血を媒介に精製されたインクで術印を描き、術式の属性を決定する。
そして、口に出して宣言を行いながら術印を消費することで術式を発動し、現実に影響を与える。
人間が魔物と対峙するために培ってきた術式という技術。ゼノンは主に、実在する花を強化された形で再現する術式を多用した。
ゼノンの宣言と同時に生み出され伸びていく無数の茨は、這うようにして広範囲に広がっていき、地面はおろか木々にも絡みついていく。
その様子を隠れてみていたクィーリアは立ち止まり、ゼノンの様子を窺った。組手が始まってから一歩も動いていない彼の狙いを慎重に読む。
あの冷静なゼノンのことだ。ただ闇雲に茨を伸ばしているだけなはずがないだろう。おそらく、彼は茨を使ってクィーリアの居場所を探ろうとしているのだ。
となると、あの茨には触れない方がいいだろう。狼の魔物との戦闘で見たが、あの茨に絡み取られてしまえば、クィーリアに脱出する術はない。
ゼノンの茨は現在進行形でその範囲を広げている。もたもたしていると、今度は近接以外の攻撃手段を持たないクィーリアが不利になっていく。
だからといって、焦って飛び出してはそれこそゼノンの思うつぼだろう。
幸いクィーリアの気配は完全に消えている。仕掛けるタイミングも、不意を突く優位性もクィーリアが握っている。
とん、と木を蹴って次の木へと飛び移る。蹴りだす音も着地音も消し去って、クィーリアはゼノンの真後ろ、彼の死角へとたどり着いた。
能力で息をひそめ、再度落ち着いて彼と茨の動向を確認する。
茨は地面を這うように広がり、木々に絡みついて上方へと昇っていく。もはや地面は足の踏み場などないほどに茨で埋め尽くされており、やがては周辺の木々すらも茨で覆い尽くしてしまいかねない。
さらにゼノンは追加で新しい術式を一つ展開したようで、彼の隣には見慣れない植物が増えていた。先端の穂のような部分から分泌された透明な蜜のような液体を纏っており、それがどんな効果をもたらすのかはよく分からない。
だが、攻略の糸口は掴んだ。
茨は地面や木々に絡みつくものの、何もない空間にまでは伸びていない。
蜜を出す植物もゼノンの周りにあるだけで、少なくとも近づかなければ影響を受けるようなことはない。生え方もまばらで、クィーリアの奇襲を邪魔するほどの数はない。
茨に触れないよう木々の隙間を縫って跳んで移動し、背後からゼノンの元へと一息に飛び移り、腰の木の枝を彼の首に突き付ける。
そうと決まれば後は実行に移すのみ。
音は消したまま、クィーリアは静かに木の枝を蹴った――。