満ちる月を越える者 作:業火の跡地
実はツクヨミに存在する彩葉の双剣や帝の金棒と言った複合武器は現実離れしていて苦手である。(なお苦手なだけ)
現実に近ければ近い程使いやすいらしい
同様に範囲攻撃を付与するウルトなども間合いがブレるため使わない
夕刻、警備のバイトが終わり近所にある武道館、その弓道場で弓を引いていた。さすがに公園で矢を飛ばすわけには行かず時折利用している施設だ
「流石だな。伊織君。弓道とは違う実戦流、日置流の弓術、速射も綺麗な動きだ」
「いや、雑念が乗っちょる。視界が可笑しい」
「ふむ?・・・だがその雑念は正しい物だと、私は思うぞ」
そこで良く弓を引いている古株の爺さん先生。中学生や高校生相手に弓道を教えている
伊織によく目を掛けてくれている人
「雑念がか?」
「伊織君は雑念が混ざっていると言ったが、その動きに迷いは感じない。それに会った頃より表情も増えた」
「・・・」
伊織は困惑していた。最近、想像上の過去の己にたまに負ける。視界にもくすんだ色彩が出てきた
そのせいですこし戦いづらい
だが、自分が弱くなっている感じではなく、都会に居たせいで勘が鈍っているのかと思っていたが、それも違う
なんだ、なんなのだこれは・・・とまあこんな感じで分からない悩みを抱えていたのだ
「迷え、若人よ。それは成長に繋がる」
「ありがとうございます」
何となく、踏ん切りが付いたようだ
この雑念は振り払うべきものではなく、自分に受け入れる物だと。追々分かるだろうと
そして、道具の手入れ中に、彩葉からの電話がなった
『もしもし伊織?かぐやの配信って見てる?』
「見とらん。また何かしでかしたんか」
『自分の結婚賭けたKASSEN企画宣言しちゃった。それに私と伊織を巻き込んだの』
「また勝手にか・・・因みに何言うた?」
『結婚してってスパチャにKASSENで私と伊織に勝ったら結婚って・・・』
「はぁ、まあ神戦じゃし、俺はよか」
『ごめん、ほんとごめん』
「腕が鳴る。どうせ横にかぐやおるんじゃろ。ちょっと話させい」
『かぐや、伊織から話だって』
『げっ、また説教?』
「聞こえとんぞ。かぐや。思いつきは悪い事じゃ無か。じゃっどん他人巻き込むなら先に相談はせい。そいに己を安売りすんな」
『うー・・・分かった』
そんな、会話を見た爺さん先生、伊織は良い縁を結ばれた。と微笑むのだった
そして、かぐや争奪KASSEN当日
「えー!伊織も一緒にログインしようよ〜」
「今からするの神戦じゃろ?」
「そうだけど、あ、そっか伊織のスマコンってそう言えばそうだったね」
「んー?伊織のスマコンって何か変なの?」
「月見ヤチヨが寄越してきた試作品ぞ。」
「えっ、うそ?あれヤチヨから貰ったの!?」
彩葉が驚いている。本人は何も深く考えていない
「おう。データが欲しい言うちょった」
「どんなスマコンなの?」
「俺の体の動きを全部ツクヨミ上に反映させるもん。んで周りに人が居ると危険なんじゃ」
そして、伊織は自室からツクヨミへダイブ、SETUNAのプライベート部屋へと向かう
かぐや争奪KASSENの火蓋が落とされた。実況解説はこの2人!
「かぐやと結婚せんために集ったリスナーを追い返すためにイロPとイオリが立ち上がったぁ!実況の乙事照琴とぉ?」
「解説の忠犬オタ公でぇす!今回の企画なんと!何故か、何故かKASSENのランカーも多数参戦している謎の企画ぅ!結果は果たして!」
オタ公の言う通りイオリがSETUNAやRANSEで良く戦う連中、ランカー共が目白押しである
ここで大衆に明かされるIOR=イオリと言う事実にコメント欄はヤチヨの誘いも断ったイオリを引っ張り出すとはかぐやちゃんは一体何者と騒然であった
尚、ランカー共にバレた原因は伊織の部屋公開配信で刀を始めとした武具を振った為である
偶然かぐやの配信を見た化け物共がこの動きどっかでと人外魔境で魑魅魍魎が渦巻くSETUNAランカーの掲示板に配信を共有
トップ層が体の使い方だけでイオリじゃね?と疑惑を持ち始める。更に行われたIORのKASSEN講座で確信された
一応真偽を確かめるため何名もかぐや争奪KASSENにエントリーしてきたのだ。迷惑な話である
「やっぱ分かる奴は分かるか」
「いやいやバレ方おかしいって。何で顔と声じゃなくて体の使い方でバレんの!?」
彩葉のツッコミが入る。いくらイオリのSETUNAがリアルありきだとしてもあんまりにもあんまりな発覚の仕方であった
「いやだって、あんな戦い方すんのそこの黒鳥さんくらいだし」
「逆にあれだけの武器を多数の流派で扱うのは彼くらいな物なのですよ」
「ま、諦めな狐の嬢ちゃん。俺らはこう言う連中だ」
三番目に発現した槍使いのレート2位、ランナ
イオリをSETUNAに引き込んだ張本人である。伊織との交流は中学生初期の頃、偶然出会った強さを求める少年にケルト流槍術とSETUNAを教えた
〉怖ッッッ!
〉どうして動きで分かるんですか(困惑)
〉何なのコイツら
〉戦闘能力を得るために大切な何かを己の意思で捨て去った化け物達だぞ
〉SETUNAトップ層って言う金魚鉢で永遠に斬り合ってる連中に常識を求めてはいけない
イオリの納得、イロのツッコミ。ランカー勢の当たり前だろ何で分からないと思うんだよとの反発である。コメントももうヤダこの化け物達と言った感じ
そして、SETUNAが始まる。最初に相手をするのは狐の着ぐるみ(当たり判定の大きな物)を着て無双するイロである
「ほう?彼女も中々の強者か。あのスキンでこれは期待せずには、おぉブーメランあんな綺麗に回収するのか」
「ええ。拳だけであれほど。本職はあの双剣でしょうか?杖を交えるのが楽しみですねぇ」
「あの嬢ちゃん忍者系のジョブであれだけのエイムに太刀筋、相当遣り手だな」
舌舐めずりを始めてしまったバトルジャンキー共
そして、槍使いがイオリに耳打ちしてくる
「イオリ、いろPとやらの戦い方の根っ子、気づいてんのか?」
「おう。剣筋が帝と似ちょる。あやつは武道の類はしちょらんらしい。多分妹か近しい親類じゃろ・・・」
「ほー、それは中々、そういやぁお前とヤチヨも戦い方なんか似てるよな」
「・・・ランナもそう思うんか」
「流石に気付いてたか」
「あいつと俺の動きが何故近いのか興味はある。こないだ聞けば良かったの」
戦い方だけで性別を割り出したり、よく使う得物を見抜いたり、関係性まで断定したり、もうヤダこの化け物共
「おっと、次からSETUNAのランカー勢がお相手だぁ!イロPどこまで粘るっ!」
「はっきり言って彼らは頭がイカれてる!さぁどこまでいけるかっ!次は現ランキング5位杖おじさん!」
杖おじさん
リアルでも初老、イギリスの老紳士。元軍人でさらに現MI6と言う噂あり。反射速度などは他に敵わないものの圧倒的な経験に物を言わす仕込み杖使い
〉うわでた杖おじ
〉でた!プレイヤーを見つけ次第狩りに来る暴力装置の群れだ
〉やべーやつらの見本市じゃん
オタ公と乙事照もノリノリで場を盛り上げる。ランカー達やイオリが居ると拡散され更に多くのギャラリーが集まっていた
「お、私ですね。倒せてしまったらすみません」
「えー、俺行きたかったのにー」
「一番杖は任せたぜ。おっさん!」
ベージュ仕立ての良いスーツを着た老紳士のようなアバター。木の杖を持ちイロと対する
そして観客席のイオリが口を開いた
「・・・かぐや、イロは勝てんど」
「え!?」
〉え?いろPかなり強いよな?
〉そこそこ強い相手瞬殺してたし
〉でもイオリが言ってっしなぁ
イオリの言葉に驚くかぐや。今までほぼ瞬殺してきているだけにイロの負け予報に反発する
「いやいやいや!彩葉強いよッ!」
「あの爺さん、多分マジの戦場上がりだぜ。噂じゃ現MI6っつー話もある」
「真面目な話をするとあの着ぐるみは当たり判定が大きく普段当たらないとこまで当たり判定がありますから」
「いろPがどんだけ強かろうが舐めプされて負ける程俺らは弱くねぇ」
血のような真っ赤な槍を肩に担いだランナがそう締める
ランカー勢による戦いの行方の予報は杖おじさんの勝ちで一択であった。彼らランカーにはランカーとしてのプライドがあるのだ
ステージ内では戦闘開始、杖おじさんが仕込み杖からレイピアを抜く。ランカー相手ともあり双剣を抜いたが使い手が上手い。攻撃をいなされて上手く攻めきれず大きなヒットボックスも相まりじりじりとHPが削られていく
イロも健闘していたがトドメとばかりに心臓を一突き
ワイヤーで絡め取ろうとするも鞘の方を囮にされて失敗している
完全に手玉に取られていた
「おーっと、彼相手なら中々の健闘!イロP倒れた!」
「ホッホッホ、やはり遣り手ですね。六割も持ってかれました」
「ごめん伊織、やられちゃった」
「よか。後は俺ん相手ぞ」
「あのジジイ相手なら良くやったほうだ。嬢ちゃん強えな。後で個人的に槍交えねぇか?」
「いやぁ、いろPさん流石、あの爺さんいきなりレイピア抜いてましたよ。たまに抜かないで勝つことあるのに」
「彩葉ぁ〜、大丈夫〜?」
「うん。流石ランカー・・・全力出したんだけどな」
「かぐやがよしよししてあげよー」
もの凄く悔しそうだ。それだけかぐやに入れ込んでいるということか?頭を撫でられてイロは少し機嫌を取り戻している
その傍らでイオリは思考を切り替えた。瞬き一つ。目の色が変わった。同時に彼のスマコンも通常状態の黄色から肉体動作リンク状態の青色に変わる
〉イオリのSETUNA、映像記録少ねえからこんだけの量は貴重だな
〉こいつ強いの?
〉SETUNAとRANSE最強ぞ
〉RANSEで運悪くマッチングしたら全員の首が飛ぶ災害扱いだよ
〉ツクヨミでイオリに並ぶのはガチヨ位じゃない?
「やっど」
「表情が出たかと思ったのですが、いつもの冷徹なイオリさんですね。いきましょうか」
杖を構え、伊織は薙刀を構えた。お互い距離は近い
そして、試合開始
薙刀を全身の間接を使った加速、まさに神速の一突き。この距離ならば帝ですら横への回避が精一杯
だが杖おじさんは逆に距離を詰めて伊織の喉を突こうとする。が薙刀の方がリーチが長い
突きが避けられるを察知し斬撃に切り替える
先に薙刀が杖おじの心臓ごと切り裂く。まさに刹那の決着
〉はっ?
〉ちょっと目を離したら決着してた
〉早っ
「おっとぉ!いきなりの決着ゥ!正直何も見えなかったぁ!」
「僕も何がなにかさっぱり!実況殺しにもほどがあるぅ!」
次も、またその次もランカーを蹴散らす。打刀で首を跳ね、斧で頭を殴打、鉈を囮に首をへし折った素手のインファイト中に喉笛を食い千切ったり
そんなのアバターの残骸が足元に転がる
襲来したランカーたちを文字通り食い散らかした
死の振り撒く様はまさに死を告げる黒い鳥
そして最後、現ランク2位、槍使い《ランナ》
ツクヨミでも現実でも師匠にして好敵手だ
「やっぱ強えな。けど、少し変わったか?」
「おう。分からんけど変わった。じゃっどん、この変化は悪く無か」
「あの嬢ちゃんたちに絆されたか。よし。思う存分殺り合おうぜ!」
「おう」
ランナは変哲のない血のような朱槍を、イオリは十文字槍を構える
開戦
刹那、互いの穂先がぶつかりあう
槍同士の高速の打ち合いに戦闘ボルテージはぐんぐん上がる
時に絡め取りを、時に横薙ぎ。穂先のフェイントで本命は石鎚
と言うのを高速で繰り返す
「うぉぉぉ!これは凄い!槍同士速い!」
「決着は一瞬だ!見逃すなぁ!?」
ランナが地面に槍を突き刺し勢いをつけた鋭い回し蹴りを放つ
イオリ、寸で回避、反撃に転じ石鎚で殴りつけ出来た隙で口の中に石鎚を突き立てた
決着である
「情け容赦を感じない!流石黒い鳥だぁ!イロP共々かぐやちゃんを守りきったぁ!」
「うっへぇ、規格外。改めて見ると僕こんな連中と戦ってたのか、コワスンギ」
〉いや怖っ!
〉半分決着見えなかった・・・
〉うっわぁ(ドン引き)
全てを斬り伏せたイオリがフィールドから転送されてくる
「もう終わりかの」
「うん。ありがと!イオリ」
「よか。久々に良き戦じゃった」
「伊織!すっごい!何かよく分かんないけどもの凄く強かった!」
「ちょっと怖い戦い方だけどね・・・イオリ、私からもありがとう。私だけじゃ何とも」
「俺が持ち込んだような火種ぞ」
「さあ!ここでお二方にお話を伺いましょうかぁ!」
オタ公がマイクを持って、イロに向けた
「いい迷惑だし、もうやんないでね!かぐや!」
「は~い」
「イオリさん!どうでした?」
「来るなら斬る。それだけぞ」
「ではかぐやちゃん!締めをどうぞっ!」
辛抱堪らないとかぐやが宣言した
「ムフフー彩葉も伊織もとーってもかっこよかった!テンションまだまだ上げて即興ミニライブ!やっちゃおう!」
「かぐやちゃん!俺縦笛イケるぜ」
「ギターいけます!」
「フルートならば心得がありますよ」
イオリ目当てだったランカー共が楽しげなかぐやに釣られて扱える楽器を取り出した。
「いいね!いいねぇ!皆やるよぉ?彩葉!メロディ頂戴!」
かぐやの即興ミニライブinSETUNAランカー共
得意とする曲調も文化圏も違う楽器たちが月から来たお転婆歌姫に美しい音色を献上する
やはりその中心にあるのはいろPのベース
かぐやが引っ張り、彩葉が付いていき、それに合わせるランカーの演奏
今宵の配信も大盛り上がり!ランカー共やそれを目当てに来た視聴者たちも纏めてかぐやは持ち前の魅力で虜にしていった
「流石だの。かぐや。そいに酒寄も悪い気はしてなさそうじゃ。良かったの」
イオリも笑ってライブを聞いている。その内乙事照にサイリウム持たされ、オタ公も中々揃うことはない十人十色の音色にテンションを上げていた
何かいつの間にかヤチヨも見物に来ていた
ちょうど良かったと伊織が声を掛ける
「どうした月見ヤチヨ」
「賑やかだし、皆楽しそうだなってついつい見に来ちゃいました」
「ほうか。確かに楽しそうじゃ・・・一つ聞いてよか?」
「なんだいなんだい?」
「ヤチヨはないで俺と戦い方がよく似とる?」
「うーん・・・私が長い間イオリを良く見てた
だからかな?」
「・・・ほうか」
そんな筈は無い。イオリはその違和感を感じたのはSETUNAを初めてすぐ。当時のランカーと戦っているのを見た時だ
トップをとってヤチヨ初めて戦った時にそれは確信に変わっている。何かを隠している
だが管理人相手に追及はしなかった
===配信終了後===
3曲やってライブ配信はこれにて終了。彩葉が伊織の部屋に来た。伊織も振ってた武具を片付けている。彩葉が一瞬ふらついたか?
「酒寄、大丈夫か?」
「平気、伊織こそ」
「俺は大丈夫ぞ。こん程度いつもの事じゃ・・・今日はもう何もせず休め」
「うん、分かった」
(目に見えて弱っとるの。いよいよ危ないかもしれん)
そして、伊織の恐れていたことが起こってしまった