
彩葉は語る。伊織がかぐやを守る為に剣を研いだ切っ掛け、卒業ライブに至るまでの伊織の軌跡
彩葉と出会い、ほんの少しだけ変わり、かぐやに振り回されて、生きる理由を定められた
それを聞いた爺さんが少し考えて、言った
「今んあいつはこん程度で折れる薩摩隼人じゃなかど。魂だけんなってん伊織はどっかでまだ奔っとるわ」
「伊織は、まだ走ってる・・・」
「あいつは諦め悪かぞ。家の教えじゃ。大切なもんを諦めた時、人ん死ぬ」
「死ぬ・・・私は生きてる?何かまだ出来る?」
「おう。お前さんがどんな生き方をしてきたはよく知らん。じゃっどんそん目は腐っとらん。まだまだ何かやらかす目をしとる。眠りこける前ん伊織とおんなじ目ぞ」
「出来る事・・・かぐやに出来ること・・・」
「他ん為じゃない。己の道を行け。若人」
「決めた。ありがとうございます!」
「よかぁ、よか眼をしとる。もう帰っか?」
「はい!私の成すべきを見つけた気ので!」
彩葉も、自分の成す事を定めた。伊織もまだ諦めていない。ならば、今の自分が出来る事は!
そして、帰路の途中で構想を巡らせながら帰宅
担当教師に進路を考え直したいと言う旨を連絡し、快諾を貰った。バイト先にも休みの連絡をした
机の参考書や教科書を全て落とし、パソコンとキーボードを机に広げる。その傍らには伊織の脇差が置かれていた。脇差と腕輪が当たり、からりと音を鳴らした
彩葉の頭の中に巡るかぐやとの思い出、最後に見た伊織の姿
「伊織、かぐや、私はもう諦めないっ!」
イヤホンを嵌めてかぐやが歌った曲、その続きを作り始める
===地球では無い場所===
古いゲーム画面のような牢の中で伊織が黒の羽衣で雁字搦めにされている。周りには生気の感じない四羽の白い梟が伊織を見ていた
なぜか思考まで完全に自由が無い
「・・・」
・・・
───この一瞬を最高のパーティーにしよう
───この一瞬を最高のパーティーにしよう
「・・・」
なにかがとどく ふたり こえ
「・・・?」
───そしてそっと同じ明日へ地図をつなごう
───そしてそっと同じ明日へ地図をつなごう
ふたりの うた
魂が その声を求める 奔ろうとする
だが 黒の羽衣に阻まれる
────ねぇ心揺らして
────ねぇ心揺らして
知っている。これは彩葉とかぐやの声だ
魂が 激しく鼓動する
───笑顔もシェアして
───笑顔もシェアして
行かねば やらねば
約束した 必ず守ると
あの時では果たせなかった。ならば今、果たす
縛られている手足に力が入る
目に 強い意思が宿り、顔を上げた
伊織が、覚醒した
───ありふれてる好きな物にずっとまみれて
───ありふれてる好きな物にずっとまみれて
黒の羽衣を引き千切る。それを見た梟が一斉に飛び掛ってきた
手の中に出てきた脇差で同時に斬り伏せた
そして、この空間の壁を突いた。目の前の壁が崩壊する
伊織は再び奔り出す
「かぐや!まっちょれ!」