あっさりと出てきたゼノンの言葉に、クィーリアがゆっくりと顔を上げる。不思議そうな顔をして見つめてくる彼女に、ゼノンは続けて言葉を吐いた。
「持ちうる能力が戦闘向きならそれに越したことはない。だが、だからといって、戦闘向きでない能力が、たったそれだけの理由で役に立たないものになるはずがないだろう?」
「分かってないのはそっちの方よ」
ゼノンの言い分に、クィーリアが珍しく反論した。
「前にも言ったかもしれないけど、亜人領は瘴気に包まれている。つまり、この森よりもずっともっと多くの魔物でひしめき合ってて、戦うことを避けるなんてことはできないの。だから私達亜人には戦うための力が、より強い能力が必要なの」
「なら、戦闘はそういう強い能力を持った奴に任せればいい。要は役割分担だ」
「誰かに戦いを任せっぱなしにして、私はのうのうと指咥えて見てろっていうの?」
「その誰かができないことを、クィーリアがやればいいって言ってるんだ」
「そんなもの、戦いの場にあるわけ――」
いともたやすく口にするゼノンに、さらに反論を重ねようとしたクィーリアだったが、続く言葉が喉につっかえて出てこない。
そして、それはゼノンも一緒だった。最後の一言を言い終わってから、彼も何も言わないまま黙りこくっている。
今回の冒険で行ったクィーリアの策敵のように、彼女の能力にも使いどころはある。
だが、クィーリアの能力に敵を打ち倒すための力はない。
種族としての認識の違いか、あるいは生まれ育った環境の違いが、二人の意見を平行線のまま交わらせなくさせてしまっているのだろう。お互い、頭では相手の言い分は理解している。だが、心の根っこの部分で、どうしても納得のいかない何かが残っていた。
能力に求めているものが、あまりにも違い過ぎるのだ。
それに気付いた二人は、もうこれ以上話し合っても仕方ないことを悟ってしまった。
「……ごめん、言い過ぎたかも」
「いや、俺も言い過ぎた。すまん」
相手の意見を飲み込み切れたわけではない。だが冷静になるには十分な時間だった。
どちらともなく頭を下げてから、ゼノンはゆっくりと立ち上がる。
「さて、そろそろ出発するが、クィーリアは大丈夫か?」
「大丈夫、いつでもいけるわ」
「ならいい。調査場所はここからあまり離れていないが、索敵は引き続き頼むぞ」
「うん、任された」
これ以上、今すぐに理解し合えるものではないことは分かっている。もっとゆっくりと時間をかけて、相手のことを知り、理解するしかない。
はてさて、そんな時間はあるのだろうか。
ふとクィーリアの頭によぎる疑問は、納得できないゼノンの意見と一緒に、胸の奥底で引っかかり続ける。
ほとんど治りかけてかさぶたになっている左肩の傷口にそっと触れて、クィーリアは立ち上がるゼノンの後を追い始めた。