「それに、お……コレットが人間に殺されたのは覆しようもない事実で、俺達の過ちだ」
「……?」
一瞬、彼の言葉が詰まった。
その様子に、クィーリアが小さな違和感を抱く。
その違和感の正体を探るため、これまでの諜報員達の報告書と、彼との記憶を脳内で掘り起こす。
二十年前、少年、亜人と人間との接触。
――俺は、人の話を聴かない奴が嫌いなんだよ。
ばちりと全身に電気が走ったような感覚とともに、これまでの全部が一本の線で繋がった気がした。
「もしかしてゼノンって、コレットのことを知ってるの……?」
「知ってるも何も――」
そこまで言いかけて、ゼノンは一度言葉を区切った。
何かを考えるように、思い出すように瞼を閉じる。
ほんの数秒の沈黙の後、彼はぽつりと言った。
「コレットを殺したのは俺だからな」
時間が止まった。
そう錯覚してしまうほどに、世界から音が消えた。
誰かの息遣いも、風に揺れた草が擦れる音も聞こえない。どんな微細な音でも感知するクィーリアの耳ですら、どんな音も捉えられない。
それほどまでに、彼の一言がクィーリア達に与えた衝撃は大きかった。
「てめええええええ!!!」
ふとした拍子に生まれた静寂の中、一番最初に我に返ったのはバヴェルだった。
バヴェルが茨に囚われていない分身を作り出し、怒りのままにゼノンにけしかける。
真正面から飛び掛かったバヴェルの分身に対し、ゼノンは躱す素振りすら見せなかった。バヴェルの分身がゼノンの胸ぐらに掴みかかって押し倒し、そのまま仰向けに倒れ込んだゼノンに馬乗りになる。
バヴェルの分身が、空いた右腕を振り上げた――。
「……どうしてだよ」
だが、振り上げた腕が暴力に振るわれることはなかった。
バヴェルの腕が、力なくこつんとゼノンの胸を打つ。
自身の胸に置かれた握りこぶしの震えが伝わってくる。
「どうして避けなかった。お前なら、どうにでも対処できただろうが」
「する気が起きなかった。……コレットのことは、謝って許されるものじゃないからな」
かすれた声で、呟くようにゼノンは答えた。
いつも淡々と話す彼の言葉に思えないほど、力なく弱弱しい声だった。
クィーリアが知る限り、ゼノンがこれほどまでに自分の言葉に感情をにじませたのは初めてだ。
それほどまでに、コレットという亜人の存在は、ゼノンに影響を与えていたのだろう。
「……聴かせろ。二十年前、コレットとお前に何があったのかを、だ」
ゼノンに馬乗りになっていたバヴェルの分身が消え、茨に囚われたままの本体が口を開く。
怒りが収まったわけではない。信用できる相手になったわけでもない。
だが、自分の本意に関わらず、今は彼の話を聴くべきだと、バヴェルは思った。
「……そうだな。お前達には聴かせるべきか」
ゼノンがむくりと上半身を起こし、頭を掻きながら呟いた。それと同時に、バヴェルを縛っていた茨が消えていく。
ゼノンはふと目を閉じた。二十年前にあった出来事を、亜人にとっての歴史を、ゼノンにとっての思い出を瞼の裏に思い起こしながら、あくる日の出来事を話し始めた。