花屋夢想~猫耳少女の願い事~   作:くろゐつむぎ

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信じるべきは(3/16)

「お互いいい加減止まって!」

 

 不意にクィーリアの叫び声が響き渡り、二人の動きが止まる。見ると、クィーリアはアルメットをうつ伏せに押し倒し、抵抗できないように腕を後ろに回させ抑え込んでいた。

 

 最初の煙幕以降、動きがなかったのはそういうことかとゼノンが感心している横で、バヴェルがクィーリアに問いかける。

 

「おいクー。お前何やってんだよ……」

 

「アルメットを止めてる」

 

「そんなの見りゃ分かる! なんでお前が人間の味方をしてんのかって聞いてんだよ!」

 

 怒鳴り声を上げるバヴェルに対し、クィーリアは至って冷静に首を横に振って答えた。

 

「人間の味方だとか、亜人の敵だとか、そういうことを言いたいわけじゃない」

 

 クィーリアはそう言って、キッとバヴェルを睨みつける。

 

「戦いじゃなくて、話し合いをしてって言ってるの」

 

「……信用できんのかよ。こんなやつのこと」

 

「できる」

 

 即答だった。

 

 何のためらいも迷いもなく、クィーリアははっきりと言い切った。

 

 何度も自分を助けてくれた。

 

 自分の話を聴いてくれた。

 

 亜人であることを隠しながらではあるが、人間の街に赴き、人間の暮らしを垣間見る機会を与えてくれた。

 

 彼のように理屈でものは言えない。

 

 だからこそ、クィーリアは思うままの言葉を口にした。

 

「私は、ゼノンを信じたい」

 

 まっすぐにバヴェルを見つめながら、クィーリアはふっと微笑んでそう口にした。

 

 視線と飛ばす彼女の目の輝きがあまりに眩しく、バヴェルは思わず息を飲んだ。

 

 調査隊に志願した時よりも、自分にできることを見つけた時よりも強い瞳の奥の光が、今のクィーリアにはあった。

 

 この人間との出会いは、一体どれほど彼女を変えたのだろう。

 

 久しぶりに再会した仲間は、まるで別人のように見えた。

 

「……俺は信じない」

 

「バヴェル!」

 

「信じられるわけがないだろうが!」

 

 クィーリアの怒鳴り声に、バヴェルが怒鳴り声を返す。

 

 たとえクィーリアが人間を信じられるようになったとしても、もしもこの先アルメットも同じように友好を結んだとしても、自分だけは信じるわけにはいかない。

 

 あの男を、いや、人間を信用するわけにはいかない。

 

 自分の仲間に、彼女と同じ結末を与える訳にはいかないのだから。

 

「コレットのこと、お前も忘れたわけじゃないだろ!?」

 

 バヴェルの口から出てきた女性の名を聴いて、クィーリアは反論できずに黙り込む。

 

「コレット……」

 

 代わりに反応したのは、人間であるゼノンだった。

 

 口の中で転がすようにコレットの名を呟いた彼に、バヴェルが説明する。

 

「今から二十年前にいたんだよ。ちょうど今のクーみたいに、人間の子供と接触した亜人がな」

 

 吐き捨てるようにバヴェルが言う。

 

「子供と友好的な関係を結んでいるとしながら、コレットの報告書はある日ぱったりと途絶えた。その後調査隊の他のメンバーが調べた結果、お前ら人間に殺害された可能性が高いという結論に至った」

 

 資料で見知ったある一人の亜人について語り終え、バヴェルはゼノンを睨みつける。

 

「もし万が一、お前が本当に裏なんてなく善意でクィーリア助けていたとしても、他の人間はどうだ? お前の街にいた人間全員が、お前の国にいる人間全員が、お前と同じように亜人に害を成さないっつー保障がどこにある?」

 

「保障はできないな」

 

「ゼノン!?」

 

 驚きで声を上げるクィーリアをゼノンが手で制す。

 

「ただのしがない花屋の俺に、国全体の認識を改めさせられるような力があるはずないだろう」

 

 こういう時、ゼノンは決して理想論を語らない。淡々と事実だけを口にする彼の言葉には説得力がある反面、寂しさすら感じるほどに味気なかった。

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