(仮)気づいたら呪術師になってました。   作:黒い烏

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第一話

岩手の山奥

11月も終盤となれば、呼吸をするだけで肺が凍りつくほどに冷たく、鋭い。湿った草や土を踏み捨てながら、寒さに震えながら俺は暗闇を進む。

 

星の光がなければ数歩先も見渡せないほど、暗く茂った森の中。既に廃れ果て、首の皮一枚で繋がっているような神社の本殿の中に、俺は立っていた。

 

「見つけた。これが目的の呪霊だな。」

 

すぐ祓える。そう、呪術師としての判断をした。崩れてもおかしくない古く腐った木の軋みを踏み近づく。

 

(...加奈?)

 

ソレを見ていると妹を思い出した。脳裏にこびりついて離れない、幼い声。この世で唯一の家族。早く見つけてあげたいのに、どこにいるのか。

 

早く仕事を終わらせて、早く見つけてあげないと。寂しがりだったからあの子はどこかで泣いているだろう。

 

手持ちのサバイバルナイフに呪力を通し、目線をそれに戻す。

 

(...なぜ蛆が湧いている?)

 

一つの違和感が頭を過ぎる。

呪術に虫など湧くはずがない。肉体がないのだから。

 

蠢く肉塊。

濡れた肉に這い回る白い虫の音。

肉塊の周囲には、不規則に白い蒸気がぷしゅう、と噴き出ている。

 

ただの蠢きが、なぜか激しい苦痛に悶えているように感じた。頭が理解を拒む。見たくない。見たくないのに、視線が外せない。理解したくないのに、緑のプラスチックが蠢きからこぼれ落ちた。

それは、月の光で緑に反射するそれに見覚えがあった。

 

肉体がある。腐り蛆が湧いている。それの意味するところは...

 

 

目に見えるだけの模様が、こちらに視線を向けた気がした。その模様から一滴だけゆっくりとこぼれ落ちる。

 

ーーお兄ちゃん。

 

(...ああ、ここにいたのか。

分かっているよ。

いま、楽にしてあげるからね。)

 

呪いを解いてあげたところで、腐敗している肉体は戻らない。

指先の感覚がなくなるほど強く握りしめたナイフを振りかぶる。そしてーー

 

(躊躇うな)

 

呪力の中心に向かって、振り下ろした。

 

 

 

 

目の前に広がっているのは、ばらばらになった肉片だった。白い蒸気も消えている。蠢くことはもうない。強くなる雨が肉の破片にぱち、ぱちと音が鳴り、その音がやけに耳に残った。手に残るのは肉と骨を断つ感覚。指先の震えが止まらない。泥の中に埋もれかけている、プラスチックのかけらを拾う。四葉の、俺が妹に買ってあげたキーホルダーによく似たもの。

 

半壊した本殿は天井はもう役目を果たしていなかった。強くなる雨をそのまま受け入れる。血で濡れた手は、雨で何事もなかったかのように血が落ちる。

抱きしめてあげる腕も、頭を撫でてやる髪も、もうない。

 

これは、呪いだ。




白い蒸気の謎はお分かりでしょうか。

盛岡駅前掲示板ポスター抜粋
【行方不明者に関する情報提供のお願い】
盛岡署、小学2年生の女児が行方不明。事件の可能性も。
岩手県警盛岡署は〇日、盛岡市立〇〇小学校に通う2年生のーー加奈(かな)さん(8)が、下校途中に行方不明になったと発表した。
署の調べによると、加奈さんは〇日午後3時ごろ、同校から集団下校で出発。その後、自宅近くの交差点で友人と別れたのを最後に行方がわからなくなっている。
最後の目撃情報は、小学校から約500メートル離れたゲームセンター「〇〇〇〇」付近で、一人で歩いている姿が防犯カメラに映っていた。
• 加奈さんの特徴:
• 身長125センチ前後、痩せ型
• 服装:ピンク色のジャンパー、紺色のスカート
• 所持品:赤色のランドセル、緑のクローバーのキーホルダー
付近で不審な車両や人物を見かけた方は、盛岡署(019-XXX-XXXX)まで情報提供をお願いしたい。
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