「……以上が、事の顛末だ」
ひとしきり話し終え、ゼノンはため息と共に過去語りを締めくくった。
だが、その言葉にしばらく誰も反応を示さなかった。
示せなかった。
それをする余裕すらなくなるほどに、彼の語る内容は衝撃的だった。コレットと接触した当の本人が目の前にいて、もはや歴史の中の存在となった彼女の話を、思い出話として聞かされることになるとは思ってもみなかった。
「う、嘘だろ……?」
「今の話、本当か……?」
クィーリアと一緒に彼の話を聴いていたバヴェルとアルメットは、信じられないとぽつりと呟くのが精一杯だ。
クィーリアも、空いた口がふさがらないまま、何も言えずにただじっとゼノンを見るだけだ。
だが、彼の話はすべて真実だという確信があった。
コレットの人物像がやけに具体的で、資料にあったものと一致している箇所が多すぎる。
話の中に、違和感や奇妙な点がない。
何より、彼はこういう時に決して嘘を言わないのだ。
そして、クィーリアの中で以前から抱えていたほんの少しの違和感も、彼の話を聞いてようやく納得できた。
ゼノンとクィーリアが初めて出会った時、彼は真っ先にクィーリアとの対話を望んだ。
人と話をしようとしない人を嫌っているゼノンといえども、さすがに会話もできないような魔物と対話を試みようとはしない。
また、怪我をしたクィーリアに対し、彼のとった対応はあまりにも献身的すぎた。とてもではないが、敵対する相手にするようなものではない。
つまり、ゼノンは最初から、亜人は対話が可能な相手で、かつ敵対するような相手ではないことをあらかじめ知っていたからこそ、クィーリアと対話を試みようとしたのだ。
亜人であるコレットとの出会いが、彼をそうさせたのだ。
彼のこの話を聴き終えて、クィーリアは期待を込めてバヴェルの表情を窺った。
ゼノンはかつて、亜人と友好的に接触した過去を持つ。それが事実であることはコレットの報告書からも明らかだ。
彼の話を聴いた後ならば、きっとバヴェルも彼のことを信じてくれる。
だが、そこにあったのは、期待とは程遠い、バヴェルの暗い顔だけだった。
「……俺は信じない」
「バヴェル!?」
「当たり前だろうが」
驚くクィーリアに、バヴェルが吐き捨てるように呟いた。
「確かに、こいつの話はおおよそ事実なんだろうと思う。けど、もう二十年も前の話だぞ? 今も亜人に害を成さないという保証にはならない。それに、こいつ以外の人間に、亜人への敵対心があることに変わりはない」
「……まったくその通りだな」
バヴェルの言葉に、ゼノンは肯定の意を示す。まるで彼が、自分のことを信用しないことを最初から知っていたかのように。
コレットの一件で、人からの信頼を得るのがどれほど難しいのか、身をもって知っているから。
その一方で、バヴェルの瞳が揺れているのをクィーリアは見逃さなかった。彼自身、ゼノンの話を聴いて心が揺れなかったわけではない。
だが、彼を信用できるかは別問題なのだ。コレットの事件以降人間との接触を禁止されていたせいで、人間が、ゼノンがどういう人物かが把握しきれない。
だから、果たして本当に信用してもいいのか、どれだけ言葉を重ねても迷いが生まれる。
そして、そういう時、大抵人は考え方を多数派のものに寄せてしまう。そうすれば、間違いが少ないから。
「……ああもう、いい加減にしてよ!」
そしてそれが、クィーリアの逆鱗に触れた。