「《花》の術式―
「!?」
確かに死角から飛び掛かったはずだった。
音も気配も、察知されるはずがなかった。
それなのに、ゼノンは背後から飛び掛かるクィーリアの方に振り返り、茨の網を地面から生やしてクィーリアの行く手を阻む。
空中で身動きの取れないクィーリアはそのまま茨の網に飛び込んだ。そのまま手足を縛られ、あっという間に先日の狼の魔物同様宙づりにされてしまう。
「《花》の術式―
宣言とともにゼノンの手に大太刀のような笹の葉が突如生み出され、クィーリアの首筋にあてがわれる。
「続けるか?」
「……いや、これは私の負けね。降参よ」
クィーリアは木の枝を放り出し、空になった手をひらひらと降った。
それを見て、ゼノンはクィーリアを解放した。急に手足を解かれたクィーリアがしりもちをつく。
「確かにクィーリアの術式はこういう森の中のような、遮蔽物の多い場所での戦闘はうってつけのものだ。ただ、視覚と聴覚以外の感覚を用いた索敵手段がある相手には、どうしても効果が薄くなる」
嗅覚の優れた狼の魔物に、クィーリアが太刀打ちできなかった理由がそれだ。それはクィーリアも自覚している。
「でも、ゼノンはそういう索敵手段があるわけじゃないでしょう? どうして私の奇襲に対応できたの?」
初手でゼノンの視界から外れた時点で、ゼノンはクィーリアの居場所を見失っていたはずだ。それ以降も気配を消し続けていたのだから、本来ならばゼノンはクィーリアを捉えることはできないはずだった。
今回の模擬戦で、ゼノンが特殊な感覚器官を使った索敵を行った様子はない。
彼の茨はしっかりと躱している。自分から居場所を知らせるようなことはしていない。ならばどうして、ゼノンはクィーリアの攻撃を把握できたのか。
「まず大前提として、クィーリアは茨を展開した意図を勘違いしている」
「どういうこと?」
「クィーリアはこれ見よがしに展開された茨を警戒したんだろう? そうなれば、移動も茨のない場所を通ろうとするはずだ。奇襲の成功率を上げるために、俺の死角を突くことも含めて考えれば、俺のところまでたどり着くためのルートは想像以上に限られてくる」
「じゃあ、あの茨は私の居場所を探ろうとしていたんじゃなく、私の行動を誘導するためのものだった、ってこと?」
クィーリアの言葉に、「読み通りに動いてくれる前提だがな」とゼノンは頷いた。
一応、模擬戦中にクィーリアが思った通り、茨に直接触れてしまえば居場所を知られてしまうため、彼女の読みも間違いではなかったらしいのだが。
「でも、それって死角からの攻撃に対応できる理由にはなってないじゃない。まさか、茨に目があるわけじゃないでしょう?」
「そうだな。そこはこいつを使って見張っていた」
そう言ってゼノンは傍らに生えていた、透明な蜜を纏う植物を指でつついた。