花屋夢想~猫耳少女の願い事~   作:くろゐつむぎ

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信じるべきは(16/16)

「ゼノン、もしかして、この魔物って、この前の熊の魔物のことじゃない?」

 

「おそらく、な」

 

「クー、もしかして心当たりがあんのか?」

 

 頷き合う二人を見てバヴェルが首をひねる。

 

「うん、以前私とゼノンでバツ印のあった付近に行ったときに、すごく強い魔物に出会ったの。あの時も少しだけ瘴気が検出されたのが気になってんだけど、魔物が生まれた後も少しだけ残ってたのね」

 

「それで、その魔物、どうした?」

 

「すでに倒したぞ」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 あっさりと答えるゼノンの言葉に、バヴェルが冷や汗を流す。

 

 黒よりの紫が生み出す魔物は相当に強力な魔物のはずだ。

 

 それを二人だけで倒したというのは驚きだった。少々信じがたい内容だが、それをクィーリアが否定しないということは、きっと本当に魔物を倒してここにいるのだろう。

 

 だが、クィーリアはどこ吹く風といった様子で口元に手を当て、考え込み始めた。

 

「でも、人間領内で瘴気って、どういうこと……?」

 

「さあな。でも――」

 

 バヴェルが首を横に振った。

 

 この場の誰にも分からないことなのだから、彼にも答えようがない。

 

 だが、一つだけ、嫌な予感はある。

 

「これから先、今までになかった何かが起きるかもしれない。クーも気を付けてくれ」

 

 そう言って、バヴェルとアルメットは森の中へと入っていった。ゼノンの手前詳しい場所までは教えなかったが、メルクリア森林のどこかに拠点としている地点があるらしい。

 

 バヴェルとアルメットが立ち去ってから、ゼノンとクィーリアだけが残った夜の庭はしんと静まり返った。

 

 先ほどまでの喧騒も、戦闘すら起きていた空気さえ冷え切った夜の冷たい風がクィーリアの肌を撫でる。

 

 軽く身震いしたクィーリアと見て、ゼノンが口を開いた。

 

「……寝るか」

 

「うん」

 

 家に向かって歩き始めたゼノンの後を追うように、クィーリアもまたとぼとぼと脚を動かし始める。

 

 だが、その足はすぐに止まった。

 

「ゼノン、あのね」

 

 声をかけられたゼノンが立ち止まり、振り返る。

 

 視線の先でしばらく俯いていたクィーリアが、ぱっと顔を上げた。

 

 ――亜人と人間の間にある誤解を解きたい。お互いがお互いに協力し合えるような関係性を作りたい。そうやって私達が手を取りあえば、きっと、もっと、ずっと、すごいことができるから。

 

 ――力も何もない。なんの変哲もないただの亜人に過ぎないけどさ。それでも、私にできるかもしれないってのなら、命だって賭ける価値はあると思ってる。

 

 胸の内に沸いた激情に身を任せて口にした決意だった。

 

 だが、冷静になった今でも思いは変わらない。

 

 叶えたい。成し遂げたい。

 

 新しく生まれた遥か高みの理想を、現実のものに落とし込んでやりたい。

 

 すっと、クィーリアは右手をゼノンに差し出した。

 

「……これからも、よろしく」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 ゼノンも差し出された手の意味をすぐに悟り、同じように差し出した右手で彼女の手を掴んだ。

 

 クィーリアが握られた手に軽く力を込めると、ゼノンもそれに応じるように握り返す。

 

 思えば、最初に出会った時もこんな風に手を取りあった。

 

 あの時は疑念と困惑でいっぱいいっぱいだった。

 

 けれど、今は違う。

 

 期待。信頼。高揚感。

 

 クィーリアの瞳に浮き出た、裏返しになっていた正の感情が闇夜の中で光り輝いている。

 

 たぶん、いやきっと、今回の握手はあの時よりも少しだけ長かった。

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