「……冗談だろ?」
茶化す言葉も失って、ついにゼノンはカラルメイカに事の真相を問いただす。
そもそも、彼女は冗談こそ言えど、嘘を言うような人物ではない。それがこうもはっきりと口にしたのであれば、少なくとも、曖昧な噂話以上の確証を持って話をしているはずだ。
信じられないといった様子のゼノンに、カラルメイカはやれやれと首を横に振った。
「私も最初に聴いた時は何かの冗談かと思ったよ。ただ、やけに自信満々に話してくる王都のお偉い方連中に促され、実際に視察してこの目で見てきたが、間違いなくその実力はあったよ」
有り体にいってしまえば、数百年に一度の逸材である冒険者を、おとぎ話になぞらえて勇者として祀り上げただけだと、カラルメイカが渋い顔をして付け足した。
要するに、おとぎ話の登場人物がそのまま現実に現れたというわけではないらしい。
神々の信託も、伝説の剣もない。
だが、そもそもそんなもの、祀り上げる側の人間達は必要としていない。
これから彼らが行うのは、事実を元にした、全く新しいおとぎ話を紡ぎ出すことなのだから。
「後日、勇者を加えた一行が、亜人領への冒険に向かうことが既に決定している」
「随分急な話だな。その勇者様とやらに冒険の経験は?」
「ほとんど皆無らしい。……経験不足だと私もかなり反対したんだがな。結局話を聞いてくれなかったよ」
「なるほど、それで急ぎ俺に依頼してきたということか」
「他の冒険者達もその勇者絡みの案件でほとんど出払っていてな。そのさなかに魔物の動向が怪しくなっているという情報が入ったんだ。不安要素は極力拭っておきたかった」
それでも、いくら先んじて手を打っていたとしても、彼女が安心して勇者を送り出すことはできなかっただろう。
そもそも冒険という行為そのものが、不確定要素に満ち溢れたものなのだから。
「ひとまず、私はもう一度勇者一行の冒険の中止、あるいは延期の打診をするつもりだ。まあ、正直いい返事はもらえないだろうがな」
カラルメイカは吐き捨てるように言った。功を急ぎ過ぎだ。そんなに私達に優位にたちたいのかとひとしきり愚痴る彼女をゼノンがたしなめる。
その後二、三とりとめもない会話をして、ゼノンは部屋を後にした。ギルドのカウンターに向かい、軽いやり取りの後に受付嬢から依頼の報酬として金銭の入った麻袋を受け取る。
ギルドを出て外に出たゼノンは、真上に上がった陽の光に目を細めた。
清々しいほどの青天を睨みつけながら、カラルメイカとの会話を思い返す。
今回予定されている勇者の冒険の最終目標は、おとぎ話でいうところの魔王の討伐だ。
そんな存在が実在するかはともかく、実行に移してしまえばどうなるか。
今まで相手を敵対視してはいたものの、ロロミラ山脈が防波堤となっていたからこそ防がれていた、人間と亜人の直接的な衝突が起きかねない。
山脈を越えてでも排除すべき相手として、お互いの認識が変わりかねない。
「そんなもん、戦争じゃねえか……」
ぼそりと呟いた彼の一言は、誰の耳にも届くことなく風に流され消えていった。