英雄のいない世界で   作:天叢雲剣スサノヲ

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 今後の参考にして頑張っていきたいと思います!


凡人疾走

 地面を蹴り、走る。

 

 『ギイイィ!!』

 

 すれ違いざまに刃を振りぬく。

 

 背後に置き去りにしたモンスターが倒れる。巨大な単眼をもった蛙のモンスターが舌を垂らして倒れている。

 

 フロッグ・シューター。長い舌で遠距離から攻撃してくるモンスターだ。

 

 

 ぼんやりとその死体を眺めた後、また進みだす。

 

 疲労はたまっているが無視する。ただひたすらにモンスターを探して彷徨う。

 

 

 いつもの探索とは違い、静まり返った洞窟内。人の気配などするはずもなく。

 

 「……。」

 

 おぼつかない足取りで進みながら自分の身体を見る。

 

 防具はなく、武器はナイフのみ。おかげであちこちから血が出ている。

 

 (ボロボロだな…。耐久の上りに期待できそうだ……。)

 

 どこか他人事のようにそんなことを思い浮かべながら足を動かし続けた。

 

 

 酒場から飛び出し、走り続けてダンジョンに飛び込んだ。ただただモンスターを求めて彷徨い走った。彼のようになりたくて。

 

 「…あ、ここ……どこだ?」

 

 モンスターとの遭遇が途切れ、頭の動きが戻りかけてきた。

 

 周囲を見渡すが、いつも見ている青色ではなく、淡い緑色になっている。

 

 (……たぶん、6階層……。)

 

 確証はないが、降りてきた回数を数えて結論を出す。

 

 「はっ…‥はっ……。」

 

 息が乱れている。飛び出してからどれほど時間がたったかはわからない。

 

 それでも、まだ標的を求めてしまう。これでは足りないと、もっと戦わなければならないと心が叫んでいるようで。

 

 その叫びに任せて歩き続けて、たどり着いたのは部屋のような広い空間。この空間にほかの出入り口はなく、今立っているここが唯一の出入り口らしい。

 

 「あ、かえ、らないと……。」

 

 足を後ろに向けた瞬間、ビキリとなにかひびが入るような音が聞こえた。

 

 その音の発生源を探る。と、薄緑色の壁から音が出ているのが分かった。

 

 「まさか……。」

 

 壁が、破れて黒い何かが落ちてきた。

 

 『……!』

 

 大きさ160ほどの、墨汁か黒いペンキがそのまま人型になったような。

 

 「ウォーシャドウ……。」

 

 どしゃり、と後ろから聞こえた。振り向けばそこにもう一体のウォーシャドウ。

 

 挟み撃ち。逃げ場はなし。勝算、低い。

 

 生まれ落ちたウォーシャドウは静かに起き上がり、臨戦態勢をとる。獲物は、俺。

 

 「……すぅ…。」

 

 息を吸ってナイフを構える。

 

 もはや斬新な自殺の領域だろう。だが、叫んでる。これを越えられないならお前には無理だと…。

 

 俺は、無謀な戦いを始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォーシャドウ。細長い腕に、三本の指を持つモンスター。指はナイフの形状で鋭利であり、コボルトなどとは比較にならない速度で接近して攻撃してくる。

 

 戦闘力はこの階層随一だという。新米殺しの異名を持つ相手。

 

 

 事実、俺では歯が立たない。

 

 「っ!」

 

 こちらから攻めることができず、一方的に傷を負う。

 

 攻撃自体は単調、なんだろうが速度と威力がすさまじく、今の俺で反応が追い付かず何度も傷をもらう。

 

 単純に位置も悪い。前後を挟まれているため、奴の細長い腕の所為で前後左右からの攻撃が来る。リーチでそもそも負けている。

 

 単純に強い。そしてそれ以上に、俺が弱い……。

 

 

 「ぎっ!!」

 

 一撃一撃が俺にとってまともに食らえば致命傷。体を回転させ凌いでいるが傷は増える一方だった。

 

 まずい、俺は飛躍ともいえる成長をしていない。打開の手段が、ない。

 

 (もう、終わるのか……?)

 

 それは、だめだ……。

 

 「っ、ああああああ!!」

 

 前のウォーシャドウに突っ込む。奴の爪が横腹を裂く。

 

 「ぐっ……。」

 

 だが、この距離ならナイフが届く!

 

 「おらぁあああ!!」

 

 奴の顔にナイフを突き刺し捻る。

 

 短く痙攣して、ガクリと膝を折った。

 

 振り向き構えようとしたときすでにもう一体のウォーシャドウは接近してきていた。

 

 咄嗟にナイフを突き出すが、腕を裂かれナイフを落としてしまう。

 

 「痛……、こんなろぉおおおお!!」

 

 左手を抜き手の形にして敵の顔面へ振りぬく。

 

 『……!?』

 

 顔の鏡面を貫き、相手は息絶えた。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ…。」

 

 まずい、血を流しすぎた。戻らないと……。

 

 ふらつく体を何とか動かし、部屋の出口へと向かう。

 

 

 ビキリ

 

 左右の壁がひび割れ、あっという間に都合4匹のウォーシャドウが生まれた。

 

 「……、まじ、かよ……。」

 

 さらにそこへ、唸り声をあげてほかのモンスターまでやって来た。

 

 まさに、絶体絶命だ。

 

 おもむろに、先ほど倒したウォーシャドウの亡骸からドロップアイテムである指刃をとり、左手に装備する。持ち手もないため、握ると手が切れて血が出てきた。

 

 だが、えり好みできる状況でもなし。やるしかない。ここで死ぬわけにはいかない。

 

 

 「やってやる、やってやるさ……!」

 

 左右の武器を構え、眼前のモンスターの群れへと突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……遅い。」

 

 時計の針の音が響く部屋の中で、ヘスティアは右往左往していた。

 

 昨夜バイトの打ち上げから戻ると、部屋の中にハヤテはいなかった。まだ食事の途中かと思い、シャワーを浴びてベッドで待つが、11時、12時といくら待っても帰ってこない。

 

 もはや居ても立っても居られないと扉へと駆け寄る。

 

 「へぶっ!?」

 

 まるで見計らったかのようなタイミングで扉が開き、正面衝突する。

 

 「あ……ヘスティア様、すみません……。」

 

 扉に強打されもだえていたヘスティアだが、彼の声が聞こえると弾かれるように顔を上げる。

 

 「ハヤテ君!?」

 

 そこにいたのは確かにハヤテだった。しかし、赤色と褐色にまみれており、血と土に汚れているのが見て取れる。顔は憔悴しきっている。

 

 上半身は至福は目を覆いたくなるほど損傷しており、もはやぼろ雑巾の状態だ。見える肌は青くはれ上がっているところもあれば、切り傷のようなものも見える。

 

 下半身は泥に待魅せたパンツ、そして右ひざが鋭い何かに切り裂かれたような裂傷を負っている。黒く汚れすでに血が固まりかけている。満身創痍の重症である。

 

 「どうしたんだい、その怪我は!?まさか、誰かに襲われたんじゃあ!?」

 

 「い、いえ、そういうことはなかったです。」

 

 「じゃあどうして!?」

 

 「……ダンジョンに、行ってました。」

 

 あまりのことにヘスティアは唖然とした。

 

 「ばっ、馬鹿!何を考えてるんだよ!?そんな恰好のままでダンジョンに行くなんて、しかも一晩中!!」

 

 「……申し訳ありません。」

 

 今、ハヤテは防具をつけていない。ので、ダンジョンのモンスターの攻撃はほぼ全て致命傷になる。体に残る傷がそれを示していた。

 

 「……どうしてこんな無茶をしたんだい?そんな自暴自棄、君らしくないよ。」

 

 「……。」

 

 今の彼のあり様、そして、どこか迷子のような暗い雰囲気にしかりつける気も失せたヘスティアは優しい声で語りかける。

 

 しかし、ハヤテは口を開こうとしない。言えるはずもなかった。この世界のことを知っているとは。外に漏れれば神のおもちゃになることはもちろん、ヘスティアに迷惑がかかる。

 

 「…はぁ、わかった。何も聞かないよ。君は一度決めたら変えないだろうからね。」

 

 「すみません。」

 

 「なに、いいさ。じゃあ、先にシャワーを浴びておいで。血はもう止まってるみたいだけど、汚れを落とさないと。そのあとすぐに治療しよう。」

 

 「はい。」

 

 やっと笑ったハヤテは、どこか泣きそうな顔をしながら笑っていた。ヘスティアは内心痛みを感じながら苦笑する。

 

 道を開けてやると、おぼつかない足取りで歩き出す。傷が響いているのと疲労が限界に達しているのだろう。

 

 ヘスティアは精一杯背伸びをして肩を貸す。

 

 「す、すみません…。」

 

 「謝ってばっかりだね、今日の君は。悪いと思っているなら反省してくれよ?」

 

 「申し訳ありません……。」

 

 「ほら、また。」

 

 二人はゆっくりとシャワー室へ歩いていった。

 

 「あ、そうだ。ハヤテ君は今日ベッドで寝ること。いいね?」

 

 「いいんですか?」

 

 「当たり前だろう?重症な君をソファに放り出すなんてボクは絶対にしないぜ?」

 

 ふと、言い終わった後にいたずらを思いついた。

 

 「そのかわり、ボクも同じベッドで寝かせてもらおうかな。君を探して探して、もうへとへとなんだ。まさか断ったりしないよねぇ?」

 

 「わかりました。一緒に寝ましょう。」

 

 「なぬっ!?」

 

 ハヤテは頭がもう動いてないのか冗談を真に受けてしまった。

 

 火の玉ストレートをフルスイングで打ち返されたヘスティアは絶句した。

 

 くそぉ、いつもは鈍感無自覚男の子の癖にぃ…!と、歯を噛んでいたヘスティアは顔を紅潮させてこの先の展開に胸を高鳴らせた。

 

 抱き着く。胸の中でぐりぐりして体温を堪能する。

 

 「ヘスティア様……。」

 

 「にゃ、なんだい?」

 

 ぽつりとした声に、声を裏返しながら返事をする。

 

 すわ、邪念を見抜かれたかと。

 

 「俺、強くなります……。」

 

 「!」

 

 はっと彼の顔を見る。その眼は、ここではなく遠くの何かを見つめていた。

 

 ヘスティアはややあって、顔を伏せる。

 

 「うん。」

 

 真摯に受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は丸1日睡眠と休養に費やし、翌日の朝8時頃、ステイタスを更新する。

 

 

 

 

 祐樹 ハヤテ

 

 LV 1

 

 力:I83→H103 耐久:I96→H121 器用:H150→160 敏捷:H171→189 魔力:I0→0

 

 魔法

 

 

 

 スキル

 【偶像崇拝(メモリアフレーゼ)

  ・獲得経験値の増大

  ・限界の超克

  ・モンスターとの遭遇率補正

  ・試練の到来

  ・試練超克時、経験値獲得大

 

 

 

 

 

 

 

 ヘスティアは目を見張った。成長促進系のスキル。間違いなく希少スキル。ほかの神にバレればまずいことになる。

 

 (隠す……?でも、これは…。)

 

 本来なら秘匿すべきかもしれない。だが、『試練の到来』。この一文がそれをためらわせる。さらにはモンスターの遭遇率が上がるというのだ。知らずにダンジョンに潜ったらえらい目に遭うかもしれない。

 

 結果、ヘスティアは伝えることにした。

 

 

 「はい。これが君のステイタスだ。」

 

 ハヤテは受け取ったステイタスに眼を通す。

 

 「偶像崇拝……、なるほどね。」

 

 本人はどこか納得したような反応だった。

 

 「このスキル、なにか心当たりがあるのかい?」

 

 「……申し訳ありません。心当たりはあります。ですが、それを話すことはできません。」

 

 頭を下げて謝罪するハヤテ。

 

 「……わかった。本当は話してほしいけど、無理には聞けないからね。でもね。」

 

 ハヤテの両頬に手を添えて顔を合わせる。

 

 「どうか、ボクを独りにしないでおくれ。君が死んでしまったら、ボクはとても悲しい。」

 

 「…はい。必ず、何があろうと帰ってきます。貴女のもとに。」

 

 ハヤテはヘスティアの眼を見て誓う。

 

 「……え、えっと、それでなんだけどね!このスキルの効果について考えようか!!」

 

 顔を合わせていると恥ずかしくなったのか、ヘスティアは話題転換をする。

 

 「個人的に経験値の増大はありがたいですが、この試練の到来というのがわかりません。」

 

 「そうだねぇ、おそらく試練は自分より強いモンスターが出たり、もしくはたくさんのモンスターと戦うことになったりって感じだと思う。」

 

 経験値の獲得増大と、限界の突破。この2つを見ればとてもいいスキルなのだ。が、他の効果があまりにも物騒だった。

 

 「でも、ランクアップするには偉業の達成。つまりは試練のようなものを乗り越える必要があるんですよね。」

 

 「ああ、そうだね。そう考えるとランクアップに必要な相手が来る…ということなのかな。」

 

 「いくら考えても、実際に体感してみないとわかりませんね。」

 

 その後、二人の間でこのスキルを決して口外しないことを取り決めた。

 

 

 「そういえば、今日はダンジョンに行くのかい?」

 

 「いえ、今日は武器を探しに行こうかと思います。」

 

 (戦ってきてわかった。ナイフでは俺に合わない。片手直剣当たりのリーチが欲しい。)

 

 ウォーシャドウと戦って、リーチの不足と威力不足を痛感したハヤテは、武器の変更を決めていた。

 

 「そっか。何を使うんだい?」

 

 「片手剣を使おうかと。ナイフより威力もリーチもありますから。」

 

 そもそも、ハヤテがナイフを使っていたのは、ベルへの意識もあるが、純粋に一番安かったが故だ。

 

 だが、ここから先は自分に合った武器を使わねば危ない。

 

 「では、ヘスティア様。行ってきます。」

 

 「いってらっしゃい、ハヤテ君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、と。ヘファイストスファミリアに行ってみるか。」

 

 たしか、バベルの8階が駆け出し用の店だったはず。

 

 「いい出会いがあるといいが……。」

 

 こればっかりは行ってみるしかないか。

 

 どこかワクワクしながら、俺は足を向けるのだった。

 




 はい、こうして彼にもスキルが生えました。ただしベル君のスキルとは違いリスクもありますが、本人的にはステイタスを上げるためにも戦わないといけないのでありがたがっていたりします。

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