つついた指先に粘り気たっぷりの蜜がくっつき、離れていく指との間に糸を引いていく。
「普段は粘液を纏わりつかせて相手の動きを鈍らせるのに使っているんだが、今回はその粘液が透明な液体だということを利用した。よく見てみろ」
ゼノンに促されるまま、クィーリアは目を凝らして粘液を見つめた。
「……あっ!」
ゼノンの言わんとしていることに気付いたのはすぐだった。
その植物の粘液に、先ほどまでクィーリアがいた場所がうっすらと映し出されている。
つまり、ゼノンの取った作戦はこうだ。
クィーリアの移動ルートを制限し、見張る位置を絞る。
そうしてクィーリアが攻勢に出たタイミングに合わせて反撃を行い、拘束して降参を促す。
まんまと嵌められたクィーリアは、思いっきりため息を吐きながらごろりとその場に仰向けに倒れ込んだ。
「……やっぱだめなんだな。私って」
悔しさに、諦観に、あれこれ詰まった感情を隠そうともせずに言葉に滲ませた。
「そうか? 俺はそう悪い内容でもなかったと思うが」
「一方的に勝っておいて、そういうとぼけ方されるのは腹立つわね」
「本心なんだがな」
正直なところ、ゼノンの言葉が本心かどうかなど、クィーリアにとってはどうでもよかった。自分の能力を最も活かしきれる環境で、彼女の能力を最も活かしきれる形で行った模擬戦で、ゼノンに完膚なきまでに敗北した。
瘴気に包まれ、日々魔物と戦い続ける亜人にとって、戦闘能力は非常に重要だ。
そして、クィーリアに戦闘の才能はなかった。生まれついての能力は戦闘に貢献するものではなく、今以上の伸びしろも見込めない。
その事実をまだ認めたくなくて、これまでの努力の意味を無くしたくなくてやってきた人間領で、彼女はまた現実を突きつけられた。
「……今日は手合わせありがと。明日は家で待ってるから」
不貞腐れて、ごろりと転がってクィーリアがゼノンに背を向ける。
「何言ってんだ? お前も行くんだろ?」
「え?」
そんな彼女の背にかけられたゼノンの言葉に、クィーリアががばっと起き上がった。
たった今耳にした彼のセリフが信じられず、素っ頓狂な声で聴き返す。
「だって、私ゼノンに負けたんだよ?」
「ああ、負けたな」
「じゃあ、どうして?」
「そもそもこの手合わせは、クィーリアがどれだけ動けるかを把握するのが目的だろ? 冒険するのに問題ないことが分かったんなら、断る理由はない」
ゼノンの言葉に、クィーリアの目が輝き始める。
「ほら、冒険の準備に、打ち合わせもせにゃならん。お互いの術式を把握しておく必要もあるから、これから忙しくなるぞ」
「う、うん!」
家に戻るゼノンを、クィーリアが慌てて追いかけた。