「……だ、そうだ」
ため息交じりにゼノンはぽつりと呟いた。
それが誰に対して言っているのか、一瞬クィーリアには分からなかった。
だから、次に反応したカラルメイカの言葉を、理解するのに時間がかかった。
「……いい加減、認めるしかないな」
カラルメイカが席を立ち、状況が呑み込めないで固まっているクィーリアの隣に歩み寄ると、彼女の肩にぽんと手を置いた。
「クィーリア、一緒に来てくれ」
一緒に来てくれ。
理解の追い付かない頭の中で、彼女の言葉をぼんやりと反芻する。
そうして、ようやく彼女の言葉を理解した。
「ゼノン、ルード、今すぐに支度しろ。クィーリアと純白瘴気とやらの事情を聴いて、すぐに動ける人間が私達しかいないんだ。腹は括れ」
「お、カラルも久々に出るのか」
「久しぶりに貴様らと冒険に出る機会を得たんだ。逃す手はないだろう? お偉い方への対応はまた後で考えればいいさ」
そう言って、カラルメイカが不敵に笑う。
政治のことしか頭にない連中の相手が嫌になったというのがありありと伝わってきた。
「にしてもよ。この面子で冒険だなんて何年ぶりだろうな」
「役割分担はどうする? 本来ならば急ぎ出発すべきなんだろうが、事前準備を怠るわけにもいかんだろう。クィーリアの術式も私達は知らんしな」
「基本的には前と同じでいいだろう。カラルとルードが前衛。俺とクィーリアが後衛だ。細かいところは道すがら俺から話す」
「了解。頼むぜ」
カラルメイカに続いて、ルードとゼノンも立ち上がる。各々がこれからの話を進めながら扉に向かう様を、クィーリアは上手く反応できずに固まったまま眺めていた。
一向にソファから立ち上がらないクィーリアに気付いたゼノンが振り返る。
「クィーリア、索敵と勇者捜索は任せるぞ」
「……うん!」
ゼノンの言葉にクィーリアは力強く頷いて、弾かれたように立ち上がった。
○ ○ ○
「クィーリア」
純白瘴気の発生した地点に向かう四人。クィーリアの聴力で魔物との戦闘を避けつつ、森の中を大急ぎで進んでいく。
そのさなか、ルードが歩みを止めないままクィーリアに声を掛けた。
「さっきは試すような真似して悪かったな」
「いいよ。そもそも亜人だってことを黙っていたのは私の方なんだし。それに、こうして信用してくれたから――」
「いや、そうじゃねえんだ。その、実はな……」
ルードが口を挟んで、クィーリアの言葉を途中で遮る。だが、妙に端切れが悪く、そこから続く言葉が中々出てこない。
結局、ルードが何を言う前に、ゼノンが代わりに説明した。
「二人とも、クィーリアが亜人だということはもうとっくに知ってたぞ」
「……え!?」
思いもよらぬ一言を伝えられたクィーリアが思わず叫んだ。
どこかにいるかもしれない魔物に居場所を知られる可能性すら頭からすっ飛んでいき、クィーリアがゼノンを見る。
「嘘!? いつから!?」
「俺達が最初にゼノンの店に来た時に、な」
「……それって、つまり最初からってことじゃん!」
最初ということは、クィーリアが初めてゼノンの花屋を訪れた時だ。
その時偶然カラルメイカとゼノンがやって来たのが、二人との出会いだ。
彼らはその時には既に、クィーリアが亜人だということを知っていたということになる。
「え、私の変装って、そんなに分かりやすいものだったの……?」
「いや、クィーリアの変装と立ち振る舞いは問題なかったぞ」
クィーリアの疑問に答えたのは、先頭を歩くカラルメイカだった。
後ろをちらと見て、そしてにやりと笑って言った。
「問題があるのは、むしろゼノンの方だ」
「ゼノンが?」
「ま、その日何があったかというとだな――」
そう言って、カラルはその日に何があったのかを、さも楽しそうに話し始めた。