翌日、ゼノンとクィーリアは街に入るや否や、真っ先にギルドへと脚を運んだ。
今の状況を知るならば、まずカラルメイカを探して話を聞いた方が早い。そう思ってゼノンは彼女がいるであろう、部隊長室へと赴こうとした。
だが、そこに辿り着く前に、彼女の姿を見つけた。
ギルドのホールのど真ん中で、カラルメイカは二人組の男性から必死に何かを訴えかけられていた。隣にはルードもおり、困ったような顔をして二人の話を聞いている。
一目につくところで大々的に起きている騒ぎに、周囲からは他の冒険者達が好奇の視線を送っている。何が起きているのか、彼らの話は本当なのか。遠巻きに様子を窺ってはいるものの、絡みに行こうとする者は誰もいない。
「カラル、どうかしたのか?」
「ああ、ゼノンか」
そんな中、ゼノンは周りの空気も視線もお構いなしにカラルメイカの前まで歩み寄った。ゼノンに声をかけられカラルメイカがこちらに視線を寄こす。
それから彼女が二人組の男達に視線を移したのに合わせて、ゼノンも追うようにちらと彼らの顔を盗み見た。彼らが誰かはすぐに思い出した。勇者と共に冒険に出かけていたはずの従者二人だ。
なぜもう帰還しているのか。ここにいない勇者はどうしたのか。そんなゼノンの内心を呼んだように、カラルメイカが説明を始めた。
「なんでも、冒険中に猿の魔物と戦闘になったんだが……」
そこで彼女は一度言葉を区切った。どうも次の言葉を発するのを躊躇っているようで、視線を泳がせ迷いの表情を浮かべる。
ややあって、彼女は事の顛末を口にした。
「……突然、勇者がこの二人に向かって攻撃してきたらしい」
「どういうことだ?」
「さあな。私にもよく分からん。話を聞く限り洗脳か幻覚の類だとは思うが、勇者を操るほどの術の使い手が現れたとは、少々考えにくくてな……」
「私達の話が嘘だと言うのか!」
「事実なんだ、信じてくれ!」
「おう分かった分かった。疑うつもりはねえから、まずは落ち着いてくれ」
抗議の声を上げる二人の従者を、横からルードがなだめる。だが、二人とも興奮しきってしまっているようで、落ち着けというルードの言葉に聞く耳など持たずわめき続ける。
「……純白瘴気の魔物だ」
ぽつりと呟かれた、クィーリアの言葉にも気づけないのだ。期待はしていなかったが、もう彼らからは詳しい話は聴けないだろう。彼女の小さな言葉は従者のやかましい声にかき消され、周りの冒険者達の耳には届かなかったようだ。
彼女の声を聴いたのは隣にいたゼノン。そして、カラルメイカとルードのみ。
クィーリアの様子がおかしいことに気付いた二人がさっと目配せをして、頷き合う。
「……分かりました。この件についてこれから対策を講じますので、お二人は少々お待ちください」
「そういうわけだ。ゼノンとお嬢ちゃんもちょっとツラ貸せ」
丸投げしたのかとさらに抗議の声を強くする従者二人を他の職員に押し付け、カラルメイカとルードはゼノンとクィーリアを引き連れてギルドの奥へと入っていった。
二人が先導した先にあったのは応接室だった。誰も使っていない無人の部屋に四人が入ったところでカラルメイカが扉を閉め、流れるように中から鍵を閉めた。
装飾品の少ない部屋で、中央に置かれた机を挟んで向かい合うようにソファが置かれている。入り口の扉の向かい側、ちょうど部屋に入ったばかりのクィーリアの正面には大きな窓があり、そこからギルドの闘技場が見えた。
「……で、だ」
真っ先にソファに座ったルードが席に着くよう促す。それに従いゼノンとクィーリアは向かいのソファに隣り合って座った。
扉を閉めていたカラルメイカが自分の隣に来るのを待って、ルードが話し始める。
「嬢ちゃん、さっき純白瘴気だか何だか行ってたか?」
「え、うん」
「……あんた、この一件の何を知ってんだ?」
「……あっ」
ここでクィーリアは、自分が犯した失態にようやく気が付いた。