何事もなくことが納まり、クィーリアはほっと胸を撫で下ろした。すると、金髪の女性が一歩前に出て口を開く。
「さて、こちらの自己紹介がまだだったな。私の名前はカラルメイカ。この地方の冒険者ギルドの部隊長をやっている。気軽にカラルとでも呼んでくれ」
そう言ってカラルは、そっとクィーリアに手を伸ばした。
彼女が何を求めているのかはすぐに感づいた。クィーリアもおずおずと右手を伸ばし、カラルの手を取って握手を交わす。
「そして、こっちの配慮が足りない男が」
「だから、悪かったって」
カラルの自己紹介が終わると、今度は隣に立っていた男性が頭を掻きながら前に出る。
表情からして、先ほどの行動は彼なりに反省しているらしい。
「俺の名前はルード。こいつと同じく冒険者ギルドに所属していて、今は主に教官として新人育成を担当してる」
そう言って、ルードもカラル同様に手を伸ばす。今度は避ける理由もないので、クィーリアもごく自然に手を伸ばして同様に悪手を交わした。
二人の自己紹介が終わった頃を見計らい、ゼノンが口を開く。
「……で、今日は何の用だ? 薬草の納品はまだ先だろう?」
「そこに気が付いているのなら、もう私達が来た理由も察しているだろうに」
カラルがため息ながらにそう言うと、一枚の羊皮紙を懐から取り出して、ゼノンに手渡した。
手渡された羊皮紙の内容を黙読するゼノンの隣で、クィーリアも後ろからその内容を覗き込んだ。用紙の一番上に太字で書かれた題字が、思わず口からこぼれ出る。
「メルクリア森林における魔物増加に対する調査依頼?」
依頼内容を読み上げたクィーリアに反応してカラルが頷き返し、内容を口にし始める。
「この街とロロミラ山脈の間に位置するメルクリア森林で、最近魔物が増加傾向にあるらしい。中には通常の個体よりも強力な魔物がいるという報告もあるから、その調査と、可能であれば討伐の依頼が出されていたんだが……」
「誰も依頼を受けなかった、だろ?」
言葉を引き継いだゼノンの言葉に、カラルは首をすくめた。どうやらゼノンの言う通りらしい。
「恥ずかしながら、別件で多数の冒険者が出払っていて、この案件を任せられる人間がギルドに残っていないんだ」
「だから、お前のところに依頼書を持ってきたってわけ」
カラルメイカの言葉をルードが引き継ぐ。これで二人がゼノンの花屋を訪ねてきた理由は分かった。だが、それでクィーリアの疑問が尽きたわけではない。
「でも、なんでその依頼がゼノンのところに流れてくるの? ゼノンはただの花屋でしょう?」
そんな彼女の質問に答えたのはゼノンだった。
「昔、花屋の開店資金を稼ぐために、この二人同様ギルドに所属していた時期があったんだ」
「そうなの?」
聞き返すクィーリアに、ゼノンは頷いて肯定の意を示す。
戦闘経験の豊富さと冷静な判断力。狼の魔物との戦いで見せた、とても実践に出なければ培われないような能力が彼に備わっていたのはそれが理由なのだろう。
「花屋を開いてからは実質退職していたんだが、一応冒険者としての籍だけは残してあるからな。こうして余った依頼があれば、俺の元に流れてくることがあるんだ」
「俺らとゼノンは訓練所時代からの同期だったんだ。ゼノンがまだギルドに所属していた頃は、俺達三人でよく冒険に行ってたもんさ」
「もう五年も前の話だがな」
「そう思うと早いものだな。もうあの頃が懐かしく思える」
「そうだったんだ。……その時のゼノンってどんなだったの?」
思い出話に花が咲きそうになったところで、ふとクィーリアの口から質問が漏れ出た。人間領の調査とは全く関係ない、ただの興味からくるものだった。
質問に答えていたルードは一度カラルと目を合わせる。
そして二人して苦笑してから、クィーリアに向き直って言った。
「変な奴だったぜ」
「変な奴だったな」
「それはなんとなく想像できるけれど」
「お前らな……」