満ちる月を越える者 作:業火の跡地
彼は剣豪に至っている。動乱の世を生き抜いた強者共とも渡り合えるだろう。ならば───
====月====
彩葉とかぐやの歌を聞いて覚醒した伊織
黒の羽衣を引き千切り襲ってきた梟を全て斬り落とす
目の前には牢の木柵、だが木柵なのは見た目だけで実際は壁だった
手にあるのは己の脇差。やることは一つ
「ふぅ、すぅッ」
息を止めて一点集中
座敷牢の用な空間を脇差の同時三度突きで穿つ
木柵が弾け飛び、所々に描画エラーの様なエフェクトが掛かる
そのまま目の前の階段を登り、恐らく上に通じるであろう天井の扉を同時の斬撃で斬り飛ばす
床の上で扉に乗っかっていた棚ごと斬り裂いた
そこから出た所は書架のような部屋、そして伊織が出た時、扉が勢い良く開いた
「伊織ぃ!!!」
「かぐや!」
その扉から、かぐやが飛び出してきて、抱き着いてくる。伊織も抱き返してそのまま頭を撫でた
泣いている。感極まれり、といった感じか。ぐりぐりと頭を押し付けてくる
「いおりぃ、いおりぃ」
「すまんのぉ。約束、果たせんかった」
「伊織!帰ろ!」
「よか!」
相変わらずの2人、この状況でブレーキなど無い
お互いがお互いのアクセルである
だが待ったを掛ける人物?が一人
「待ちなさいそこの猪2人」
部屋の扉から伊織を拘束した張本人がひょこっと顔を覗かせる。今は特に誰かを真似ているわけではなく、典雅で御伽噺のかぐや姫のような風貌をしている
伊織はかぐやを背中に隠して脇差の切っ先を向ける
「なんぞ貴様」
「全くアレを抜け出してしまわれるとは、これだから人間観察は辞められない・・・さてと、貴方がたに話があります」
そうして、伊織に指を向ける
丁寧な言葉の節々から感じる人外感、警戒だけは解こうと思わないし、思えない
「話か」
「えぇ。話です。お互いの今後の為の」
「伊織?」
「ならよか」
「場所を変えましょうか」
目の前の何かが右腕を振る。すると、畳の敷いた居間へと転送、それか空間の上書きか
だが一目見るまでも無く気がつく。これは鹿児島の実家だ
「ここどこ?」
「ここは、俺の・・・」
「ええ。貴方が一番落ち着ける場所でしょう?」
脇差を鞘に納刀、古い記憶を頼りに座布団を三枚引っ張り出す伊織
「あらあら、これはご丁寧にどうも」
「おかしな感覚じゃ。なんもかんもあんときのまま、懐かしいの」
「え?ここ伊織のお家なの?」
「薩摩ん実家ぞ。そんで話とは」
座布団に正座、己の前に脇差を置いて、取り敢えず敵意を納めた事を示した。だが目線だけは離さない
隣にかぐやは胡座で座る。少し不思議そうに、不安そうに伊織を見ている
それを視界の端に見た伊織がそのままかぐやの頭に手を伸ばす
「まず貴女、かぐやと名付けられたのでしたね」
「はい。姫様」
「あ?姫様?こいが?」
「こんなのでも月のドンだよ。滅茶苦茶胡散臭いんだけど」
「こんな得体の知れないモンがか?」
衝撃、目の前の良くわからないコレは月のトップ『姫』だった
すくなくともろくでなしなのは確かだ
「失礼ですね。話を戻しましょう。かぐや、別に貴方が地球に行くこと自体は問題ありません。ですが」
「まー、要するにやる事やってから言え!って事だよね?」
「はい。話が早くて助かります」
そう言ってクスクス笑う、『姫』
「やる事爆速で終わらせて、胸張って伊織と彩葉のとこ帰る!」
「では、頑張って下さいね。次は本仮屋伊織」
目が合う。合っているだけで背筋に冷水が流れる感覚がする
「なんぞ。かぐやの仕事でん手伝えばよかか?」
「いいえ。貴方の技、アレについてです」
「俺も分かっちょらんぞ」
何か無我夢中で刀振ってたら何か出来たし、一発でコツ掴んで安定して出来るようになった
「貴方が住む列島で、過去に数度観測された物です。物理法則の崩壊。そして、平行世界からの干渉を引き起こす物理現象です」
「???」
伊織の頭は考える事を放棄する。一方『姫』は少し何もない空間を見上げて、お?とした、何かを見つけた表情をする
「地球の言葉で言うなら事象飽和現象と多重次元屈折現象とでも言いましょう」
「かぐや、何言ってっか分かっか?」
既に伊織の理解の範疇は超えていた
かぐやもかなり考え込んでいる
「えーっと?つまり・・・全く同じ場所におんなじ物が同時にもあって物理法則がバグっちゃってる?」
「そのとおりです。その結果一つを防いでももう二つが貫いていると言うバグを引き起こす・・・数度の観測からの仮説ですが」
「もう一つはどうなんじゃ?平行世界がどうとか言っちょった」
「ソレは文字通り平行世界からの、平行世界への干渉行為です」
「多分だけどさー、伊織が世界の境界を斬るか歪めちゃったんじゃない?そんで別の世界の伊織の剣を呼び込んだ?」
少し考えた伊織
「聞いてもよく分からんの。じゃっどん刀1本でやれたゆうことはそれは起こせることなんじゃろ?」
「本来では無理に決まっている。物理法則の超越そのものですよ・・・それで、本仮屋伊織」
『姫』が、イオリを見据えた
全身が凍るようだ。蛇に睨まれた蛙の用に、それとも少し違う。動く気が削がれるような感覚だ
だが、萎縮するわけには行かない
そして『姫』が言葉を続ける
「貴方がこの技を使って月を荒らし回った結果、我々の手に負えないエラーが発生しています」
「おう。そんで?」
「貴方の技を解析してエラーへの対処方を確立します。モルモットにな「嫌じゃ」
即答である。下につく気も、言いなりになる気も無い。伊織の意思は固い
「ほう?貴方が断れる立場にいるとお思いで?」
「逆ぞ。時にかぐや、ここん住人は死ぬんか?」
「・・・え?」
「多分俺ん技で斬られたら、無傷じゃすまんじゃろ」
少し前のミョウオウ型の胸に刻み込んだ傷は消えていなかった事を思い出す
他の月人は傷が残っていなかったが、最後に斬ったミョウオウ型だけは傷後が残っていた。それに『姫』自身が対処出来ないバグが起こったと言った
つまり、ソレで月人を斬れば・・・
「そいにあん生気のない動物達、あれはここの軍備、違うか」
「そうだけど」
「何割斬れた?」
「えっと、報告的には多分六割くらいだけど、どしたの?」
「ならよか。おい、今度は本気で暴れる。どんなもんでも斬るし、容赦なく殺す」
「え"?」
『姫』を逆に睨みつける
伊織の目は───本気だった
こちらの要求を飲まねば月の文明を終焉に追い込む。出来なくても大ダメージを与えるという恫喝と脅迫。それも今の伊織なら、出来てしまう
「・・・」
「・・・」
静寂、では無い。伊織の敵意と殺気と『姫』の圧がこの空間を支配する
お互い引く気は無い
かぐやは伊織の言葉にギョッとしつつ、今はこの場の雰囲気や限りなく物騒な伊織に半泣きである。心の中では空気に耐えかねて悲鳴を上げていた
(も、もう無理誰か何とかしてー!!)
「はぁ、まあ良いでしょう。対等な立場の協力者として、手伝って貰いますよ」
「ならよか」
(い、伊織が恐ろしい。何か話変えないと)
ガクブルのかぐやである
「そ、そう言えば何で伊織はここに居るの?」
「お前を追ってきた」
「いやいやいや!そんな簡単に来れる場所じゃないって!」
「原因は、本仮屋伊織の剣技と、持っている脇差にあります。かぐや、何となく分かっていたのでは無いのですか?」
そこでかぐやは伊織の脇差から懐かしい感覚がしたことを思い出す。それは今思えば彩葉にあげた腕輪と良く似た───
「そこに現実と仮想を強く結び付けた状態で事象飽和現象起こし、境目に穴を開けてしまった
不安定な空間の中、平行世界の事象を呼び寄せて
そ仮想と現実の穴を斬り広げた
その結果、斬り広げた穴を仮想世界への通り道に魂だけが仮想世界へと転移した
我々由来の金属が混ざり打たれた脇差を媒介に他の月人達とここに辿り着いてしまった
地球の科学では勿論、月の科学ですらまだ完全に再現できない事象、まさに『魔法』級の代物で
まぁ、こんな所でしょう・・・理解できて無さそうですね」
「難しか。よう分からねど切傷辿ってここに来たって事で良いがか」
「まぁ、それでいいです」
当事者のくせにほぼ理解できていない伊織
「さてかぐや、少々本仮屋伊織を借りていきますよ。幾つか話さなければならない事もあるので」
『姫』が含みのある笑みを浮かべ、懐から取り出した扇子を振る
伊織が一瞬の浮遊感を感じた後、檜皮葺の切妻屋根、格式の高そうな四脚門、それに精巧な木細工のような装飾が施された梁。左右に伸びる瓦屋根の塀は一目で格式の高いものと分かる
周囲にかぐやの気配は無く、この門の先から得体の知れない怪しいの気配がする
「・・・何か見覚えあるの」
そう思いそのまま踵を返した。入っていいと言われたわけではない。取り敢えず敵意はもう無いだろうし月の町中を散策と行こう
そして、門に背を向けた瞬間、目の前に『姫』が現れる。口元に扇子を当ててジトーっと目を細めて何か言いたげだ
「なんぞ」
「・・・貴方、空気が読めないのですか」
「空いてない門理由も無しにブチ破る程常識知らずではなか」
「話をすると言ったでしょう。中へどうぞ」
姫が手を翳すと、大きな扉が滑らかな動きで開いた
(御所みたかじゃ)
塀の中の雰囲気や建物は京都御所の用で、厳格な空気が漂っており、数人の月人の姿も見え、すれ違うたびに会釈され、己の礼節を持って返す
そして、正殿に案内されその中央部、高御座の用な場所。そこに『姫』が座る。その下座に伊織も胡座をかいて座った
「さてと、貴方がここに来てしまう事、本当は起き得ない事なんですよ」
「ここに連れてきたのはお前じゃろ」
「失礼、言葉が足りませんでした。月に来る筈が無いんです。そう言う因果も輪廻も存在しない。観測出来ないんです」
「何言うとる?俺はここに居るど」
「時に貴方、かぐやの事を知っていますか?」
口元に扇子を当ててそんな事を聞いてきた。目元が細くなり、何かを楽しんでいるのは明確で
「どっちの事ぞ」
『姫』が「え?」と驚いた用な表情をした後、少し考え込み、数秒後に腹を抱えて笑い出した
「アハハハハハハハハハ!そうですか!そういう事でしたか!・・・失礼、はしたなかったですね」
「何ぞお主」
とても面白い物を観たかのように笑う『姫』
改めて伊織に向き直った『姫』そして真面目な口調で切り出した
「本仮屋伊織、貴方は因果を、輪廻の輪を斬ってしまったのですよ」
「ンなもん斬れるか?」
「事実貴方はここに居る。その技の先にあるのは・・・あら?」
「何ぞこん感覚?」
何かが伊織に流れ込もうとしている、いや、助けを求められている?この感覚は脇差から・・・今脇差を持ってるのは彩葉?
伊織の魂が反射的に脇差を振るい、空間に穴を穿ち飛び込む
「ふむ、酒寄彩葉が大変な事に・・・もう行ってしまわれましたか。普通行けないはずなのですが、彼には困ったものです」
クスクスと笑いながら地球上の出来事を観測する『姫』は伊織の用事が済んだのを観測して辺りで手元の扇子を開く
すると目の前に伊織が転送されてきた
「全く、少しは人の話を聞いたらどうなのですか?」
「譲れんもんの為に何も考えず奔るのが薩摩ん男の性分じゃ。諦めい」
「それで、平気なのですか?」
「あ?何のことぞ」
『姫』が行った先で見たかぐやの旅路、その断片でも流れ込んできたのだろうと指摘する。そしてその上で本当に何もないのかと
断片と言えど総量8000年分、膨大である筈なのだ。それに晒されて平気のはずが無い
「ええ。改めて平気なのですか?」
「おう。断片だけ見たわ。じゃっどん彩葉に夢中で良く見んかった。細かい事は帰ったら本人に聞くど。聞かせてくれち言うたしの」
なのに伊織は平然としている
生身で受け止めた彩葉と違い直接脳に流し込まれた訳では無いがそれにしても
「そうですか。あの情報量に飛び込んで平然としている・・・貴方人間ですか?」
「斬るぞ。それに命かどうか分からん奴に言われたくなか」
「あら怖い」
クスクスと笑う『姫』やはり得体の知れないモノだと伊織は断じる。当分警戒は解かないと決めた
そして、扇をぱしんっと畳んで伊織に向ける
「本仮屋伊織、未来を切り開く気はありますか」
「なんぞ?」
「貴方の技、それは初歩的な空間操作、跳躍です
空間跳躍も時間跳躍も実際そこまで難易度に差はありませんよ」
「ほう?」
「かぐやの仕事は引き継ぎ含めて短く見ても半世紀を下回ることありません。興味もありますし私も協力しますが酒寄彩葉と会うためには時間跳躍を行う必要がありますね」
「で?」
「その時でも時間跳躍はまだ未熟の筈です。なので貴方のその技が彼女の新たな未来を斬り開く刃と成ります」
「よか。要するに俺とかぐやが協力してやらかせゆう事じゃろ」
「はい。そうです」
「どんな事でもやっちゃるわ」
伊織が立ち上がり。脇差の鯉口を鳴らす
いつの間にやらかぐやが隣に居た
「かぐや2人でとんでもないことやらかすぞ」
「彩葉のとこに帰る!」
二人が手が交わる。かぐやと伊織の仲良しのやつ
新たな物語が開かれる