満ちる月を越える者 作:業火の跡地
月での研鑽の末に伊織の技は空間操作すら安定し成し遂げられるようになった。時空の跳躍や限定的に世界線の壁すら突破が可能。割と万能。縁を辿ればさらに精密な操作が出来るが、縁が強すぎると引っ張られたりする
『盈月』はそんな伊織の剣技に耐えうるように鍛えられた刀である。ただ刀というのは盈月の本質ではない。使い手の意思によってそのカタチ、在り方を変えるのだ
世界を織りたいと言う思いに応え杼に姿を変えたのがソレである
====地球====
時刻は夜、途方に暮れているかぐやと伊織。兎に角、年代含めて現在地を確認しない事には始まらない
途方に暮れていたが、気温が凄く低い。ここは人間が住める環境でな無さそうだ
吹雪いていないのが救いである
「かぐや?大丈夫か?」
「す、すっげー寒い」
「確かにこれは、結構堪えるの」
伊織の体感で、義実家があった旭川の郊外よりも寒い。二人とも月に行った時の格好そのまま。月の体でなければ即効凍死コースであった
そして、余程の僻地であるのは即座に理解できる
「あ、GPS拾えた・・・嘘ぅ」
「何処じゃった?」
「南極・・・」
「南極。南極かぁ」
もと光る竹が微弱だが電波の類を受信する
《2033年6月n日》
彩葉に送った手紙の日付け通りに地球にこれたのは良い
しかしどっかの海の上は考えていたが南極は想定していなかった。しかし少し悩んだ伊織が手元の『盈月』に手を掛けた
縁を辿るとしよう
「かぐや、彩葉の歌声は届いたんじゃろ。縁は繋がっとる」
「そーだ!腕輪にメッセージ送れるかも!」
「後は俺が何とか出来る。かぐや頼んだ」
そう言って、盈月を抜き、氷の大地に深々と突き立てる。そして、かぐやと共に柄に手を翳す
集中して、感覚を研ぎ澄ませる。まず伊織が感じ取ったのは大きい2つの気配だ
そして現れるに多数の縁の数に改めて圧倒される
(これは、体と脇差?)
(あった!彩葉に渡した腕輪!)
(でかした。かぐや、腕輪の周りの状況とか分かっか?)
かぐやも感覚を研ぎ澄まして、腕輪にアクセスする
(やってみる!えーっと・・・彩葉お家に居て、多分ヤチヨと話してるのかな)
(ならよか。後は俺ぞ)
伊織も感覚を研ぎ澄ますと、かぐやを通じて彩葉とヤチヨの声が聞こえてくる。周囲の状態も何となく視えた
そして開眼、『盈月』を氷の大地から抜刀
唐突に、おもむろにかぐやの周りの空間を斬り始めた。不可視の空間の斬れ目でかぐやを閉じ込める
閉眼、かぐやの縁を感じ取りその中にある彩葉との繋がりを辿る
「私だけ跳ばすの!?」
「先行って彩葉と居てくれ。繋がり辿って後から行く」
一瞬でかぐやの周囲ごと空間を斬り出し、かぐやの縁を辿ってかぐやとタワマンの空間を入れ替えた。氷の大地にただ一人だけが取り残される
『盈月』を納刀、柄に手をかけて、目を閉じる
己の肉体、脇差、その縁が強すぎて多分大丈夫だが引っ張られる可能性がある
だがかぐやとかぐやと彩葉が共に居てくれるなら確実に見分けられる
日本に居る三人を信じて待つ。気付けば盈月が羅針盤に変化していた。伊織の感覚が束ねられた強い繋がりを感じとる。それを羅針盤が受け取り道を示す
「よし、やっか」
それを道標に、空間を開く。だが伊織に一つだけ、想定外があった。今の伊織は肉体と魂が分離していること
2人のかぐやと彩葉と伊織、4人全員に繋がる強い『縁』はもう一つ、もう一曲ある
月のかぐやへと歌われ、伊織が覚醒めるキッカケの『Reply』
かぐやと彩葉、伊織が再び出会うための『Remember』
その曲が持つ強力な縁を伊織は見落としていたのだ
事象飽和現象にて、空間の壁が破壊された。そして多重次元屈折現象が、別の空間への道を作り出してしまう
====何処か======
一目で分かる異質な場所・・・場所?周りには一方に歩いていくナニか。ドレも伊織の事を目にも留めない。ただ何となく、付いて行ったら不味い。本能がそう叫ぶ
「・・・道か」
霧が立ち込めて周囲ががろくに見えない。トンネルのようにも、橋のようにも、何なら線路や水路にも見える。それでも確信があった。ここは道だ
だがその空気が、ここが現実空間でも、ツクヨミのような仮想空間でも無いことを悟らせる
「・・・」
「・・・」
目の前に居る若い男性、少し窶れているようにも見えた
そしてその顔には彩葉の面影を感じる。この道の雰囲気を合わせると・・・
「彩葉の親父さんかの」
「初めまして。君が本仮屋君かい?」
何故、俺はこんな所に、死人が居る所に居るのか
「おう。ここは黄泉路・・・で合ってそうだの。何かバグったか?」
「僕には分からん事やけど、ここには長居せんほうがいい」
「犇々感じとる。その内ここに呑まれる。じゃっどん俺がここに居るのは多分縁の導きぞ。こうして顔を合わせた。じゃから」
そうして、一言伊織は酒寄朝久に、言の葉を供えた
そのまま『盈月』を構えて再び空間を砕き世界を渡る
立つ鳥跡を濁さず。堂々と無法を通し、散歩に立ち寄った公園を後にするように自然に帰っていった
言葉を供えられた酒寄朝久も、飛び立っていった伊織を見送り、憑物が落ちた様な顔で再び歩き始めるのだった
====彩葉のお家====
「いつ帰ってくるんだろうね」
伊織からの手紙には帰って来る時期と考えうる誤差が書かれていた。そして、予定の日付が今日であった。そして時刻はもう9時を回っている
「ヤチヨ、まだ心配してるの?」
「・・・そりゃね。私は月の生まれだったから耐えられたけど、生きてこれたけど人の伊織は」
「だーいじょうぶ。伊織を信じよ。寒っ!?何!?」
突然だった。物凄い冷気がリビングを満たす。薄手の寝間着の彩葉にとっては突然の極寒地獄だ
そんな中彩葉が振り返ると呆然としたかぐやが居た
「彩葉!」
「かぐや!?」
「彩葉ただいま!」
そのまま彩葉に抱き着くかぐや。彩葉も直ぐに抱きしめ返す
「お帰りっ!かぐや!」
「えへへぇ、彩葉あったかーい」
「・・・おかえりなさい。かぐや」
「ヤチヨもただいま!いや〜仕事大変だったよ〜」
再会を喜ぶ彩葉とかぐやの傍で画面の奥のヤチヨが、何かを思い、悩んでいる。浮かれた二人はソレに気付かなかった
「・・・あれ?かぐやだけ?」
「あー、うん。ちょっとドジって南極に降りちゃってさー。伊織に先行けって跳ばされた」
「とばされた?南極?」
「大丈夫だって。その内来るよ。今の伊織は瞬間移動とか平気でやれるようになってるし」
「は?瞬間移動?」
情報量の大波に呑まれる彩葉とヤチヨ、だがかぐやは一切気にしなかった。と言うよりも伊織が心配の一心である
「あ!そうだ。彩葉、伊織の脇差ってここにある?」
「あ、あるけど」
「二人とも、手伝って!」
あれよあれよとと言う間に伊織の脇差を持つ彩葉とかぐや、そしてかぐやがヤチヨを見据える
「ヤチヨも持って」
「分かったよ。かぐや」
「かぐや、これで伊織が来るの?」
「うん!」
AR上で、ヤチヨが脇差に手を置いた。すると
突如、空間に水滴が落ちたかのような波紋が広がった。そしてその中心から七色に輝く刀身が姿を現し次の瞬間、縁を辿り何も無い空間から伊織が現れた。軽い掛け声と共に床に着地『盈月』を納刀して、彩葉の目を見て、こう投げかけた
「ただいま」
あまりにも突然で、唐突で、ポカンとした彩葉とヤチヨ
かぐやはそのまま伊織に飛びつく
「おかえりッ伊織!」
それを聞いて現実に帰ってきた彩葉とヤチヨも細かい事はさておき、伊織を迎えるのだった
「お帰りなさい。伊織」
「伊織おかえり。随分と凄い帰ってき方だね〜」
彩葉も、伊織に抱き着く
AR空間ではヤチヨも伊織に抱き着いていた。伊織も三人を深く感じ、抱き返す
久々の人の温もりに伊織は笑みを浮かべ、また日常に帰ってくることができたことを、喜ぶのだった
───これが伊織が織ったハッピーエンド!
───だけど物語はもう少し続くみたい。もう少し見てってね!