満ちる月を越える者   作:業火の跡地

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伊織の一口メモ
中学一年の時に喧嘩を売ってきた相手の落とした新品スマコンを入手、そこから神戦ライフが始まった(ヤチヨは結構驚いた)
そこから伊織の中学卒業までで打ち立てられたシーズン毎の最高PK記録は未だに破られていない。一切の躊躇なく死を振りまく存在、黒い鳥と言う二つ名もここで付けられた


かぐや。ライバーになった

早朝の近所の公園にビュッと連続した空を斬る音が響く

 

伊織は先端に丸めた布が付けられた木製の槍を手に虚空に向けて次々と突き、薙ぎ、引き、絡め取りなどの動作を素早く繰り出す

そのどれもが確かな風圧を生み出し全力で振っているのが外からでも分かる

 

伊織が思い浮かべるのは全力で伊織の首を取りに来る伊織。互いの目に光は無い

常に自分を超えようとするその光景は狂気的で、彼の尋常では無い執念と弱い己への殺意が込められていた

 

今朝の動きは宝蔵院流槍術。奈良に住んでいた時に習得した槍裁きである。大島流槍術や奇妙な縁でケルト流槍術も修めていたりする

 

 

 

「今はこれで仕舞うかの」

 

 

 

かれこれ一時間以上は槍を捌いていただろうか。これ以上は学校に支障をきたす

木槍を布袋にしまい、帰路に・・・と思ったところで途中から感じていた視線の主を探す

 

 

 

「誰ぞ」

「かぐやだよ〜。朝起きたら居なかったし、何処に居るのかな〜って」

「見てて楽しいもんでもなかったろ」

「うん。ちょー怖かった。なんかこう上手く言えないけど」

「ほうか。昨日飯ご馳走さんでした」

「うむ。くるしゅーない。でももうちょいなんかな〜い?」

 

 

 

謎の既視感を覚えながら同じように頭を撫でて見る。どうやらご満悦のようだ

 

 

 

「今はこれが一杯ぞ」

「むふー」ドヤッ

「手も繋いで欲しいなーって」

「冷たいぞ」

「最近暑いし丁度いいじゃん♪」

 

 

 

かぐやと手を繋ぎアパートに帰る。多分警察に見つかったら声を掛けられるだろうがこんな早朝には居なかったらしい

アパートの直ぐ前で彩葉が待っていた

 

 

 

「あ、帰ってきた」

「おはようさん。随分早起きじゃの」

「いや朝起きたらかぐや居なかったから」

「ごめ~ん彩葉」

「あんま心配掛けるもんじゃなか。せめて一筆書くとかせにゃいかん」

 

 

 

かぐやを嗜めて顔の汗を拭う

 

 

 

「そうだ。朝ご飯!伊織も一緒に食べよ!」

「申し出だけ有り難く受け取る」

「えー!」

「こら、あんまり困らせないの。ごめんね伊織、邪魔じゃなかった?」

「別に平気ぞ」

「でも3人分作っちゃったしな」

「は?家のキッチンには何も・・・あ!」

 

 

 

自分のキッチンは特に使われた後は無かった。後かぐやが使えるキッチンは伊織の部屋だろう

 

 

 

「かぐや、俺の部屋のもん、触っとらんよな」

「うん!色々あったから後で何か教えて!」

「ならよか。教えちゃる」

 

 

 

三人は共に伊織の部屋へ。今更ながら伊織の部屋には最低限の家具とさっきまで振ってた木槍、長さ様々な木、竹棒、槌、鎌、形や大小様々な木製の道具 竹刀、木刀、弓矢、その他武具防具の数々。そして壁には刀が四振り掛けられていた。

折り畳みの机には米、味噌汁、焼き鮭や卵焼きなど実に日本的な朝ご飯が作られている

 

 

 

「伊織の部屋ってこんなんだったんだ」

「おう。何もなかろ」

(この数の武器を何もないって言えるのか?)

「伊織!あの壁の奴って本物?」

「おう。かぐや。他は兎も角これには触んなよ。危ないからの」

 

 

 

そう言って伊織は三段目に掛けられている脇差を手に取り、縄を解き、鞘から抜いた

その中には僅かな光を反射し妖しく輝く刀身が姿を現した

少し、虹色に輝いて見えたような気がしたのは伊織の気の所為だろうか?

 

 

「綺麗・・・」

「すげー!チョーかっこいい!」

「こいつは両親からの贈り物ぞ。じゃっどん俺はこいつを振れる段階になか」

「えー?上の二本より軽そうだよ?」

「心持ちの問題ぞ」

 

 

 

そう言って、縄を掛けて抜刀出来ないようにし壁に掛け直した。そして朝食の時間だ

 

 

 

「あ、冷めちゃうから早く食べよ」

「伊織、色々ごめんね」

「よか」

 

 

伊織は手を合わせ、箸を持つ。今日は高校の終業式。明日からの夏休み。新たなものを取り入れるか、既存の技を研ぐか。決め兼ねていた

 

 

===学校===

伊織と彩葉が共に学校へ。そのさなかに

 

「おっらー」

「おはよー」

「おはよう。二人とも」

「おはようさん」

 

 

 

真実と芦花が合流した。自然と会話はかぐやの話になっていく

 

 

 

「珍しいね。2人が一緒に登校してるの」

「たまたま出る時間被ってさ」

「かぐやちゃん元気〜?」

「おう。相変わらずのお転婆娘ぞ。多分もう大人しくしとらんじゃろ」

「彩葉大丈夫?疲れてない?」

「平気。ちょっと振り回されてるけど」

「すまんの。監視が行き届かんで」

 

 

 

彩葉と伊織が即興で話を合わせ話を回す。たまの矛盾は上手く誤魔化す

そして夏休みの話へと変わった

 

 

 

「ねー、彩葉は実家帰るの〜?」

「帰らない、かな。バイトもあるし、やらなきゃいけないこと沢山あるから」

「伊織は?北海道?」

「帰ってくんな。じゃと。盆に九州帰る以外何も決まってなか」

「へ〜。伊織の事だし、山にでも籠るのかと思ってた」

「そうしようとしてたら義実家から釘刺されたど。社会勉強してこい言うちここ放り込まれたからの。その間は社会勉強せいと」

 

 

 

本州の野生動物は弱い。と言うのが伊織談である

ツキノワグマは弱い。やはりエゾヒグマくらいはないと骨がない

 

 

「厳しいのか優しいのか、よく分かんないね〜」

 

 

 

間違いなく優しい。少なくとも北の大地で繰り広げられるヒグマ相手の命掛けサバイバルを阻止したのだから

 

 

 

「いや北海道だよ?ヒグマだよ?伊織がおかしいってこれ」

「彩葉に同意〜。普通命がいくつあっても足りないよ〜・・・そう言えば伊織って熊油とか持ってるの?」

「家にあっど。やろうか」

「え?持ってるの?熊油?」

「エゾヒグマのやつで良ければの。たまに傷口に使っとるど。何キロ欲しい」

「いやグラムで良いから。美容インフルエンサーとしては興味あって・・・因みにその熊油の由来は」

「俺が斬った」

「デスヨネー」

「真実、熊の胆に興味あるなら出すど」

 

 

 

因みに熊の胆とか鹿茸とか、北海道の自然由来の薬や漢方は色々持ってる。彼には命を奪ったならそれを活用しなければ失礼だという礼節がある

 

 

そんな熊の話をしながら学校に向かい、終業式が終わった。そして、彩紬から話があると声をかけられる

 

 

 

「ねえ、伊織、ちょっと2人で話したいんだけど

いい?」

「よか」

 

 

 

椅子から立ち上がり、彩紬に付いていく。連れられてきたのは空き教室だった。彩紬の顔つきが変わる。少なくとも熊油の話ではなさそうだ

 

 

 

「ねえ、改めて聞いておきたいんだけどさ。伊織って彩葉のこと、どう思ってるの?前は負い目を感じてるっていってたけど」

 

 

 

凄く真面目な話のようだ。敵意は感じない。しかし本気の話。伊織もそれに応えようとする

 

 

 

「どうとは」

「うーん、彩葉に向けてる感情とか?私も伊織を見てきた。私や真実には向けていない感情を伊織は彩葉に向けてるから」

「そうか・・・そうじゃな。まず俺は酒寄の為ならこの命を使っても良いと思うちょる」

「それはどうして?」

「何と言えばいいんか・・・」

 

 

 

伊織は自分の庇護欲をまだ理解はしていないので、慎重に言葉を選び出す

伊織には親愛や恋愛が分からない。辛うじて家族愛が分かるくらいだ

しかしそれとは違うのも何となく分かる。そして結論は

 

 

 

「俺自身もわかっちょらん。忠義が近いかの」

「彩葉に尽くす。ってこと?」

「それで大きい相違はなか。普段から勉学も社会の事も教わっとるし。師範でもあるかの」

「それは、どうして?」

「俺がそう思うとるからじゃ。酒寄は強か。じゃっどんそいは見せかけじゃ。自分の無理を差し置き。そいで周りを守ろうとする。周りの支えはあっても酒寄彩葉を守る存在が無い。自分で自分を守れておらん」

 

 

 

更に続ける。一年半彩葉を観察してきたのだ

その歪みには嫌でも気が付く。伊織はほぼ一人で生きてきた。だから自分を守る術を学び続け、身に付けてきた

だが彩葉はそうではない。家族と生きてきた。伊織は彩葉が母である酒寄紅葉に何を思っているのかは分からない。がそのうち壊れるのだけは分かる

 

 

 

「一年の時酒寄は言うた。母親に認められたいと」

「うん。私も何度も聞いたね。凄い厳しいお母さんみたいだけど」

「他の家の事情など知らん。じゃっどん酒寄彩葉は酒寄彩葉ぞ。母親ではなか。同じ道を歩けるとも限らん。同じ事が出来るとも限らん。そもそもこいは生きるのに迷うとる俺が言えたことじゃないが、一度壊れた俺だから言える。多分このまま行けば限界がくる。身体も精神も保たん」

「・・・彩葉の事、よく見てるんだね」

「お前ほどじゃなかど。俺は頭ン中は読めても心の中は読めん。彩紬が酒寄にどう思っとるんか。俺は分からんしの」

「それ、バレてたんだ」

「話は終わりかの」

「うん。ありがと伊織。それについては黙っててくれると嬉しいな」

「そっちが満足したならよか。またかぐやが迷惑かけたらすまんの」

「こちらこそ。そう言えばかぐやちゃん、暫く東京に居るの?」

「多分の」

「じゃあ都会をいっぱい楽しんで貰わなきゃね」

「そんときは頼むど。同性同士のほうがやりやすかろ」

 

 

 

彩紬と別れ伊織も下校。たまに来る部活勧誘を避けて家に帰る。待っていたのは心地の良い音色だった

 

 

 

===伊織宅前===

 

彩葉の部屋からピアノの音が聞こえてくる。かぐやが弾いているのかと思っていたがどうやら違うようだ。つい聞き入ってしまう。何やらまで聞こえてきた。一応注意した方がいいのだろうか

 

 

 

「かぐや。酒寄に迷惑かけてないか・・・」

 

 

 

一応伊織の親戚設定のため監督はしないと不味いだろう。と考えてノックをし声を掛けた

が、足元に大量の小道具がぶつかる

二千程考えて使えと渡しはしたがこれがその末路か

 

 

 

「・・・なんぞこれ」

「かぐや、ライバー始めたんだって。それでオリジナル曲作ってってお願いされたところ」

「酒寄の時間はあんがか」

「流石に無いし、昔作ったやつ聞かせてる」

「ほー。じゃあさっきのピアノ酒寄か」

「うん。どうだった?」

「ついついと聞き入っとった」

「伊織でそれなら大丈夫そうだね」

 

 

 

体を揺らして楽しそうに鼻歌を歌うかぐやを横に二人が話す。やがてリズムに合わせたかぐやが二人な飛びついた

 

 

 

「誰も〜とめ〜ら〜れ〜やしない。歌わずに〜はいら〜れないっ!」

「彩葉!プロデューサーになって!伊織も一緒に!このボロアパートから伝説が始まるぅ」

「邪魔しないなら居ていいって言ったでしょ?」

 

 

 

ボロアパートで悪かったなとも言いたげだ

彩葉が夏休みの予定表を指さした。無茶なスケジュールを伊織も一瞥して、諫山と彩紬への通報を決定する

 

 

 

「ねぇ、彩葉ぁ」

「ぐっ、その手は食わん!」

「ハッピーエンドにしたいなぁ?」

 

 

 

垂れ目の誘惑に断れないのは酒寄のその血の定めか渋々了承してしまった

ぐふふ、と言った感じで笑っているかぐや

しかし伊織は乗り気ではない、と言うか邪魔になるとすら思っていた

 

 

 

「俺は断る」

「えぇ〜!なんで!」

「訳はある。先に聞け」

 

 

 

自分は黒い鳥なんて忌み名を付けられている。そのためあまりよく思われていない

まあ、実際はそんな事ないが、何もかも焼き尽くす死を告げる存在と同じ名を付けられたらそう思うのも無理はない

 

 

 

「そこまで嫌われてる訳じゃ無いと思うけどなぁ」

「目的はヤチヨカップじゃろ。なら余計な火種は抱え込まんほうがよか」

「むー・・・」

「流石に手伝いくらいはすると。一応俺がおまんの保護者じゃしの」

「じゃあさ!ダンス教えて!あれだけ動けるならダンスの一つや二つ簡単に出来るでしょ〜」

「ダンスは無理ぞ。じゃっどん基本的な体の使い方なら教えれる。その変わり半端は許さんど」

「うん!ありがと!」

「伊織、別に良いよ。伊織には伊織の事もあるし」

「別によか。自分が得物振り回す傍らの話ぞ」

 

 

 

伊織は伊織の妥協点(直接は出ない。イオリとしても偶然マッチング時以外出ない)事を伝えて物の調達とか、体の動かし方の指導をし始める

 

 

 

「基礎は同じぞ。体の重心が何処にあるか常に意識せい。意識せんでも解るようになれば一人前ぞ」

「はーい!」

 

 

 

伊織も伊織でかぐやのダンスを数回見ただけで吸収、あっという間に手本として踊れる程になる。尚精密な動きのロボットであり天真爛漫なかぐやっぽさはない

 

それに見たかぐやは「ダンサーやって!」と渾身のおねだりしたが、伊織が「勝てたらの」と返した

その後公園で伊織の体に触れられたら勝ちと言うゲームを実行、かぐや連敗、諦めてはないらしい

 

因みにこの光景を配信しようとしていたがまだ機材が無かったらしい

また巻き込まれる事を確信した伊織は警戒を強めるのだった

 

 

 

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