満ちる月を越える者 作:業火の跡地
伊織の剣技は月で成長し続けた。多重次元屈折現象、事象飽和現象を超え、ソレは安定した空間操作の域に達している
だが、完全ではない
====ツクヨミ====
彩葉の決意、その数日後の事だ
ツクヨミに起こった異常についてヤチヨはイロと共にランナからの報告を受けていた
内容は眠りこけてる筈の伊織とSETUNAで殺り合い、何故か現実で巻物が握らされていた
その巻物にかぐや、そしてイロハと記されていた事
「眠りこけてやがるのに人をポスト扱い。しゃーねー届けてやるかってな感じでな。んでお二人さん、俺を信じるか?」
「幾ら何でも・・・だけど伊織だしなぁ」
伊織は何処かしらで何かをしているのは間違いないのだろうが、ランナ経由なのが不思議だった
「その手紙、今読んでもらうことって出来ますか?」
「良いいのか?んじゃ早速・・・あん?バーコードっつーか、QRコードつーか、多分文章になってんだろうが」
ランナが現実で巻物を開くと、その中はびっしりと規則正しい配列で幾何学模様の記号のような物が書かれていた
何か意味がある羅列なのは分かるが?
「ランナ、ちょびっとスマコンの視界にお邪魔しても良いかな」
「おう。開けとくぜ」
ランナが目を開け、スマコンはARモードに、ランナの横からヤチヨが巻物を覗き込み、一読する
「フムフム・・・書いたのは伊織で間違い無いね。この巻物、日本に送ってくれないかな?」
「分かった・・・詳しい事情は聞かねぇ。ただ、伊織はどっかで元気にやってんだな?」
「うん。それは間違いよ」
「そいつは良かった。んじゃまたな。国際便で出すから時間掛かるぜ」
そう言って安心し、笑ってランナはログアウト
イロとヤチヨがその場に残る
ついでに撮った写真からツクヨミ上で再現したものがヤチヨの手にあった
「ヤチヨ、何か分かったの?」
「えっとね、伊織は今かぐやと一緒に月に居るみたい・・・」
「え?!」
初めて明かされる衝撃の真実
この手紙を読んでいるこの瞬間も何かしでかしているのだろう
「丁寧に『姫』の印までされてる。月から送られてきた物で間違い無い・・・多分だけど〜、伊織の脇差のせいかな」
「脇差の?」
「伊織の脇差に使われてる金属って月由来の金属が何か多いんだよね。だから脇差が切符変わりになっちゃったんじゃないかな?ライブのステージに良く分からないエラー出てたしそれも関係あるんだろうなぁ」
「へぇ、あの脇差が・・・他には何て?」
驚愕する彩葉、ヤチヨも驚きつつ何故月にいるかの推論を組み立て、手紙の続きを語る
伊織の手紙の中見(月語⇒日本(標準)語訳)
彩葉 かぐや(ヤチヨ) へ
今俺は月に居ます。色々やりましたがかぐやと一緒に元気にしています
月で俺がやらかした事の責任を取る事になりました。なので暫く帰れません。それに俺も月ですることが出来ました。かぐやの仕事が決着付き次第一緒に帰ります
かぐや(ヤチヨ)へ
また帰ったらかぐやが歩いてきた旅の話をゆっくり聞かせてください。十年そこらの俺が良い縁に恵まれたのだから、良い出会いが沢山あったのでしょう?どれだけ長くても付き合います。それで、彩葉と一緒に「おかえり」って言ってほしいです
彩葉へ
こちらはこちらでやる事を定めました。彩葉も彩葉で何かしたい事を見つけたのなら、それを成し遂げると、俺は酒寄彩葉を信じています
かぐやを彩葉の元に連れて帰る・・・必ず一緒に帰るので、その時は、また出迎えて下さい
地球に居るお二人へ。月の『姫』です
伊織に月を滅茶苦茶にされましたが私達は元気です。本人達次第ですがそちらの暦で三年程お預かりします。きっちり地球に帰すので心配は不要と思います
PS 彼、輪廻の輪を斬っちゃいました☆
これが全文である。いつか言っていた勝手に歩き回って心配かけたらいけない。一筆くらい書かねばいかんと
「伊織・・・うん。いっぱいあったよ。それにあの約束、覚えててくれたんだ」
「やっぱなんかやらかしてたんだ。伊織らしいなぁ。でも信じられちゃあ余計立ち止まってらんないね・・・ねぇ、この『姫』って?」
「私の上司だった・・・人?本当に月のドンだよ。何か胡散臭いんだけどねー
でも月を滅茶苦茶にされた?伊織に?」
思ったより『姫』は愉快な人なのかと思いながら取り敢えず伊織が何かとんでもない事をやらかしているのは分かった
別の意味で一抹の不安を覚えた二人
ふと彩葉の頭に浮かんだ疑問
「そう言えばヤチヨ、伊織はヤチヨの事気付いてたの?」
「バレちゃってた〜。あの感じ多分確信したの花火の時じゃないかな。疑いだけはもっと前から持たれてたみたい
動きがかぐやと全く同じだ〜って」
「えっ、それで気付いたの?まぁいいか。伊織とかぐやが帰ってくるなら、盛大に迎えてあげなきゃ」
「そうだね・・・」
ヤチヨの表情が、一瞬曇る
「ヤチヨ、どうかしたの?」
「うんうん何でも無い。帰って来たら、盛大に迎えてあげなきゃね〜」
「そうだね。それまでにこっちも色々しなきゃいけないし」
そうして年月は過ぎ、彩葉は高校を卒業、大学の研究室に入り、やがて伊織から帰るという手紙を(今度は乙事照琴経由で)受け取るのだった
====月====
かぐやと伊織が、帰る準備を全て終えた
目の前にあるのはもと光る竹、時間遡行システムが搭載された宇宙船
「お二人共、短い間でしたがお疲れ様でした」
「ううん。ありがと!姫様!」
「おう。もう二度とお前とは会いたくなか」
『姫』の相手は疲れるのだ
かれこれ7.80年は色々やってきたのにそれを短い間と言い切るこの価値観、常に見られてる感じがして、会話をすると呑まれそうになる。こんな人外の相手はもう御免だ
「それはこちらのセリフです。何度面倒事に対処する羽目になったことか」
「まー伊織も人のこと言えないくらいにやらかしたよね」
わざとらしくシクシクと涙を見せる『姫』
まあ、それもそうだ。かぐやが仕事に精を出している間にも事象飽和現象と多重次元屈折現象を『姫』と解析し理論に落とし込む
その過程で多くの事を学んだが、その間にまた伊織は技を発展させ全く別のバグを引き起こすイタチごっこを幾度となく繰り返した
それに留まらず
「何もなかったし別んよかろ。好きにせい言うたのはお前じゃ」
「まー、大変だった時もあったねー。伊織が増えたり、世界の多重コピーで私たちの世界が潰れかけたり、何か変な世界に繋がったり、現実との境界が無くなりかけたり、単純に別のものに呑まれかけたり・・・」
仕事に一生懸命だったため深く考えてこなかったが、伊織のやらかしはフォローできないかぐやだった
元凶は、全て、伊織である
もう一度言っておく
元凶は、全て、伊織である
楽しくなって色々やらかしてしまっていた
「まあ、五億歩程譲って怪我の功名と思っておきますとも。お陰で色々分かりましたしねー。ああ、その刀は返さなくても結構です。そちらでご随意にどうぞ」
「おう」
そして挙句の果てに事象飽和と多重次元屈折を同時に引き起こした時は、処理能力の飽和で冗談抜きにあと一歩で月が終わりかけた
だがこれが過去への突破口になりえたのだ
それの不安定を安定して引き起こし、時間の流れに正面から喧嘩売るためにかぐやと『姫』が鍛えた8尺はある大太刀
使い手として満たすのは己
その想いから『盈月』と名付けられた
「かぐや、分かっていると思いますが、そのシステムはまだ未熟、僅かなトラブルが致命的です」
「うん。だから伊織!」
「おう。任せい。時空とやら斬り開いて見せらぁ」
現実空間への脱出、その後もと光る竹が時間の流れに逆らうよう穴を穿ち、伊織が穴を斬り開く。その後はかぐやの作ったシステムが帰るべき時間へと向かい、伊織が舵取りして地球へと帰還する
やる事は単純だが───言うが易し 行うが難し
かぐやと『姫』の合作である時空跳躍システムは兎に角ピーキーなのだ
装置への負荷や細かい制御を減らすために伊織の技を使う
そして、今から引き起こす事柄に伊織はわくわくしていた。未だに月人もが到達できない境地に達し、前人未到をやらかす
「さて───」
『姫』が別れを、締め括る
「貴方達は間違いなく新たな道を歩くことになります。その覚悟はありますか?」
「うん!」
「やっ事はやった。後は斬るだけぞ」
「また巡り合わせがあれば、お会いしましょう」
かぐやと二人でもと光る竹に乗り込み、月の文明を立った
────────
伊織が、盈月を片手に自分が居る空間ではない場所で目を覚ました。天文学的な量の《輝く糸》が蹴鞠と似た感じで不規則に複雑に乱雑に絡まり合っている場所
もと光る竹が現実空間に脱した直後、宇宙空間で体と盈月を形成、時間跳躍の穴を斬り広げる為に刀を入れた所まで覚えている
そこから先が、思い出せない
「・・・何処ぞ、ここ」
その中から1本が自分に繋がり、絡み合いの外へ脱している。不思議がり触れようとしたその時
『それは貴方そのもの』
「!?誰ぞ!」
複数の声がした。いずれも男、女声の区別は付かない。姿形は見えないが、勘と知識が集合精神の産物『姫』より格上、別種の上位存在だと確信する
『安易に触れるな』
『私達には貴方が来ることを分かっていました』
『ここで何を成すかを知っている』
「俺は本仮屋伊織!お前らは誰じゃ!」
『ここは世界の裏』
『時間も空間も曖昧だ』
話が出来ない。無視されているのか、いや、高次の存在故に今の伊織の声すら届きえないのか
本能が感じる。声の主にはまだ勝てないと
『ソレは生命が刻むモノ』
『既に資格は得ている』
『交わり合い、離れ、また交わる。貴方が『縁』と呼ぶモノ』
『記憶が時空を創る』
『繋がりが世界を作る』
『名は与えられその体へと昇華した』
『貴方は知っている』
「・・・終わりかの。なんじゃ今んは」
複数の声は意味深な事を言い残し、途絶える。だが、色々と視線は感じた
「ここで何を成すか知っとる、そいを俺は知っている・・・なんぞ?」
改めて絡んだ糸の塊に目を向ける。生命が刻むモノ、つまりこの1本1本が人の営みなのだろう
それが絡まる瞬間が『縁』なのだろうか
自分の糸と絡む膨大な数の糸、それに手を掛けた。糸に触れるたびにその人の記憶が次々と再生される
「うっ、これはキツイの」
良い縁ばかりでは無い。ハッキリ言ってカスも沢山居た。そのカスの記憶を見続けるのは辛い
それでも、探す
そして、大きく過去へと戻っている他の糸とは違う流れかたをする糸を見つけた。別の塊からきて、その塊に戻り、他の糸と違い逆行している
覚悟してそれに、触れる
─────
どれくらい、時間が経っただろうか。かぐやの全てを、見終えた
かぐやが辿ってきた八千代の歴史を体感してきた
そして、かぐや(ヤチヨ)に謝らないといけないことも出来てしまった
「まさかあん時のお咎め無し、かぐやの仕業じゃったとは」
不気味に思っていた出来事の一つに、合点がいった
そして、触れているこの糸を断ち切り、繋ぎ直せば目的は果たせる
だが、それで良いのだろうか?
「ふむ・・・既に俺は知っとるか。なら」
少し考えて、自らに繋がる糸に触れる
時の流れに呑まれ忘れてしまった事を全て思い出す用に自らの生涯が頭を過った
つい最近から、月に来る直前、かぐやと、彩葉と、師匠達との出会いの記憶
そして、本仮屋伊織になった時の記憶
───縁を結べて、賢く、優しい子に育ってほしいねぇ
───じゃっどん紐結ぶだけじゃ心許ないのぉ。ならこいつの名は
───『『伊織』』
───良い名前だなぁ。伊織、多く出会えい。そしてそれを織って自分の世界を作り出せい
記憶の渦が、終わる
「・・・おいの名前、ほうか。ほうかぁ。名は体を表す。そう言う事か・・・良か名前を貰ったの」
盈月を目の前でゆっくりと抜刀、鞘が煙に変化、伊織に呼応した光り輝く刀身が姿を現す
刀身は更に輝き増し、光そのものへと変化、内部にボビンが付いた舟形の木具、梭へと姿を変えた
一つや二つでは無い。物凄い数が伊織の周りに浮かぶ
「やっど。黄泉路から見ちょってくれ。子が!本仮屋伊織がでっかい事やらかすど!」
そして伊織が柄のみになった盈月を振った。今刀を振る理由は斬るためでは無い。創るためだ
それに合わせて梭が動き始め、営みや縁、記憶を一本一本を丁寧に梭が巻き取り、縦横無尽に飛び回る
ゆっくりと無作為な絡まりは解かれ、ほぐされ
やがてその姿を変えていく
そして伊織の前に一枚の布が出来上がった
伊織の体躯など比べ物にもならない程に大きく、様々な彩に染められた織物
この織物に、今伊織が持ち得る縁や技を全て込めた
「良か出来栄えぞ。盈月によって得られた織物、満月・・・いや『虧月』かの」
だがその布に突き立とうとするギロチンの様な影を見る
今は手が出せないと感じ取り、迷う事なくその織物へと飛び込んだ
─────
意識の所在が移る。気付けば現実の宇宙空間へと飛び出ている。もと光る竹から一瞬で伊織の体が形成された。時は殆ど変わっていないらしい
もと光る竹の上に取り付いて、前を見る。そこにあったのは地球の方に向かう巨大な小惑星
伊織はもと光る竹から飛び出し、再び大太刀となった『盈月』を構えた
そして小惑星を包み込む巨大な花束が咲き乱れる
包み込まれた小惑星は一瞬の内に超越した物理法則の渦に斬り刻まれ、突き砕かれ原型を失った
「今更こん程度か」
「伊織!大丈夫!?」
「なんもなか。もう地球は眼の前ぞ」
もう邪魔するものは何も無い。再びもと光る竹に取り付き地球への軌道は確定、後はかぐやが手紙に書いた場所へ向かう
====地球====
伊織とかぐやを待っていたのは彩葉でも、ヤチヨでも、何なら人間では無かった
一面の銀世界、氷の大地の上、多分真冬の何処かだ
「や、やっちゃった・・・・」
「ここ、何処ぞ」
流石の2人も、途方に暮れた