「それで、あの子は一体なんなんだ?」
「なんなんだ、とは?」
カラルとルードがゼノンの店を訪れた日、クィーリアを先に帰したゼノンに、カラルメイカは真っ先に質問を切り込んだ。
それに対し、何か問題があっただろうかとでも言わんばかりにすっとぼけるゼノンだったが、彼が何かを隠していることはもう勘づかれているようで、全く効果を表さなかった。
「とぼけるな。魔物に襲われ手当てをしたまではいいとして、どうしてその後わざわざお前の家で引き取り続け、あげくに店の手伝いなんてさせている? 見ず知らずの初対面の子を、自分の目の届く範囲に置いておきたい理由はなんだ?」
カラルの質問に沈黙で返すゼノンに、カラルメイカは続けて質問を重ねる。
「あと、ルードがあの子の頭を撫でようとした時のことだ。確かに初対面の女の子に対して失礼な対応ではあったが、それにしたってあの子の反応は少々過剰過ぎだと思ってな」
「俺への弁護はないんだな」
「屋内でも帽子を被ったままだったことも考えると、見られたくない、あるいは触れられたくないものがあるとみた方がいいか?」
横から入るルードのちゃちを無視して、カラルメイカはゼノンを問い詰める。
彼女の眼差しは真剣そのものだ。とてもではないが、のらりくらりとやり過ごすことはできそうにない。
「仕方ない、か……」
天井を仰ぎ見て、ゼノンがため息を吐いた。
もうこれ以上言い逃れはできそうにない。ならば、正直に白状するしかない。
「最初に断っておくが、これを聴いて後悔するなよ?」
そうして、ゼノンはクィーリアが亜人であること、彼女を家に匿うことになった経緯、そして、それと一緒にゼノンとコレットについても二人に語った。
「……なるほど、な」
「いやいや、なるほどな、ですんなり納得できる話かよ」
一通りゼノンの話を聴き終えて、カラルがぽつりと呟いた。
その横で、ルードが彼女のひどく淡白な反応にせっつく。
「信じられないというのなら、俺の単なる冗談だとでも思ってくれ」
「お前が今まで冗談を言ったことがあったかよ」
「私以上の堅物がよく言えたな」
「いや、堅物さ加減でいえばカラルも大概じゃ――」
「まあ、それはいい」
やや横道に逸れた会話を区切り、ゼノンは二人の顔を見た。
彼の眼差しは真剣そのものだ。まるで先ほどの意趣返しといわんばかり。
「ここまで聴いたうえで二人に問おう。俺のことはどうするつもりだ?」
「亜人と、それを匿った反逆者を処分する。と言えば、貴様はどうする?」
「刺し違えてでも、お前らを止める」
ゼノンの問いに、カラルメイカは即答した。
それに対し、ゼノンもまた間髪入れずにきっぱりと口にした。
一触即発な空気を纏い始める二人に、その間で彼らをどう落ち着かせようかとルードがあわあわと慌て始める。
「……残念だよ」
そんな中、ややあってからカラルメイカが額を手で押さえ、首を横に振った。
そして、心底残念そうにため息を吐く。
「そんなに、私達のことが信用ならないのか?」
予想しなかった彼女の言葉に、ゼノンは思わず何も言えずに固まった。
それを肯定と捉えたのか、カラルメイカはもう一度ため息を吐く。
「訓練所で腕を磨き合って、何度も共に冒険に出た仲だろうが。それに亜人が絡む案件など、そうそう言い出せる話でもないだろうが。貴様の胸の内もなんとなくは察せられる」
カラルがそこまで言って、ぴっと人差し指を立てた。
「ただ、心の整理をつけるために一晩寄こせ。それと、ゼノンとは別に、第三者としてクィーリアの様子を見たい。あの子の内心を推し量るために少々カマをかけることもあるかもしれんが、その時は貴様も乗れ」
「あ、俺も乗るわ」
話を進めるカラルの横で、ルードも同意の意味を込めて手を挙げた。
「最後に、何かあったら私達を頼れ。貴様の秘密を共有したんだ。もう気兼ねする必要もないだろう?」
呆気にとられ、ゼノンは何も言えずに固まってしまう。
「……なんで」
ぽつりと、ゼノンが呟いた。
たったそれだけの言葉を口にするだけで結構な時間を要してしまうほどに、カラル達の返答は、ゼノンにとっては意外なものだった。
「なんで、俺にそこまでしてくれるんだ」
コレットの時は、誰も話を聴こうともしなかった。
誰も、彼のことを分かろうともしなかった。
だからこそ、ただ訓練所で同期だったというだけで、彼らがここまでの信頼を寄せてくれるのかが分からなかった。
それがカラルとルードにも伝わったのだろう。やれやれといった様子で、二人して首をすくめる。
そして、二人一緒に出てきた答えは、存外短いものだった。
「仲間だろうが。当たり前だろう」