満ちる月を越える者 作:業火の跡地
オリジナルアイテム『黒の羽衣』
魂と言うべきものに直接干渉して、強制的に鎮める物
普通の月人でも少し触れたらもう動く事は叶わない。そして黒の羽衣に一度縛られ、鎮められれば外部からの干渉もほぼ遮断してしまう代物
伊織が縛られても動けたのは単純で強力な意思の力と肉体が動きを覚えていた事が要因
用いられたのは多分伊織が初めて
===彩葉達の家===
嘗て父親と作っていた曲、月へ行ってしまったかぐやへの
ベランダへと出た
月を見上げ、その胸にはかぐやから贈られた腕輪、そして、伊織の脇差が握られている
───昨日の続き、喋りたかった
───くだらなくても、ちょうど良かった
───本音を聞かせて。ただ、叶えてみたいから
歌の最中にかぐやの腕輪が、脇差が鞘の中で七色に輝く
彩葉から贈られた歌は、かぐやへ
かぐやから返された歌も彩葉へ
その双響は伊織へと届いた
そして、翌朝の事だ
彩葉はヤチヨに一種の確信を問い質そうとしていた
だが、連絡が付かない。直接会おうと、ツクヨミへと向かう
===仮想空間ツクヨミ===
少し振りにツクヨミに来た
町中のサイネージには過去放送の雑談配信アーカイブが流れている
彩葉が知る限りヤチヨが過去アーカイブを流す事は無い
何かあるのを察して、周囲を見渡した
そして、視界の端に白い塊を捉える。FUSHIだ
一匹でいることに違和感を覚える彩葉
目が合った途端、FUSHIが踵を返す
反射的に追いかけ始めた
「待って!何であんた一人で!」
付かず離れずを維持され、やがて人気のない路地裏へと誘導された
「何処に居るのか教えて」
FUSHIは黙ったままだ。これ以上問答しても、と踵を返そうとした
「もういい。自分で探す」
「何処を探すって?」
「世界中!何処だって!」
その言い方は、伊織のようであった
覚悟を受け取ったのか、FUSHIは彩葉を呼びとめる
「目を開けてみろ」
自然とスマコンがARモードに移行、家のリビングにFUSHIがいて、そのまま玄関から出ていった
追いかけようにも徹夜して荒れた髪とパジャマでは外に出られない
急いで制服に着替えて、何となく伊織の脇差もバックに詰めて外に出た
それからFUSHIを追いかけて外を駆ける
電車に乗り継ぎ、来た事の無い街を進む
そして、やがてアパートの一室、その中にFUSHIが飛び込む
ドアの前に立ち背筋を伸ばして一呼吸、ドアノブに手を掛けた。迷いも恐れもない。カチャリと鍵が開く音がした。そのまま部屋に入る
目に入るのは、水槽に浮かぶ巨大な筍
その他にも大量の機材が並んでいた
「ここから入れ」
静かに目を閉じる彩葉、そして視界が開けた
城の上段の間だ
目の前には上段の間に背を向けて座るヤチヨが居る。何時ものツインテールの髪型ではなく、髪を下ろしていた
「・・・ヤチヨは、かぐやなの?」
それを聞いて、向き直る。穏やかな笑みを浮かべていた
「おかしな事聞いてるのは分かってる。でも!」
ヤチヨの背後の襖がプロジェクターのように映像を投影。ヤチヨが語り出す
───今は昔
───月でバリバリ社畜していたえらえらかぐや姫の元に歌とが届きました
───そんでもっかい地球行こ〜って。っお仕事爆速ですっかり片付けて引き継ぎもかんりょ〜
───ただ、地球の時間では大遅刻。でも安心。月の超テクノロジーなら時間も越えられます
───時を超えて地球に向かうかぐや姫、でももう少しの所ででっか〜い石に当たっちゃったの
───やっとの事で辿り着いたのはざっと八千年前の地球、壊れた舟の僅かな力で同行していた犬DOGEだけが身体を得ました。かぐやはウミウシの身体を通してだけ、世界と交流を持てました
───時は経ち、人類は見えないモノを形にし、多くの人と繋がる力を手に入れた
───そして、仮想世界ツクヨミの歌姫として、再び彩葉と伊織と、出来たのです
「ってぇ〜これじゃ、めでたしめでたし、とは、ならないか〜」
おちゃらけた声で笑う
彩葉には理解が出来ない。だけど、一つだけ分かることがあった。目の前に居るヤチヨはかぐやであると言う確信はあった
だが少しずつヤチヨの顔が曇っていく
「・・・彩葉。伊織は、居ないの?」
そして、少し震えた声で、ヤチヨが恐る恐る彩葉に声を掛けた
この場に居ない男、何故か月に行ってしまった薩摩隼人。それを知る由は二人には無い
「ねぇ、伊織は、どうしてる?」
「故郷の病院で寝てる。無茶したからその反動じゃないかって。大丈夫、死なない。だって伊織だもん」
「・・・彩葉」
彩葉は完全に迷いを捨てた。まだ何が起こったのか全然分かんない。だが、進む先は決めている
「伊織は諦めてない。だから私も何も諦めない事にした。八千年、合ったこと全部聞かせてよ。私、寝ないから!」
「・・・無茶言うねぇ」
そう言い切った彩葉に、驚いた顔をして、クスリと笑った
彩葉の前に立ち、右手を振る。するとついこの間まで住んでいたボロアパートの一室になったではないか。よく見れば自分の格好もパジャマになっている
「うーん、じゃあ縄文人と魚捕った話から!」
ヤチヨが歩んできた旅路の出会いと別れの物語が始まる。
縄文から弥生、飛鳥へと流れ奈良、鎌倉、平安、室町、安土桃山、そして江戸時代へと
三日三晩、子供が遊んだことを親に話す無邪気な子供のように昔話を楽しそうに話すヤチヨ
だが、彩葉の眠気が迫っている
「彩葉、もう休んで。死んじゃう」
「ふんっ、まだ江戸じゃん。まだまだ!」
頬を叩き、眠気を消し去る
「ネムッテネムッテ」
FUSHIが跳ねながらヤチヨのスリープ時間であることを告げる。それを聞いて申し訳無さそうにするヤチヨ
「ありゃりゃ、私の方が眠る時間だ。ごみんね〜・・・」ポフッ
近くの布団に頭を預けて眠り始めたヤチヨ
それを慈愛の籠もった目をして、頭を撫でる彩葉
「ずーっとケラケラ笑っちゃって、私みたいになっちゃったんだ・・・FUSHI?」
いきなり声を掛けられてビクッとする
「FUSHI、ヤチヨが隠してる事、あるよね?」
「ヤチヨが言わなかったなら、それは」
何せ8000年の旅路だ。見せたくないこと、聞かせたくないこと、言いたくないことなど、無数にあるだろう
「見せて。私、かぐやの全部を見なくちゃ」
「人の体で耐えられるか分からない」
FUSHIが危惧する人の限界、人間の脳に一度に八千年分の情報を無理矢理インストールしたらどうなるのか
廃人に成り果てるか、人格がヤチヨで、かぐやで上書きされるか
「問答無用!」
彩葉にそう言われたFUSHIは覚悟を決めてパッと明るい笑顔を見せる
「ヤチヨはさっき、本当に久し振りに嬉しそうだったんだ・・・」
「行くぞーー!」
空間が、ヤチヨの記憶に上書きされていく
8000年の最初に、彩葉は真っ逆さまに落ちていった
最初に見えたのは、何処かの山の上だろうか?何にもない。文明すら禄にない無い大自然の中で、孤独に苛まれるかぐやだった
───ヤチヨ、どっかにいるんでしょ?
───でてきて、たすけて
8000年の旅が、始まる
──汝は縁起良しとぞ
占いでウミウシを釣り上げた皇后
──逢い見ての のちの心に くらぶれば
ウミウシのかぐやへ恋に落ち 詩を贈った歌人
──刻の先に至る若者が居るとは、手合わせしたいものだ
物干し竿を携え、その生涯を剣へ捧げ、高みへと至った剣士
──命、捨てがまるは今ぞ
故郷が、仲間が事を成す事を信じて奔った緋色武者
──会いたいものが、居るのだろう
燃え盛る城郭の中 逃げる事を選ばすかぐやの背を押した女傑
──ムカつくからさ、辛くても笑うんだよ
理不尽や悲しみ、ままならないことを全て受け止め、気高く芸事で人を喜ばせ続けた花魁
──動かねば闇にへだつや花と水
圧倒的な実力を持ちながら、死ではなく仲間との別れを悲しんだ隊士
──君の活躍する時代を、僕も見てみたかった
既に先は短いながらも、未来への希望を託した文豪
──私には ここなの
全てが無くなった、焼けた街の中で希望を捨てず激動を生きた、花を売る少女
──極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ
旅が終わりに近づき、希望を肯定し、現状を打破するキッカケを与えたワインを愛する紳士
旅の中でヤチヨが出会い、別れた人達
命を賭して生き抜き、確かな歴史を刻んだ英傑達記録は残っていないかも知れない
だが激動するその時を確かに生き抜いたのだ
かぐやはヤチヨの殻を被り、ツクヨミで、伊織と彩葉を見つけた。再び巡り会えたのだ
そこで彩葉は漸く理解する
そっか、だからヤチヨはいつも笑ってたんだ──
そして、無限に思えた記憶の奔流は、やがて終わりを迎える。
だが───浮かべない
足掻き踠くが、どんどんと冷たい深みに沈んでいってしまう
気付けば、手に脇差を握っていた・・・逆に握られていた?
脇差が一層輝いた。思わず目を瞑ってしまう
体が包まれるような暖かさに目を開くと、伊織が手を握ってくれていた。沈降が止まる
そして、伊織に思いっきり上へとぶん投げられる
目が合った。言の葉は交わせないが意思は通じた気がする
そして彩葉をぶん投げた伊織が親指を立てていた。こっちは任せとけと言いたげだ
そのまま脇差を振ると伊織は煙のように消えていった。そして、意識がはっきりし始める
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「彩葉!彩葉!」
目が、醒める
まだはっきりしない視界にこちらを心配し、必死に呼び掛けるヤチヨ
起きてそのまま、抱きしめた
「私、かぐやが居なくても、伊織が居なくても前に進めたよ。お母さんとだって話せたし、十分ハッピーエンド・・・だけど」
そのまま向かい合う、2人
「私はかぐやとも、伊織とも居たい。皆と居たい。だから先を目指す事にした!」
「彩葉?先?」
「かぐや!何かして欲しいこと、無い?」
「・・・パンケーキ、食べたい」
彩葉の勢いについて行けていないヤチヨぽかーんとして、ふと漏らした
「よっし!それ、叶えるよ!」
「・・・え?」
「さっき伊織が救い上げてくれてさ、多分伊織も何処かで何かしてるんだと思う。だから私は私でしたい事をする!」
目を強く輝かせた彩葉がそう宣言する
新たな運命が紡がれ始める