花屋夢想~猫耳少女の願い事~   作:くろゐつむぎ

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勇者の冒険(5/13)

 亜人領と違い、人間領には瘴気が流れてこない。そして、過去これまで、瘴気に満ちた亜人領に入った人間はいない。

 

 そのため、人間は瘴気について疎いどころか、そもそも瘴気いうものがどんなものかを知らない。最初にゼノンと話した時も、彼は瘴気について何も知らなかった。

 

 そのことを失念したまま、クィーリアは瘴気について、特にレアケースである純白瘴気を知っていることを明かしてしまった。

 

 そもそもギルドの来た時から、クィーリアには何かしらの心当たりがある様子だった。思えばその時から二人には不信感を与えていたのだろう。二人の目には、明らかな疑念が浮かんでいる。

 

 カラルメイカが扉の鍵を閉めたのは、彼女をこの部屋から逃がさないため。

 

 分厚い扉は室内の会話を外に漏らしそうにないが、そう易々と破られるようなものでもない。

 

 正面の窓からは距離がある上に、その間にはカラルメイカとルードがいる。逃げ出すのは難しいだろう。仮に逃げ出せたとして、部屋に残されたゼノンはどうなるのだろう。

 

「……ゼノン、ごめん」

 

 俯いて、クィーリアは一言呟いた。

 

 自分のせいで疑いを持たれてしまったこと。それに巻き込んでしまったこと。

 

「少しだけ、私の好きにやらせて」

 

 さらにもう少しだけ、深く巻き込んでしまうことを謝った。

 

 そもそも、逃げる必要なんてどこにもない。

 

 ――私にできるかもしれないってのなら、命だって賭ける価値はあると思ってる。

 

 以前自分で言った言葉が脳裏に蘇る。

 

 心臓が痛いほど脈打っているのを感じる。

 

 横目でちらとゼノンを見ると、視線の合った彼がこくりと頷いた。

 

 彼は後押ししてくれることを選んだ。そのことがクィーリアの緊張感を和らげる。

 

 深呼吸を一つして、クィーリアが口を開いた。

 

「今まで黙っていてごめんなさい」

 

 帽子を外し、その下にあるおおきな猫のような耳を見せ、クィーリアは頭を下げた。

 

 それにルードがぴくりと反応する。だが、それ以上の動きは見せず、様子を窺いながらクィーリアへの問いを重ねていく。

 

「……どうして、人間領に入ってきた?」

 

「人間領の諜報活動……、いや、この際だから、私達亜人の身の上話から始めさせてもらってもいい?」

 

 クィーリアの言葉を聴き、ルードはカラルとゼノンに目配せをした。それに対し二人は軽く頷いて返す。

 

 それからクィーリアは、以前ゼノンに語ってみせたのと全く同じ話を始めた。亜人領の瘴気についてと、そこから魔物が出現することについて。そして、それが人間と亜人のいがみ合う理由になっていることについて。

 

 一通り語り終え、クィーリアはルードの反応を待った。

 

 彼女の話を聴いて、ルードは眉間を指で揉みながら、はてどう返答したものかと悩んでいた。

 

「……おおよそ事情は分かった」

 

 彼の代わりに発言したのは、扉の前で待機していたカラルメイカだった。

 

「それで、クィーリアはどうしたいんだ?」

 

「勇者さんを助けたい。助けに行きたい」

 

「……それは無理だな」

 

「なんで!?」

 

 驚き聞き返すクィーリアに、カラルメイカは自分の頭を指で軽く小突いて返した。頭頂部よりもやや右側、ちょうどクィーリアの耳がある辺りだ。

 

 それが何を意味しているか、わざわざ言葉にされなくとも分かっている。

 

 クィーリアが亜人だから。

 

 敵対している相手を、そんな数回会話した程度で信用できるはずもない。

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