「お、今日はやってんな。……ん、そこの嬢ちゃんは?」
「い、いらっしゃいませ!」
店内を軽く見渡した男性と目が合って、クィーリアは慌てて来客に頭を下げる。
「そう畏まらなくていいぞ。あの二人は客じゃない」
「お客様じゃないって、どういう……?」
「おいおい、ひっでえ言いようじゃねえか」
「とびきりの上客の間違いだろう?」
クィーリアの横から顔を出したゼノンの言葉に、青髪の男性がからかうような声を出し、ため息交じりに金髪の女性が呟いた。軽口を叩き合うくらいには顔見知りのようだが、だからこそ、クィーリアはお互いの関係が今ひとつ掴み切れないでいた。
ましてや、彼らはゼノンの店の上客を自称している。武器を持って店に入るような二人組が、花屋で一体何を買っていくというのだろう。
クィーリアがそんな疑問を胸に二人の顔を見つめていると、その視線に気付いた青髪の男性が彼女に指を差す。
「それでゼノン、この嬢ちゃんは?」
「あ、えと、クィーリアといいます」
指摘されて、自己紹介と共にもう一度クィーリアは頭を下げる。
その隣から、ゼノンがクィーリアについての嘘の経歴を口にした。
「出稼ぎのためにこっちの地方に来たんだが、その途中で魔物に襲われたらしい。怪我も酷く、行く当てもないらしいから、しばらくはうちで預かることにした」
「ここ数日、急に店を休みにしていたのも、その子に付き添っていたからか」
「まあ、大体そんなところだ」
地方出身の若者が、出稼ぎのために都市部を訪れることは、この国ではそう珍しいことではないらしい。女性はゼノンの説明に納得したようで、疑う様子もなくなるほどとうなずいた。
それに、クィーリアが人間領に来た理由以外、ゼノンの言葉に嘘はない。
だからこそ、彼の嘘は見破られにくい。
だが、彼の吐いた嘘はあまりに完璧すぎた。
「……そっか。そいつは災難だったな」
そう言って、男はふとクィーリアの頭に手を伸ばす。
それに反応したクィーリアが、咄嗟に飛び退くようにしてゼノンの背後に隠れる。
そして、その反応は失敗だったと直後に悟った。
きっと彼は怖い思いをしたクィーリアの頭を撫でようとしたのだろう。いくら帽子で見た目は隠しているとはいえ、直接触られてしまえばその下の耳の存在に気付かれる。耳の存在に気付かれれば、クィーリアが亜人であることが芋づる式にバレてしまう。
だからといって、クィーリアの反応は過剰だった。これではまるで、帽子の下に触れられたくないものがあると公言しているようなものだ。
触れるものがなくなった右手が宙をかき、男性がクィーリアの顔を不思議そうに見つめている。不信感、というほどではないが、明らかにクィーリアの反応に違和感を抱いているのを感じる。
頭に触れられかけた時以上に冷や汗が噴き出る。言い訳もうまい誤魔化し方も思いつかない。
心臓が早鐘を打つ。その音が相手にも聞こえてしまいそうだ。
ここで、こんなところで、自分が亜人だとバレる訳にはいかないというのに――。
「初対面の女性の頭を、そう気安く触るものじゃないだろ」
内心パニックになっていたクィーリアを、ゼノンが庇うように背に隠す。
表情はいつもと変わらないまま、少しだけ呆れたような口調で言った。
「そうだぞ。私達はまた自己紹介すら済んでいないんだ。それを貴様、指を差すわ気安く頭を撫でようとするわ、失礼にもほどがあるだろうが」
盾の女性もゼノンの言葉に同意し、男性に苦言を呈する。
二人に指摘され、男性は戸惑いの表情を見せながら右手を下ろした。
「あ、ああ、悪い。驚かせちまってたか?」
「い、いえ、私も大げさに反応してしまってすみません」
申し訳なさそうに頬をかく男性に、クィーリアはゼノンの背に隠れながらぺこりと頭を下げる。