「ま、今はこのお花畑に住んでる、って言えばいいのかな」
「ここに!?」
ぽんと簡単に言われた彼女の言葉に、ゼノンは大層驚いた。村の大人達からは決して柵の外に出てはならない。
もしもそれを破ってしまったらどうなるか。村の大人達に嫌というほど聞かされた話が、ゼノンの脳裏によみがえる。
だからこそ、彼の口から一つの疑問が吐き出されるのも当然のことだった。
「でもお姉ちゃん。この辺りって魔物が出るんだよね? お姉ちゃんは危なくないの?」
「そうだなあ……。ちょっと危なかったこともあったかな。でもこの通り、大丈夫だったよ」
ゼノンの問いに、彼女は口元に指をあてて、少しだけ考えた素振りをみせながら答えた。
その仕草が、大人達が脅してくるほど魔物は大した脅威ではないといった様子で、ゼノンの中にあったこれまでの常識と相反する。
「本当に?」
「本当に」
嘘ではないのかもしれない。だが、本当のことだとも信じられない。
首を傾げるゼノンに、彼女は優しく微笑んで短く返す。
「本当の本当に?」
「本当の本当に」
それでもまだ信じ切れないゼノンの問いに、彼女は彼の頭を撫でて答える。
ほとんど力を加えられていない、そっと触れるような手つき。
それでも、確かに彼女の手はゼノンの頭に触れたと分かる、しっかりとした手つき。
「こう見えて、お姉ちゃんはすごいんだから!」
そう言って手を離した彼女は、自慢げに力こぶを作る仕草をしながら鼻を鳴らす。
とてもじゃないが、強そうにも、頼もしそうにも見えない。
けれど、どうしてか、彼女の言う通り本当に大丈夫なのだと感じさせた。
ぱあっと、ゼノンの表情が明るくなる。
「そういえば、お姉ちゃんはなんて名前なの?」
「私?」
ふと出てきた質問に、彼女は思わず聞き返す。そんな彼女に、ゼノンはこくりと頷いて返した。
冒険の果てに得た。かけがえのない宝物。
きっとおとぎ話の勇者様でも、こんな宝物は得られなかっただろう。
「僕の名前はゼノン。お姉ちゃん、僕と友達になろう!」
そう言ってゼノンは、彼女にもう一度右手を差し出した。
彼女もまた、彼の行為の意味を理解して、差し出された右手を握り返した。
「私の名前はコレット。それじゃ、よろしくね。ゼノン!」
躊躇いがちだった最初のものとは違い、今度は迷いなく、自然な握手を交わす。
これがゼノンと花畑の主――コレットとの出会いとなる。
〇 〇 〇
「お姉ちゃん!」
「あらゼノン、今日も来たの? 外は危ないって前にも言ったでしょう?」
「うん! でもお姉ちゃんと遊びたかったから来ちゃった!」
「そうなの。それは悪い子だなあ……」
それからゼノンは、たびたび村を抜け出してはコレットの元へと遊びに行くようになった。