「それで、そこの二人はどうするんだ?」
ゼノンとクィーリアの間では話がついた。あとはバヴェルとアルメットがどうするかだ。
視線を二人に移し、ゼノンが問う。
二人の表情は複雑だ。何が正解か。どうすべきかなどもう分からない。
身の安全を最優先に考えるのであるならば、今すぐにクィーリアをあの人間から引き離すのが正解だ。ゼノンがどれだけ亜人を信用したところで、人間全体の意識が変わらなければ何の意味もない。
いくら彼が守ると豪語しても、全人類を敵に回して、たった一人でクィーリアを守り切るなど不可能だ。そんな口約束に意味はない。
――そのはず、なのだが。
「……分かった」
ため息交じりに、バヴェルが諦めたように呟いた。
「クー。お前のやりたいようにやってみろよ」
「……いいの?」
「どうせ、何言っても折れるつもりはないんだろ? その上であれだけの啖呵切られたんだ。もう俺からは何も言えねえよ」
「同感。正直、クィーリアのあんな姿、初めて見た」
バヴェルの口から出た言葉は、肯定の言葉だった。
不安と恐怖にのまれながら、クィーリアを人間から引き離すべきだという考えは、気づけばクィーリアの怒りにすべて吹き飛ばされていた。
彼女の怒鳴り声で少しは冷静になった頭で考え直しても、やはり彼女を人間から引き離すべきだという考えはまだ残っている。
だが、ゼノンはともかくとして、クィーリアのことは信じたかった。
人間と亜人の仲を取り持つなどという、無謀もいいところの理想論を本気で語る彼女の背中を押したかった。
仲間なのだから。
「ただし、定期報告の時期にまた様子を見に来るからな。その時にクィーリアに何かあってみろ。ただじゃおかねえからな」
「ああ、きっちり守り通してみせる」
びしっと指をさすバヴェルに、ゼノンははっきりと頷いた。
その反応に対し、バヴェルは呆れたように深々とため息を吐く。
どうしてこの二人は、こうも無謀と思えるようなことに前向きに対処しようとできるのだろうか。
その時、ふとあることを思い出し、バヴェルがぱっと頭を上げた。
「ああ、それと、今回の定期報告で一つ、取り急ぎ伝えとかなきゃいけないことがあったんだ」
バヴェルはクィーリアのところまで歩み寄り、懐方取り出した一枚の用紙を彼女に手渡した。
「人間領内で、かなり濃度の高い瘴気が観測された。かなり黒よりの紫だったらしい」
「黒よりの紫? それも人間領内で?」
バヴェルの話に、ゼノンが反応する。
彼の疑問に答えたのはクィーリアだった。
「瘴気はその濃度によって色が変化するの。瘴気が薄ければ薄紫、そこからだんだん色が濃くなっていくの」
「それで、最終的には黒になる、ということか?」
続く言葉を引き継いだゼノンだが、彼の言葉にクィーリアは首を横に振った。
「黒は二番目。一番濃い状態だと瘴気は白になるの。私達はこの状態の瘴気を純白瘴気って呼んでるわ」
「なるほどな」
納得しながら、ゼノンはクィーリアが受け取った用紙を後ろからのぞき込んだ。
人間領の大まかな地図に一か所バツ印がつけられ、空いたスペースに説明書きが細かく記載されていた。内容からして、瘴気、ならびにそれによって生み出された魔物についての報告なのだろう。
クィーリアとゼノンは、受け取った報告書の地図を見て、お互いに顔を見合わせる。
瘴気の発生源とされる場所に、心当たりがあった。