当人の目の前で繰り広げられる軽口に、ゼノンがやれやれと首を振った。とはいえ彼自身、周りとの考え方の違いに自覚はあるので、それ以上は何も言えないでいる。
それをいいことに、カラルメイカとルードは彼について好き勝手言い始めた。
「花屋の開店資金のためにギルドに入り、十分な金が集まったら辞めるつもりだと公言するような男だったからな。周りからは奇異の目で見られていたさ」
「カラルなんて、最初こいつのこと嫌ってたんだぜ」
「昔の話だろう。忘れてくれ」
「ゼノンって、その時から強かったの?」
「訓練所での最終成績は確か五位か六位くらいだったか? 俺達の同期は十四人だったから、せいぜい中の上くらいじゃねえか?」
「順位について語ってもあまり意味ないだろう。ゼノンの術式は戦闘向きじゃないし、そもそも、ゼノンの強みは成績で計れるところにない」
「さすが、最終成績どころか、最初からずっと一位であり続けた奴が言うことは違うな」
「黙れ三位」
それからやれあいつは今どうしているんだとか、やれあの頃の冒険は楽しかったとか、ひとしきり思い出話を語り合ったところで、カラルメイカはふと話題を戻した。
「それでゼノン、この依頼、受けてくれるか?」
ゼノンが手に持った羊皮紙を指さすカラルメイカに、ゼノンは少しだけ考え込んで、言った。
「……ああ、受ける。準備に時間がかかるから、二日後に街を出ることにする」
「助かるよ」
ゼノンの返答に頷いて、カラルメイカはふと思い出したように話を続けた。
「それとゼノン、終業後に時間取れるか? 少し三人だけで話がしたい」
「ああ、構わないが、ギルドに寄ればいいか?」
「いや、その時はまたこっちから店に寄るよ。それじゃ、私達は仕事に戻るから、後でな」
そう言って、カラルメイカとルードは店を出た。
先ほどまで話し声で賑やかだった店内はすっかり静まり返り、妙な寂しさすら感じられる。
そんな中、クィーリアがゼノンに声をかけた。
「ゼノン、ちょっといい?」
「どうした?」
「カラルから受けた依頼だけど、私もついてっていい?」
ゼノンの持つ依頼書を指さし、そう口にするクィーリアの表情は真剣そのものだった。
依頼内容は現在増加傾向にあるという魔物の調査。及び可能な限りの討伐。
それに参加したいというのはどういうことか、理由を無言で促すゼノンに、クィーリアが語り始める。
「ほら、私は今人間領の潜入調査に来ているわけでしょ? その人間領で異変が起きているというのなら、それについても調べておいて損はないと思うの。もしかしたら今回の異変は、私達亜人にとっても重要なものかもしれないじゃない」
「……なるほど、な」
クィーリアの言い分はもっともらしいが、彼女はおそらく別の思惑があって提案をしている。そうゼノンは直感してため息を吐いた。
「……だめだな。クィーリアは連れて行けない」
「そんな! なんで!?」
「おおかた本来行うはずだった諜報活動がままならない現状に、焦りでもしているだけだろう? 魔物に襲われた時の怪我もまだ完治していないのに、依頼中に戦闘が起きても問題ないと言い切れるのか?」
「そ、それはもう、傷も治りかけてるし、体調だって……」
「ただ街で暮らすのとは全く違う環境に身を置きに行くんだぞ。そんなものが当てになるか。今の自分の状態も、今どれだけ動けるかも把握していない奴を冒険に連れ出せない」
きっぱりと言い切ったゼノンに、クィーリアは何も言い返せなくなって、俯いて黙り込むしかできなくなった。
今朝、ゼノンの家で腕をぐるりと回した時に、傷に障って顔をしかめたことを思い出す。
図星だった。正論が過ぎた。
ただただ正しさに圧し潰されたクィーリアに、反論の余地などもう残されていなかった。
「……明日、冒険前の買い出しが終わったら、模擬戦をやるぞ」
「え?」
一瞬、ため息交じりに呟いた彼の言葉が理解できず、ぱっとクィーリアは頭を上げる。
その視線の先で、ゼノンが頭をかきながら答えた。
「完治していないとはいえ、傷はもうほぼ治りかけだ。どこまで動けるかについても、まだちゃんと確認したわけじゃない。明日それを見て、その上でクィーリアを連れて行くかどうか判断する」
頭の中で彼の言葉を反芻し、その内容をかみ砕く。
それが終わると、今度は彼が何を思ってその発言をしたか、その理由を考え始めた。
あくまで予想ではあるが、答えはすぐに思い浮かんだ。
ゼノンはクィーリアを冒険に連れ出すことに反対している。だが、それでもできる限り彼女の意見は通そうと配慮している。
配慮してくれている。
それを理解したクィーリアの表情が、みるみる上気していった。
「――お願いします!」