「――以上で報告は終わりだ。悪いが、報告した熊の魔物が辺り一帯の魔物を食い散らかしたせいか、魔物の数はむしろ減っていたぞ」
「そうか。ご苦労だったな」
クィーリアとの冒険の翌日、冒険者ギルドに赴いたゼノンは依頼の報告のためにカラルの元を訪れていた。
ゼノンから受け取った報告書に目を通し、内容を把握したカラルメイカが雑談でもしようかと顔をあげると、そこには訝しむような顔をしたゼノンが立っていた。
「どうかしたか?」
「いや、少し気になることがあってな」
「ほう? なんだ、言ってみろ」
ゼノンの言葉にカラルメイカは目を細め、煽るような口ぶりで言った。
別に挑発しているわけではない。むしろ、彼の口からどんな言葉が飛び出るかを楽しみにしているような節すらある。
「今回の調査依頼だが、内容からして急ぎの案件というものでもないんだろう? そんな案件を、俺に回してでも早く片づけなければならなかった理由はなんだ?」
今回ゼノンが受けた依頼は、あくまで環境調査でしかない。
それによる実害が出ているのならまだしも、今回はまだ魔物が増加傾向にあるという疑いがあるだけだ。それを半分部外者のような人物の力を借りてでも、調べを進めなければならなかった理由が分からない。
それを指摘したゼノンに対し、カラルはにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「さすが、目ざといな。いつから気付いていた?」
「違和感は依頼を受けた少し後から。本格的に気にかかったのは、カラルに直接報告を上げろと言われたところだったがな」
「ついさっきのことじゃないか」
ゼノンの意外な回答に、カラルは思わず苦笑した。
ギルドへの依頼報告は、基本的には受付のギルド職員に行うことになっている。
冒険中の出来事を報告書にまとめ上げ、詳細な部分は適宜口頭で説明する。そうして依頼を達成したことを確認し、報酬の受け渡しを行う。
その間、カラルメイカのようなギルドの責任者は本来出てくることはない。
裏を返せば、今回の調査依頼には通常の依頼とは異なる何かが、ギルドの責任者が内容を把握しておかなければならないほどの何かがあったと考えるべきなのだ。
「そこから逆算して、今回の依頼で違和感を覚えるべきだった点を洗い出した」
「何かあること前提にものを考えるか。まったく貴様らしいな」
ゼノンの考え方を聴いて再度苦笑したカラルは、降参するようにため息を吐いて理由を述べた。
「王都の冒険者ギルドにて、勇者が現れた」
「……カラル、お前ついにおとぎ話と現実の区別がつかなくなったか?」
カラルメイカが口にしたのは、ロロミラ山脈の向こうから魔物を絶えず送り込む亜人の王たる魔王を、選ばれし人間である勇者が打ち倒すという、この国の人間ならば誰でも知っている冒険譚の登場人物だ。
神々の信託を受け、伝説の剣と強大な術式を用い、愛と勇気を力に変え、見事魔王に勝利した勇者は、王城で彼の帰りを待つ姫君と結ばれ幸せに暮らす。なんともありがちで、だからこそ幼い子供たちがこぞって彼らに憧れた。
しかし、勇者も、魔王も、姫君も、実在する人物は一人としていない。
そのはずだ。
そのはずだった。