満ちる月を越える者 作:業火の跡地
伊織のスマコンはヤチヨから贈られた試作特別製
売り文句は現実での動きが全てVR上に反映させられる事である。現状は伊織専用品でまだまだ試験段階
だが完成すれば危険な場所などの精密作業に活用される
===仮想空間ツクヨミ===
鳥居の前でログインしてくるかぐやを待つイオリとイロ、待ち合わせてツクヨミ内でお互いを認識した状態では初めてである
「伊織ってやっぱイオリなんだ」
「イロっておまんのことじゃったんか。中々骨のある奴だとは思っちゃったが・・・あ」
「ん?どしたの?」
「いやお前さんと戦い方の癖が良く似とる奴がおる。イロ、お前帝───」
その時、背後の鳥居が輝いた。兎耳と金髪に三日月の穴が空いた赤い着物にスニーカー
いきなり鳥居から飛び出して、水を張った地面に顔面からダイブ、それと同時になんか柴犬も飛び出してくきた
「フベッ!」
「金髪、ギャルいかぐや姫」
少し笑いを堪えるイロ、黙って見てるイオリ
そして、眼前に広がる仮想空間ツクヨミにかぐやは感嘆する。絢爛な街に空を泳ぎ回る魚
伊織に取っては眩しすぎてほぼ白か薄灰だが他人にとっては綺麗な景色なのだろう
「もしや彩葉!なら黒いのは伊織!」
「てか、それ何?」
「犬DOGE!連れてこられるんだ!」
かぐやの足元を走り回る犬DOGE、そしてかぐやに抱えられた
「イオリはこれからどうする?」
「伊織も一緒に行こうよ!」
「町中は眩しすぎて苦手じゃ」
そうは言うがかぐやが無理矢理手を取って引きずっていく。止めるのは容易だが付き合うことにした。どんどんと前に引っ張られる
「いいの?イオリにはあんまり楽しいものじゃ無いでしょ」
「目のこと気にしとるなら心配なか。スマコンで明るさ補正かけとるで心配いらん」
「なら良いけど」
「そいに俺はツクヨミの街を知らなか。こいもいい機会じゃ」
いつもツクヨミに入ったらSETUNA、RANSEに直行していたのでほぼ何があるのか知らないのである。
因みに初ログイン時に街並みに興味を一切示さずSETUNAに潜り出したイオリを見てヤッチョは泣いた
「あ、かぐや、ちょい待ち。イオリ、コレどーぞ」
「なんぞ」
「羽織。イオリってツクヨミじゃ有名人だよ。あんまり目立つのもアレだし。コレ着てて」
「すまんの」
「後帯刀してるけど、それも仕舞っといて。あんまりよろしくない」
「ほうか?分かった」
イオリはイロからの贈り物の赤紫に白線、菱模様の長羽織を装着、腰に差している刀をストレージへと仕舞う。武器を持たないのは違和感が凄い
「大体イオリは黒一色だから、これで誤魔化せるんじゃないかな」
「何から何まですまんの」
「ね〜二人とも〜早く行こうよ〜!」
「行こ、イオリ」
「おう」
そして、イオリも初めてツクヨミの街へと足を踏み入れた。眩しさに目を慣らしている内にかぐやのチュートリアルが終わり、兎のように駆けていく。仕方ないなぁと言った顔で追いかけるイロと僅かな機微をみせるイオリ
追いつけば露店のぬいぐるみを抱きしめて満面の笑み
「ツクヨミ!チョー楽しい!」
「俺には楽しさが分からなか」
「えー!めっちゃカラフルだし!綺麗だし」
「俺は色が見れんのじゃ。基本的に白黒灰でしか周りが見えん」
「え!なにそれチョー退屈そうじゃん!」
「慣れりゃそんなもんぞ。周りが気にすることでもなか」
伊織は目の事を特段気にしていない。不便ではあるが変わりに空間把握能力と聴覚が鍛えられた。結果オーライだ
「イオリ、もしよかったらさ?今夜のヤチヨのライブ、一緒に観にいかない?」
「月見ヤチヨの・・・せっかくの誘いならご一緒させてもらおうか」
「そうだ伊織ってツクヨミで普段何しんてんの?」
「SETUNAかRANSEしかしとらん」
「イオリはね、その二つでは負け無しなんだよ」
「ヤチヨに何回か狩られちょる。負け無しではなか」
本体ヤチヨ相手の勝率は七割勝ちである。おかしいコイツ。裏を返せばヤチヨ以外には負けたことが無いのだコイツは。その癖ツクヨミ公式大会等にはヤチヨに誘われても一切興味を示さない。企画者のヤッチョは凹んだ
一時期大会に出ないのはチートを使っているのでは無いかと疑いが掛かり事態を重く見たヤチヨにより黒鬼三人とカチ当てられたが三人まとめて斬り伏せた
ヤチヨの調査と黒鬼の証言を以ってチートは使っていないと証明された事がある。本人は興味なくて知らない
「伊織ってツクヨミでも強いんだー」
「まだまだ弱か。まだ上ば目指せる」
「伊織ストイックだ〜」
「そんなんじゃなか。ここまで来たら染み付いた性分ぞ」
「イオリ、眩しいなら落ち着ける場所でも行かない?そこなら町中ほど明るくないから。かぐやもそれで良い?」
「助かる。目がチカチカしてきた」
「はーい!早く行こ!」
イロに案内されて来たのは水の上に立つカフェ。そんな場所で足湯の用に寛ぎながらイロとかぐやはツクヨミパフェを、イオリは茶と3色団子を頼んでいた
大きくカラフルなパフェに目を踊らせるかぐや、だが一口食べて顔を顰める
「味しなぁ〜い」
「味とか食感はまだ無理みたいよ」
「本物はないの〜?」
「現実に届けてくれるのもあるけどリアル並みの値段なので、とてもとても」
空では光の魚が数度姿を変えながら泳ぎ回り、三人の足を魚がつついている
そして、かぐやがツクヨミのミラーボールを見て何か固まっていた
「どうしたかぐや」
「んー?いやー、なんかここ月と似てるな~って」
「お前の故郷とか」
「うん。何か似てるー」
「あ、時間だ。そろそろ行こ」
時計を確認したイロ、2人もそれに連れ立って月見ヤチヨのライブ会場へと向かった
===ライブ会場===
人間不信の伊織に人混みはあまり得意でなくイロとかぐやと離れ後ろの方で見ている
現地にはちょこちょこ斬った事がある顔が見える
そして、声を掛けられた。これまた良く斬った顔だ
「あれ?イオリ?」
「誰ぞ。ああおこってるか」
「乙事照だよ。いい加減覚えてくれ?」
「言いにくい名前しとる方が悪かろ」
実際、呼び辛い
「でも珍しい所か初めてじゃない?ヤチヨのライブで姿を見るの」
「友人に誘われての。たまにはええじゃろうとな」
「黒い鳥も丸くなったのかな?」
カウントダウンが10秒を切る。ツクヨミ中からカウントの声が響く
そして、荘厳な音と共に会場の中央に巨大な鳥居が出現、その上に一人の女性、月見ヤチヨが立っている
(普段のヤチヨってあんな格好しとったんか)
神戦用の服しか知らない男であった
「おまたせ!」
ヤチヨの言葉に歓声が上がる。遠めでイロは放心状態に近いように見えた
「ヤオヨロ〜!皆!今日も最高だったぁ〜?」
更に歓声、と言うか愚痴も混ざっているなこれ
「うんうん。よ~し!今宵もみんなをいざなっちゃうよ~!
Let's go on a trip!」
「「「「「Let's go on a trip!」」」」」
───幾千の 時を巡って今 僕ら出会えたの
───ほら 見失わないように 手を離さないで
ヤチヨの指パッチンと共にツクヨミが水に包まれる
歌い始めたのは星降る海。星と海をゆったりとしたリズムで透明感のある優しい楽曲。時を超えた出会いを祝福するような歌
(出会えた、手を離さないで、か)
隣の乙事照琴も聞き入っている。伊織も静かに耳を傾けた。
そして、曲の途中でヤチヨが分裂。ちびヤチヨやミニヤチヨが観客席を飛び交ったり、観客とお話ししたりする
イオリのもとにもミニヤチヨが来た。手を引っ張って向こうに行こうよ。と観客達の方を指差したが苦手なもんは苦手。
すまんと手を振り、ちびヤチヨを送り出す
イロとかぐやは三人のちびヤチヨに飛び付かれていて、イロの尻尾の毛が完全に逆立っている。相当衝撃が大きかったか
伊織は演出に圧倒されていた。目の可笑しい自分にもここまでのモノをよくぞ。と言う気持ちである
「な、凄いだろ」
「ああ。確かにの」
「ツクヨミにはチャンバラだけじゃない。お前の知らない楽しいものが沢山あるんだ」
「そうじゃの。もっと早く気付けば、退屈せずに済んだかの」
そして、曲が終わる。再び鳥居の上にいるヤチヨにFUSHIが登ってきた
「感謝!感激!雨アラモード!。ううっ、ヤチヨは果報者なのです」
ヤチヨは鳥居の上で飛び跳ねて涙と共にぺこりと感謝を伝える
そしてFUSHIがヤチヨの肩に登りだし、目から空中へ映像を投影、映像を空に映しだした
「ここでお知らせ。ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~す」
画面が切り替わり、FUSHIが喋りだした。
『参加資格があるのはツクヨミの全ライバー。一か月の期間の間で獲得した新規のファンの数が多いライバーが優勝!
そして優勝者にはなんと!ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈されるんだ!』
遠くでイロが驚きの声を上げているのが聞こえた。会場各地もざわめいている。話の凄さが良く分からためイオリは近くに居た乙事照に話を振った
「のお、月見ヤチヨって今まで完全に一人で活動しとったんか?」
「いやぁ?僕の企画に招待したこともあるしそんな事は無い。けどそう言えばライブは一人でやってたね。コレはオモシロソ」
なんか気持ち悪い声を出し口を押さえて笑っている乙事照。
「今一良く分からんが」
「これを気にイオリもデビューしちゃえば?応援しちゃうよ〜?」
「趣味じゃなか。そいに俺ツクヨミの連中によく思われとらんじゃろ
黒い鳥なんて二つ名も付けられとる。調べたんどあれどう考えても忌み名じゃろ」
「うーん、まあそれくらい君の強さは災害だしねぇ。そっか。残念!そうだ。僕の企画に来てくれない?」
「勝てたらの」
「こりゃ手厳しい!」
話の流れで言質を取ろうとしたが失敗
そして、イオリの耳に水上を走る車の音が聞こえた。それに目を向けると、虎が牛車を牽いている。
虎車だ。そんな意味分からん物でライブ会場に乗り付けてくるなんて乙事照には一グループしか浮かばない
「避ける気はなさそうじゃの」
「えっ斬るの?」
道の真ん中に突っ立っている2人に向けて全速で迫っているので、イオリ、大太刀抜刀
そのまま一歩前に立ち抜刀の構え
2mを越える巨大な刀身は最早物干し竿。現代社会は基本歩行者優先。ここはツクヨミだが舐められるのも癪なのでそのままぶった斬る
気配で三人共に何処に居るのかは見なくても分かる。鞘を後ろに引き捨て刀身と体をを前に。上段から縦に一閃、斬り開かれ牛車は制御を失い側面の壁に激突する
が、相手もまた現役のプロ、これくらいでは切られない
そのまま事故らされた虎車から三人の影が飛び出し、綺麗に着地
Black onyX
リーダーの帝アキラ 雷 乃依
ツクヨミ内外で行われている公式大会で多数の優勝経験のあるプロゲーマー集団である
その人気も凄まじい物。チート使用者ですら返り討ちにする実力とこんな蛮行を実行し盛り上げられるエンターテイメント力、功績を打ち立てきたチーム
リーダー帝アキラの指パッチンで多数のスポンサーと過去の優勝履歴が映し出され、彼らの持ち歌、onyXXXが流れる
「よう小兎ども!お前らの帝様が来たぜ!」
会場中から黄色い歓声が上がる
最初からこの予定だったと言わんばかりに堂々としている帝達
そんな彼らを背後から見るイオリ、そしてイロがカグヤの後ろに隠れているのを気が付く
帝の言葉にパーカー付きのロングコートを纏う雷、地雷系和風メイドの乃依が続く
「また、祭りが始まる」
「俺って、今日も作画よすぎ・・・でしょ?」
黄色い歓声は鳴りやみを知らない
「俺たちに優勝してほしいよな?底なしの夢を見せてやるぜ!」
歓声は一段と強くなる
「というわけで俺たち優勝するから、ヤチヨちゃん?コラボよろしくね」
飛んでいた金紙に唇を付け、まるで自分たちが王者だという絶対的な自信を見せつける
「そう言う運命ならヤチヨは受け入れるよ」
そして全体を見渡せる位置に居るイオリが気付く。ヤチヨの表情。そして口の動き、そして口から漏れた言葉
「最高なライブを約束するからみんなドシドシ参加してね!一緒にハッピーになってめ〜でた〜しし〜ちゃお~!」
(イロの顔が溶けとる。かぐやアイツ何する気だ?)
かぐやがイロの前に出た。そして口いっぱい空気を吸い込む。そして
「ヤチヨぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
その声に合わせて会場が静かになった。数人がかぐやの方に振り返る
「かぐやがヤチヨカップ優勝者する!そんで絶対コラボライブやる!いろh」もごもご
背中からイロが口を押さえてかぐや無理黙らせる
それを見た乙事照、興味深そうにかぐやを眺めている
「へぇ?彼女。伸びるよ」
「ほうか」
「間違いない。オタ公もおんなじような表情してる。興味深い物を嗅ぎ取った目だ」
「ほいでは!!ライブは一旦ここでクローズ!
皆とちょこっとお話させてね。さらば~い!」
ヤチヨがライブを締め括り、多数のミニヤチヨに分裂してファンとお話し始めた
「じゃあ僕はこの辺で、またSETUNAで会おう」
「おう」
乙事照はログアウト、イオリもイロとかぐやの元へ
視界の隅ではいつの間にか再生していた虎車に乗り込みファンサを残してこの場から去る黒鬼を横目に移動
イロが約束に付いて文句を言っていた
「おう。おまんやったの」
「げっ、聞かれてた」
「会場中に響いとったわ阿呆」
「むりむりむり!小娘が!」
「こらっ」
ちびヤチヨがイロの元へ。
「お忘れかな〜?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです」
「そっか。なら、かぐやライバーになる!」
そう言ってかぐやはログアウト、イロとイオリが残される。
「えっ?ちょっ!私もこの辺で」
「待って!」
ヤチヨは彩葉を呼び止めて、両手を握る。尻尾と耳がピンッと立った
「えっと、ありがとうございました!」
そして、イロもまたログアウト。イオリだけが残される
「おやおやおや〜?珍しい人が居るね〜」
「よう、月見ヤチヨ」
「相変わらず愛想ないね〜。どういう風の吹き回しかにゃ?」
「気が向いただけぞ」
「そういえば贈ったスマコン、どう?使いやすい?」
「おう。現実で出来た動きが寸分狂わず反映されとる」
「ふふん!自信作なのです。褒めても良いよ?」
「流石じゃ」
「むー」
褒め方がお気に召さなかったようでむくれているヤチヨ。しかしそんな様子をみたイオリ。頭に手を置く。かつて母がそうしてくれたように、かつて、妹にしたように
「お転婆姫にはこいで十分じゃろ」
「───うん。ありがと」
「じゃあの。SETUNA行ってくらぁ」
「そこはブレないんだね・・・
いつも来てくれてありがとね。彩葉、伊織」
そう言ってイオリは神戦へ。神戦に向かう寸前、ヤチヨの声を聞いた気がした
次回 始動 かぐやいろP